【ショートショート】空を見あげる
「にゃあ」
と鳴き声がしたが、猫の姿がみつからない。
ぼくはリビングをうろうろした。
テーブルは薬やガムや読みかけの本や未開封の封筒や、いろいろな細かいもので埋まっている。
掘っていくと、ペットボトルがあった。
猫はその中にいた。
おまえ、どうしてそんなところに。
子どもの頃、テレビでボトルシップを見たことがある。おもわず、
「なぜ!」
と叫んでしまったが、帆船を細かいパーツに分け、ボトルのなかで根気よく組み立てていくらしい。
でも、猫は分解不能だ。
猫は、おなかが減ったという顔をしている。すこし、キャットフードを流し込んでやると喜んで食べた。
その夜は、猫の入ったペットボトルを枕元に置いて寝た。
朝起きると、ぼくもペットボトルの中にいた。
「ここからどうやって出ればいいんだい」
猫は、ぼくの首をくわえると、ずるずるとペットボトルの出口に引きずっていった。
気がつくと、ぼくはペットボトルを見おろしていた。
なんとも不思議なことがあるものだ。
ぼくと猫はベランダに出て、空を見あげた。
巨大な半透明の膜があるような気がした。ぼくたちはほんとに外の世界に出たのだろうか。
(了)
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