IMG_1384のコピー

納得いくはずがないという納得。

ぼくは、マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』を読んだことがない。

なので、ネット上でよく引用されている「な…何を言っているのかわからねーと思うが」「あ…ありのままにいま起こったことを話すぜ!」のセリフが、誰による、どういうシチュエーションでの発言なのか、なんにも知らない。

そのうえでまあ、昨夜というか今朝方のぼくに起こったことを、ありのままに話そう。いや、話すぜ。何を言っているのかわからねーと思うが。



Amazonのアカウントを乗っ取られた。

いかにも転売しやすそうな、スピーカーと増設用メモリと、なぜか水筒を購入されていた。犯人の(少なくとも荷物の受取先の)住所はわかっている。電話番号もいちおう書いてある。けれども警察沙汰にはできないっぽい。せいぜい注文をキャンセル扱いし、メールアドレスやパスワードの変更で終わらせるしかないらしい。それがもっとも得策らしい。なぜか。何を言っているのかわからねーだろう。ぼくもじつは、よくわからねーのだ。


きのうのぼくは、運よく寝つきが悪かった。

そろそろ寝なきゃなあ、と思った午前4時ごろ、スマホでメールをチェックした。Amazonから注文確認メールが届いていた。きのうなにかを買ったおぼえはない。発売前に予約注文していた商品なのかな。むかしのおれは、なにを予約していたのかな。そう思ってメールを開くと、まるで身におぼえのない商品名が記載されている。

あれ? こういうスパムメール? ここでリンクを踏んだらなんか個人情報を抜かれる的なやつ?

冷静沈着にして頭脳明晰、容姿端麗なぼくはメールを閉じ、Amazonアプリを立ち上げて注文履歴を見た。

あった。ふつうに買われていた。冷静さを失い、頭脳は明晰さからかけ離れ、容姿までふがふがに崩しながらぼくは「はっ? えっ? でっ?」などと声にならない音を出し、なにをどうすればいいのか考えた。

不正アクセスにより、誰かがぼくのAmazonアカウントに侵入した。

ならばまず、パスワードの変更だ。あわててパスワードを変更し、しかるのちにAmazonのカスタマーセンターに電話をかけた。ありがたいことに、ここは24時間対応している。

担当の人に事情を説明すると、注文のキャンセル手続きはわりかし簡単にできた。問題はアカウントを乗っ取った犯人だ。大胆なことにこいつは、商品の受取先住所まで登録し、事務所なのかなんなのか、受取人の名前もアルファベット3文字で記載している。たぶんダミーだとは思うけど、電話番号も書いてある。さあ、世界を支配するAmazon帝国の野郎どもよ。さっそくこいつの不正アクセスを洗い出し、一網打尽に検挙してくれたまえ。野望に燃えるジェフ・ベゾスの恐ろしさを、コソ泥どもに見せつけてくれたまえ。

ぼくの提案に担当者は「いやぁ」とか「まぁ」とか、どうにもふにゃふにゃした返事をくり返す。

曰く、もちろん不正アクセスの訴えがあれば、われわれサイドで調査する。ただしそれは、アメリカ本社がおこなうことであり、時間がかかる。しかも調査中はアカウントが停止状態になる。その間あなたはAmazonを利用することができない。さらにまた、もしも不正アクセスの証拠が見つかった場合、セキュリティの関係上そのアカウントは削除しなければならない。お客さまであるあなたには、あらたなアカウントを作成してもらわなければならない。その場合はこれまでの購入履歴などがすべて消え去ることになる。


「えっ? じゃあKindleで買った本は?」。

「わたしはKindle担当ではないので正確なことは言えませんが、おそらくアクセス不可だと」。

「はっ? えっ? でっ?」。

「ですのでまあ、いちばんご面倒でないのは、登録パスワードを変更していただくことと、できれば登録メールアドレスのご変更かと」。


もういちど言う。不正アクセスした犯人の、少なくとも商品受取先の住所はわかっている。たぶんぜんぶ書いても不都合はないのだろうけど、最低限のぼかしを入れて書くと、江東区のオフィスビルだ。けれどもこれをAmazon経由で警察沙汰というか、検挙に至るような手続きを踏んでもらおうとすると、ぼくのKindleはぜんぶパーになる。しかも不正アクセスが判明したところで、即逮捕となるわけではない的なことを担当者は言っていた。


ぼくの気持ち、すこしはおわかりいただけただろうか。

「な…何を言っているのかわからねーと思うが」

「あ…ありのままにいま起こったことを話したぜ!」