ふみなるのnote

キリスト新聞のライター。カルト化したキリスト教会に約20年いました。吃音症がなかなかし…

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キリスト新聞のライター。カルト化したキリスト教会に約20年いました。吃音症がなかなかしんどい。映画やドラマやアニメの批評もします。

マガジン

  • 賛美を取り返したい

    教会で賛美を歌えなくなってから、また歌えるようになるまで

最近の記事

『失われた週末』で失われたのは

『ジョン・レノン 失われた週末』を映画美学校で試写した。  ジョン・レノンとオノ・ヨーコが別居していた約18ヶ月間の、「失われた週末」と呼ばれる時期に焦点を当てたドキュメンタリー。ジョンの個人秘書兼ヨーコ公認の恋人だったメイ・パンが、「私の物語」として語る。  本作はポール・マッカートニーとの再会や息子ジュリアンとの再会、ソロ活動の様子など、この時期のジョンを知る上で貴重なエピソードが溢れている。まさに「失われた」ものがよみがえった形で、ビートルズのファンなら大いに見る価

    • 『ジョン・ウィック』は4作目で終わっていい

       キアヌ・リーブス主演の大人気シリーズ『ジョン・ウィック』は4作目で終わっていいと思う。ネタバレすると4作目でジョンが亡くなるので、物理的には終わっている。続編は作れない。けれど制作側がその気になれば「実は生きていた」ことにできるし、5作目が公開されれば既成事実になる。そうなれば誰も文句は言えない(もっともファンの多くは続編を歓迎すると思うけれど)。実際、続編の企画が始動していると聞く。  私は本シリーズを全部見たし全部好きだ。1作目は控え目だったけれど、2作目(『チャプタ

      • ルッキズムの何が問題なのか

         最近よく耳にする「ルッキズム(いわゆる外見至上主義)」は、誤解されたまま使われている傾向があると思う。  この概念の影響で各種ミスコンが廃止になったことから、「美醜を競うのはNG=美しさにこだわってはいけない」と取る人が少なくない。それは部分的に正しい。けれど個々人が「綺麗でいたい(綺麗の基準は様々)」と願って実行するのを止めるものではない。  ルッキズムが問題になるのは、例えば採用面接で明らかな「容姿採用」がまかり通るような事態。以前、某派遣会社が登録者本人に伏せたま

        • 『オッペンハイマー』映画評

           3月29日(金)公開の『オッペンハイマー』を試写し、キリスト新聞に映画評を寄稿した。下記リンクから全文読めるので紹介したい。  残念ながら本作にも原爆軽視の傾向がある。広島と長崎の被害を描写しなかったのもそれだ(詳しくは記事を読んでいただきたい)。PRの段階で、同時期に公開された『バービー』とのコラボ(「バーベンハイマー」)がミーム化したのも恐るべき事態だった。欧米の人々に少なからず原爆軽視の風潮があると思われるからだ。  アメリカに住んだ経験のある人に聞いたら、ドッジ

        『失われた週末』で失われたのは

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        • 賛美を取り返したい
          1本

        記事

          障害、障がい、障碍……?

          障害の社会モデル化  障害を「障害」と書くか「障がい」と書くか「障碍」と書くかについては、様々な意見と立場がある。私個人は「障害」と書くべきだと考えている。なぜなら障害は「社会モデル」で考えるべきで、かつ現にこの社会に様々な「障害」が発生しているからだ。「害」の字を使わないと、その深刻さやダメージがうまく伝わらなくなってしまう。  社会モデルにおいて、障害とそれにまつわる困り事は、障害者本人の責任でなく、そういうふうに構築された(健常者専用に設計された)社会の責任だと考え

          障害、障がい、障碍……?

          同性愛指向をめぐる「サイドB」への違和感

          ※書評ではありません。  いのちのことば社から、いわゆる「サイドB」を標榜する書籍『罪洗われ、待ち望む 神に忠実でありたいと願うゲイ・クリスチャン 心の旅』(ウェスレー・ヒル 著)が刊行された。原著は十数年前に刊行されている。なぜ今翻訳されたのだろうか。日本におけるNBUSの動きや、それに対する反発、そして「第三極」として現れた「ドリームパーティ」との絡みを考えてしまう。  「サイドB」は同性愛指向をめぐる「問題」の、一つの解答として紹介されている。  (ただしここでいう

          同性愛指向をめぐる「サイドB」への違和感

          人間よりラクに移住できるカモ一家/『FLY!/フライ!』

           東宝東和の試写会で『FLY!/フライ!』を見た。『ミニオンズ』で有名なイルミネーションの完全オリジナルストーリーの新作だ。  “渡り”をしたことがないカモ一家が、カリブ海のジャマイカ目指して約3000kmの旅に出る。カモが勇気と冒険心を持って“渡る”姿を強調して『FLY!/フライ!』という邦題にしたのだと思う。しかし原題は『MIGRATION(移住)』。世界中で起きている移民排斥問題を想起させる。  ところがカモには国境も居住権の問題も移住先での差別も言語習得のハードル

          人間よりラクに移住できるカモ一家/『FLY!/フライ!』

          「ハイファに戻って」読書会のお知らせ

           「ハイファに戻って」(ガッサーン・カナファーニー 著)の読書会を下記の要領で開きます。参考図書は「ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義」(岡真理 著)。参加無料です。ふるってご参加ください。 ◾️ダンとふみなるの読書会 日 時:2024年2月27日(火)20:00-22:00(Zoom開催) 参加費:無料 課題本:「ハイファに戻って」(ガッサーン・カナファーニー 著) 参考書:「ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義」(岡真理 著) 申 込:下記の参加申込フ

          「ハイファに戻って」読書会のお知らせ

          お前にそんな資格はない

          恐怖のリハーサル  教会主催のゴスペル・コンサート当日。関係者らはリハーサルに余念がない。会衆席の後方に陣取った牧師が、ワイヤレスマイクを片手に指示を出す。  「ギターちょっと上げて」  「コーラスちょっと下げて」  「バスドラムのマイク、少し離してみて」  牧師の音響チェックはいつも入念だ。いわく「最高の神様は最高の音響で讃えられなければならない」。けれど私は正直、牧師が調整する前と後の違いが分からなかった。耳が肥えていないからだろうか。「霊的」に成長していないからだ

          お前にそんな資格はない

          昔はヤンチャだった牧師

           「昔はヤンチャだったんですよ」牧師は言う。「学校では喧嘩三昧。後輩たちにはタカリ三昧。付き合う女の子は二股三股あたりまえ。校舎の窓は何枚割ったか分かりません。そんなオレが、今じゃ教会の牧師ですからね。人生、何が起こるか分かりません」  会衆から拍手が起こる。司会の牧師はウンウン頷く。私はボールペンを走らせる。  「では、権藤先生が神様に出会って牧師になった経緯を、お聞かせいただきましょうか」司会者が言う。「皆さん、そこが一番気になるでしょう?」  会衆から大きなアーメンが起

          昔はヤンチャだった牧師

          もうひとつの声/『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

           『ウーマン・トーキング 私たちの選択』を見た。  キリスト教一派が自給自足で暮らす村で、睡眠薬を飲まされた女たちが夜な夜なレイプされる。被害を訴えても「悪魔の仕業」「作り話」などと男たちから言われ、ずっとうやむやにされてきた。しかしある晩、現行犯を見つけたことで、村ぐるみの犯罪だったと判明する。男たちが不在の2日間、女たちは許すか、戦うか、去るかを決めるため話し合う。  投票の結果、戦うか去るかの二択に絞られる。女たちは納屋の2階で話し合う。この2階に手すりのない開口部

          もうひとつの声/『ウーマン・トーキング 私たちの選択』

          クリスチャンとお焼香

           ミサキが死んだ。  ミサキの家族や友人はあいつが「天国」へ行ったと言う。この世界より良いところへ行ったのだと。だから喜ぶべきだ、と言う人さえいる。しかし私が知っているキリスト教の教えに従えば、ミサキは地獄へ行ったはずだ。そこで永遠の責苦にあうはずだ。  ミサキの葬儀は日曜の午前10時からだと聞いた。教会の礼拝と重なる。休むしかないと思って牧師に連絡した。答えはこうだった。  「死人を葬ることは死人に任せなさい、と書いてあります」  ノンクリスチャンの葬儀はノンクリスチャ

          クリスチャンとお焼香

          ロボットは歌う/『PLUTO』

           『PLUTO』全8話を見た。  1964年の原作(『鉄腕アトム』)を2003年にリメイクしたもののアニメ版だ。今となっては見慣れたプロットが散見される。人間とロボットは見分けが付かなくなり、記憶は他者によって操作され、中東の怪しげな国が黒幕で、憎悪からは何も生まれず、悪者は最後に改心して自ら犠牲となって世界を救う。  ゲジヒトを主役にした前半はミステリー仕立て。「完全なA.I.は(人間と同じように)ミスを犯すようになる」という発想が面白い。人間に完全に近づいたロボットは

          ロボットは歌う/『PLUTO』

          チャーチスクールか、公立学校か

           ブログに以下の質問をいただいた。  小学生になるお子さんを地元の公立学校に入れるか、あるいは遠方のチャーチスクール(教派は聖霊派)に入れるか、迷っていらっしゃるとのこと。メリットとデメリットを天秤に掛けるも計りかねているご様子。私は某チャーチスクール(同じく聖霊派)で10年ほど働いたので、その経験をもとに、できるだけ公平にこの問題を考えてみたいと思う。 前提条件  ただその前に書いておきたいのは、まず子育ての正解/不正解は誰にも分からない、という点だ。子どもにとって何

          チャーチスクールか、公立学校か

          クリスチャンとお金

           教会の解散時、私はまだ30代だった。看護師免許も業務経験もあったので、再就職は難しくなかった。その点は他の成人信徒よりマシだったかもしれない。  しかし当時は貧困を極めていて、銀行預金は数ヶ月間、プラスとマイナスの間を行ったり来たりしていた。教会が早々に解散してくれなかったら破綻していたと思う。最悪な状況とギリギリセーフな状況が混在する、変な期間だったと振り返って思う。いや、それ自体が生存バイアスか。  教会のあれこれが終わり、私は割とすんなり「普通の暮らし」に戻れた。

          クリスチャンとお金

          賛美を取り返したい 第1回

          「正しい賛美」はどこ?  ながらく賛美を歌えなかった。  大好きだったワーシップソングの数々は今も耳の奥に流れている。無意識にくちずさむことさえある。けれど礼拝の場では歌えない。「こんなの嘘だ」と思ってしまう。「自分は賛美を歌うことで神を冒涜しているのかもしれない」  賛美が何なのか、私は分からなくなっていた。  私は教会でながらくドラムを叩いていた。それが神に与えられたポジションだと信じていた。「測りなわは、わたしのために好ましい所に落ちた」(詩篇16篇/口語訳)とあ

          賛美を取り返したい 第1回