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たんたんたんたん誕生日?!

息子達に、いとこからお手紙が届いた。

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たんじょうかいのおしらせ

みなさんおげんきですか。
このたび、わたくしごとではありますが、いっさいのたんじょうびをむかえることになりました。
いつもおせわになっているみなさまに、かんしゃのきもちをおつたえしたく、ぱーてぃーをかいさいします。
ごつごうがよろしければ、ぜひいらしてください。

せいじ より

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誕生日会の当日、家族で地元で人気のケーキ屋さんを訪れた。
ショーウィンドウの中には、美味しそうなケーキがたくさん並んでいる。

「どのケーキがいいか、妹さん何か言ってた?」

私は妻に尋ねた。

「チョコレートケーキがいいと言ってたよ。あっちの兄弟は2人ともチョコしか食べないんだって」

チョコレートケーキは2種類あり、1つは生クリームを使ったチョコレートケーキ。
もう一つは、ガトーショコラにムースを加えた濃厚なチョコレートケーキがあった。

子供向けだと生クリームを使ったケーキがいいだろう。

私はそう考えていたが、妻は「これがいい」と別のケーキを指差した。
それは、私が想定していないフルーツを贅沢に盛ったタルトケーキだった。

さっき、チョコレートケーキを頼まれたって言ってたよな??
私の聴き間違えか??

「チョコレートケーキ頼まれたんじゃなかったっけ?」

私は困惑しながら妻に聞いた。

「私はこっちの方を食べたいの」

妻は真っ直ぐに私を見て言った。

「甥っ子の誕生日でしょ?ユリさんの誕生日じゃないんだよ」

今日は甥っ子の誕生日ケーキを買いにきたはず。
妻を目的を忘れてしまったのだろうか。

「大丈夫。こっちの方が絶対美味しいから」

「いやでも、みんなチョコレートケーキ以外は食べないんでしょ?」

私はすでに伝えられている懸念を、妻に問いただした。

「ケーキの端の方を見て」

妻は微笑みながら、タルトケーキの端を指さした。
顔を近づけて見ると、端はチョコでコーティングされていた。

「チョコレートでしょ?」

妻は誇らしげな顔で、私をじっと見つめた。
少しでもチョコレートが使われていたら、それはチョコレートケーキだと言いたいようだ。
確かにチョコレートが使われていたら、チョコレートケーキと呼べなくもないかもしれない。

「これ、お願いします」

戸惑う私を尻目に、妻は迷いもなくフルーツタルトケーキを注文した。

***

誕生日会当日、飲み物とケーキを持って義妹の家を訪れた。

「どんなケーキを買ったの?」

出迎えた義妹が、ケーキの入った袋を覗き込んだ。

「んっ?!」

義妹はガサガサと袋からケーキを取り出し、箱の中身を確認した。

「えっ、何このケーキ?!」

義妹はとても驚いた顔をしている。
そうだよな、そうなるよな。
私は心の中で、「うんうん」とうなずいた。

「凄く美味しそうだね。ありがとう」

えっ?!

義妹はとても喜んで、私達にお礼を言った。
チョコレートケーキを買って、という依頼は一体どこへ消えたのだろうか。
妻の実家では、チョコレートケーキというのは隠語で、美味しいケーキという意味で使われているのだろうか。

***

誕生日会の終盤、タルトケーキに1本のロウソクを差して、セイジの前に運んだ。

「誕生日おめでとう」

まだ、ロウソクの火を消せない1歳のセイジに変わり、3歳の兄セイイチが見事に代役を務めた。

一通りの儀式がおわり、ケーキを食べやすいサイズにカットして子供達に出した。
すると、いとこ兄弟は出されたタルトケーキをすぐに完食した。

チョコレートケーキしか食べないって、何だったんだ?!

事前に伝えられた情報は、全てフェイクだったのだろうか?
結果、全てが妻の思惑通りに収まったのであった。

ギブミーマネー!ギブミーチョコレート!!