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99%の人が知らない漆の効果 NICUの子どもたちに漆の積み木を贈る

1月にスタートさせた「病院の子どもたちに漆の積み木を届けるプロジェクト」も4ヶ月が経ちました。

家に眠っていた積み木を寄付いただき、漆チャレンジャーさん(ヌーの発信で漆塗りに挑戦されている方々)の手に渡り、少しずつ積み木が漆によって生まれ変わりつつある段階です!

返ってきた積み木をみると、なんとも言えない暖かさに包まれていて。
「想いを塗り重ねた作品というのは、感動を呼ぶ」としみじみ実感しました。
これだから漆塗りはやめられません。

中には、研磨をしたら積み木のプリントが取れてしまうので、スキャン技術とレーザー刻印を駆使して、とんでもない漆積み木に生まれ変わらせてくださる強者チャレンジャーさんも。笑
※写真は高木さんの塗ってくださった写真

before
after
右下の動物たちはono5sさんが描いてくださり、そのイラストを寄付してくださいました。


千葉県からわざわざ長浜の店まで足を運び、漆塗りする積み木を受け取りに来てくださった佐久間さん。

「このプロジェクトは、これから全国に広がると思う。その1番初めの一端に携われたと思うと、それだけでも心がワクワクして。幸せです。」

と、お言葉をいただきました。DMでもたくさん応援の声をいただいていて!本当にありがたい限りです。

そもそも漆がなぜ医療現場のおもちゃに最適なのか

今回のブログは、漆の効果について。
「心の豊かな時間を作り出す」という感情的な効果以外に、科学的にも色々と立証されているので、記事にしておこうと思います。

そもそも病院のおもちゃの必須条件は、
①感染対策ができること
②除菌ペーパーやスプレーが対応できること

NICUスタッフ石田さんによると1番は「感染対策」
全てのおもちゃは"除菌"できることが必須だそうです。


医療機関の子どもたちは、免疫力が弱く、感染対策が最も大切になってきます。

現場では除菌ペーパーやスプレーなどで除菌をするので、木や布の持ち込みは基本的にNGとされています。


木のおもちゃが除菌に適していない理由

1. 細菌やウイルスの保持

木の表面は、プラスチックや金属などの滑らかな表面に比べて多孔性であるため、細菌やウイルスが木の微細な隙間に入り込みやすく、除去が難しくなります。病院では感染症のリスクを最小限に抑える必要があるため、この特性は特に問題となります。

2. 清掃と消毒の難しさ

木のおもちゃは水や化学薬品による消毒に弱い場合が多く、繰り返しの洗浄や消毒を行うことで素材が損傷したり、形が変わったりする恐れがあります。そのため、病院で要求されるレベルの清潔を維持することが困難になります。

3. アレルギー反応

表面処理に使用される塗料や接着剤などからアレルギー反応を引き起こす可能性があります。特に、病院内では様々な健康状態の人がいるため、アレルギー反応のリスクを最小限に抑えることが重要です。
天然素材である漆は、赤ちゃんが口に入れても安心安全の塗料です。

4. 耐久性の問題

木のおもちゃは割れたり欠けたりしやすく、鋭い端や小さな部品が取れてしまうと、怪我の原因になる恐れがあります。特に病院内では、子供たちが安全に遊べるおもちゃを提供する必要があります。


これらの理由から、病院や他の医療施設では、清潔に保て、安全で耐久性が高い材質のおもちゃが推奨されます。滑らかで非多孔性の表面を持ち、簡単に消毒できるプラスチック製のおもちゃなどが好ましいとされており、木のおもちゃが病院に適していないことがわかります。


漆を塗ればこれらの条件を満たすことができます。
科学的にも立証されているので、文献などを交えてご紹介していきます。


そもそも漆には強い抗菌作用がある

ヌーの発信でも度々出てくる「漆の抗菌作用」
これは言わずと知れた「漆の不思議な力」の一つです。大学や研究室での実験でも、結果が立証されています。


キャンパーさんのナイフに漆を塗ったときもよく発信していたのがこの効果。
外で使うナイフは衛生面も気を使います。折りたたみナイフなら尚更折りたたむ内側に雑菌が溜まりやすいですが、漆の効果でこれも解決!

O125の原因菌も撃退!?

漆の塗膜に0157の原因菌(サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、腸炎ビブリオ菌)を付着させ、どうなるかの実験がなされました。
結果的に4時間で50%、24時間で99.9%の抗菌作用が認められています。実験内容は以下の通りです。

福井県工業センターの渡邉暢子氏が興味ある発表を行っている。
「漆塗膜の黄色ブドウ球菌に対する抗菌試験結果から、日本産、中国産の資料からは、二四時間後の生菌数が減少し、滅菌率100%で抗菌効果が認められ、一年以上経過した漆塗膜も同様である」という内容である。生漆を塗ってから一カ月後の塗膜と、一年後の塗膜の双方とも抗菌作用があるということは、重要な点である。
また、「これからの京漆器を考える会」の遊部尋志会長、石川光治氏らは二〇〇一年一月と八月に注目すべき実験を行い発表した。
*  生漆を塗ったプラスチック表面上に黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌を放置すると、四時間後には半減し、二四時間後には0となる。
*  プレートを漬けた生理食塩水と、ただの生理食塩水の病原菌の生残菌量を比較すると、一日後には漆浸漬水溶液の方は病原菌のコロニーは一つも認められないという。ただの生理食塩水生残は菌が大量に残っている。


2022年、コロナウイルスにも同様の結果が!?

また、2022年に箕輪漆工が発表した実験では、漆の塗膜で"コロナウイルス"でも同様の結果が認められたことが巷で大きなニュースになりました。

以上のことから、漆はあらゆる菌を抗菌してしまうという素晴らしい効果を兼ね備えた塗料なのです。

そもそも漆は、ウルシノキの樹液。
木に傷をつけると、樹液が垂れ出てきたところを専門の道具で掻き取るように採取します。
まさに「ウルシノキの血液」と言えます。

木は体が傷つけられたと思い、樹液を傷に集めます。漆を固めてかさぶたをつくり、傷口に菌が入らないように"抗菌作用"を身に付けたと言われています。まさに自然の生み出した、美しい抗菌効果です。


漆はその昔、海軍の船底に塗ってた程の耐水性能

少し小難しい話になってきましたが、このプロジェクトには大切なことなので、もう少しお付き合いください。

先述したように抗菌作用があったとしても、現場では尚も、除菌処理が必要となってきます。除菌ペーパーやスプレーでの処理ですね。

そもそも医療現場に木製のおもちゃを持ち入ってはいけない理由としては、抗菌処理ができないことが要因です。その処理に耐えうる耐水性と、耐溶剤性が証明できればいいわけです。

1885年(明治18)特許法を制定すべきという声が高まり、4月18日に『専売特許条例』が公布されます。
 当時、彫刻家・漆工芸家として世に知られた堀田瑞松は、そのころたまたま政府要人の間で語られていたある話に研究心を刺激されます。それは、「世界の鉄製船舶が海水によって船底を浸食されるため、6ヶ月ごとに入渠して塗装しなおさなければならない。もし、もっと強力な防錆塗料が開発されて入渠周期を延長できれば、わが国はもとより世界の大きな利益となろう」というものでした。さっそく瑞松は漆を主成分とする船底塗料の研究に着手し、横須賀造船所の周辺海域で実験を繰り返し、海軍の船で実船テストを行い成功を収めます。
 テストの結果に自信を得た瑞松は、1885年(明治18)7月1日に農商務省工務局の専売特許所(今の特許庁・当時の所長は高橋是清)へ出願し、同年8月14日付で特許を取得しました。

以上の文献からも分かるように日本の特許制度の第一号は、船の底に塗る「漆」だったことがわかります。

それほど、耐水性に優れた漆。昔からお椀やお箸などの水回りの道具に塗って日本の生活に取り入れられてきたのにも納得ですね。

今はプラスチック製となった釣り道具の"浮"も、昔は木製の漆塗りだったことも、水に強いということがよくわかる例です。

釣りに使用する道具 漆塗りの"浮"

地球上のどんな溶剤をもってしても溶かすことのできない最強の耐溶剤性能

水に強いことがわかっても、アルコールや除菌のスプレーに耐えうる強さも必要です。
そこで、下記のような実験が行われています。


溶剤に対して、様々な実験を通して検証する。結論は、酸化重合、つまり固化した漆の塗膜層を溶かす溶剤類はないのが現状である。アルコール、石油、テレピン、ガソリン、塗料用シンナー、ラッカーシンナー、アセトン、ベンジン、キシレンなど、何を持ってきてもびくともしない。塗膜層が壊されないだけではなく、その色艶も変わらない。常温で液体であり、物を溶かす力のある各種溶剤には、漆は強いのである。

「酸類やアルカリ液」
漆塗膜は、金属を溶かしてしまう強酸類に対してもまったく変化しないのが事実である。生漆を高温で硬化させ焼き付けた一ミリ厚の鉄板を、塩酸の原液、梢酸の原液、水酸化ナトリウムを溶かしたアルカリ溶液の三種類に、二四時間浸けておくと、塩酸の原液の中の鉄板は、鉄がむき出しになった部分から細かい気泡がずっと立ち続け、鉄が溶けていくのがよくわかる

塩酸の原液、梢酸の原液、水酸化ナトリウムといった超強力な溶剤に漬けておいても、鉄は溶けましたが漆は溶けませんでした。これには驚きですね...

以上のように、漆は溶剤に強いことも実験によって結果が出ています。アルコールや除菌スプレー程度ではびくともしないことがお分かりいただけたかと思います。


漆一番のネガティブイメージ"かぶれ"

「漆は触るとかぶれる」
これは、現代の日本人が持つ強いネガティブイメージそのものだと思います。
実際に、石田さんも病院スタッフに説明する際にこのワードは必ず聞かれると言います。

「遅延型アレルギー性接触性皮膚炎」
これが、漆かぶれの正式な名称。

漆の道具を使うと、漆かぶれになるという勘違いをしている人も多くいますが、しっかりと硬化させた漆は、赤ちゃんでも使用できる世界で1番安心安全な塗料と言われています。
寄付する積み木も塗ってから、3ヶ月以上経過したものを対象に寄付していこうと考えています。

発信から4ヶ月

発信から4ヶ月経った今でも、KINDIのアカウントやブログを読んで、寄付の積み木を送ってくださる方もおられます。

先日、全国のリトルベビーサークルにもこの活動を周知していただき、応援の声が集まっています。
まだ始めたばかりの活動ですが、すでに100名以上の方々に携わっていただき、プロジェクトを進めることができており、本当にありがたい限り。
多くの人に携わっていただくことができて嬉しい限りです。

引き続きこのプロジェクトを1人でも多くの人に知っていただき、リトルベビーや漆の理解が広がる世の中になることを願っています。


GNU urushi craft / 中川喜裕

GNU urushi craftは、「漆文化を広めよう」を合言葉に、様々な”漆の新たな可能性”を探り、5代目塗師中川喜裕が”ヌーの群れ”と共に、漆文化を広める挑戦を続けるプロジェクトであり、コミュニティーであり、アウトドアブランド。


tsumiki salon KINDI / ちひろ

「子育ては幸せなもの」という、自身の出産後に感じた辛い経験を経て積み木に救われた感動を伝えたいと2023年12月活動を開始。
保育士であり二児の母であるCHIHIROが、おもちゃコーディネーターの知識をもとに、積み木の魅力を発信。
「子ども漆器」の開発も手がける。
募集後即完売の積み木サロンも不定期開催。


石田 渉
NICU 新生児特定集中治療室 看護師

救命救急士をしていた父の影響で、幼少期から誰かのために仕事をしたいと考えるように。少年時代に、男性看護師との出会いをきっかけに看護師を目指す。
漆塗りのオーナメントをきっかけに、病院の特殊な環境にいる子どもたちに、本物に触れ合える機会を提供できる可能性を見つける。
夢は「漆の積み木を病院の子どもたちへ。」


参考文献,記事
https://www.nippon-kako.co.jp/patent.html
https://www2.pref.iwate.jp/~kiri/study/report/2008/pdf/H20_12.pdf

https://shitsugei-shibata.com/?faq=1077

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