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春夢、遙か。【春弦サビ小説】




君の温度が 消えてゆく帰り道を

風に乗せて はらはら

零れ落ちた 春の夢

置いてく

Lyrics by rira





『あんた……』

握りしめた拳に爪がくい込み、血が滴り落ちる。

見るも無惨な有様。
痛めつけられた痕、無数の切り傷。


『生かしてはおかない……』


あたしを愛でてくれた手は紅に染まっていて、温度を失っていた。

あたしを見てくれた眼は、
あるべき所に収まっておらず。

あたしを色んな場所へ連れて行ってくれた足は、ひとつ無かった。

あたしに約束してくれた話は
もはや春の夢。


『この身を棄てても』


薫は疾走はしる。
大切な人を奪っていった輩の居る場所へ。

薫の思い出は疾走する。

あの人との幸せな日々。
もう帰らないあの人。
ならば、あたしも帰るまい。



役人の詰所。

詰所の外には桜。花弁が散る。

『貴様らは……万死に値する』


詰所の見張りを斬り倒す薫。
一刀両断、容赦無し。

詰所内へ扉を蹴破り突入する薫は
修羅と化した。

詰所内にも桜が舞っている。
あたしの手から零れ落ちて行く花弁。

それはあなたの命のようで。


『全員に引導をくれてやる……』


「曲者だぁ!!であえ!であぇ!!」


『あたしが死ぬか、あんたらが死ぬか、
それまで終わらぬ』


深く前傾姿勢になる薫は突きを繰り出す構えだ。

女性の突進からの突きとは思えないほどの威力。
貫かれながらも男は吹き飛んでいく。




『あたしの突きは牙。あんたらを喰い破り、屠ってやる』


ひとりの役人が呟いた……。

咎崎 薫とがざき かおる……」

先の大戦で『牙刀きばがたな』との異名をつけられた伝説の女。
放たれた突きは牙のような鋭さだと謳われている伝説。


『さぁ、堕ちようぞ……』


ーーあたしの夢は、この戦場いくさばに置いていく。



『咎崎薫……推して参る……』


『牙刀』が唸りを上げて宙を斬った。






#春弦サビ小説
#春弦

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