民法の速解の技術

民法の択一問題を即答するためには


結論から言うと、民法の択一問題を即答するコツは、「問題文をなるべく把握しないで、抽象的なまま飲み込むこと」です。

最初に断っておきますが、この方法は、対実務や対論文問題においては、「邪道」であり、やってはならないことです。したがって、あくまでも択一式対策が主である「行政書士試験」や「司法書士試験」。他には、「宅建士試験」などにしか妥当しないものと考えてください。

それは、なぜか。

対実務や対論文問題では通用しない。実は、これがヒントなのです。
(これは、最後まで記事を読んでいただければ分かると思います。)

突然ですが、質問です。
問題文は、どのように構成されていますか。
実際に何問か見てみましょう。

錯誤等に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。(行政書士試験H29-28)

Aは自己所有の甲機械(以下「甲」という。)をBに賃貸し(以下、これを「本件賃貸借契約」という。)、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。この事実を前提とする次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。(行政書士試験H29-33)

いかがでしょうか。

実は、ここにはある重要なキーワードがあるのです。自分は、これに気付いたとき、「あー、なるほど!問題文って、別に把握する必要がないじゃないか!」と思うことができ、大変感動した記憶があります。

答えは

いずれも、「民法の規定及び判例に照らし」という記載があるということ。

これは、司法書士試験でも同様です。(司法書士試験の場合は、最高裁判所の判例の趣旨に照らしなどと表現することがありますが、まぁ同じニュアンスです)

そんなの当たり前じゃないか。民法の問題なんだから、民法の条文と判例が問われるに決まっているだろ。

そう思われた方もいらっしゃるかもしれません。

いえ、そんなことはありません。これは、重要な発見です。

なぜならば、民法の条文・判例は、テキストを通して勉強してきているはずであり、その範疇からしか出しませんよと言ってくれているからです。

とすれば、問題文の事案など把握しなくても、「あぁ、これはあの条文か。あの判例か。あの時は、この部分に着目して、結論を出すんだったな。」というように、完全に民法の条文と判例「のみ」を根拠として解いてしまってよいということになるのです。

つまり、民法の択一問題を即答するためには、問題文の事案を把握するという過程を省略し、「何の条文・判例が聞かれているか」という点を見抜くことだけに頭を働かせればいいのです。それさえできれば、長い問題文を読みこんで、「その問題文の事案を把握」する必要などないのです。

対実務・記述(論文)では使えない


この方法論は、なぜ択一式対策の時のみ有効であり、対実務や対論文問題ではダメなのか。

これで分かりましたよね。そうです。対実務では、「民法の規定及び判例に照らし」ただけで答えが出るとは限らないからです。特別法が存在するかもしれない。判例の射程外の問題かもしれない。そういうところを見極めないといけないので、この方法は使えません。論文問題も同様です。だからこそ、丁寧にヒアンリングをして、事案を正確に把握する必要がある。そこから、丁寧に法律を適用していかねばならないのです。

この方法は、あくまでも択一式の試験対策に特化したものであり、本心からいうと、本当はそんな方法を教えたくはありません。しかし、試験は試験。そこは割り切るしかないと考え、最近お伝えすることが増えています。この辺りの誤解だけはなきようにお願いいたします。

具体例

さて、話を戻します。
事案を把握しようとするのではなく、問題文が聞こうとしている条文・判例をあてにいくように注視するということですが、具体的にどのように問題を読んでいけばいいのでしょうか。

いくつか例を紹介します。
(なお、この速解の技術を全面的に伝えているのが、拙著の解法スキル完全マスターです。ご興味がある方は、ぜひ読んでみてください。)

それでは、まずこの問題から。

AとBは令和3年7月1日にAが所有する絵画をBに1000万円で売却する売買契約を締結した。同契約では、目的物は契約当日引き渡すこと、代金はその半額を目的物と引き換えに現金で、残金は後日、銀行振込の方法で支払うこと等が約定され、Bは、契約当日、約定通りに500万円をAに支払った。Aの母の葬儀費用にあてられるため、残代金の支払期限が「母の死亡日」と定められていたところ、令和3年10月1日にAの母が死亡した。BがAの母の死亡の事実を知らないまま2ヵ月が徒過した場合、Aは、Bに対して、残代金500万円に加えて2ヵ月分の遅延損害金を請求することができる。(行政書士試験R3-31-エ)

相当問題が長いです。もはや択一問題?なんですかというレベル。

この問題の事案を把握していくこと自体が大変なので、要は何の条文・判例を聞いているのかを探しにいくようにして、問題文をさらっていきます。

事案が長い場合、通常は、前半部分が「事案の設定」であり、後半部分に「聞きたい条文・判例知識の設定」をします。

そのため、問題文の前半部分は読み流し(単に事案の設定に過ぎない可能性が高いから)、後半部分に注力をすると良いでしょう。

すると、「残代金の支払期限が『母の死亡の日』」となっており、Aは、Bに対して、「遅延損害金を請求」することができるかが問われていることが目に入ると思います。

ここから、問われているテーマや条文・判例を考えてみると

履行遅滞に基づく損害賠償請求

であることが分かるはずです。
(ここが設定できない場合は、単に勉強が足りないだけです。問題を早く解くとかそれ以前に、まずはテキスト等の内容を理解する必要があります。)

そして、「母の死亡の日」が支払期限となっているということは、これは不確定期限がついているものということになる。

すると、「あぁ、不確定期限がついている場合、いつから遅滞責任を負うかという話を聞いているのね。」

と聞かれている条文・判例が何なのかを端的に指摘することができるはずです。

債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う(民法412条2項)。

つまり、この問題は、上記の条文を聞いているんだということが把握できるわけです。

あとは、条文を適用する限度で問題を読んで終わりです。

本問では、「BがAの母の死亡の事実を知らない」ですから、まだ遅滞責任を負わないわけですね。したがって、本問は誤りということになります。

この調子で、さらに見てみましょう。

Aがその所有する甲土地についてBとの間で締結した売買契約をBの強迫を理由に取り消した後、Bが甲土地をCに売り渡した場合において、AからBへの所有権の移転の登記が抹消されていないときは、Aは、Cに対し、甲土地の所有権の復帰を主張することはできない。(司法書士H29-8-イ)

この問題文も長いですが、次のように見えれば良いと思います。

この問題も、「強迫を理由に取り消した後」、「土地の所有権の復帰を主張」という部分から、何が聞かれているのかがすぐに分かるはずです。

この問題も、事案の把握などの必要はありません。上記のキーワードに着目をします。そのうえで、

「強迫を理由に取り消した後…か。ということは、対抗関係処理だ。」

「えーと、登記を備えていれば、主張できるんだよね。…AからBへの移転の登記が抹消されていない。ということは、Aは登記を備えていないのね。」

「Aは、所有権の復帰を主張できない。そのとおり。○だ。対抗関係だから、登記がないとダメだもんね。」

強迫後の第三者 → 対抗関係 → 登記を備えているかを見る

これが、解法です。

問題を解くスピードを上げるには、問題文をなるべく読まないで、論点的に把握をしてしまうこと。これが重要です。

この解法は、択一式の問題であれば、無限に使うことができます。

だって、問われる条文・判例は、「テキストで勉強した『民法』に関するもののみ」なのだから。

民法の過去問などを検討するときには、知識の確認をすることが大事?問題文の事案をきちんと把握することが大事?

いえ、いずれも違います。

民法の問題を検討するときには、「問題が聞いている条文・判例を出題するためには、どの言葉を使わなければならないか(キーワードの発見)。そこから、何を想起すればいいか(出題テーマ及び条文・判例の確定)。」。これを探ることが重要なのです。

(また、このような解法を身につけるのは大変そうだな。他に早く解く方法ないの?という相談が来ることもありますが…解法を使うのには、訓練がいります。訓練をしたくないのであれば、愚直に事案を把握して、その場で何の問題かを読み解いていくしかありません。)

頑張って訓練してみましょう。

すると、民法の択一問題の見え方が劇的に変わるはずです。

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