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SHOWROOM・前田裕二社長と語り合った「マイノリティ強者」が陥りがちな罠。

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仕事上のお付き合いで、よくお会いする方々がいる。私にはない能力や魅力を持っている方々ばかりで、お会いするたびに多くの学びをいただいている。

SHOWROOM社長・前田裕二さんも、そんな一人だ。前田さんからは多くの学びや刺激をいただいているだけでなく、志を同じくする仲間として、非常に勝手ながら親近感を抱いている。

アイドルやタレントの配信事業を手がける前田さんと言論をベースに活動する私との間に、あまり共通点はないように思われるかもしれない。だが、早稲田大学政経学部の先輩後輩という間柄以外にも、私たちには大きな共通点があるのだ。

エンターテイメント業界に携わっていたり、過去には有名女優さんとの交際を週刊誌のネタにされたりと何かと華やかなイメージがある前田さんだが、その生い立ちは私たちの想像を絶するほど過酷なものだった。

詳しくは彼の著書『人生の勝算』を読んでほしいのだが、前田さんは幼くして両親を亡くし、10歳上の兄とともに親戚の家に引き取られた。しかし、他者に頼らずにご飯を食べられるようになろうと、小学生の頃から駅前でギターの弾き語りをするなど、幼い頃から「自立」という言葉と向き合ってきた。

眉目秀麗、頭脳明晰で多くの人から羨望のまなざしを受ける存在となった前田さんだが、そのスタートラインは「羨望のまなざしを送っている側」の人々よりも、一歩も、二歩も、いや百歩ほどの遅れをとらざるをえない苦しいものだったのだ。

スタートラインという意味においては、私の四肢のない身体も、一般的に見れば大きなハンデとなる。いまでは一丁前にメディアで発言などさせていただいている私だが、どんなに強がってみても自分一人ではトイレに行くこともできず、風呂に入ることもできない体だ。そうした状態で生活していくには、もちろん周囲の協力も必要になってくるが、やはり本人にも相応の努力を求められることになる。

前田さんも私も、みずから望んだ境遇ではない。たまたま与えられた条件が、想定しうる“最悪”に近いものだった。それでもメディアが好んで使う表現を用いれば、「そうしたハンデを乗り越えて」生きてきた。前田さんは実業家として、私は言論人として、みずからが活動できる場を切り拓いてきた。

いわば「マイノリティの中の強者」となった私たちだが、じつは二人ともその直後に同じ過ちを犯している。苦境をはねのけて、ある程度の成功を収めた私たちは、みずからの成功体験から「頑張れば何とかなる」と信じ込んでいた。そして、あろうことか同様の境遇に苦しむ人々に対して、そうしたメッセージを押し付けようとさえしてしまっていたのだ。

この過ちについては、過去にこの記事で詳しく書いた。端的に言えば、さまざまな理由から「頑張れない人」を「頑張らない人」だと誤解していたことを懺悔しているのだが、前田さんと初めて酒を酌み交わした日、恥を忍んでそんなことを伝えると、彼もまた「僕もそうでした」と告白してくれたのである。

新卒で入社したUBS証券時代には、毎朝5時に出社するなどスーパーハードな働き方で周囲の信頼を勝ち取り、結果を出してきた前田さんもまた、「自分だってここまでできた。だから、両親がいないこと、貧困であることは、たゆまぬ努力によって克服できる」と“マッチョ思想”に陥っていったのだという。

だが、いまの私たちは、そうした考え方がいかに独りよがりで、偏った考え方であったかに気づいている。たとえ「両親がともにいない」という境遇が同じだとしても、たとえ「四肢がない」という境遇が同じだとしても、その他の条件が違えば、比較すること自体が無意味であることも、そしていくら自分が頑張れたからといって、その他の人々が同様に頑張れるかはまったくの別問題であることを。

その夜は、思っていた以上に飲んでしまった。心からうれしかったからだ。この社会に、同じ理想を夢見る仲間を見つけられたことが。そして夢見るだけでなく、その理想を少しでも現実のものにしようと動き続けている同志に出会えたことが。

SHOWROOM株式会社の公式サイトを開くと、そこに企業としてのMISSIONが掲げられている。

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そう、本当にその通りなんだよ。

健常者として生まれようが、障害者として生まれようが、
裕福な家庭に生まれようが、貧しい家庭に生まれようが、

同じだけの努力で、同じだけ遠くまで跳べる社会にしていきたい。

特定の人々が、本来のスタートラインに立つまでに多大な労苦を負わされる社会は、やっぱりフェアとは言えない。

そうはいっても、そうした社会の実現に向けた道のりは、とても長くて、とても険しい。その道のりを進む途中で心折れそうになったら、前田さん、また飲みに誘わせてね。

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