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【SS】あの子は誰?

「風車を持っているあの子は誰?」
古い写真を見ながら私は首をかしげた。
思い立って部屋の整理整頓を始めたのだが、その最中に本人もすっかり忘れていた写真を見つけたのだ。私は小学校の低学年の頃に一度引っ越している。引っ越しと言っても、電車で15分くらいところなのだが。この写真は恐らく引っ越しの日の写真だろう。たくさんの子供たちと私が記念撮影のように写っていた。どこかの公園だろうか。仲が良かった友達も写っているが、名前も思い出せない子も何人かいた。特に風車を持った女の子には全く覚えがなかった。
考えていても埒が明かないので母に聞いてみた。
「そういえば引っ越し作業の時、邪魔だからあんたとお姉ちゃんは公園で遊ばせていたの。迎えに行った時にそこにいた子達を集めて撮ったのがこの写真。」
話を聞きながら「まったく」と思った。母のことだから、遠慮する子達を「いいからいいから」と言って無理矢理集めたのだろう。案の定、風車の子の事は何もわからなかった。
「あら、綾ちゃんが写っているじゃない。綾ちゃんに聞いてみたら?」
写真を見ると幼馴染の綾が私の隣に写っていた。当時から仲が良かった綾は高校の時に再会した。別れた当時は今生の別れのように泣きまくったが、同じ高校へ進学したことで再会できたのだ。その後はずっと交流を続けている。私は綾に写真の画像を送って聞いてみることにした。
「ごめん。私も覚えていないや。」
電話で折り返してきた時、綾はそう言った。
「でも、写っている人の中で知っていそうな人がいるから、今度聞いてみるよ。」
「ありがとう。ごめんね、変なことを聞いて。」
「大丈夫。私も興味あるから。何かわかったら連絡するよ。その時、会えるといいな。」
「そうだね、久しぶりに会おうか。」
この会話から1週間後、綾とコーヒーチェーン店で会った。
「聞いてみたらやっぱり覚えていたよ。」
「本当?」
「うん。たまたま遊びに来ていた子みたい。」
話によるとその子は同じ学年の子で時々公園に遊びに来ていたそうだ。クラスが違うから私も綾も馴染みがなかったのだ。ただ、彼女は私が転校して2年後に引っ越したようだ。
「それからは彼女を見かけたことはないって。どこに引っ越したかも分からないって。」
「そうか。じゃあ、ここで行き止まりか。」
結局風車の女の子の行方は分からずじまいだ。私は持ってきた例の写真を見て軽くため息をついた。
「どうする?まだ探すの?」
綾に聞かれて私はちょっと考え込んだ。考えること数秒。私は顔を上げた。
「ううん。ここでやめる。」
「えっ?いいの?」
「今はまだ会う時じゃないんだと思う。だからここで行き止まりになったんだよ。会える時になれば会えるよ。」
「でも、会えない可能性の方が高いよ。」
「それも仕方ないよ」
私はにっこりと笑った。
「でも会える可能性もあるでしょう?綾と再会できたみたいにね。」
「そうか。それもそうだね。」
綾はそう言って笑った。
それから私と綾は写真の事は忘れて他愛のない話で盛り上がっていた。実はあの子が店の中にいることに気付かないままに。


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ちょっとミステリーっぽくしてみましたが、いかがでしょうか。

本日の見出しはみんフォトの須木本りくさんの作品を使わせてもらいました。ありがとうございました🙇

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