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【SS】Last Letter

風薫る季節となりました。いかがお過ごしでしょうか。
あなた様が東京本社に復帰されてそろそろ1年になりますね。1年前、同じフロアで経理事務をしていた私のことを覚えていらっしゃるでしょうか。あなた様の噂はこんな地方にいても聞くことができます。ご活躍されているようで、心から喜んでおります。

あなた様が東京本社から出向してこられたのは4年前の春でした。ご家族を東京に残しての単身赴任だとおっしゃっていましたね。思えばあの頃、会社も変革の時を迎えていました。良くも悪くも昭和を引きずっている会社の体質を変えるのだから生半可な気持ちではできないと覚悟されていたのでしょう。だからこそあの大鉈を振るうような改革を断行することができたのでしょう。ともすれば強引とも取られそうな改革を根気強く、でもスピード感を持って進められる姿を一介の事務員である私は頼もしくお見受けしておりました。能力のある人を年齢に関わらず登用し、その方々が活躍することで会社に活気が生まれていました。このまま改革が進めば、と思っていた矢先、あなた様の東京本社復帰が決まりました。あなた様がこの会社に着任して丸3年が経つ頃でした。
「せめて5年は腰を据えて仕事をしたい。」
着任された当時、あなた様はそうおっしゃっていました。でも優秀なあなた様をいつまでも地方に置いておくこともできなかったのでしょう。あなた様が道半ばでこの地を離れることを「無念」とおっしゃったこと、今でもよく覚えています。

あれからまた会社は変わりました。あなた様の改革を快く思っていなかった方々が中心になってかつての会社へと戻していってしまいました。あなた様が取り立てた方々は閑職へと追いやられていきました。あなた様の改革はもしかしたら早急すぎたのかもしれません。しかし、あなた様の改革が全て白紙になった時、私はこの会社を辞める決断をしたのです。

この手紙が届くのは私が会社を去った後でしょう。ですからこの手紙にご返事はいりません。ただ、あなた様と過ごした3年間がいかに充実していたかをお伝えしたかったのです。あんなに楽しくてやりがいのある3年間はありませんでした。ありがとうございました。
会社を退職してしまえばあなた様との繋がりは全くなくなってしまいます。それは残念なことではありますが、そういうご縁だったのでしょう。
どうか、どうかお元気で。遠くからあなた様のご活躍をお祈りしています。

追伸:あなたが好きでした。


こちらに参加しています。

短歌、俳句、ショートストーリーと色々考えてたどり着いたのが「手紙」。以前、「作品としての手紙を書きたい」という希望を書きましたが、早々に叶って嬉しいです✨このような機会を作ってくださった小牧部長に感謝します。ありがとうございます🙇

またヘッダー画像はみんフォトの「清世/絵描き」さんの作品を使わせてもらいました。ありがとうございました。

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