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新緑は〇〇の色

4月に通勤経路が変わって以来
毎日約20分の道を職場まで歩いている。

私の会社があるのはとある工業団地の中。

工業団地内には公園や街路樹があり
緑がとても豊富で歩いていて気持ちいい。

昨日も会社に向かっていると
クスノキの若葉が黄色に近いグリーンに色づき
それが朝露に濡れて輝く様子は
とても美しかった。

広葉樹にとって春から夏に入るこの時期は
まさに新しい葉を出すタイミング。

秋の紅葉は言うまでもなく美しいが
私はむしろこの青葉の時期こそ
生命力に満ちていて美しいと思っている。

そして、それと同時にこの青葉は
昆虫たち(特に蛾)にとっても生命を育む
ベストシーズンでもある。

こんなことを言うとムードが盛り下がって
しまいそうではあるが、
新緑の美しいこの時期に
少し違う視点でこの新緑を味わってみるのも
悪くないのではないだろうか。

この1か月で急激に暖かくなり、
少し自然のある場所に行くと蝶が飛び交う姿を
しばしば見かけるようになった。

今の時期に見かける蝶は主にサナギの状態で
越冬をした個体である。
(卵や幼虫の状態で越冬することもある)

その中でも、最近しばしばアオスジアゲハを
見かけるようになった。

Wikipedia「アオスジアゲハ」より画像を引用

この蝶は名前の通りアゲハ蝶の仲間であるが、
ナミアゲハの幼虫がミカン科の植物の葉を食するのに対し
アオスジアゲハはクスノキ科の植物の葉を食べる。

冒頭に書いたようにクスノキは今
新しい葉が新緑色をまとっているが、
まさにこれはアオスジアゲハの幼虫にとって
最高のごちそうになるのである。

だが、クスノキは冬に落葉しない植物なので
別にこの時期でなくても幼虫たちにとっては
エサがあるように思えるが、
なぜごちそうと書くかというと、
若葉は昆虫たちにとって非常に食べやすい
状態だからである。

あまり意識せずに食べているが
私達人間も植物の若葉や若芽を好んで
食べているものである。

いわゆる山菜と呼ばれるものは大抵が
樹木や植物の新芽を採取したものである。

先日peach-chanさんがコシアブラという
山菜をゲットしたと投稿されていたが、
これもコシアブラという広葉樹の新芽を
採取したものである。(天ぷらで食べると美味しいらしい)

また、この時期によくみかける
タケノコなどもまさに竹の新芽を
採取して食用にしたものである。

いうまでもなく、コシアブラもタケノコも
成長してしまうと繊維が強くて
食べられたものではない。

しかし、新芽の状態はそのような
つよい繊維が出ていないので
元来繊維の強い植物も美味しく食べることが
できるのである。

強い繊維の存在は昆虫の幼虫にとってみても
難敵となる。

堅いアゴを持ってかみ砕くことができれば
問題ないのであろうが、
哺乳類の様に食した植物をすりつぶすような
葉を持たない昆虫にとってみれば
そこから栄養を取り出すような消化は難しいのだ。

さらに、もう一つ成長した堅い葉は
昆虫たちにとって問題がある。

それは毒の存在である。

私達にとって毒のある植物というと
トリカブトなどの特殊な植物を想像する方が
多いと思うが、
実は身近に生えている多くの植物は
そのまま葉を摂取すると毒になるのである。

例えば、桜餅などに使う桜の葉は
独特な香りを持っており、それが味の一つだと
私達は認識しているが、
この香りの成分はクマリンと呼ばれ、
実は過剰摂取をすると毒にもなる物質なのである。

他にも身近なものならば
夏ごろによく花を見かけ、街路樹や生垣として
よく使われているキョウチクトウなども
葉を含めた全体に比較的強い毒を持っている
植物の一つである。

毒は少なからずどの植物も持っており、
何気なく私達が目にしている雑草も
実は食べてみると毒となる場合が多いのだ。

では、なぜ植物たちはそのような毒を
持つのかというと、
答えは至ってシンプル。

動物や昆虫に食べられないようにするためである。

植物は果実などを実らせて動物に食べさせることで
種子を広げる種類があるので
一見すると動物や昆虫と植物は仲良くやっているように見える。

しかし、植物とて葉や枝などを食べられてしまっては
元も子もないので、
何かしら食べられない工夫をしている。

その形として毒を持つことにしたのだ。

私達が日常的に飲んでいるお茶は
ツバキ科のチャノキノ若葉を摘んで
それをもんで乾燥させたものであるが、
ご存じの様に茶の葉にはカフェインが含まれている。

私達はこのカフェインの恩恵をしばしば受けているが、
カフェインも過剰摂取をすれば毒になることは
有名である。

ツバキ科の植物は葉が成長すると表面にクチクラ層という
堅い層を形成するので、
あまり食害を受けることはないが、
若芽のうちは食害を受けやすいので
このようなカフェインを葉に含ませているのかもしれない。
(カフェインを含有する理由は諸説ある)

茶の葉の場合は若葉でもカフェインを
含有していたが、
一般的に若芽や若葉の時期は含まれる毒も
比較的少なく、
ある意味でこの時期は植物をエサとする
動物や昆虫にとっては
最高の時期と言えるのである。

まさに今広葉樹が若葉色に輝き美しい時期であるが、
この輝きは昆虫たちにとっても
とてもまぶしい生命の色なのだ。

今日もクスノキの近くにはアオスジアゲハが
飛び交っているであろうが、
これは彼らの喜びの舞なのかもしれない。

ちなみに、記事の中で何度か触れた
クスノキにもショウノウという成分が
含まれている。

実はこのショウノウは別名カンフルと呼ばれ、
「〇〇のカンフル剤」の語源でもある。

今ではショウノウをわざわざクスノキから
抽出するようなことはもちろんしていないが、
いまだにこの時期のまぶしいクスノキの葉を見ると
元気な気持ちになるのは
まさに私にとってこの緑こそがカンフル剤と
なっているのであろう。

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