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大企業とスタートアップの「壁」を乗り越えるには? 博報堂DYベンチャーズ presents 「Future Design Talk 協業編」

博報堂DYベンチャーズは、スタートアップ企業への出資にくわえて、博報堂DYグループとスタートアップ企業の連携を積極的に進めています。

そこで出資先であるスタートアップの経営層の方々と、博報堂DYグループに所属する様々な領域の専門家やメンバーが未来へのチャレンジを語り合う「Future Design Talk」と題したセッションを立ち上げました。

今回のテーマは「協業」。事業シナジーを生み出すため、多くの企業が外部との連携を模索していますが、なかなか「協業の壁」を乗り越えられずうまく成果がでないことも。

スタートアップはCVCに何を求めているのか、大企業内でCVCセクションから協業部門へどう繋げているのか、「協業」をするうえで何が重要になってくるのか。

今回は、博報堂DYベンチャーズが出資しているスタートアップの経営者2名と実際に協業を推進している博報堂の担当者が、お互いの立場から「協業」について意見を交換しました。

協業ケース1:toBeマーケティング

toBeマーケティング 代表取締役CEO 小池 智和さん

リクルートにて企業の販促支援事業の営業を経て、ネクスウェイでネット広告事業の立ち上げおよび商品開発責任者を歴任。その後セールスフォース・ドットコムでパートナーアライアンス部にてパートナー支援や地域スキームを構築。2015年6月マーケティングオートメーションシステムの導入支援に特化した事業推進のため、toBeマーケティングを設立。

・博報堂DYベンチャーズ マネージングパートナー / 取締役COO 武田 紘典

博報堂DYホールディングス経営企画局にて投資戦略立案、ベンチャー投資、M&A、グループ再編を担当。またスタートアップとの連携による新規事業開発やデータビジネス戦略などを推進。当社グループ参画以前は、証券会社にてM&Aアドバイザリー業務に従事し、製造業・流通/小売・IT・人材サービスなど幅広い業種を担当。また監査法人にて法定監査を中心にデューデリジェンス・バリュエーション・IPO支援業務を担当。

・博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局 マーケティングプラットフォーム部 部長 白子 義隆

2014年博報堂入社。テクニカルプランニング・ディレクター。デジタル領域のビジネス開発に幅広く携わりながら、ビジネス面とテクノロジー面を考慮した全体設計・プロジェクトマネジメントを行う。近年はデジタルマーケティングプラットフォーム/データ基盤領域/サービス開発領域を中心に、様々なクライアントのプロジェクトに携わる。

スタートアップだからこそ持っている強みを活かしていく

博報堂DYホールディングス(以下HDY)・加藤:まずは会社紹介を、toBeマーケティングの小池さんからお願いします。

toBeマーケティング・小池:はい。私たちは、主にSalesforceさんが提供するデジタルマーケティングツールやCRM製品の導入支援、活用サポートを行っているマーケティング支援会社です。コンサルティング、マーケティングツールの導入支援、Webコンテンツの制作、最近ではBIツールを使った分析支援も行っています。

HDY・加藤:スタートアップの皆さんは「どういった視点でCVCを選ぶのがいいですか?」といった話題をイベントでよくディスカッションされている印象があります。博報堂DYグループをCVCとして選ぶにあたって、小池さんはどんなことを期待されていましたか?

toBeマーケティング・小池:やはり協業です。博報堂DYグループさんも事業シナジーを期待して出資されたと思うので。

実際、出資後すぐに博報堂DYベンチャーズさん主催でグループ会社を含めた社内勉強会が行われ、クライアントさんに私たちのサービスやソリューションを紹介する機会をもらいました。社内だけでは解決できていなかった悩みも相談でき、期待していた協業ができている実感があります。

▲toBeマーケティング 小池 智和さん

博報堂DYベンチャーズ(以下HDYV)・武田:勉強会は、スタートアップと博報堂DYグループが連携するという大きな機能を担っています。内容は、スタートアップの皆さんに登壇していただいたり、連携する内容によっては営業を呼んだり、バックオフィス部門と繋いだり。どんな方法がいいか探りながら多いときは100名規模で開催しています。

うまく連携をしていくためには、モデルケースとなるような事例を一つでも多く作るというのが重要です。よい事例があるとグループ全体にいる数千人の社員に認知されれば、どんどん伝播していきますから。

博報堂・白子:僕はクライアント向けにマーケティングシステムの導入、運用の支援を行うチームに所属しています。そこでクライアントから、toBeマーケティングさんが取り組まれているSalesforceのマーケティングクラウドの導入のご相談いただくケースがありまして。ちょうどいいタイミングで、具体的な協業ができたのは大きかったです。

HDY・加藤:クライアント案件での協業で、博報堂DYの資本が入っていることに何かメリットはありましたか?

博報堂・白子:クライアントさんの案件で「toBeマーケティングはどういう会社なのか?」とよく聞かれるんですよね。そこで、博報堂DYグループとして出資をしている事実は大きな説明力になっていると感じます。

toBeマーケティング・小池:私たちも資金を入れていただいている以上、社内にも社外にも大きな説明材料になりますね。例えば、出資関係がある会社さんとご一緒するために、あえて社内リソースを優先的に空けておいたり。

HDY・加藤:なるほど。実際に協業を進めるうえで、白子さん、武田さんが気をつけていることはありますか?

博報堂・白子:スタートアップの強みは、ある特定領域にフォーカスできること。そこをうまく活かすようなプロジェクト体制を作り、最終的にいい成果に繋げられるよう常に意識しています。

HDYV・武田:反対に、小池さんが大企業と組むときに気をつけていることはありますか?

▲博報堂DYベンチャーズ 武田 紘典

toBeマーケティング・小池:大企業はいろんなものが揃っている一方で、ある局面においては足りない部分もあったりするのかなと思っていて。

お互いのできること、足りないことをすり合わせながら、私たちのサービス、ソリューション、強みで埋められないか。私たち自身も足りない部分はいろいろあるのですが、そんなことを考えながらご一緒させていただいています。

HDY・加藤:たとえば、博報堂では「1.5列目」という社内ワードがあるんです。「1列目」は、クライアントと向き合う営業セクション。「1.5列目」は完全なバックオフィスではないけれど、営業セクションとやりとりしながら、新しいソリューションの導入をしたり、それを一緒に売ったりしていく役割のこと。白子さんのチームがまさにそうですよね。

博報堂・白子:はい。クライアントさんとのやりとりの中で、ニーズや導入事例など、知見がどんどん溜まっていきます。それらをベースにしながら、新しいソリューションを作る可能性も含めてスタートアップと協議をしているんです。そういう意味では、僕ら「1.5列目」を担うチームの方がスタートアップさんとの協業はやりやすいのかな、と。

▲博報堂 白子 義隆

toBe マーケティング・小池:白子さんたちのようなチームとご一緒させていただくことで、協業がスムーズに進む印象がありますね。

協業ケース2:ZEALS

ZEALS 取締役COO 遠藤 竜太さん

大学時代は研究者を志し、人と機械のインタラクティブを学ぶ(受賞歴:HIシンポジウム優秀賞/特許申請など)。テクノロジーの社会応用に目覚め、マーケティングテクノロジーカンパニーに新卒入社。2017年7月より株式会社ZEALSにジョイン。2020年2月、「ダイレクトアジェンダ2020」に登壇し優勝。同年10月、認定講師「LINE Frontliner」に認定。コミュニケーションAIが浸透した日本をつくるため、日々「おもてなし革命」の実現にまい進している。

・博報堂DYベンチャーズ パートナー 漆山 乃介

博報堂DYグループにおいて、メディアビジネス開発やベンチャー投資を推進。また、当社グループの社内公募型ビジネス提案・育成制度である「AD+VENTURE」の審査員及びガイドとして複数の新規事業開発・立ち上げを支援。当社グループへの参画以前は、ベンチャーキャピタルにてパートナーとしてベンチャー投資業務に従事。それ以前には、大手人材サービス企業で複数の新規事業・サービス開発を経験。

・博報堂 DXプロデュース局 田口 圭太

2009年に総合印刷会社に入社。営業としてメガバンクを担当し、共同SaaS事業の立ち上げに従事。2016年に博報堂に入社、大手飲料メーカー担当営業を経て、2018年に現部門の前身・デジタルビジネス推進局に異動。LINEをメインとしたコミュニケーション設計やシステム開発のディレクション、デジタル販促専門チーム「SP EXPERT'S」での活動を通じてクライアントマーケティング課題の解決に取り組んでいる。

スタートアップも大企業を深く理解しに行くスタンスで

HDY・加藤:続いて、ZEALSの遠藤さんも会社説明からお願いできますか?

ZEALS・遠藤:私たちは、チャットボットによるヒアリングを通じて、ユーザーのニーズに合ったサービスを提案するチャットコマース「ジールス」を提供する会社です。

現在、非正規社員 を含めると300名程度の規模で、 エンジニアが6割、外国籍メンバーを中心に在籍しています。博報堂さんを含む大手広告会社 さんなどに株主に加わっていただき、特に営業面でご協力いただいています。

HDY・加藤:今回のトークテーマは「協業の壁」ですが、事前の打ち合わせで「翻訳」というキーワードがお三方から何度も飛び出してきました。こちらはどういった意味で使っていらっしゃいますか?

博報堂DYベンチャーズ(HDYV)・漆山:当たり前ですが、スタートアップと僕ら博報堂DYグループのような事業会社は、規模も社歴も従業員数、従業員のケイパビリティも全く異なる状況でして。

それでも接点を見つけて、同じ利益を追求していかなければいけない。だからこそ、お互いどこを目指していくのか、共通言語をすり合わせていくのが重要だと考えています。その作業を「翻訳」という言葉で表現しているんです。

▲博報堂DYベンチャーズ 漆山 乃介

HDY・加藤:フロントとなる営業セクションとの壁もあると思うのですが、そこもやはり「翻訳」が大きな存在を見せたのでしょうか。

博報堂・田口:そうですね。ZEALSさんのチャットコマースは、専門家以外には分からない言葉がどんどん飛び出してくる領域でした。これを博報堂内で広めるためには、違う言葉に置き換えてきちんと説明する必要があるな、と。

ZEALSさんの場合、「チャットコマースとは、チャットを使ったオンラインの接客です」みたいな。専門的な内容でも、クライアントとか営業の文脈に置き換えてあげるのが重要ですね。

HDYV・漆山:今回は田口さんがまさに「1.5列目」として、ZEALSの価値を博報堂DYグループの中に伝播していくため「翻訳者」の動きをしてくれました。それが「協業」を推進するうえで壁を突破していく大きなファクトになったと考察しています。

ZEALS・遠藤:本当に田口さんは素晴らしくて。ZEALSのプロダクトやサービスを社員並みに正しく理解していただいたうえで、どういう伝え方をすればフロント営業の方のモチベーション高くなるのか、さらにクライアントさんにどういう入り込み方をすれば売れやすくなるのかまで把握されているんですよ。

僕たちだけではどうしても見えない部分なので、「なるほど、こういう伝え方をするのか」と大変勉強になります。

▲ZEALS 遠藤 竜太さん

博報堂・田口:ZEALSさんは、本気で並走してくれるのが素敵なところでして。というのも、チャットボットというとテクニカルなイメージを持たれがちですが、実はかなり人力で血の通ったサービスなんです。

ZEALSの営業の方も、博報堂の担当者と一緒にプランニングしたり、寄り添った設計したりしてくれるので、どちらかというと私は俯瞰して見るポジションにいる感覚が強いかもしれないです。

▲博報堂 田口 圭太

HDYV・加藤:ちなみにスタートアップの皆さんの目線で、遠藤さんが協業するうえで気をつけていることはありますか?

ZEALS・遠藤:僕たちスタートアップ側も、博報堂さんや広告会社さんを深く理解するよう意識していますね。そのために、博報堂さんと向き合うことだけを考える専任チームを社内に作り、田口さんとも一緒に社内構造がどうなっているかなど、ざっくばらんに話しています。

どうすれば博報堂さんもハッピーになって、スタートアップ側も自分たちのやりたいことを実現できるのか。僕たちも無理なことは無理だったりするので、足りない部分もさらけ出していますね。腹を割って話すのは大事だと思っています。

そういう意味だと、広告会社さんの力学構造を学びに行くように感じてしまい、敬遠するスタートアップさんも中にはいらっしゃるかもしれません。でも、お客さまにサービスを届けていくためには、協業でいい関係性をつくるスタンスも重要ですね。

Future Design Talk 協業編のセッションを終えて

HDY・加藤:最後に皆さんから一言ずつ、今回のセッションの感想をお願いできますか?

▲博報堂DYホールディングス 加藤薫

toBe マーケティング・小池:私たちはシリーズCまで資金調達をしているので、今まで多くの企業に出資をいただきました。協業という点では、CVCとお付き合いしていくのは非常にいいことだと実感しています。スタートアップの方は、ぜひ前向きに検討していただくいいのではないでしょうか。

ZEALS・遠藤:博報堂さんのようにいろんなクライアントさんとお付き合いがある企業は、様々なマーケティング課題やインサイトをご存知です。

協業は単なる営業協力という話だけではなく、開発から一気に売るところまでを確定できるだけではなく、僕たち自身のソリューションをより進化させるチャンスでもあります。

こういった協業の形を一緒に作っていくことが次のステップなので、確固たるものに深めていきたいです。

博報堂・白子:スタートアップさんは「自分たちにないもの」を持っていらっしゃる。だから、僕らだけが意見を言うことは絶対にありません。常にそういった心持ちでやっていますので、ぜひこれからも様々な会社さんとお話ができたらうれしいです。

HDYV・武田:出資はあくまでもスタート地点に立った段階。そこからいかに協業を進めていくか、CVCがそこの橋渡しになれるかが重要だと思っております。本日はありがとうございました。

博報堂・田口:協業はとても面白い領域で、僕もZEALSさんからいつも刺激をいただいています。協業をやってみたい人は今後もっと増えてくると思います。

HDYV・漆山:出資と協業を両立させるのは難しい。長年、そんな「シナジー幻想論」が語られてきました。でも、ここ3、4年でかなり風向きが変わってきた。スタートアップが磨き上げてきた武器を、一緒に博報堂DYグループの中でしっかり活かしていただいて進化させていく。それが「シナジー幻想論」を突破していく、一つのショーケースになると期待しています。

企画=博報堂DYベンチャーズ・博報堂DYホールディングス戦略投資推進室
※本記事は2021/11/25に株式会社アースキーと博報堂DYベンチャーズが開催したオンラインイベントの内容をまとめたものです。

(執筆=矢内あや 編集=鬼頭佳代/ノオト)


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