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参加サークル:蒼球歯車

文学イベント東京 参加サークル 「蒼球歯車」の紹介ページです。

HLBLGLすべてを扱うファンタジー特化絵文両刀創作サークル。 ペンギンと鉱物が大好き。

――蒼い月に蝶が舞う夢を見る。 鉱物士試験に無事合格したトーンとティエは夏の終わりに鉱石特急で南に向かう。 夢の果てに現実で待つものとは。ルース・シェルシェ作品群第二の物語。

 蒼い月の光の下で無数の蝶が舞っている。

 ひらひら舞いながら最後には淡い光の粒となって月へ溶ける。
 その様子がとても儚くて、切なくて、だけど懐かしくて、きれいで。
「」
 聞いたことがないその声を、知っているような気がしたんだ。

「って夢なんだけどどう思うよノーア」
「どうと言われても……夢占いは鉱物士の必須科目じゃないからなあ」
「……何か変わった鉱物を手に入れたとかないかな?鉱物って基本的に記憶を持ってるものだからね」
「マナ」
 季節はそろそろ夏の終わり。学生時代の旧友トーンは少しだけ日に焼けた様子で
 応接テーブルに置かれたソーダ水に口をつけた。
「お前が鉱物士になれたっていうからお祝いも兼ねて訪ねてきたんだ」
 彼が持ってきたお祝いは鉱物士用のルーペと小さな小瓶だった。
「ルーペはありがたいけどこの小瓶は?」
 彼はチラリとマナを見ると、
「恋人といちゃいちゃする時に必要なもの」とだけ答えて顔を逸らした。
「もらっておくね」
 素早くマナの手が伸びて、小瓶を回収する。
「そういえば、トーンは恋人とはどうなの?」
「バッチリだぜ。ほらこの指輪」
 彼はそう言って首から下げた指輪を満足げに見せる。蝶の形の銀枠に
 その翅のように変幻自在に色を変えるラブラドライトが埋め込まれていた。
「ラブラドライトだね。モルフォ蝶の色の石。この世界では南の方で採れるんだっけ」
「ああ。あいつが誓いの証にってくれたんだ。婚約指輪だよ。なんでも古い指輪なんだってさ。生まれた時からずっと大事に守ってきたらしい。いつか運命の相手に渡すために」
「ふーん。夢の原因ってそれじゃないのかな。ノーアも言ってた。鱗石を手に入れてから夢を見るようになって、そしてこうしてボクと出会ったんだし」
「運命ねえ」
 彼はそう言うとぬるくなったソーダ水を飲み干して、店を後にした。
「じゃあな。また手紙書くからお互い駆け出し鉱物士として頑張ろうなーー!」

 帰る途中の駅で降り、恋人と合流する。
「お待たせ」
「友人には会えましたか?」
「バッチリだぜ。幸せそうでこっちまで嬉しくなっちまったよ」
 人混みではぐれないように手を繋いで、南へ向かう鉱石特急へ乗りかえた。
 乗客はまばら。寝台特急なので車両を渡って指定された個室へ向かう。
 鉱物士専用の部屋は他の部屋より少しだけ広い。上下の二段ベッドとシャワールーム。木製の小さなテーブルに冷蔵庫。トランクと上着をクローゼットに置いてソファに腰を下ろす。
「しかし、お前が南に行きたいって言った時はちょっとだけ驚いたよ。この世界の南はまだ謎が多い。南の大都市がひとつ知られているだけだ」
「そうでしょうね。鉱石特急でしか南とは行き来ができませんから」
 トーンの恋人の名はティエ=アゲハという。銀色の髪で南の血を引いているため少し肌は浅黒い。特徴的なのはトーンが初めて会った際に言い放った「お前の瞳、オパールみたいだな!虹色にキラキラしてて綺麗だ!」言葉の通りの虹色に煌めく虹彩。
 穏やかで、口数も少なく、頭はいいが冷たい印象を与えることもある美青年。
「いいんだぜ。ティエはもっとわがまま言っても。俺は迷惑かけっぱなしだからな」
 ティエは何を隠そう今回の鉱物士試験の首席合格者だ。トーンももちろん試験に合格はしたが、ティエとの点数差は大きい。
「……僕はトーンにいつも助けられているのです。南の民というだけでいい顔をしない同級生や教授も多かったですから。その上僕には少し伝承種の血が流れているので、人より多く生命力が要る。食事だけでは賄いきれない」
「……ティエ」
 太陽が傾き、落ちていく。
 そっと唇が重なった。
「……トーン」
「大丈夫。俺の生命力なんてあり溢れてるから。気にせず吸いまくっていいんだぜ。……ま、夕食の後にして欲しいけど」
 食堂車に移動する必要があるからですね、とティエは笑ってトーンの手を引いた。

 蒼い月が、世界を照らしている。
 薄暗い部屋の中は青白く染まっていた。
「月が、大きいな」
「ええ。送り翅はこの時期と決まっているそうです。月が大きく、近くなるから魂が迷わないようからだそうです」
 汗ばんだトーンの肌をティエの指がそっとなぞる。
「……送り翅か。俺、詳しくは知らないんだけどそれってどういうものなんだ?」
「蝶を。魂を月へ還すのです」
「……蝶?」
「一般的には蝶を描いた紙製の……ランタンというのですが、それを月へ飛ばすみたいですね。新聞にも載っていました。南では蝶は魂の象徴で、死んだ者は蝶になって月へ還るという言い伝えがあるのだとか」
 ――それは、トーンが見た夢のようだと思った。
 蒼月に舞う蝶の群れ。優しくて、とても切ない夢――
「なあ、月に還った魂はどうなるんだ?」
「そうですね。言い伝えでは……流れ星になってまたこの世界に生まれてくるのだそうです。ちゃんと月に還れた魂は、淡くですが前世の記憶を持つらしいですよ」
 トーンは、ティエを引き寄せてキスをする。そして唇を離して訊いた。
「ティエ。俺、ティエにあの指輪を貰ってから夢を見るんだ。蒼月と蝶が舞う夢。
 ーー俺とティエは、前世で恋人かなんかだったのかな」
 ティエは驚いたようにトーンを見つめて、静かに口を開いた。
「……トーン。聞かせてください。その夢の話を」
「いいけど、多分指輪の石に見せてもらったほうが早いよ。……ティエ」
「……ええ」
 ティエはそっと目を閉じて、鉱物の記憶を手繰る。
「……聞かせてください。ラブラドライト」
 淡い光とともに、蝶が舞う。そして世界は形を変えた。

作品「蒼月と蝶の夢」より


■ 「ゆめみどり」


書き下ろしと未製本を含むBL短編集
R15要素を含む作品が含まれています

黄昏の魔術師
蒼月と蝶の夢
箱庭のぬくもり R15
紅紫陽花の染まるわけ
雨檻の贄 R15
男娘ゴコロとその名前 R15
さくらやどり
ネモフィラの約束
ルームメイトと生えちゃった結婚。しちゃいました
しろくろ退魔録
キンモクセイ 蒼の境界

ファンタジー多めの作品 バッドエンドなし



■ 「キミイロごはん」




君とご飯とスイーツと花ぺんぎんと。
長岡友希×海野圭の全年齢ほのぼのごはんBL短編集。



「ゆめみどり」900円
「キミイロごはん」1000円は、文学イベント東京 販売予定作品です。

参加希望者(WEB作家さん・イラスト描きさん・漫画家さん)は以下でチケットを購入ください。


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