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強制労働関連製品の流通・輸入制限に関する欧州議会決議(2024.4.23)

一つ前のnoteでも書いたとおり、ここ数日、EUと中国の関係で大きな出来事が続いています。
ここではまず「(新疆ウイグル自治区を念頭に置いた)強制労働によって生産された製品のEU域内での流通と域外輸出の禁止に関する決議案が欧州議会で採択」された経緯をまとめておきます。

2022年9月に欧州委員会が、強制労働製品のEU域内での流通を禁止する規制案を提案していました。今回欧州議会で採択された決議の大元の案にあたるものです。以下のJETROのまとめがとても分かりやすく、またJETROのページからEU文書原文にも飛べます。

この欧州委員会案に関するFTの解説が非常に分かりやすかったので、載せておきます(日経に全訳掲載)。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB131G40T10C22A9000000/

ポイントは、
・2022年6月に米国で施行された「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)とは異なり、欧州委員会案は「どの国・地域の製品であっても」、強制労働に関わった疑いがあればすべて禁止(しかし当然EU案も新疆ウイグル自治区の問題念を頭に置いている)。
・禁止措置の影響を最も受けるのは靴や衣類のほか、木材や魚、ココアといった1次産品

上記の欧州委員会の提案を基づきEU内部で検討が行われた結果、2024年3月にEUの理事会と欧州議会とのあいだで暫定合意が成立します。

上記欧州委員会提案からの変更点としては、

・ EU域内に強制労働の疑いがある場合は、欧州委員会の提案どおり加盟国当局が調査する。域外(もちろん新疆ウイグル自治区を念頭に置いている)での疑いの場合に関しては、欧州委員会が調査する。

・ 「リスクに基づくアプローチ」の具体化。たとえば、欧州委員会が強制労働リスクに関する情報をデータベース化し、さらに強制労働の「高リスク」があるとされる地域の産業もリスト化する。

・「供給リスクのある重要製品」の例外扱い。この場合には、当局は強制労働製品であっても処分を命じない決定をすることができ、サプライチェーンにおける強制労働が解消された場合には当該製品を市場に戻すことが可能(太陽光パネルなどが念頭にあるとされる)。

そしてこのたび、同案は欧州議会において圧倒的多数で採択されました(賛成555票、反対6票、棄権45票)。

https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20240419IPR20551/products-made-with-forced-labour-to-be-banned-from-eu-single-market#:~:text=Parliament%20has%20given%20its%20final,%2C%20supply%20chains%2C%20and%20manufacturers.

上記でご紹介した理事会・欧州議会暫定合意から大きな変更はありませんでした。重要ポイントを改めて確認しておくと、

・ 強制労働の疑いのある製品は調査対象となり、強制労働が判明すればEUの単一市場から排除される

・ 「高リスク」地域を特定し、その地域からの製品に重点的に注意を払う

・ 調査対象となった企業は、問題の製品のEU市場からの回収および処分を行う。応じない場合には罰金が科される。

・ 強制労働がサプライチェーンから排除されたことが確認された場合には、当該製品はEU単一市場に戻すことが出来る 

同案は今後、理事会で最終的に承認を得る予定。承認されればその時点から3年以内に施行されることになります。

2023年9月の欧州委員会提案から2024年3月の理事会・欧州議会暫定合意までのプロセスで、強制労働の認定の方法が具体化・明確化されたことは評価されてよいと思います。なお、EUに進出している日本企業ももちろん対象となります。

しかしこれだけ新疆ウイグル自治区の事例を念頭に策定された案であるにもかかわらず、中国、新疆などと言った固有名詞が一切出てこない点が、EUの姿勢を物語っていると言えそうです。また、全般に米国のUFLPAよりも緩やかな措置という評価です。

さらに以下の記事でも指摘されているように、強制労働の疑いのある製品がEU市場で「流通」することを禁止するだけではなく、「禁輸」(そもそも最初からEU市場に入れない)ためのより実効性のある措置が必要という声がありますし、また強制労働の被害者を救済する方法なども含まれていないことも問題視されています。

https://www.rfa.org/english/news/uyghur/eu-regulation-04232024161335.html


・・・これ以外にも、欧州議会選挙を前に(ロシアだけでなく)中国のスパイが複数逮捕されている案件などもまとめておきたいのですが、時間との闘いですね・・・

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