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2019年4月12日〜4月21日 #思い出フリーマーケット

 こんにちは、姫乃たまです。いつもは1週間分ずつ日記を公開していますが、今回は10日分まとめて更新します。ついでにいつかやりたいと思っていた全文無料公開にします。いつもこんな感じの日記を書いていますので、ご興味ある奇特な方は定期購読などなど是非です。なんだかいやらしい感じがするのでリンクは貼りません。

思い出フリーマーケット:2019年4月12〜21日までの10日間、両国のRRRで開催された個展。14時から23時まで主催者の姫乃たまが毎日在廊。毎晩19時半からゲストを招いて、2009年からの活動を一晩1年ずつ10年分振り返るイベントを主催するという狂気の催し。展示品は現在流通されている全てのグッズに加えて、過去に販売していたTシャツやCDRの復刻版、10年分のバックステージパスや掲載誌、生原稿や色校、メジャーデビュー発表時に使用した看板まで膨大な数になった。

2019年4月12日 初日(2009年)

【ゲスト紹介】まかべまお:姫乃たまを地下アイドルにした元レースクイーンのライブアイドル。現在は芸能プロダクションの女社長。2009年4月30日に四谷Live inn MAGICで開催された彼女の主催ライブに、女子高生だった私を出演させてくれた。

 下宿先で5時起床。窓際で日の出の気配を感じながら清らかな気持ちになりかけていたら、泥酔してる友人から電話あり。出ちゃう私。ほんとになんでもない話を昼前まで続ける友人。それとずっと話せる私も恐るべし。あー、はやくワンマンライブを終えて藻屑になるまで酒が飲みたい。

 今日は思い出フリーマーケット初日。たまにあ(姫乃たまファンの総称。詳細な定義はないが、主に現場に足繁く通っている人たちが名乗っている)たちが一番乗りするぞと意気込んでいたので、BGMの選曲をしながら誰が最初に来るかなと思っていたら、14時のオープン前に知らないお兄さんが勢いよく入って来た。「中川ホメオパシーのファンです!」と自己紹介されて爆笑。

 今日は金曜日なのでプレオープンで様子見て、明日明後日から本番くらいの気持ちでいたら、ありがたいことに知ってる人から知らない人までひっきりなし。たまにあたちは「10日間有給取りました!」とか「ちょうど転職して有給消化中です!」とか言ってて、えっみんな毎日来るつもり……? と私を驚かせる。

 10年間、自室にひっそりしまっていた思い出の品がいろんな人たちの手に渡っていって感動。ミーム……って気持ちになる。しみじみしていたら、ものすごい笑顔で「無職になったぞー!」とファンの人が入って来た。バーカウンターで手伝ってくれている駅前晃さんも「みんな仕事は??」と言ってる。この人たち、これから毎日ここに通う気?!(笑)

 全員ずる休みしてるみたいな気分で妙に盛り上がって永久に飲み続けていたら、まおまおがやって来る。昔は「まおまお」「姫乃」と呼び合っていたのに、この間数年ぶりに仕事で会ったらお互いにすごく緊張してしまった。今日もまだなんとなく緊張している感じ。

 19時半にイベントを始める時、すでに5時間半フルで宴会状態だったので、「いまから歌ったり喋ったりするの……?」と一瞬怯んでしまった。おまけにイベント始まった瞬間、まおまおが「姫乃さん」と呼んできて目眩。姫乃さんなんて呼ばれたことないよ!(笑)なんなら私が゚*☆姫乃☆*゚から姫乃たまに改名した時は「たまたま」とか呼んでたじゃん!!!!!

 まおまおは元祖飲兵衛アイドルなので、酒を飲みながらようやく緊張がほぐれそうなところでライブをして終了。今日は初めてのライブでコピーした「星間飛行」と、活動初期によくカバーしていた「いちごコンプリート」を歌った。照、れ、る。

 まおまおはイベント終了後に酔っ払って、エンジン全開。バーカウンターでRRRの晃さんと沼田順さんから笑いを取りまくる。それ、本番でやってよ!!(笑)

23時にクローズしてお客さんたちが帰った後も飲み続ける。最終的に、缶ビール持ちながら「私の酒どこ?!」ときて一同爆笑。つくづく姫乃たまはこの人が生んだ地下アイドルだなあと思う。午前2時過ぎまで晃さん順さんとぐだぐだ飲み、まおまおをタクシーに押し込んで帰路。しまった。この10日間、私と仲の良いゲストばかり来るわけで、つまりそれは毎晩こうなってしまうのでは……。誤算だった。

2019年4月13日 2日目(2010年)

STX:「ねえ、王子」「くれあいの花」など姫乃たまを活動初期から音楽面で支えている作曲家。
ジョンE.I..s:ファーストシングル「三両列車でにゃんだりあ」の作曲家。私が始めて地下アイドル(まかべまおちゃん)を見た日のライブで出会った。
hassy:姫乃たまの初代マネージャー。

 5時起床。今日も無事に日の出を見れたが、午前3時にベッドに潜ってから「5時に起きるぞ5時に起きるぞ……」と思っていたので寝た気がしない。しかし無理にでも5時に起きて、オープンの14時までに仕事を進めておかないと、最終日の後からワンマンライブ当日まで、恐ろしいことになるのは目に見えているのだった。

 今日はKKBOXというサブスクリプションのアプリ(? インターネットで聴く音楽のサービス全般よくわからなくて恐縮)が、新譜のリリースに伴って私が作ったプレイリストを公開してくれるというので選曲する。なぜか絶対に面影ラッキーホールの曲を入れたい気持ちになり、「あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて」を選曲。ほかにも好きな曲はたくさんあるけど、これを入れれば、日本語ラップ縛りにできるからだ。新譜のコンセプト通り「姫乃たまの視界が開けるプレイリスト」という漠然としたタイトルをつけて、かなり無理やり日本語ラップの曲ばかり集める。自分の曲は「やすらぎインダハウス」を入れてお茶を濁した(註:後に新譜から数曲入れないといけなかったことが判明し、よくわからないプレイリストで公開)。

 正午からSTXさんとジョンくんがRRRでセッティングとリハーサルを始めるので、鍵を開けにちょっと早めに到着。扉開けた瞬間、まおまおの物販が丸々置きっ放しになっていて驚愕。昨日キャリーケース持ってたから油断してた……。メールしたら、「なぜか、空の物販ケース持ってたwww」とのこと。豪快。

 STXさんが今日のために「ねえ、王子」のレゲエバージョンをつくってくれたので、ジョンくんのギター演奏を重ねてリハーサル。RRRは窓を開けるとすぐ目の前に川が流れていて気持ちがいい。今日も天気がよくて水面がきらきらしている。ジョンくんのギターの音が窓から入ってくる風と一緒に流れてきた。

 音楽ファスのリハーサルを聴いている気分でバーカウンターに酒瓶を並べつつ私もリハーサル。一昨年のワンマンライブでバックバンドやってもらった時もそうだったけど、ジョンくんとSTXさんはこれでもかってくらい気合いを入れて緻密な内容を用意してくれる。今夜ぱ*☆姫乃☆*゚名義の頃にCDRで手売りしていた曲も歌うので、久しぶりに練習する。これから毎晩全く違うことがあって、朝仕事して、昼から接客して、どこかの合間で準備と練習しないといけないと思うと心底不安になった。

 昔の曲、思ったより覚えてなかったけど、2,3回歌ってみると思い出す。ファーストシングルからリリース順に歌っていくと、作詞が巧みになっていくのがわかって面白かった。本番でもないのにジョンくんがリハーサル中の私に全力でコールしたりオタ芸したりする。思えば、まだファンの人も数えるくらいしかいなかった頃、リハーサルでも本番でもこうして私の気持ちが折れないようにしてくれてたなあ。とか思ってたらオタ芸しながら泣いてて笑ってしまった。

 hassyさんがサンドイッチ食べながら現れて、リハーサルも終わったので3人は飲みに出た。RRRで飲めばいいのに、内緒の打ち合わせ(イベントでhassyさんが私に手紙を読むらしく、その前に寸劇をやってジョンくんとSTXさんが死ぬ……? とかなんかいろいろあるらしい)とかで出かけていく。

 14時、オープン。常連組みは早い時間に顔を出して、「また夕方帰ってくるねー!」と出勤していく。お母さんの気分。

 今日はスカラベさんというファンの人が、こがわさんというファンと共同で実施したアンケートをグラフにして展示しに来てくれた。スカラベさんはなんでか知らんがエクセルがすごく好きで、初めて私のライブに来た時、その数日前に過去に私が出演した数年分のライブデータをエクセルにまとめて送って来てものすごいインパクトがあった。今年のアンケートはパワーポイントでつくられていて「成長……」と謎の気持ちになる。

 夕方、南波一海さんが復刻したCDRを買いに来てくれて、本当にいろんな現場に足を運んでCDをたくさん買っているんだなあと感動。いや、知ってはいたけど私のとこまで来てくれるとは……。何かお礼がしたかったけどお酒しかないので(南波さんは飲酒しない)、何もできず申し訳ない気持ちに。その様子を見ていたファンの人が、「アイドルのCDRを道に点々と置いておけば南波さんを呼び出せそう」と言ってて超納得。そしてめちゃくちゃ褒め言葉だと思う。

 今日もひっきりなしに飲み続けて、19時半からイベント開始。ジョンくんたちと共通の友人のゴンちゃんとかあゆみちゃんも遊びに来てくれる。ゴンちゃんは気のいいお兄さんで、だいたいお酒飲んで笑って踊ってるんだけど、背が高いので場が明るくなる。そしてなんだか迫力がある。今日も迫力ある感じで壇上に赤ワインのボトルを差し入れてくれた。

 今夜はタイムテーブルの作成から司会までジョンくんが進行してくれたので、お客様気分で気楽。活動始める前からの友人なので、ものすごいリラックスしてしまって観客から横柄に思われていないか不安に。

 ジョンくんが会場で実施したアンケートに、「姫乃さんは優しいですが、何をしたら怒りますか?」という質問が複数来ていて壇上の人たち全員失笑。私は怒りっぽいからパブリックイメージを穏やかに設定しているだけで、若い頃なんか特に、ほっといても勝手にあれこれ考えて怒ってるような人間だったのだ。思えば若ければ若い頃ほどつらかった。自分がどうやってどうなったらいいのか何もわからなくて、居ても立っても居られなくて常に苛立っていた。その時期に距離を置かず支えてくれたのが彼らだったし、特にSTXさんは私の未来を常に考えて作曲してくれていた。

「高校を卒業したらアイドルは辞めるだろうと思ってたけど、その先もずっと歌い続けられるような曲を作っていた」

 今日改めて言われて、STXさんの気持ちに感謝する。苛立って刹那的に活動していた私に、常に未来を提示してくれていたのだ。

 hassyさんも当時の思い出話を軽快に話してくれた(主に私が理不尽に怒っていたエピソード)。机に置いたアイフォンに話のネタが細かく書き込まれていて、昔はMCの内容を考えてもらったり、私の代わりに関係者の人と交渉してくれたりしていて助けられたのを思い出す。今夜もイベントを進行しているジョンくんは、私より先によくライブイベントの仕事をやっていた。なんかすっかり忘れていたけど、司会の仕事がぽつぽつ入り始めた頃、参考にしていたのはジョンくんの仕事だったように思う。

 イベント中も続々人がやって来て、最後は超満員。最後にhassyさんが手紙を読み上げる時間が始まった。hassyさんは手紙を持っていなくて、「悔しかったり悲しかったりして泣いていることが多かったので、これからは嬉しくて泣いて欲しいと思います」と、だけ言った。

 その言葉だけで涙が溢れる。寸劇で死ぬ準備をしていたジョンくんとSTXさんが、なんとなく空気を読んで生きたまま「ねえ、王子」のレゲエバージョンを始めた。

 イベントは終演して再びバータイム。進行を任せてたので安心して壇上で飲み過ぎた……。酔っ払って自分に赤ワインをぶちまける。今夜も無事に23時クローズ。みんな偉いよ……。私はぐずぐず……。しかし「また明日ー!」と言い合ってファンと別れるのは楽しい。

 も、ち、ろ、ん、打ち上げ。晃さんは「長くなりそう……」と呟いてさっと帰って行った。案の定、終電逃して2時過ぎまで。こういう時、終電間際にさくっと帰るゴンちゃんは大人。みんながタクシーに乗るのを見届けて帰宅。

 下宿先に男の子と女の子の猫がいて、女の子のほうが私の顔を見るとなぜか尻を向けてくるので困惑する。それ、どういう感情? お風呂に入ろうと服を脱いだら、どうにもならなさそうなレベルでブラジャーが赤ワインだらけ(というか赤ワイン染めみたいに)なっていたので捨てる。

2019年4月14日 3日目(2011年)

daiteng:ノイズミュージシャン。私が東京キララ社と初めて仕事をした『インディーズ・アイドル名鑑』の出版イベントに突然現れた。当時大学に友人がいなかった私を早稲田大学の音楽サークルに誘ってくれて、そこでフレスプの石上さんや佐藤あんこさんなど、現在の音楽活動に繋がる人たちと多く出会う。
マーライオン:シンガーソングライター。同い年、そして同時期に活動を始めた友人。お互いになんの経験も知識もなかったため、ちぐはぐな試行錯誤を今日まで各々繰り返して来た。

 今日は夕方からロフトヘヴンであかたま(小明さんとのトークイベント)があるので、思い出フリーマーケットは正午にオープンして15時にはクローズ。daitengくんがノイズをやるので、セッティングのために11時入り。セッティング1時間、演奏20分。ノイズってそんな感じ(適当)。5時起きを諦めてぎりぎりまで眠る。昨日どころか一昨日の酒まで残ってる感じだ……。

 マーくんとも久しぶりに会った。今日は3人が客席の周りで円形になって1曲ずつ演奏して観客の目を回そうという目論見。の、は、ず、が、予想以上の客入りで想定していた円形になれず、観客を中央に、私たち、また観客とバームクーヘンみたいになった。客席には佐藤あんこさん石上さん、雷音舎さんもいる。そしてバームクーヘンの一番外側には赤ちゃん!! ファンの女の子がママになったのだ。よりにもよってノイズの日……と心配だったけど、daitengくんの工事現場みたいな演奏をにこにこしながら聴いていて「サブカルエリートめ」と愛おしい気持ちに。そしてファンの子はお母さんになっても可愛い女の子であった。

 しっかしマーくん、ギターも歌もうまくなったなあ。別にもう何年も見てないわけじゃないんだけど、どうしても活動初期の印象が強いので毎回新鮮に驚く。マーくんは当時、「キングオブ前座」を名乗って、あらゆるイベントの前座でギターを叩きながら叫んでいる男の子だった。私は……あの頃の自分のことはあまり思い出したくない。ノイズ、弾き語り、私、ノイズ、弾き語り、私とぐるぐるまわして、途中で石上くんにフレスプの演奏を断られつつ、せっかくあんこさんがいるので、来週発売のアルバムから「有機体(フルキャスト)」を弾き語りで特別に披露した。マーくんと「ボーイミーツガール」をデュエットして(曲の途中の好きなものを言い合うパートでdaitengくんは「心理学」って言ってた。私は「酒」)、最後はdaitengくんにノイズをかぶせてもらって、マーくんの名曲「キャベツの千切り」を観客も全員で合唱。今日は夜もあるので飲まないと決めていたはずが、いつの間にか赤ワインを飲んでて不思議な気持ちに。

 遊びに来てくれた人たちと慌ただしく乾杯して、クローズ作業はたごさんと沼田さんに任せてひとり渋谷へ。RRRを出るとき、窓の外で川が光ってて、みんなでdaitengくんの機材を囲って演奏してたのが印象的だった。私にも友達いるなあと実感。

 寄り道せずに向かったけど、開場間際にロフトヘヴン到着。もう会場前でお客さんたちが待機していた。会場入り、即サウンドチェックとリハーサル。楽屋でやっと食事を摂って、メイク直してすぐ本番。今日も小明さんとふたりノープラン。目の前にある話題をひたすら転がして笑う。面白かったけど、一旦休憩挟んだら気が緩んだのか、後半始まってすぐぐらあっと目眩がして笑いながら冷や汗をかく。倒れなくてよかった……。

 小明さんはいままで飲酒する人間を蔑むような目で見ていたのに(あかたまの度に蔑まれていた私)、何があったのか最近お酒を飲むようになったらしく壇上で乾杯した。レモンサワーをさらにオレンジジュースで割って薄く薄く飲んでたけどそれでも酔っ払うらしく、さらに不思議なことに酔っ払った小明さんは異様に建設的なのだった。ファンから集めたアンケートの人生相談に的確なアドバイスをする小明さん。飲酒で建設的になる女。

 なんとかかんとか倒れずに終演。数日前『職業としての地下アイドル』を読んで、勢いで今日会いに来ましたというめちゃくちゃフットワーク軽い人がいて感動。いま思い出フリーマーケットを10日間もやっているのも同じだけど、こういう人が会いにきてくれる機会が増えるのはとてもいいことだと思う。

 撤収作業後、小明さんとステージに直接座ってお酒を飲みながら話す。こんな日が来るとは。しばらくして小明さんが帰宅した後も、ロフトヘヴンの階段を登る気力がなくて、ロフトの齋藤さんに付き合ってもらってさらに赤ワイン。

 もっと休みをとるべきっていう話の延長線上だったと思うけど、文筆業に専念して時々イベントに出るほうがいいんじゃないかとはっきり言われた。そのほうがトークで話したいことも増えるだろうし、楽しみになるだろうっていう。正直、自分でもそう思いつつ、なかなか今後の方針を決めかねていたんだけど、タイミングがよかったのか、すんなり素直にその通りだと思えた。ライブやイベントは祝祭なので、なんとなく本題から目をそらせちゃうんだけど、長い目で見たら精神的にも肉体的にもきちんと文筆業と向き合っていくべきなんだろう。

 斎藤さんにキャリーケースを運んでもらって、タクシーに乗り込む。数日ぶりの自宅。ケータイをひらいたら、たごさんから広瀬淳二&本木良憲デュオのライブ映像が送られてきていた。今朝オープン作業をしているときに、話だけ聞いていいなーいいなーと言っていたのだ。自作楽器と機材を卓ごと破壊するデュオの演奏なんだけど、ほんの1分程度の動画がものすごく格好良くて目が覚めたくらい。

 破壊は本能のどこがが刺激される(数日後にノートルダム大聖堂が燃えるとはつゆ知らず)。今年のワンマンライブは10年間を積み上げた最後の日だから、劇団ゴキブリコンビナートさんには思い切り破壊してほしいなあと思う。私は誰かのせいで辞めさせられたくないと思った瞬間、自分自身の決定によって地下アイドルを卒業することにしたけど、誰にも渡したくないと思った姫乃たまをゴキコンになら破壊してほしいと思える。これがどれだけ尊敬と信頼のこもった気持ちか、わかってほしい。

2019年4月15日 4日目(2012年)

Q太郎:姫乃たまをライターにしたエロ本編集者。現在は回りまわって「なんちゃらアイドル」の運営をしている。

 初日からの3日間で展示品が想像以上にはけてしまったので、部屋をひっくり返してキャリーケースに新しい展示品と私物の酒瓶を詰め込んだ。荷物の重さも手伝って、下北沢から両国の遠さが身に沁みる。RRRの徒歩圏内に泊り込んで正解だった……。

 新譜の見本盤が関係者に届き始めているらしくて(私は受け取りそびれた)、朝からたくさん感想が届いていた。来週のインストアイベントも告知が続々と始まっていて、私はこの10日間のことで頭がいっぱいなのに変な気持ちだ。この日々が終わったらすぐ新譜がリリースされて、インストアイベントが始まって、並行してゲネプロなんかもあって、あっという間にワンマンライブ当日になるんだろう。体、大丈夫だろうか。

 無事13時に到着して、あれこれ準備して14時オープン。月曜日の昼間なので客足もまばらだろうと思いきや、同じように考えていた人たちがたくさんやって来た。ここまでの3日間自発的に酒を飲み過ぎていたので、今日はお客さんに勧められるまで飲まないぞと決めていたら14時にバーイッシーのイッシーさんがラフロイグのボトルを持って現れたため即乾杯。はー、ラフロイグおいしい。仕事は辛いなァ! 思い出フリーマーケットのために西早稲田にあったバー彼方の蠱惑的なカクテル(名称はないらしい。国産ウイスキーの岩井とグルジアの白ワインを混ぜたもの)をつくったので、イッシーさんに味見してもらおうと思ったけど、ラフロイグに夢中で忘れてしまった。

 続々といろんな人がやって来て、バースツールまで出して昼間からスナック状態。カウンター越しに左から役者の女の子、年下の男の子、来週からRRRのそこそこ近くで働き始める男の子、関西から遠征して来た男性が並んでいて、初めて会った人たちがばらんばらんに喋っている。これが酒のいいところだよなあ。そしてフロアでも知らない人同士が楽しそうに話ていて、ああ、このイベントやってよかったなあと思った(めちゃくちゃ疲れるけど)。

 あと昨日、広瀬淳二&本木良憲デュオのライブ映像についてツイートしたら、なんとそのライブの主催者さんが会いに来てくれた!!! フットワーク軽くて尊敬! ほんと、こういうことのためにこれをやっているので、やってよかった……。

 夕方、常連さんがジョージアワインを差し入れてくれた。いま天王洲でジョージアワイン展をやっていてバー彼方のマスターと行こう行こうと話していたんだけど、なんだかんだと予定が合わずじまいだったので歓喜。しかもこれが飲んだワインで一番おいしかった! これほんとに! 人生でいちばん! 勢い余って図々しくmouの店主に写真撮って送っちゃった。

 夕方頃、Q太郎となんちゃらアイドル到着。イベントはまたしても私が当時よく怒っていた話で盛り上がる。私は記憶にないけど、Q太郎もよく怒っていたという。そうだったかな。あの頃、すごくお兄さんに見えていたけど、お互いに若くて、エロ本の編集を通じて青春を過ごしていた。

 最近は滅多に会う機会もなくなってしまったけど、最近の私の仕事を「中年サブカルおじさんが転生して地下アイドルになって夢を叶える」みたいに言ってくれて嬉しかった。でも「アングラを捨ててサブカルに行った」っていう話は妙に胸に引っかかって悲しくなった。なんでだろう。何か大事なものを捨てたと言われたみたいで、勝手に蔑まれたような気持ちになってしまったのだ。

 終盤でなんちゃらアイドルが私が作詞提供してくれた曲を2曲歌ってくれたんだけど、ミキサーの調子が悪くて劣悪な環境で歌わせてしまった。またしてもすごく嫌な気持ちになる(昔自分が劣悪な環境でライブさせられていたことを思い出して)。でもQ太郎が「歌い続けてえらかった」となんちゃらアイドルのふたりを褒めているのを見て、かつて私がなんちゃらアイドルと同じ立場にあったのに、いまはもうそこにいないのが寂しかったんだろうなとわかった。私は昔みたいにQ太郎に可愛がってもらったり、四六時中一緒にいて何かをすることがもうない。でもQ太郎との青春は消えないし、私をライターにしてくれたのはいつか編集者だった彼だし、それはそれ。これはこれ。少し大人になった気持ちがした。

 そ、れ、は、さ、て、お、き、まだ中日すら迎えていないのに、この機材の調子悪さはどうしたものかたごさんたちと話し合い。RRRの人たちは平成生まれの私も含めて昭和マインドなので、これまで叩いて直したりしてたんだけど、今回ばかりは連日酷使することもあってそういうわけにもいかず、困った……。

 いやー、まあしかしいろいろあるけど毎日めちゃくちゃ楽しい。イベントが連続して毎日ファンと顔をあわせることはまああるんだけど、同じ場所で昼も夜も顔をあわせることはまずないので、だんだんみんな家みたいにくつろいで仲良くなっているのが面白いし嬉しかった。それでも気持ちとは別に体は泥のように疲れ……。Q太郎はあまりだらだら飲まない人なので、今日は大人しく23時でクローズして私たちも帰宅。猫は尻を叩いてほしいことがわかり、猫の尻を叩きつつ眠る。

2019年4月16日 5日目(2013年)

谷山竜志:かつて代々木にあったスタジオ「ステップウェイ」の名物店長。アルバムのレコーディングもしたけれど、主に寝泊まりして昼夜問わず遊んでいた。いまは踊ってばかりの国のベーシストとして活躍していて、私とQ太郎を驚かせている。

 目が覚めた瞬間、耳鳴り。体が鉛みたいに重たくて起き上がれない。10時半からリアルサウンド編集部と電話で打ち合わせをする予定があったので、着信があってようやく上体を起こす。あしたのジョーみたいな体勢で電話に出たら、あまりに声がガサついていて「姫乃さんですか?」と編集さんにギョッとされた。

 そう、一応ワンマンライブの手売りチケットを少しでも販売するために思い出フリーマーケットを始めたのだけど、連日想像をはるかに上回る盛況ぶりで完全に喉が潰れていたのだ。困った……。最終日の翌日には整体を予約しているのだけど、耳鼻咽喉科に行くのが先だったかもしれない。

 リアルサウンドからの依頼はロケをする仕事だったけど、どう考えても時間が捻出できそうにないのでRRRまで取材しに来てもらう方向で固まった。誰でもどんとこーい。しかし日中はバーカウンターで原稿でも書く予定が、日々これでは……。すでに諸々のスケジュールが恐ろしいことになっていたけど、とりわけまずいのがちょうど1週間後に生誕ライブでお披露目される小泉りあちゃんの新曲作詞。うがー、練習期間も必要だし早めにあげたいけども……。そしてこの声では仮歌を録って送れるか非常に心配である。絶望していても進まないので、とりあえずタイトルを考えながらシャワーを浴びる。うーん。おーん。あー、チャンス。チャンスだチャンス! チャンスいいじゃん。「チャンス、気づいてる?」あ、なんか可愛いっぽいぞ。バスタオルで髪を拭きつつ、デモ音源を聴いて曲の構成をノートに書き出す。間に合え、間に合え……。

 今日もお客さんに勧められるまで酒を飲まないぞと心に誓って14時オープン。扉を開いた瞬間に来たお客さんがご馳走してくれて乾杯。ほどなくして小林銅蟲さんのコピー本を持った女の子が現れて、静かに盛り上がりつつ今日も昼間からスナック状態に。空は晴れ渡って、窓の外に飛行機雲まで見える。そんな時間からシャンパン開栓。毎日こんな調子だ。

 夕方、谷山くん到着。「酒飲みにきたぞ!!!!!」というのでハイボール作ったら水みたいに飲み干す。同じ行動を繰り返すこと3回。もう作るの面倒臭いので私が飲んでいた赤ワインのボトルを一緒に飲んでもらうことにする。

 イベント開始。谷山くんは非常に口の悪い友人で、めちゃくちゃ警戒に私をこき下ろす。あんまりそういう接し方をして来る人は公私共にいないので、珍しい光景にファンの人たち爆笑。めちゃくちゃ飲んで、めちゃくちゃ笑って、最後に少しだけ歌ってお開き。

 谷山くん、オタクはクソだと思ってたけど実際に会ってみたらロックンロールだったって話から、「姫乃がアイドル卒業したからってファン辞めたらクソだせえからな」って中指立ていて、じんと来てしまった(酔っ払いすぎて酔拳みたいになってたけど)。

 谷山くん私のファンから大人気で次々と写真を頼まれて照れていた。今夜は長くなるだろうと覚悟していたけど、泥酔して床で寝始めたので、むしろ23時前に解散。常連さんたちが駅まで担いで行ってくれた(毎日何から何までありがとう)。

 せっかく早くクローズしたのに、つい晃さんたちとバーカウンターで日本酒の残りを飲んで午前2時まで。ふらっふらで帰宅。下宿先の引っ越しもだいぶ進んでいるようで、帰宅するたびに物がどんどん減ってがらんどうになっていく。私が帰って来たのを見て、猫が尻を向けたので叩く。

 これ10日間終わったら寂しいだろうなあ。ふと、ここ最近のファンに対するわだかまりや戸惑いみたいなものが全く消えていることに気がついた。みんな自分の仲間だと思えるから、前は言っちゃいけないとか、こういう喋り方ではいけないと思っていたことが、いちいち頭につっかえず、なんでもラフに話せる。徐々にバーカウンターにいる時と、人前に立つ時、公私が溶け合ってひとつになっていく。

 去年の夏に地下アイドルの卒業を発表した時、「一度自分たちのコミュニティを破壊して、全員で4月30日に向かって走って行くことでコミュニティを再生して強化する」っていう話を具体的な案がないまま漠然としていたんだけど、かなり忠実に再現されていて、感覚的なことも口に出しておくと叶うんだなあと実感。夢は口に出しておこうとか、そんなこと恥ずかしくてできるかいと思ってたけど、意外と有効なのかもしれない。

 遊びに来ていたファンの女の子が思い出フリーマーケットを「給水所にアルコールしか置かれてないフルマラソン」と言っていた。その通り……! 最終日まで持つのか、私の体! さらにワンマンライブまで生きてるのか、私!

 そういえば今日新譜についてのインタビューが掲載されている『ミュージック・マガジン』5月号が発売されていた。もう世間の話題は来週リリースのアルバムに移ろっている……。私は思い出フリーマーケットで頭がいっぱいだよ……。

2019年4月17日 6日目(2014年)

Cobalt:絵を描く美食家のシンガーソングライター。当初この日はフレスプの石上さんが出演する予定だったが諸事情により叶わず、悩んでいたところ助け舟を出してくれた。2014年にはまだ出会っていない。ギターボーカルのCobaltさんとチェロのモチダタカヒロさん、ギターのイナダアツシさんのアコースティック三人編成で出演してくれた。

 朝、谷山くんから「俺正常だった?」とメールあり。

 んもう、泥のように疲れていて、ついにオープン時間に遅刻。晃さんが開けてくれてた。毎日通っている常連組の人たちもさすがに疲れているのか、今日はいつもより人が少ない。そしてそんな日に限って1日休みを取って誕生日をお祝いされに来たファンが! 丸い鱒寿司を持参してきて、ろうそくを自分で立て始めたので、もっと盛大にお祝いできないだろうか……と思っていたら、ちょうどぱらぱら人がやって来て、みんなでハッピーバースデーを歌ってお祝い。ぱちぱち。遅刻してごめん。そして人の誕生日にかこつけて酒を飲み始める私たち。

 RRRは毎週水曜日の夜、バーリハーサルになる。たごさんが毎週練習したいカクテルを決めて提供しているのだ。今日は水曜日なので、バーリハーサルとコラボ。チームCobaltもCobaltさんとイナダさんが料理大好きで、打ち合わせの電話のたびにライブの内容より料理の話をされていた。たごさんはロングアイランドアイスティーとかもヒートとか手の込んだカクテルを、Cobaltさんはナスのマリネと新じゃが炒め、イナダさんがペーストを作ってクラッカーと持って来てくれて、図らずもものすごくお誕生日パーティらしい雰囲気に。もちださんも早い時間に来てくれたので、みんなで乾杯。私もたごさんにロングアイランドアイスティーを作ってもらった。度数が高くて一気に飲めないので、逆に体にいいかもしれない。

 そういえば結局やりかけたままの KKBOXのプレイリストが明日締め切りで、動画も撮影して送らないといけないらしいので、Cobaltさんにカメラを回してもらって、誕生日のファンの人にカンペを持ってもらって撮影。

 夕方になると仕事終わりの人たちが続々とやって来る。「ご苦労様です」と今日の仕事の話を聞くのは楽しい。いつものライブでは元気な顔しか見ないけど、疲れた顔が徐々に元気になっていくのを見るのは嬉しかった。おいしいお酒と食事の効果もあって、すっかりRRRは家みたいになっている。

 大家族の夕飯みたいにな雰囲気の中、Cobaltさんのライブが始まった。前からメジャーデビューとワンマンライブ開催のお祝いに行きますと言ってくれてたんだけど(そんな社会人らしいこと言ってきたゲストはCobaltさんくらい)、普通にライブ演奏が始まって、ミュージシャンってお祝いの時に音楽を捧げるんだなあと当たり前のことに少しびっくりする。私は歌うときすごく可笑しくなっちゃうから。一緒に小泉今日子の「大人の唄」と「シャンソン」を歌わせてもらった。「シャンソン」の作曲が早川義夫であるという話から、客席に何人かいた早川さんのファンの人たちが仲良くなっていた。この数日でファン同士がまた急速に仲良くなっていて、私自身もファンの人たちと仲良くなっている感覚がある。

 ライブ終演後も晩酌の続きみたいにだらだらと飲み食いして話し続ける。おいしいものと面白い話があれば人生は概ね好調。ファンの人たちが床に座って談笑しているのを見ながら幸せな気持ちになる。みんな可愛いなあ。すっかり本来の目的を忘れかけていたけど、ワンマンライブのチケットも順調に売れていて完売が見えて来た。あと22枚。

 帰宅。っっっっっはー、疲れた……。先月末受けた新譜に関するインタビュー原稿が続々とチェックのために届いていて恐ろしい気持ちになる。パソコン開く気力もなく、猫の尻を叩きながら寝落ち。猫、男の子のほうのいびきがすごい。なんか「ぷくーぷくー」みたいな音がして、こんなに疲れてるのに夜中少し目が覚めた。女の子に比べて毛も硬くて、骨ばっているし、いつもムッとした顔をしていて、おじさんっぽくて可愛い。

2019年4月18日 7日目(2015年)

安田理央:アダルトメディア研究家。エロ本でライターをしていた頃、資料を選んで貸してくれたり、ニューウェーブバンド「野獣のリリアン」では一緒にボーカルもしていた。

 朝、KKBOXのプレイリストを提出するため曲名をエクセルに打ち込んでいたら、猫がずかずかキーボードの上に乗っかってきた。噂には聞いてたけど、猫って本当に作業の邪魔するんだなあ。どかそうとすると叩いてくれと尻を向けてくるので、猫の尻を叩きながらメール送信。受信ボックスを見たら、数日前に『潜行』を読んだという脚本家の方から映画化したいので今日監督と挨拶しに行きますとメールが入っていた。ものすごいフットワーク、再び!!

 おじさん猫も撫でてからRRRへ。毎日オープンとほぼ同時に来てくれるファンの人がいる。初日に、家の近くに同じ野良猫がうろうろしているので、猫用のカリカリを2キロ買ってしまったと話していた。それから毎朝、どこにエサを置いといたら無くなってたとか、今日は少しだけ近づいても逃げなかったとか、見たこともない野良猫の近況を聞くのが朝の癒しになっている。その人は夜働いているので、夜勤明けに仮眠してからRRRに来て、また仮眠してから仕事に行く。「お休みなさい」と送り出す。日常。

 ほどなくしてイッシーさんがまた来てくれたので今度こそカクテルを飲んでもらった。安田さんと共通の友人たちが続々とやって来て、もちろんみんなとんでもない酒飲みなので、あっという間にゴールデン街さながらの雰囲気に。みんなでどろどろになって酒を飲んでいたら、友人が赤ちゃんを連れて遊びに来てくれた。赤ちゃんはすごい。いるだけで場がめちゃくちゃ浄化される。赤ちゃんを抱っこしながら片手でなんでもこなす友人の母親スキルにもびっくり。空気中にすらアルコールが混ざってるような空間で、ふやふやのごはんを食べている赤ちゃん。照れたように笑うのが印象的な男の子で、一緒に写真を撮るときだけ抱っこ紐の中でお澄まし顔になったのが可愛かった。

 安田さんはゴールデンウィーク進行で本番ギリギリに来ると言っていたので、「いまからそんなに飲んでたら理央ちゃんに会えないよー!!」とバーカウンターから声をかけてたけど、昼酒を数時間飲み続けたくらいでは倒れない友人たちであった。途中で本当に脚本家さんが監督と連れ立ってやって来て、名刺と過去に製作した映画のチラシなんかを渡してくれた。映画の企画は頓挫しやすいのでなんとも言えないけれど、『潜行』もそろそろ私の手から離さなければと思い始めていたので、実現したら嬉しい。

 イッシーさんは自分の店を開けるために帰宅。飲兵衛の友人たちも無事に生き残ったままイベント開始。今夜は安田さんとAVを流したりエロ本を見たりする会で、ゴールドマンの監督作にみんなで笑うやら感動するやら。しかし今日はやけにお客さんが多い。最初から立ち見が出るほど超満員だった。安田さんのファンが来ているのか、18禁だから興味本位で来てみたのか、単に日取りの問題なのか。でもなんかライブとかよりロフト的な企画のほうが喜ばれるのかなーとうっすら思う。

 私が参加してた頃の「野獣のリリアン」の映像も流してもらった。パンダの着ぐるみを着て、暑そうなライブハウスで飛び跳ねていて若い。元気だ……。映像はWeb&スナイパーの主催イベントで、打ち上げに女王様がいてその人の奴隷を居酒屋で散歩させてもらったような……。

 クローズ後も安田さんは沼田さんや友人たちとバーカウンターで盛り上がっていたので、疲労に負けて先に帰宅する。安田さんはアイドル嫌いなので、徹底して私のライブに来ない。今年のワンマンライブももちろん来ないんだけど、ギャラを渡したら「経費にまわしなさい」と頑として譲らなかった。

 しかし初日から振り返って、つくづく私の友人は面白い人ばかりだなあと思う。

 夜、ツイッターで佐藤あんこさんのツイートが話題になっているのを見た。そのツイートにぶら下げる形で「パノラマ街道まっしぐら」の宣伝ツイートをしてくれている。元のツイートに矢野顕子さんが引用リツイートでコメントしていて、ハッとした。このアルバム、最初に楽曲提供を依頼したのが矢野さんだったからだ。結局それは叶わなくて、宣伝ツイートまで矢野さんが見たとも思えないけど、「有機体(フルキャスト)」というアルバムのコンセプトにぴったりな曲を依頼する前から自然と作っていたり、あんこさんは不思議と引きの強い人だなあと思う。

2019年4月19日 8日目(2016年)

Nachu:DJ/振付師。姫乃たまの振り付けを手がけているが、ものすごい酒飲みなのでレッスンより一緒に飲んだ時間のほうがはるかに長い。
ALi(anttkc):VJ/映画監督。姫乃たまの映像、演出を手がける。去年から密着取材中。

 やばいやばい、作詞がやばい。りあちゃんの作詞がやばい。そして今日は思い出フリーマーケットも朝から晩までスケジュールがやばい。寝癖でぼっさぼさのまま作詞。小ぎれいな格好でバーカウンターから微笑んでいる数時間後の未来が想像できない。あーあー。あー。サビ以外できた。サビ以外が先にできるって珍しいな……。

 さ、て、今日はどう忙しいかというと、14時オープン→15時からNachuさんと公開振り付けイベント→16時半リアルサウンド編集部入り→17時から撮影&取材→19時半からALiさんとイベントという流れです。あとスカラベさんが得意料理のローストビーフを調理して振る舞うというイベントも。というわけで、調理器具入りのキャリーケースを転がしながらオープンと同時にスカラベさん到着。なんつうかやる気のある人だ。

 作詞はサビができていないが、振り付けはサビからやるのである。公開振り付けは一昨年のワンマンライブの前に初めてやったんだけど、ファンの人の意見がすぐ取り入れられるのと、一緒に覚えられるところが面白い。あとRRRでせせこま話し合いながらつくった振り付けをライブハウスで披露すると、なんというか秘密めいた仲間意識みたいなものが生まれていいのだった。Nachuさんとの作業も慣れたもので、短時間で完成。乾杯(Nachuさんはこの後仕事だったのでノンアルビールを悔しそうに飲んでいた)。

 リアルサウンド編集部がカメラをセッティングしていく。少し場が落ち着いたので、会場の中で撮影開始。『潜行』が出版される前から連載の担当をしてくれていた松田さんがインタビュアーをしてくれる。非常に仲がいいので逆に緊張。やっと終わって、一息つきながら振り返ったら仕事帰りの弟が入り口のところに立っていた。いつから居たんだ。まあまあ真面目に話していたのでめちゃくちゃ恥ずかしい。ちょうどシャンパンのミニチュアボトルがあったので乾杯する。続いて野坂ひかりちゃんもお誕生日プレゼントを持って遊びにきてくれた。

 イベント開始までの間に、ファンの人たちが連れ立ってラーメンを食べに行くというので、「はーい」と適当に返事したら、ALiさんが「みんな!姫乃さんと一緒にいる時間ってもっと貴重だったはずですよ!」と言ってて笑った。

 ラーメン組もサクッと戻って来てあっという間に夜のイベント開始。リアルサウンドがライブ映像も撮影するというので、急遽「長所はスーパーネガティブ!」のライブをして、みんなにサクラっぽく無理やり盛り上がってもらう。そう、私たちは共犯者……。

 イベントではALiさんが過去に撮影してくれた映画やMVのアウトテイクを見せつつ、裏話をしてくれた。私も忘れてた話が多くて普通に笑う。

 昨日RRRの洋子さんがお誕生日だったので、みんなでシャンパン開けまくって乾杯。晃さんが「シャンパーイ!!!」と叫んだのがみんなツボにはまって、永久にシャンパイした。思い出フリーマーケットをきっかけに来てくれるようになった若い男の子がいて、お酒を飲み慣れてないのでいつもカルーアミルクを飲んでいるんだけど、初めてシャンパンを飲んで苦い顔をして売るのを見てみんなで笑う。やけに可愛がられる男の子だ。

 帰宅。長い1日が終わった……と思いきや、深夜2時30分からこの間収録したBSの番組「BOOKSTAND.TV」が放送されるのを、ファンからのリプライで思い出す。ウワー。うっかり下宿先の住人に話したら、偶然BSが映る家だったので、鑑賞会を始めることになってしまった。私は自分が出てる番組とかを本当に本当に見られない人なので、そそくさとお風呂に入って、ベッドに入って、みんなが鑑賞会している声を聞きながら「はやく眠ろうはやく眠ろう」とドキドキして眠った。

 しかしもう長いことずっと誰かと一緒にいるけど、全然気詰まりじゃないな。

2019年4月20日 9日目(2017年)

入江陽:シンガーソングライター。姫乃たまと入江陽名義でひっそりシングルもリリースしている。

 ものすごく疲れているくせに明日で最終日かと思うと、明後日からまた毎日違う場所に行くことのほうが億劫に思えてしまう。「長所はスーパーネガティブ!」のMVが公開されて、来週からのインストアイベントの告知も佳境を迎えていたけど、いまの日々が終わるなんて全然信じられなかった。住人がまたひとり、電子レンジを持って引っ越していった。家もどんどん閑散としていく。

 オープン即、アードベックをロックで乾杯。最後の週末なので、大混雑するかと思いきや、予想していたほどじゃなくてまったり。が、ご発注で大量に缶チューハイが届く(ダンボール3ケース)。どうすんのこれ、と思ってたら、みんなアスリートのように飲み続けていた。この9日間で溜まった大量の空き缶と空き瓶を見て苦笑。これ終わったらワンマンライブまで禁酒するかー……。

 久しぶりに会う入江さんは相変わらず挙動不審。でも、ほんとに歌が上手いなー。一番好きなシンガーソングライターだけど、自分と同じタイプの多動症なので、お互いの欠点が手を取るようにわかって、めちゃくちゃゆるく殴り合ってしまう。一緒に歌うか、人を小馬鹿にしたように笑い合うかを繰り返してイベント終了。いや、でも久しぶりに会ったらやっぱり入江さんいいなあと思ってしまった。また一緒に音源制作したい。制作の時はゆるくない殴り合いになるんだけど。

 ALiさんが公開されたばかりのMVをスクリーンに流し始めたので、岩井のボトルをマイクにして踊った。はーい、メジャーアイドルですよーん。

入江さん、唯一飲酒できないゲストなので23時帰宅。初日から毎日来てくれている女の子が今夜の感想をツイートしてくれていたので、なんの気なしにアカウントを覗いたら、固定ツイートに去年主催した活動9周年ライブの写真が上がっていた。入江さんとふたりで下北沢風知空知でライブをしたのだ。写真と一緒に「大好きです。10周年も祝うぞー!」と書いてあってハッとする。

 このツイート自体は去年も、それから何度か見ているんだけど、急に本当に一年経ったんだと思ってどきっとしたのだ。このイベントが始まってから、彼女とは急速に仲が良くなったし、このまま本当に10周年もお祝いしてもらえそうなことや、入江さんとも変わらず一緒にいるのがしみじみすごいことだと思える。ほかのファンの人たちも、毎日手伝ってくれるRRRの人たちも、ゲストで駆けつけてくれた友人たちも、みんなずっとそばにいてくれている。本当にすごい。

 私、愛されているんだ。

 感じたことのない全能感が湧き上がってくる。

2019年4月21日 10日目(最終日)

中村保夫:東京キララ社代表/DJ。東京キララ社と姫乃たまの密接ぶりはいまさら書くまでもない。

 泥のように起床して、泥になって小泉りあちゃんの「チャンス、気づいてる?」作詞完了。なかなか可愛いですよ! りあちゃんはすごくいい子で、本当は面白い人なんだけど、周囲の人たちがいい子だなあって和んでいて彼女の面白さにまで意識が到達していない感じがある。ライブに来た人たちにちょっとどきっとしてほしいなと思って、笑顔でそばにいるけど、実はもう恋人から心が離れ始めている女の子の歌詞にした。

 今日は昼にネイキッドロフトで里咲りさちゃんと水野しずちゃんがトークイベントが開催されているので、みんなそっちに行くから昼は暇だろうと踏んでいたら、最終日に駆け込みで来た初めて会う人や久しぶりの人でオープンから大賑わい。ゴールデン街で思い出フリーマーケットについて聞いたという地下アイドル研究を大学でやっている外国人の男性(要素が多いな!)が会いに来てくれて、いろいろと話した。自分のやって来た仕事が彼をここに連れて来たんだと思うと不思議な嬉しい気持ちになる。

 今日もいつも通り酒を飲んで、いつも通り他愛もない話をして、「おかえりー」って迎えて「気をつけてー」ってラーメン組を見送る。これが明日からなくなるのかと思うともはや不気味な感じすらする。今日も川はきらきらしていて、夕日が沈みかけたときは、早く遊ぶのをやめて帰りなさいと言われているような本当に悲しい気持ちになった。

 で、も、最終日なので感慨に耽る間も無くてんてこ舞い。いちごを4パックも持って来てくれた人がいて、シャンパンを開けてみんなでいちごを浮かべてシャンパイし、かたや海老を生きたまま持って来た人もいて、いちごシャンパンの横で海老がさばかれるバブルみたいな時間が発生した。私も今日は飲むったら飲むと決めていたので(明日から禁酒するし)、なんだかわからんが飲みに飲んだ。人がめちゃくちゃ多い。めちゃくちゃ多い(ほんとに多かったから2回言う)。人混みの熱気がまた熱気を呼んで、完全なる祝祭に。

 19時半から一昨年のワンマンライブで着た衣装に着替えてライブをしようと思っていたんだけど、もうそれどころじゃないくらいひっきりなしに乾杯乾杯で、まあみんなどうせ夜遅くまでいるんだろうと、20時過ぎに着替えてライブ開始。もう酔っ払ってるわ、暑いわ、煙いわ、毎日通ってナチュラルハイになってるわ、終わるのさみしいわで、ものすごい盛り上がりだった。私も汗だくになりながら歌って踊った。数日前daitengくんが私物の卓を半永久的に貸してくれたので音も絶好調。最後の曲が終わった瞬間、「好きい……」って客席から漏れ聞こえて来て全員爆笑。

 こんなになんの憂いもなく楽しかったのは10年間で初めてかもしれない。みんなに愛された10年、みんなに愛された10日間だった。本当にどうもありがとう。大好きだよ。

 祝祭は保夫さんのDJが始まってさらに爆発するんじゃないかと思われるほどの大盛り上がり。途中から来た人がぎょっとしてた。

 私は今日こそ2時でも3時まででも飲むつもりだったんだけど、23時帰宅が身についたのか、常連組ほど時間通りにサクッと帰っていった。結局残った人たちも24時過ぎには帰って行ったので、みんな大人だよなあと思いながら帰宅。猫の尻を叩く。猫の尻を叩くのも今日で最後か……。

 私もふと日常に戻って、引き続き尻を叩きながらAudition & DebutCDジャーナルの原稿をチェックして戻す。テレビ局から資料が届いていたので、読み込んでコメントを入れて戻した。気がついたら日が昇って朝5時を過ぎていた。

 明日は14時から23時まで働かなくていいなんて、なんて気楽なんだろう。そしてなんて寂しいんだろう。

 日付が変わって明日からインストアイベントとゲネプロが始まる。本番はもうすぐ。地下アイドル卒業まで、あと9日。

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