「村から追放された少年は女神様の夢を見る」第十一話
「これで最後か・・」
キャンセルをしたお客様の所に一通りまわって残り一件。無料で治療するとみんな喜んでくれた。こちらが悪かったのだから、仕方ない事だ。明日から通常営業できるかな。アリスの教会も信者さんよりも治療に来るお客様の方が多くて、嘆いていたっけ。借りる家も探さないといけないしな。
コンコン
お客様の家のドアを叩いたが応答がない。留守かな?また後で来てみることにするか。ぼくは教会に戻ることにした。
「グリーンさんですか?」
フードを被った幼い少女に呼び止められる。まだ、5、6歳位だろうか。
「うん。そうだけど」
「あっちの大人が話したいことがあるって・・」
袖をひっぱられ、裏の路地に引っ張られた。
「ほら、金だ」
少女は黒いフードを被った男から、銀貨を受け取って足早に去っていった。
「あの時殺したと思ったんだが・・旦那がうるさいのでね。悪く思うなよ」
気が付くと、黒いフードの男はぼくの脇腹にナイフを突き刺していた。動作が早すぎて避けられなかった。
「え?」
何か当たっている感覚はあるが、痛くない。というか傷もついていない。
「防具でも着ていたか・・ではこれはどうだ!」
正面から拳で頭を殴られた。思わず目をつぶる。恐る恐る目を開けると、驚愕した男の表情。ぼくは痛くもかゆくも無かった。
「どうなってんだ。確かに気絶くらいは、するはずだが・・」
男は自分の拳を見つめていた。
ステータス 防御魔法 障壁 レベルSのお陰だろう。仕組みはよく分からないが、ぼくを傷つけることは出来ないみたいだ。今度は近くにあったブロックを持ち上げる。
「いくらなんでも、効くだろう」
バリン!
ブロックをぼくの頭に、思い切り叩きつけた。壊れたのはブロックのほうだった。やっぱり。
「うわああああああ・・こいつ、やべえ・・」
男が顔面蒼白になって逃げようとしたので、捕まえてそのまま町の自警団に連れて行った。
「殺されかけました」
ぼくは自警団の人に正直に言ったのだが、信じてもらえなかった。
「た、助けてくれ・・こいつ殴っても死なないんだ・・」
男が正直に話し、自警団も信じざるを得なったようでようやく捕まった。どうやら男は、隣町ミルドスの治療院で雇われてぼくを殺しに来たらしい。首謀者のリグルスは捕まり、同時に治療院も潰れてしまった。自業自得だと思うけど。
余は謁見の間で玉座に座っている。ガラ町から荷馬車で、治療院の院長リグルスが衛兵に連れられて来た。グリーンを殺害しようとしていたらしい。
「わしは、わしは何もしていない・・」
リグルスは証拠があるにも関わらず、否定をしてきた。顔面蒼白になりながら、言い訳をしている。
「だ、だいたい人を救う治療院が人を殺すなんてするはずないじゃないか」
よくもまあ、抜け抜けと言うものだ。悪人とはこういう人物をいうのだろう。調べたら余罪が出るわ出るわ・・どうやら初めてでは無いらしい。グリーン以外にも、気に入らない人物がいると同様の事をしていたようなのだ。
「治療院が人殺しなど、あってはならないことですわね。お父様、グリーンを殺そうとしたのですよ?重い刑をお願いしますわね」
普段温厚な娘が冷たく言い放つ。グリーンを殺そうとしたのが余程腹立たしいのだろう。誠意を見せれば少しは罪状も変わってくるだろうが、反省の余地は無いようだ。
「そういう事だ、リグルス観念しろ。この者は、地下牢にでも入れておけ」
がっくりとリグルスは肩を落としていた。
「うわぁ~これは一体どうしたんだ?こんなに怪我人がいるものなのか?」
教会の外は人であふれかえっていた。確かに今日から通常営業と書いておいたのだけど。見た所2、30人くらいだろうか。
「ミルドスの治療院が閉鎖されたからね。ここが一番近かったから来たんじゃないかな?」
マリリアさんが説明をしてくれた。流石ギルド職員、情報が早い。今日は私服を着ていて胸の開いたワンピースを着ている。
「今日、お休みで来たんだけど・・凄い人ねぇ。いつもこんな感じなの?」
教会の扉を開けて、開放して営業中の看板を立てた。
「あの、よろしいでしょうか」
赤い髪の女性が遠慮しがちに、声をかけてきた。歳は20代だろうか。茶色い眼鏡をかけていて、手には杖を持っている。どうやら、治療目的で来たのではないようだ。
「あたし、シルビアと申します。よろしければこちらで雇って頂きたいのですが・・」
ぼくに向かって、頭を深々と下げている。
「回復魔法使えます!何でも致しますから、お掃除でもこき使ってもらって構いません!」
「え?ちょっと待って・・ごめんなさい、後で良いかな。今は治療する人がいるからね」
ぼくはシルビアさんに答える。今は取り合えず、今日治療に来た人たちを何とかしないといけない。さてどうしようか。取り合えず、治療に来た人たちを教会内に招き入れた。
グリーン 15歳 回復魔法士
スキル 回復魔法 上級レベル3
防御魔法 障壁 レベルS (女神の加護により消費0)
魔法 ヒール(5)エクストラヒール(30)エリアヒール(100)
キュア(20)ディスペル(10)
*女神の加護
HP999/999
MP999/999
ステータスを見ると、ヒールは一回に付き5消費するから、30人で魔力量は150消費するみたいだ。女神さまに言われた通り、新しい魔法も増えている。折角だから、ちょっと試してみようかな。大勢いるときは・・この魔法か。
「「『エリアヒール』」」
両方の手のひらを上に向けて魔法を発動する。広い教会の室内が温かい光に包まれた。魔力を使うと体が一気に怠《だる》くなる。100も使うのだから、体への負担が大きいのだろう。余裕があるときじゃないと使えないな。
「お、おお?あれ、痛くない」
「ええ?」
「何だなんだ?」
教会内がざわざわと騒がしくなる。どうやら上手く言ったみたいだった。
「グリーン?今、一体何をしたの?」
「「エリアヒール??えええええ!あたし初めてみました!伝説の魔法ですよね。何だか凄すぎるんですけど!」」
「やばくない?グリーンあんた一体何者??」
「えっと。実はエリアヒールってやつを試してみたんだ。大勢いる場合、便利みたいだからね」
僕は右手で頬を掻いた。一人一人に声をかけてみると、予想通り《《教会内にいる人》》の怪我は治っているようだった。みなキョトンとしていて、何が起こったのか全く理解していなかったようだけど。
昨日、ぼくは久しぶりに夢を見た。あれ、これって見覚えがある。霧がかかったような明るい場所。最初に教会に来た時の夢。ぼくは空中に座っていた。
「お久しぶりですね」
女神ファンティが純白のドレスを着て微笑んでいた。金色の髪が揺れている。
「貴方には感動いたしました。姫を捨て身で助けるとは、全く予想していませんでしたよ・・新たに魔法を使えるようにしておいたので、役に立ててくださいね」
「どうしてぼくにこんなに良くしてくれるのですか?」
「そうですね・・最初は同情でしたけど、ワタクシも貴方を気に入ってしまったのですよ。深い意味は無いから安心してください」
深い意味は無いと言っていたけど、どうしても勘ぐってしまう。何か別の目的があるのではないかと。
女神さまは、ただ微笑んでいた。
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