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歴史から見る、カスタマーサポートとカスタマーサクセス -その発展と融合-

私はSaaSベンダーのカスタマーサクセス支援を行っていますが、最近はその過程でカスタマーサポート組織・業務構築の相談も増えています。また、最近カスタマーサポート(コールセンター)の専門家の方とお話しする機会にも恵まれたため、改めてカスタマーサポートとカスタマーサクセスと本質的な違いを考える必要性に迫られました。

本記事ではカスタマーサポートとカスタマーサクセスの本質的な違いを両者の歴史から考察し、この2つが今後どのように影響しあうべきかについて持論を展開しています。

カスタマーサポートとカスタマーサクセスを分かつものの正体

結論から言ってしまうと、この両者の違いは「リアクティブかプロアクティブか」というところに尽きると思います。

  • カスタマーサポート:リアクティブ(受動的)

  • カスタマーサクセス:プロアクティブ(能動的)

このように書くとサクセスのほうがポジティブな印象で、サポートはネガティブのように聞こえますがそうではなく、この2つは互いに影響しあい融合していく運命にあります。

この2つがどのように融合すべきかという議論は非常に興味深いのですが、まずはカスタマーサポート/サクセスのそれぞれが誕生した背景について知ることでこの議論を理解しやすくなります。

長い歴史を持つコールセンターとカスタマーサポート

カスタマーサポートの歴史はそのままコールセンターの歴史とも言えます。私は専門家ではないのではっきりとはわかりませんが、日本でコールセンターのための専門誌『コールセンター・ジャパン(リックテレコム社)』が創刊されたのが1998年なので、少なく見積もっても24年間さまざまな事例が研究されてきました。

同じく同社から発売されている、『戦略的コールセンターのすすめ』『コールセンターの経営学』なども読みましたが、古くからCXを通して経営を後押しする研究がなされていたことがわかります。カスタマーサクセスが叫ばれだしたのが2015年頃なので、この間には実に17年の開きがあります。

カスタマサーサポートはこの17年の間に顧客体験を向上させるさまざまなノウハウを構築してきました。上記で紹介した書籍内でも紹介されていますが、その体系化された情報と集められた成功・失敗事例はカスタマーサクセスを大きく上回っており、歴史に裏付けられた重みを感じます。

参考文系はこちらを参照

コールセンター・ジャパンWebサイト

私もカスタマーサポートを改めて深掘りしましたが、広義のカスタマーサポートはカスタマーサクセスのミッション・業務範囲の多くを包含しており、ここでもサポートの持つ歴史優位性が際立っています。

ところでサポートもサクセスも「顧客体験(CX)を改善し経営を後押しする」という共通の目的を持っています。これほどの重厚な歴史を持つカスタマーサポートが存在しているにも関わらず、(目的を同一にする)カスタマーサクセスが新たに誕生したのは、いったいどのような背景からなのでしょう。

サポートがリアクティブにならざるを得なかった背景

この理由はカスタマーサポートの活動がリアクティブであり、そうならざるを得なかった時代背景があると私は見ています。そしてそれこそが世の中にカスタマーサクセスという概念が生まれた理由でもあります。

かつて、コールセンターを代表格としたカスタマーサポート組織はその誕生の経緯上どうしても顧客からの接触をトリガーに動かざるを得ませんでした(=リアクティブ)。日本にコールセンターが誕生したといわれる1980年代は顧客と企業側へのコンタクト手段は電話や郵便など限られたものしかなく、テクノロジーも今ほど進歩していなかったため、どうしても「顧客からの要求が発生した直後に迅速に対応する」という発想をせざるをえなかったと思われます。

ここから出発したカスタマーサポートは、この考え方を軸として発展してきており、その後もリアクティブな発想を強いられやすかったと私は見ています。

コールセンター・ジャパンの編集長によると、そもそもコールセンターやサポートが生まれた背景は、プロアクティブに顧客を支援したいという欲求からだそうです。なので「サポートがリアクティブ」というのは一元的な見方であり、成熟したサポート組織を持つ企業はプロアクティブな活動をしているケースもあるそうです。ただし、「多くのサポート組織がリアクティブにしか動けていない」という現実はあるとのことでした。

2022年5月18日追記

プロアクティブ活動が発達しやすかったB2Bの世界と、同時期に起こったテクノロジーの発展

しかし、2000年頃からのインターネット普及、そして2008年のスマートフォン発売と共に状況は一変しました。企業と顧客が繋がる方法は過去よりも増え、購入前後の顧客に接触することは過去と比較して容易になりました。(=テクノロジーによって接触チャネルが増えた)

そしその中にあって、「顧客の困りごとを発生前に潰す」というプロアクティブな顧客支援思想が生まれ始めました。ただし、これは2Cの文脈においてはマーケティングやプロダクト・サービスそのものの役割と位置付けされたようで、長年リアクティブな組織と位置付けられていたサポート組織がその役割を担うには至りませんでした。

一方、日本の2Bの世界では2006年頃から「SaaS(サース)」という言葉が登場し始めました。リカーリングモデルを採用したSaaSはその性質上、顧客に満足して利用され続けることが求められるため、リアクティブなアクションだけでは支援が不足しているとみなされ始めます。

2Bは2Cと比較して購買前後で顧客と接触する機会が多く、プロアクティブな支援を行いやすい傾向があります。2BにおいてSaaSが登場して以来、プロアクティブな支援を行うカスタマーサクセスという概念が台頭してきた原因はここにあるようです。

一方でこの時期は上述したインターネットの普及とスマートフォンの出現以降でもあります。つまり企業側も一般の消費者と接触する手段を急速に持ち始めたのです。しかし、2Cのカスタマーサポートにおいてはまだまだ「迅速なリアクティブ戦略」が主流であり「プロアクティブなサポートのあり方」はまだ模索されている段階でした。

サポートとサクセスが影響を与え合う時が来ている

そして時は流れ2022年。サポートとサクセスはお互いを意識し始める時期に差し掛かっているようです。

B2B、B2C両面からの進化とその先

私の目から見て、以下の2つがサクセスとサポートの現在地点です。

  1. 2Bにおけるプロアクティブな顧客サポート手法の発展

  2. インターネットとスマートフォンの普及による、プロアクティブ支援が可能なチャンネルの増加

1.の文脈においてはここ数年間、サクセス文脈で顧客をプロアクティブにサポートするプラクティスが生まれています。「オンボーディング」という顧客を自走させるメソッドや、利用が十分でない顧客を「ヘルススコア」によって特定・先回りしてし活用を促す手法はカスタマーサクセスの文脈から磨かれ、発展してきました。

上述したプラクティスを実践しようとする試みは以前からありましたが、プラクティスとして確立され始めたのは、カスタマーサクセスの流れによるところが大きいと考えています。

そして、2.が充足しつつある昨今、2Cの分野においてもプロアクティブに顧客をサポートするべきであるという概念が広がりつつあります。そしてそのヒントをカスタマーサクセスに求める流れがあると私は見ています。

それはあたかも「経済学」という大きな学問が、時代と共に「行動経済学」「マクロ経済学」「環境経済学」などのより専門性を持った学問に派生し、お互いに影響を与えながら議論を深めることと似ています。

「顧客体験(CX)を改善し経営を後押しする」という共通の目的をもったカスタマーサポートとカスタマーサクセスは、それぞれ異なる文脈で進化を遂げ、お互いに影響を与え合うタイミングに差し掛かっています。

サクセス⇔サポートはどのように影響を与えあうべきか?

サクセスの世界に身を置く私からすると、サクセスがサポートに提供できる価値ははっきりしています。それは「プロアクティブなサポートとは何か?」を考えることです。

前述のとおり、サポートはその歴史的経緯からリアクティブにならざるを得ませんでした。しかし近年のテクノロジーの発展によってその制限は少なくなっています。サポートはサクセスで養われたプロアクティブな発想やメンタリティ、そしてメソッドを取り込むことでさに進化することができるでしょう。

逆にサポート→サクセスにおいてはどのような価値がもたらされるでしょうか。私はサポートの専門家ではないのでこれに対する明確な回答を持っていません。ただ、昨今サポートの専門家の方々と議論する機会に恵まれているため、その方々にこの問いをぶつけてみたいとは思っています。長い歴史を持つサポートによって養われたさまざまなプラクティスやノウハウが、サクセスがさらに押し上げることを期待して止みません。

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