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赤く染まった北海道の空〜太陽フレア連発

5月11日、ピンクに染まる空とオホーツク海の写真がニュースに流れた。太陽フレアが連発し、世界中でオーロラが発生したことが原因である。太陽フレアとは太陽表面で起こる爆発現象で、太陽フレア自体はそれほど珍しい現象ではない。今回の太陽フレアが他のものと異なる点は、その規模と回数である。

太陽フレアは、放出されたX線強度の最大値により小規模なものからA、B、C、M、Xの順にクラス分けされているが、今回は最大級のXクラスの太陽フレアが8日から11日の間に7回も発生したのだ。72時間で7回のXクラスが発生したのは観測史上初めてのことだが、一体何が起こったのだろうか。

太陽フレアが発生すると、X線などの強い電磁波や高いエネルギーを持つ粒子、電気を帯びたガス(プラズマ)が大量に放出される。このガスが磁場を帯びているため、地磁気が大きく乱れることがある。今回の太陽フレアについて、国立極地研究所は「地磁気の乱れは数十年に1度のレベル。太陽フレアの規模は数年に1度のレベルだが、連発したため、ふき出したプラズマが地球に来るまでに合体し、それだけ威力が増したと言える」と説明した。プラズマが地球の大気の原子と衝突して光を出すことから、日本や欧州、米国など世界各地の中緯度帯でオーロラが観測された。ピンク色に染まった空も、この1つである。

オーロラというと北欧で見られる美しい景色を思い出すが、実際には周囲の環境に影響を与えるものである。ローマ神話の暁の女神アウロラに由来し、ガリレオ・ガリレイが名付け親とされているオーロラだが、はっきりとした原理は解明されていない。今のところ、太陽フレアが発生した際に放出される太陽風のプラズマが地球の磁力線に沿って高速で降下して、地球の大気に含まれる酸素や窒素の原子を励起することによって発光すると考えられている。この光(可視光)が、我々のいうオーロラである。これだけであれば、壮大な天体ショーとして思えるが、この現象では光以外に、各種電磁波や電流、磁場、熱なども放出される。今回のように大規模な太陽フレアが連発した結果、膨大なプラズマが地球に降り注いだ為、膨大な量の電磁波なども放出された。それにより、短波通信に障害が起きる「デリンジャー現象」が各地で観測された。地球周辺の人工衛星の障害やGPSを用いた高精度測位の誤差の増大、短波通信障害などが生じる恐れがあるほか、航空機の航路変更や送電施設のトラブルも考えられると各国の研究所が注意を促している。

現代社会において、電波通信はなくてはならないものである。個人レベルでは、スマホがいい例である。スマホの通信そのものも影響があるかもしれないが、スマホが共有してるデータに大きな影響がでる可能性がある。天気予報アプリのデータは気象庁などが発表しているものだが、もとを辿れば人工衛星が取得したデータである。GPSの位置情報も、インターネットも国境を越えるデータはすべて人工衛星を介している。これだけなら、個人が困る程度で我慢できるかもしれないが、航空機や船舶では正確な位置情報が取れないだけで大惨事の危険性が高まる。もし世界中で同様のことが起これば、どれだけの被害が出るか予想もできない。それほど大規模な太陽フレアは地球にとって脅威なのである。

オーロラの美しい景色の裏で地球規模の脅威が起こっていると思うと、オーロラの見方も変わってしまうかもしれない。北欧では、オーロラにより死者の世界と生者の世界が結びついていると信じる人が今でもいるそうである。エスキモーの伝説では、生前の行いが良かった人は死後、オーロラの国(実質的に天国)へ旅立つと言われている。昔の人がオーロラの神秘的な光から死者の世界を連想していたのには、何かを感じ取っていたからだろうか。

地球と太陽の距離は約1億4960万kmあり、光速が約29万9792km/秒なので、太陽から出た光は約8分19秒で地球に到着することになる。太陽風の速度は平均して約450km/秒なので、太陽から約92時間20分44秒で地球に到着することになる。光と比べれば遅く見えるが、音速の10倍以上の速度で約3.8日で到着することを考えると、決して遠い過去の話ではなく、リアルタイムに起こっている現象なのだ。地球は様々な影響を太陽から受けている。太陽フレアもその1つである。地球に生きる我々もオーロラのような目に見える部分だけでなく、目に見えない部分も「見る目」を持つべきではないだろうか。

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