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「戦略デザイン企画室」的ゆく年くる年

 法規書籍印刷株式会社 戦略デザイン企画室の渡辺です。

 今年は8月に「戦略デザイン企画室」が新設され、noteでの発信や他業種が出展する展示会への参加など「新しいこと」に挑戦することが多い一年となりました。
 また、これまで実務に関する内容が中心だったメンバー間のコミュニケーションも、これまでなかった「新しいこと」での体験を通じてより幅広い意見交換をすることができ、わたしたちの次のステップに繋げられるのではないかと期待も大きくなりました。

 来年は2月には「page2024」への出展も予定しています。出展内容については今後少しずつこちらでご紹介させていただきたいと思っています。

 今年最後の投稿は今年10月末に開催された「産業フェア in 信州2023」に出展するにあたり、活躍いただいた「本が好き」メンバーによる「今年、読んでおもしろかった本ベスト5」を挙げさせていただき、締めたいと思います。
 今年一年ありがとうございました。これまでお世話になった皆さま、そしてまだ見ぬ将来のパートナーの皆さま、よい年をお迎えください。そして来年もまたよろしくおねがいいたします。

Kさんの2023年に読んだ本ベスト5

 絵本をよく読んだので、絵本のトップ5にしました。

『おてんきのあじ』 ソハ・リム(訳:石津 ちひろ)

 好きな天気を思い浮かべた時、だれを、なにを、思い出しますか。この作品は、曇りの日にお母さんがよくマフィンを作ってくれたことを思い出し、みんなで好きな天気にまつわる料理を持ち寄ったら素敵なパーティーになるに違いないというところから始まります。ちなみに私は瀬戸内海の島出身なのですが、いつも猛暑日には、学校帰りに近所の小さなお菓子屋さんのおじちゃんがコップにあふれるほどのピンクの甘いかき氷を持たせてくれたことを思い出します。

 

『ウラオモテヤマネコ』 井上奈奈

 この作品のキーワードは「まぁ裏の世界からみれば 裏が表で表は裏なのだけれど」。隣の芝生は青く見え、はじめは新鮮に感じた環境・人間関係・物もやがてその「鮮やかさ」を失っていく孤独が描かれています。凝った装丁で哲学的なテーマも含んでおり、大人のための絵本と感じました。この作家さんは社会的なメッセージ性を含む作品を他にも多く出していて、個人的に注目している作家さんです。

 

『みなそこ』 ワイエダ兄弟(訳:櫛田理)

 有名なインドの絵本出版社・タラブックスと無印良品がコラボした絵本です。1冊ずつシルクスクリーン印刷で手間をかけて作られており、それぞれに通番が振られているため特別感があります。装丁が芸術品のようで、雨の日の日曜の朝に大切に1ページずつめくりたい作品です。


『賢者の贈り物』 オー・ヘンリー(訳:矢川澄子)

 大学で英文学を専攻した私が、1番好きな作品です。クリスマスに毎年読みたくなる短編小説ですが、散歩していて偶然見つけた絵本屋さんに絵本があったので読んでみました。ほんとうの「賢さ」、ほんとうの「優しさ」、ほんとうの「豊かさ」とは何かを考えるきっかけを与えてくれ、読んだ後は心がじんわりあたたかくなります。


『へいわとせんそう』 たにかわしゅんたろう(絵:Noritake)

 今年はショッキングな虐殺の映像や実態がSNSで多く流れたように思います。複雑な歴史の背景を学んで確固たる自分の意見を持つことや、政治を今すぐ変えることは難しい。でも戦争は終わってほしい。この作品はシンプルな絵と短い言葉でメッセージを強く訴えています。


Oさんの2023年に読んだ本ベスト5

 皆さまへの宣伝も兼ねて2023年冬現在に放映しているアニメの原作の漫画とラノベを中心にかつ個人的な趣味を元に選びました。

『葬送のフリーレン』 山田鐘人 /アベツカサ

 魔王を討伐した勇者が亡くなった後を描いたファンタジー漫画です。主人公は勇者の仲間の1人であるエルフの魔法使い「フリーレン」。
 人間である勇者たちと違い彼女は長命の種族あり、仲間たちと過ごした時間は彼女にとって1カ月程度のものです。
ですが、その1カ月が彼女の人生に大きな影響を及ぼします。勇者たちと旅を経て感じたことを胸に生きていく物語の後日談です。
 色々ごちゃごちゃと書きましたがエモいです。

 

『薬屋のひとりごと』 日向夏

 架空の中華っぽい国の後宮が舞台のミステリーラブコメです。
 1話ごとのちょっとした事件が後々の大きな事件の伏線になったりなど読みごたえがあると思っています。
 ラノベ原作に対してコミカライズが2つあり、それぞれ現在進行形で連載しています(2つある理由は原作者もわからないとのこと)。
 コミカライズはどちらも甲乙つけがたいので2つとも買って読むことをお勧めします。


『陰陽師』 夢枕獏

 Netflixで配信している夢枕獏氏の陰陽師です。
 平安時代の京の都で、安倍晴明という陰陽師と笛の名手にして武人の相棒・源博雅が共に妖怪関係のトラブルを解決する伝奇小説です。
(読んだのは15年以上前ですが、アニメの題名を見て面白かったなーと浮かんだので選びました)
 妖怪等が出てきますがホラーが苦手な自分でも読めました。

 

『ワンオペJOKER』 宮川サトシ/後藤慶介

 DCコミックス(スーパーマンやバットマンを出版しているアメリカのコミック・ブック出版社)公認の漫画です。
 バットマンの宿敵のJOKERが不慮の事故で赤ん坊となったバットマンを立派な正義のヒーローに育て上げるためにワンオペで子育てをするDCコミックス公認のコメディ漫画です。
 本家本元の公認でこの設定の漫画が出ていることが衝撃です。

 

『ELDEN RING OFFICIAL ART BOOK』 電撃ゲーム書籍編集部

 フロム・ソフトウェアが開発し、2022年2月25日に発売されたオープンワールドのアクションRPG 『ELDEN RING』の画集です。
 ゲームの設定画集ですが、イラストが壮大でとても美しく見ごたえがあります。
 またこのゲームの設定には、アメリカの小説家ジョージ・R・R・マーティンさん(代表作はアメリカのドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の元となった「氷と炎の歌」シリーズ)が世界観の構築に関わっていることもあり奥深いです。
 おすすめはゲームの道中に出てくるボスのイラストです。理由は、本編は高難易度のソウルライクゲームなのでボスキャラのデザインをじっくり見ている余裕がないからです。


Tさんの2023年に読んだ本ベスト5


『あの図書館の女たち』 ジャネット・スケスリン・チャールズ(訳:髙山祥子)

 この本では、2つの物語が交差する。
 1980年代アメリカの田舎町。ある女の子と隣人の老女との物語。
 1940年代第二次世界大戦下のパリ。ある図書館司書と本好きな人々の物語。

 女の子が困難に直面するたびに、老女は的確な言葉を投げかけ励ます。その言葉の一つ一つが自身の体験と結びついていることを、読者は知ることができる。2つの人生が交差する瞬間、それぞれの背景を知っている読者だけが、言葉の本当の意味がわかり、感動してしまう。

 

『自虐の詩』上・下巻 業田良家

 何のことはない四コマ漫画である。

 定食屋で働く苦労性の女に寄生する乱暴者のヒモ男が、ひたすらちゃぶ台をひっくり返し女は耐えるという、どうにもならないテンプレを延々と見せられる上巻。それが下巻に入るとにわかに物語味を帯び始める。なぜ女は耐えるのか。その理由が徐々にあきらかとなっていく。
 この世は地獄にもなりうるし、そこから救われることもありうる。批評家呉智英をして聖書と対比せしめた本書は、裏切りとは何か、救いとは何かという哲学的次元に到達している四コマ漫画である。もう最後は号泣である。四コマ漫画で号泣。他にないよ、こんなの。 


『サレ・エ・ぺぺ 塩と胡椒』 四方田犬彦

 「みんな情報を喰っているだけなんすよ!」知り合いの八百屋は酔った勢いで、情報に振り回せる消費者たちを嘆いていた。(お前こそ有機野菜専門の八百屋やんけ)
 食べログやランキングサイト、SNSで評価が高い料理店を探し、料理の写真をインスタにアップする。でもこれはちょっと前の話である。今や「20分以内に食べれらるイタリア料理!」とAIに話しかければ、Uber Eatsが届けてくれるし、Uber(タクシーのほう)が迎えにきて何も指示せずともレストランテに送り届けてくれる。席につくと同時に料理が運ばれてくる。すべてがビックデータとアルゴリズムが裏で処理してくれて、私に最適なお店と料理が自動的に選択されているのだ。
 もはや情報すら喰わなくなりつつ昨今、失われているのは食事にたどり着くまで物語だ。食の豊穣さは、食に纏わる物語の豊穣さなのではないか。本書は評論家である著者が、どこまでも誠実かつ知的に食と向き合ったものであり、良質な文学を読んでいるときと同様に豊かな気持ちにしてくれる。食の観光地化や標準化のような安易な物語ではない、比較文化研究に裏打ちされたどっしりした物語を味わってみてはいかがでしょう。

 

『永久も半ばに過ぎて』 中島らも

 中島らもの小説。詐欺師と写植屋と編集者の物語。
 変な薬を飲まされた写植屋が、無意識のうちに物語を作ってしまい、それを本にして金儲けしようというストーリー。
 『LieLieLie』という映画になっている。豊悦かっこいい
 この映画をみて、文字をいっぱい見ていればすごいものができるんじゃね?と短絡し、印刷会社に入社してしまった。今のところ、なにかを書き始める兆候はない。そもそも校正ではだめだったのかな?Oさんをそそのかせば、すごいものを書いてくれるかもしれないので、その方向で検討中である。


WEさんの2023年に読んだ本ベスト5


『朱鷺の遺言』  小林 照幸

 図書館に寄った際、本棚でふと「朱鷺」の文字が目に入り、手に取ることとなりました。著者は長野市出身のノンフィクションライターです。
 私の故郷、佐渡ではトキはもちろんよく目にしたのですが、野生復帰のために自然界に放鳥する際に話題になった時より以前のことについては、今まで意識したことがありませんでした。純日本産のトキは2003年に絶滅しました。
 本書は、その絶滅を食い止めようと奮闘した、佐渡の人々や専門家の方たちの人間模様をていねいに描いており、トキとの出会い、懐疑、信頼、惜別…などの過程が目の前に鮮明に浮かび上がってきます。鳥とこんなにも心を通わせ合った人々がいたことに想いを馳せ、何度も目頭が熱くなります。
 生物の種(しゅ)の生き死には、いざ気づいた時には人間の力ではもうどうにもならないものであり、自然環境が変わり、一度、自然そのものに生物を維持する力がなくなってしまうと人間の力では後戻りは難しい…。
 本書で一番にクローズアップされるのは、そんな人間の非力さと、自然の力と尊さについてです。今再び、空を飛ぶトキを目にした時に、今度は、今まで感じることのなかった、儚い、美しい、どうか元気に生き抜いてほしい、という純粋な感情が沸き立ち、飛び去る姿が見えなくなるまでいつまでも目で追ってしまうことでしょう。


『ふたつのアクセント―長野県のことばと共通語』  工藤 敦男

 長野県出身で、長らくアナウンサーを務めてきた著者が、北信と全国共通語のアクセントの比較、ひいては北信と東信のアクセントの比較を具体的な単語をふんだんにあげ、自身の体験談も交えながら楽しく紹介しています。
 長野県方言には大きく分けて2種類のアクセント体系が存在します。北信と、静岡県・愛知県の県境沿いの地域に分布する「外輪東京式アクセント」と、それ以外の地域に分布する「中輪東京式アクセント」です。外輪東京式は新潟県の一部や静岡県・愛知県にまたがる地域と共通するアクセント体系。中輪東京式は東京とも共通する全国共通語に近いアクセント体系。
 言われてみないと気づけない、そんな「ことば」の少しの違いを楽しむ。本書を通して、こんな故郷の楽しみ方もできるのではないでしょうか。


『パウル・ツェランと中国の天使』  多和田 葉子(訳:関口 裕昭)

 「コロナ禍のベルリン。若き研究者のパトリックはカフェで、ツェランを愛読する謎めいた中国系の男性に出会う。”死のフーガ”、”糸の太陽たち”、”子午線”…… 2人は想像力を駆使しながらその詩の世界に接近していく。」(本書帯より引用)
 ドイツ文学の研究者でもある著者が、詩人ツェランの詩を題材に書いた著作の、「注釈付き翻訳小説」です。日本人がドイツ語で書いた小説を、別の日本人が日本語に翻訳し、語句に注釈を加えたという、なんとも面白い成り立ちの本です。小説ではありますが、すぐに「これは小説っぽい体裁をまとった詩なのではないか」という気持ちが私はしました。比喩表現を多用し、普段巡り合わないような不思議な語句の組み合わせに想像力を掻き立てられる感覚。詩とは、ことばとの戯れかもしれません。
 原語であるドイツ語の言語感覚が日本語に変換されて生まれ変わる、本書はそんな実験にも思えます。少し変わった読書体験ができるかもしれません。


『火まつり』  中上 健次

 「世間を震撼させた猟奇事件に中上健次が迫る。海と山に囲まれた熊野の寒村。そこでひときわ広い土地を所有する池田家の長男・達男は、小さいころから悪行が絶えず、猿の肉を食べたり、神事に使う魚を獲るなどやりたい放題。それでも面と向かって文句を言う者は誰もいなかった。そんななか、何者かがハマチの養殖場に重油を流して地元に大損害を与える事件が発生。次いでぼや騒ぎまで起きた。だれもが達男の仕業だと考えたが――。実際に起きた「熊野一族7人殺害事件」をもとに、中上健次が映画シナリオを書き下ろした話題作と、のちに雑誌連載されたノベライズ版を収録。」(小学館ウェブサイトより引用


『校正のこころ 増補改訂第二版: 積極的受け身のすすめ』  大西 寿男

 「これまでにない校正論。待望の増補改訂版。
 DTPや電子媒体、SNSの普及により、グーテンベルク以来の出版革命期を迎えた現代に、言葉を正し、整えるという校正の仕事はどうあるべきか。誰もが情報発信できる時代にこそ求められる校正の方法論を、古今東西の出版校正史をひもとき、長年の実務経験と共に解き明かす。日々言葉と向き合う出版人へ、そして言葉と本を愛する人へ贈る、技法解説を超えた包括的校正論。激変するデジタル技術や環境に対応した待望の増補改訂版。」(創元社ウェブサイトより引用


WDさんの2023年に読んだ本ベスト5

 2023年にリリースされたものに限ってピックしました。

『BOOKSのんべえ お酒で味わう日本文学32選』 木村 衣有子

 映像や写真よりも印象的な文章が一番食欲(飲欲?)をそそるのではと思っています。こういう視点から所謂クラシックスを読めば、またこれまでとちがった景色が見えてきます。


『杉浦康平と写植の時代: 光学技術と日本語のデザイン』 阿部 卓也

 印刷出版業界に触れていると「わたしたちの業界での平家物語」として読むことができます(もちろんそうじゃなくても楽しめます)。InDesign日本語版の誕生のようなエピソードも、かつて平家物語の小さな話がサンプリングされたり、スピンオフしていった能や歌舞伎のように楽しめるというところもそっくりだと思います。


『うたわない女はいない』 働く三十六歌仙

 短文型SNSの影響か短歌や俳句などの「短い日本語表現」が注目されるようになってしばらく経ちましたが、身近な題材での企画モノであれば歌集はショート動画のように楽しめるのでおすすめです。


『索引 ~の歴史 書物史を変えた大発明』  デニス・ダンカン(訳:小野木明恵)

 こういうジェイムズ・グリック「インフォメーション: 情報技術の人類史」のような技術にまつわる長い長い叙事詩みたいなものをダラダラ読むこともまた良しです。本、というかコンテンツという概念を一体誰が形づくるのかをあらためて考えさせられてしまいました。


『宗教とデザイン』 松田行正

 そのときそのときでパッと開いたところから始めて、先に進んだり少し戻ったりして読んでいます。たまにリファレンスで別の本へ飛んだり、wikipediaに飛んだりすることもあります。読書が一冊の本で完結する行為ではないということを体験してみたい方に。

↓ちなみに番外として…(実はこれが一番読んだかも)

『ミニマル料理: 最小限の材料で最大のおいしさを手に入れる現代のレシピ85』 稲田俊輔

 レシピ本というよりも事象を抽象化していくプロセスの解説書のような本です。その事象を本質的に成り立たせているものを追求していくという意味では哲学書と分類することもできそうです。麻婆豆腐とチャーシュー麺がおすすめです。