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羽後燦樹のブックレビュー『ポピュリズム大陸南米』

☆☆☆☆ お薦めの1冊

著者:外山尚之
出版社 : 日本経済新聞出版
発売日 : 2023年6月15日
単行本 : 314ページ

日経新聞の前サンパウロ支局長が著した南米7ヶ国のルポです。
「南米」「ポピュリズム」。ともに馴染みのあるワードではなく、とっつきにくい印象もなきにしもあらずですが、「南米の『今』が知りたい」「ポピュリズムが生じる土壌とは?」といったテーマに関心のある方には是非お薦めしたい一冊です。

南米諸国の社会/政治/経済については書籍が少なく、まして南米の「現代」に触れたものとなると非常に限定的。
「歴史」になりきっていない情報はなかなか出版物になりません。
そんな中で本書は現役のジャーナリストが自ら現場に足を運んで著したホットなルポ。まさに南米の「今」を臨場感をもって知ることができます。

カバーしているのは、ベネズエラ・アルゼンチン・ブラジル・チリ・コロンビア・ペルー・ボリビア。
登場するのはチャベス・マドゥロ・マクリ・ボルソナロ・ルラ・フジモリetc.

新聞紙上では彼等「ポピュリズム系」の政治家の動静は「誰がどうした」というレベルの事実関係程度しか報じられません(紙面の関係でしょうね)が、本書では彼らが登場した背景/経緯やパーソナリティ、支持者や反対派など国民の反応といった要素までヴィヴィッドに伝えてくれています。

キーワードは「ポピュリズム」。
「大衆迎合主義」などと訳されますが、「大衆」(この定義自体ある意味微妙ですが)ウケの良い言動、政策を繰り出す一方、中長期的な社会秩序や経済秩序の維持発展には無関心で、そういう「ポピュリスト」が権力を握ると結果として急進的で場当たり、ブレの大きい国家運営になりがちです。

中南米諸国は本書で取り上げられた7ヶ国のみならず、大半の国々がそうしたポピュリズムが蔓延しやすい、蔓延している、と言って良い状況にあります。

その背景には植民地時代から連綿と続く「格差が固定化された社会構造」がある、と著者は分析しています。

少数の特権階級が国を支配し、圧倒的多数の「大衆」は社会の中で浮揚する機会を与えられず常に不満を溜めている。情報や教育も十分に与えられていないため、大衆にウケの良い現状打破の施策は刹那的で中長期的な視点を欠いている。そもそも施策に中長期的な整合性を求めていない。

こうした風土のもとに繰り返される政策は左派政権であれば、主要産業の国有化であり、補助金のバラマキであり、右派政権であれば「自由化」の名のもとでの緊縮財政や外資導入。いずれも政権を取ったら思いっきり極端に舵を切るのでやがて副作用が現れて、ハイパーインフレ、通貨安(暴落)が起こり、経済は破綻し社会インフラがどんどん疲弊していく。
国民は「やっぱり現政権ではダメだ」とまた別のポピュリズム政治家の場当たり施策に飛びつく。

本書は、取り上げたいずれの国でも多かれ少なかれこうした負の連鎖が生じていることを如実に描き出しています。

瘦せ細る中間層、格差の固定化、極端な政治主張とそれを妄信的に支持する人々・・・。
ポピュリズムを育てる土壌は南米大陸だけにとどまりません。北米にも、欧州にも、アフリカにもそしてアジアにも。

本書の最後のフレーズは、「南米で起きていることは、日本にとっても、そして日本人にとっても、対岸の火事ではない。」

南米の「解像度」を高めてくれる良書です。■

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