666

最近、こわい。「666」が襲ってくる。 私はあるときを境に、「666」の数字によく出会うようになった。


「666」といえば、通称「悪魔の数字」。 映画「オーメン」は6月6日午前6時に産まれた悪魔の仔の話である。 外国では不吉な数字とされているのだ。 詳しい話は端折るが、私はテレビで「666」の数字を観て以来、実生活でことごとくこの数字に出会ってい る。 人に話すと、「それはその数字に敏感になってるから目につくだけで、普段から気づかないうちに出会っ てるもんだよ」と言われる。いわゆる引き寄せの法則だ。 でも、違う。多分ちょっと違うのだ。なんか、頻度が違うし、現れ方が個人的すぎるし、露骨なのだ。


銀行に通帳記入に行ったとき。恥ずかしい話だが、私はそのときかなりお金がなかった。 たしか、残高は1000円あるかないかくらいだったなあ。やばいなあ。 ぼんやりとそう考えながら機械に通帳を入れ、記入完了を待つ。通帳がにゅるりと口から出てくる。 私は、そこに書かれた残高を見て驚愕した。———¥666。 あ、あ、ああ。こわい。と思った。666のことが気になって以来、幾度となく私はお金を引き出した。ATM利用時間外で手数料もかかった。長い長い運命の中で、現れた数字。

深夜、真っ暗な部屋で布団に潜りながら、友人のAと携帯でメッセージのやりとりをする。 ふと、ホーム画面に戻ったとき。私の携帯は現在のデータ使用量がホーム画面に表示されるのだが、そこには———666MB。 友人にすぐメッセージを送る。『たすけて!』画面のスクリーンショットを送る。『え、なに?』『よく見て!』『え?』 Aとは私が通帳記入をしたあと、一緒に夕飯を共にしていて、その時 666のことについては話してある。 2秒もせずにAから『嫌!!!!!!』とメッセージが来た。


そして数日後。今度はAの方からメッセージが届く。 そこには、Aがプレイ中のゲーム画面の画像。プレイヤーの手持ちのお金———666ベル。 『ねえ、あんたといたせいで私まで...』ついに666の脅威は私の友人にまで及んでしまった。 数分後。またAから画像の送信。スマホアプリのアップデート画面。青い背景に白い鳥。Twitterのアイコンだ。 アップデートすると———ver.6.66。『助けてよ...』悲痛なメッセージが届く。

恐怖でふらふらな私はスーパーで買い物をした。安くなっていたサーモン寿司パック、水2リットル、冷凍フライドポテト。おいしいものを食べて元気を出そう。足早にレジへ向かう。おっと、今日はカバンが小さいから、2 円の有料ビニール袋も買わなくちゃ。 店員が、冷静に私に告げる。———「お会計、666 円になります」。
思わず、膝から崩れ落ちそうになる。有料ビニール袋さえ買わなければ、664 円だったのに。あまりにも残酷な運命のいたずら。 私を、嗤っている。もう、もうやめて。


身も心も憔悴しきった私とAは、共通の友人にこのことを話してみた。いつも ロリータファッションに身を包んでいる、お人形のようにかわいい友人。名前はエリカちゃん。
エリカちゃんは、私たちと666の因縁を神妙な面持ちで聞いてくれた。 そして話を全て聞き終わったあと、白い肌にきれいに映える真っ赤な唇を動かし、 「Aちゃんとはぎちゃん(とは、私のことだ)は、キリスト教の人?」と聞いてきた。
えっ。うーん。特にこだわりはないけど。実家に仏壇あるし、神棚あるし、仏教かな。 そう答えるとエリカちゃんはにっこりと、「じゃあ大丈夫じゃない?」と笑った。 えっ、そういう問題なの?私と友人はポカンとしてしまった。

しかし、このエリカちゃんの助言のおかげで、666 の数字に出会ったときは「いや、うちは、仏教だから!」 と思うことにしている。
不思議と勇気が湧いて、恐怖が薄れる気がする。文字通り神がかったアドバイスをくれたエリカちゃんには、本当に感謝しかない。

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