アリに足を噛まれる

GW、全然出勤しても良かったのだが、とりあえず2日から全日休みで希望を出してみたら問題なく通った。今までずっと職種はサービス業だったから、GWに仕事がないのはかなり久しぶりのことである。
昨日も今日もデザインや執筆の作業をしたくてなんの予定も入れなかったが、体調もあまり良くなく作業もあまり捗らず、今日はいつもよりゆっくり起きた。

連続で出かけず家にこもりきりでいるとき、隙を見つけて外に出て日光を浴びることがよくある。
鬱にはセロトニンが効くとずっと前に聞いてから、家にいすぎて気持ちが悶々としないように一旦外に出て日光を少し浴びてまた家に入る、という行為をよくする。
でもなんとなく「これくらいでセロトニン出たかな?」と思うくらいで家に引っ込んでいるのだが、果たして本当にセロトニンが出ているのかは分からない。

昼食を買いに近所のスーパーに出かけがてら、近くの大きな団地に公園みたいな芝生とベンチがあるので、今日はそこに少し座ってボーッとしてみることにした。

ここ1年くらいずっとマガポケ(漫画アプリ)で漫画を読むのがルーティーンになっていて、最近良く読んでいるのは『リエゾン』『透明なゆりかご』『波よ聞いてくれ』である。
なぜ3つ上げたかというと毎日3回までは動画視聴でプラス1話読めるので、その時一番ホットな3作品を優先して動画視聴をするのだが、今はそれが上記の3作品なのである。

中でもログインボーナスのプレミアムチケットを利用するのは『リエゾン』で、児童精神科が舞台の漫画なのだが、様々な発達障害や心療症状の話が出てくる。絵も魅力的だし話も面白いしで、毎朝、作中で繰り広げられるドラマに胸を掻きむしられながら出勤している。
その『リエゾン』で習い事をたくさんさせられすぎている女の子が出てきて、児童精神科の佐山先生が『ボーッとする時間も子どもには大事、ボーッとしてる時間で人は様々なことを整理する』とアドバイスしていた。

確かに、ボーッとする時間が最近少なかったかもな、と感じていて、昼食を採って作業を開始する前にボーッとしてみよう、と思ったのである。
今日は天気もいいしセロトニンも出せるじゃないか、と一石二鳥だな、と思って団地のベンチの近くに自転車を停め、しっかり日焼け止めも塗ってきたから大丈夫と、そこでボーッとすることにした。
私は何にでも影響をすぐ受ける。
そもそも、一石二鳥や日焼け止めなどの意識は、全然ボーッとじゃないな、と思いながら。

足元を見るとちらほらとアリがいる。
そういえばアリをしばらく見ていなかった気がして、やっぱりボーッとできていなかったかもしれない、と思う。

しかし目線はすぐ携帯に移り、すぐにタイムライン上のセクハラやパワハラの告発が飛び込んできて、それを読み鬱々としながら、しかも日差しが強くて携帯の画面がよく見えなくて、日光を感知して画面を明るくする機能を作動させるために、携帯を日に晒して角度を調節しながら、せっかく画面が明るくなってもまたすぐ暗くなって、また画面を直射日光に向けていらいらとしているところで、全然ボーッとじゃない、とはっと我に返り、携帯を閉じた。

周囲を見ると、団地の住人なのか、母親が5、6歳くらいの娘を遊ばせている。
娘は縄跳びを飛んでいて、時折つまずいたりしながら楽しそうだ。
マガポケでホットな漫画三銃士のひとつである『透明なゆりかご』は、とある産婦人科で起こる様々なドラマを描いた作品だ。この作品を読んで何度泣いたか分からない。『リエゾン』と一緒にこの漫画も毎朝読みながら出勤しているので、会社に到着する頃には情緒が大変なことになっている。

そんな影響で、縄跳びをする女の子を見ていて、「自分から産まれた子どもがこんなに大きくなって、しかも目の前で縄跳びをしてる、そしてその遊びによって楽しいって感情を感じてるってすごいな」と思う。
最初小さな細胞でしかなかった生命が、洋服を着たり好き嫌いを持つなんてなんだかもうどういうことなんだろう、という気持ちになってくる。

また携帯を見そうになって、いやいやと手を下げる。デジタルデトックスだ。
ボーッと、と、セロトニンと、デジタルデトックスのリラックス三銃士だ。
私は何にでもすぐ影響を受ける。

かわりに先ほどまで見ていたTwitterのタイムラインを思い出す。
間接的にタイムラインを見ているので果たして今私はデジタルデトックスができているか分からないけど、嫌な記事やニュースの他にも、面白そうな演劇の情報や、読んでみたいと思う戯曲の情報もあって、私はなんだかそれに勇気を貰っていた。
演劇ってもっと自由に考えていいんだった、と思いながら、しばらく経つとそのことをちょっと忘れてしまう。そういうことを何度も思い出しては忘れてまた思い出す。ふつふつと勇気が出ながら、ああ、これはちゃんとセロトニンが出ているかもな、と思った瞬間、右足にチクッとした鋭い痛みが走る。

ハッとしてすぐ足を見ると、アリが一匹、痛みのした箇所の近くを這っていた。
すぐにアリを払って足を見ると、赤い点がプチッと一つできていた。
アリに噛まれた。
アリの噛む力は強いと聞いたことはあったけど、こんなにしっかり痛いのか。
人生でアリに噛まれるのは初めてのことで、なんだかサーっと血の気が引いてくる。
私の脳内には、『この時はアリに噛まれただけだと大して気にしていなかった。しかし後ほど大事件に…!』と、世界仰天ニュースの再現VTRが流れていた。
もし、アリが不思議な細菌を持っていてそれが今私の体内に入ってきていたら…と考えてしまう。でも、もうどうしようもない。
ボーッとする気分も失せてしまって、そのまま帰路につく。
貯めたセロトニンを使い切ってしまった気分だ。

スーパーで買った商品は以下。

・アンガス牛ステーキのガーリックライス(肉を食べなきゃ、と思って買った)
・フラン ダブルショコラ
・ポテトチップス フレンチサラダ味
・ミルキー味のシュークリーム
・焼そばモッチッチ(夕食用。気になってたけど食べたことがなくて安かったので買ってみた。しかも、前に『お客様の声』で「焼そばモッチッチを仕入れてください」とお願いしている人がいて、店側より「入荷しました」と返事を貰っていたのを見ていたので、「これがあの人の念願の…」と思い買ってしまった。余談だが私も最近『お客様の声』に声を届けてみようかウズウズしている。もちろんクレームではなく、「大好きなスーパーです!いつもアボカドチーズ焼きがあると買ってしまいます。大好きなので、これからもつくってください!それと前まで置いていたレンジでチンするだけのチーズダッカルビ、大好きでよく食べていたので、可能であれば復刻してほしいです!」と、気持ち悪い情熱を持って書くつもりだ)

とりあえず、帰ってこれを書こうと思い立つくらいだから、充分セロトニンは出たと思っていいだろう。

今日の分の『リエゾン』で、「時間が解決するとは限らないんです」という台詞が出てきて、本当にその通りだなと思った。
確かに時間がある程度問題を癒すことはあるが、もし目の前に問題の原因となっているものが急に現れたら、私はいつでも当時に戻ってしまう自信がある。
私は昔から、問題を解決するのは時間ではなく距離だ、と思っている。

時間×速さ=距離。
確かに、時間が経てば経つほどそれは問題と距離を置くということなのかもしれない。
しかし、距離を置けばそれだけ早く問題が解決する気がするので、つまり距離÷時間=速さということになるのだが、距離を時間で割るという意味がわからないので、この話はここで終わりだ。

漫画三銃士の最後の作品『波よ聞いてくれ』は北海道のラジオ局が舞台の漫画なのだが、本当に死ぬほど面白いので皆に読んで欲しい。
沙村広明の漫画は実は今まで読んだことがなかったのだが、漫画を描くのがうまいなあ、と阿呆みたいな感想しか出てこない上、ワードチョイスが素晴らしいので読ませるテンポが凄い。
昔の恋人の本棚に沙村広明の漫画があったけど、結局その時は読んだことがなかったなと思った。なんの作品が置いてあったかは思い出せないが、多分『無限の住人』だった気がする。『ブラッドハーレーの馬車』も最近Twitter上で鬱漫画ランキングの1位と言われてバズっていたので、早く読んでみたい。

とりあえずアリに噛まれた足はなんともなさそうなので、これから遅めの昼食を摂る。終わったら大好きなカフェオレを飲みながら現実に向き合いながら作業だ。でもちゃんと自由でいいのだと自分に言い聞かせながら、色んなことからたまにちょっと逃げてボーッとしながら最終的には逃げないで向き合っていこう、と思いながら、セロトニンの分泌を感じながら、この文章を終わります。

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