ソニーグループ【6758】金融事業のスピンオフ上場で、エンタメ領域で大型投資を進める話と事業の現状

日経平均に採用されている銘柄を全て取り上げているこのnote、今回取り上げるのはソニーグループ株式会社です。

プレイステーションなどのゲームや家電でよく知られている企業ですね。

事業内容と業績のポイント

それでは早速事業内容から見ていきましょう。

ソニーの事業セグメントは以下の6つです。
①ゲーム&ネットワークサービス
②音楽
③映画
④エンタテイメント・テクノロジー&サービス:テレビやカメラ、スマホなどのエレクトロニクス関連
⑤イメージング&センシング・ソリューション:CMOSイメージセンサー(カメラのレンズから取り込んだ光を電気信号に変えて電子機器などに使えるようにする半導体)関連の事業
⑥金融:ソニー生命やソニー銀行・損保

ゲームや音楽、映画などエンターテイメント関連の事業や、家電、イメージセンサーや金融事業も展開しています。

2023年3月期時点でのそれぞれの事業ごとの売上と(営業利益)の構成は以下の通りです。
①ゲーム&ネットワークサービス:31% (20%)
②音楽:12% (21%)
③映画:12% (9%)
④エンタテイメント・テクノロジー&サービス:21% (14%)
⑤イメージング&センシング・ソリューション:11% (17%)
⑥金融:13% (18%)

売上・利益ともに分散した構成で、各事業とも一定の規模を持っていますが、ゲームや音楽、映画といったエンタメ関連の規模が大きい企業となっています。

ソニーは家電のイメージが強いように、以前はエレクトロニクスが中心の企業で2000年度時点では売上の69%を占めていました。

ですが、近年のソニーはエンタテイメント関連の事業が成長し売上の半分以上を占めるようになりました。
ゲーム・音楽・映画の売上は、1995年度の1兆円から2022年度には6.4兆円まで拡大しています。

エレクトロニクスの企業からエンターテイメントの企業へ転換した事が分かります。

近年の投資の方向性としても、エンターテイメント関連の投資が大半です。
2021年度~2023年度の中期経営計画では1.8兆円の投資計画があり、2022年度時点は実行済みの1兆2400億円の内、ゲーム・音楽・映画がそれぞれ21%で計63%と全体の6割以上をエンターテイメント関連の3事業へ投資しています。

その中でも特に投資を進めているのがコンテンツIPの取得で、実行した投資の内58%を占めています。

グローバルな動画配信サービスなども普及し、コンテンツやIPのグローバル展開がしやすい土壌は出来ていますし、媒体が増えた事で横展開も容易になりました。
例えばゲームのヒット作を映画や動画、音楽などへ展開している様子も、よく見かけるようになりましたよね。

IP活用の可能性が高まる中で、コンテンツやIPを軸として、エンターテイメント領域を拡大していこうとしている事が分かります。

特に近年は有利子負債を増加させつつ投資を進めており、積極投資の姿勢が鮮明です。

金融事業では2024年1月31日にソニーペイメントサービスの株式一部売却を行い、さらに2024年2月14日にはソニーフィナンシャルグループのスピンオフ上場の準備開始を始めています。

国内事業が中心で大きな成長が難しくなった金融事業では回収のフェーズに入っている事が分かります。
回収した資金に関してもエンタメ事業への投資拡大に利用していくと考えられます。

また、インドの大手メディアであるジー・エンタテイメントと進めていた合併がとん挫しています。

ジー・エンタテイメントの合併頓挫による資金と金融事業で回収した資金を併せて、エンタメ領域へ大規模な投資を行う事が想定されますから、投資先やエンタメ企業として成長していけるのかには注目です。

続いて近年の業績の推移を見ていきましょう。

ここ10年ほどの売上の推移を見ていくと、2013年度~2019年度までは横ばい傾向が続きますが、2020年度以降は拡大しており、2022年度は特に大きな伸びを見せ、初の10兆円を突破し11兆5398億円となっています。

営業利益の推移を見ていくと2013年度は265億円と低利益水準でしたが、そこから増益傾向で推移しており2010年代後半には7000億円~9000億円ほどで推移するまでになっています。

そして売上が拡大していた2020年度以降は利益も好調で、ここ2年ほどは1.2兆円と過去最高の営業利益を達成しています。

2019年度までは売上は横ばい傾向も、収益性の改善が進み、2021年度以降は売上・利益ともに非常に好調だという事ですね。

この好調はエンタメ企業への変化が進む中で、オンライン化との相性が良かった事も影響しています。
各事業についてもう少し詳しく見ていってみましょう。

まず、①ゲーム&ネットワークサービス事業の売上構成を見ていくと、2022年度時点ではプレイステーション5などのハード売上比率が31%ほどで、ソフトはデジタルが18%、フィジカルが5%で計23%ほどとなっています。

他にはアドオンコンテンツ(課金系など追加要素を加えるもの)が24%で、プレーステーションプラスなどのネットワークも13%といった構成です。

以前のゲームはハードやソフトの売り切りモデルが中心でした。
ですが、オンライン化によってマネタイズの方法が増え、アドオンやネットワークなどのリカーリング型(継続的)の収益も規模が大きくなっています。
さらに、ソフト自体もデジタル化で利益率が高まっています。
オンライン化はゲーム事業にとって好影響が大きいという事です。

そういった中でゲーム事業は、利益率を高めつつ成長してきました。

続いて②音楽事業の売上の内訳を見ていくと、音楽制作(ストリーミング)が主力で全体の44%を占めています。
それに次ぐのが音楽制作(その他)で21%ですから音楽を制作しストリーミングやパッケージで販売する事を主力とした事業となっています。

そして音楽制作の市場は、ストリーミングサービスの成長で2015年以降拡大を続けています。
音楽もオンライン化によってストリーミング市場が拡大を続け、成長してきたという事ですね。

③映画事業の売上の内訳は映画製作が34%
テレビ番組制作(アメリカの3大ネットワークや、ケーブルテレビ局、ネットフリックスなどへのコンテンツ制作)が39%
メディアネットワーク(配信メディアで視聴料や広告料を得るモデル)が27%となっています。

映画製作以外の規模が大きくなってきており、従来のような映画のヒットコンテンツが出るかに左右されにくい安定した構成となっています。

こういった基盤が作れたのは動画配信サービスの普及によって、コンテンツの提供先が増加した影響が大きいです。
この事業でも、オンライン化によってマネタイズの方法が増えてきたことで成長してきたという事ですね。

このようにエンタメ事業とオンライン化というのは非常に相性が良く、近年のソニーの好調要因となっている事が分かります。
そして今後も、オンライン化とその市場の成長と共に、事業の成長が期待できる状況にいると考えられます。

また、その他にもイメージセンサーの事業も成長してきました。

⑤イメージング&センシング・ソリューション事業の売上構成はモバイル向けのイメージセンサーが74%となっているように、イメージセンサーはモバイル向けの用途が大きいです。

なので急速に普及したスマホと共に市場の成長も進んできました、そして市場も成長する中でソニーは市場シェアも拡大させており、2022年では金額ベースの市場シェアは51%となっています。
市場も成長し市場シェアも増加させ、成長してきた事業だという事ですね。

今後の市場の見通しとしても、さらに多様なものにカメラが搭載される時代になっていきますので、長期的な成長が見込まれています。

実際にソニーのイメージング&センシング・ソリューション事業ではイメージセンサーのその他用途は売上の16%と、まだ規模は小さいですが、車載向けや、産業機向け、AI処理機能搭載品など用途拡大が進んでいるとしています。

直近では消費低迷によって、スマートフォン市場が低調になる中で市場予測の下方修正を行っていますが、長期的には市場と共に成長が見込まれる事業です。

このように多くの事業が成長してきており、今後も成長が期待できる状況にいる事が分かると思います。

とはいえ、コロナ禍で急速にオンライン化が進んだ反動やインフレによる消費低迷が想定される中で、成長は一服となっています。

2022年度の好調には為替の影響もありました。
前期比で売上高は+1兆2643億円、利益面は+979億円となっています。

2022年度は前期比で営業利益が59億円の増益でしたから、為替の影響を除くと減益だったという事です。

もちろん利益水準自体が2021年度と2022年度は高水準ですし、今後も円安による好影響も期待されます。
なので、好調が持続している事は間違いありませんが、2022年の事業は停滞傾向だったという事です。

2023年3月期の為替の影響を除いたセグメント別の営業利益の前期比を見てみると以下の通りです。

①ゲーム&ネットワークサービス:▲637億円
②音楽:+522億円
③映画:▲981億円
④エンタテイメント・テクノロジー&サービス:▲429億円
⑤イメージング&センシング・ソリューション:▲643億円
⑥金融:+736億円

音楽と金融以外の事業は苦戦しています。

①ゲーム&ネットワークサービス事業では、ハードの売上が堅調だった一方でコストの増加や、利益率の高いソフトの販売が減少しました。

巣ごもりで急速に業績が伸びた反動が出ていると考えられます。
ヒット作が出なければ2024年3月期以降の業績も大きく成長するとは考えにくいでしょう。

③映画事業では、前期の大型作品と事業譲渡益700億円の反動がありました。
一時要因の反動による影響が大きく、2023年3月期の利益水準が実力値と考えられますので、2024年3月期以降も大ヒット作が出なければ同様の利益水準が続く事が考えられます。

④エンタテイメントテクノロジー&サービス分野では、主力のテレビの販売台数減少、⑤イメージング&ソリューション分野では主力のモバイル向けの販売数量は減少による影響を受けて減益となっています。

景気の影響を受ける事業ですから、インフレによって消費が伸び悩む中で2024年3月期以降も一定の苦戦傾向が想定される状況です。

つまり2024年3月期以降は、2023年3月期時点で収益性が悪化していた4つの事業の停滞傾向は続く可能性が高いです。

エンタメ企業への転換で近年の業績は好調で高水準であるものの、その一服傾向が続く可能性が高い状況だという事ですね。

次の成長のためにも、積極投資を進めるエンタメ系の事業でどのような投資を進め、成長を見せていけるかに注目です。

直近の業績

それでは、状況が分かったところで続いて直近の業績を見ていきましょう。
今回見ていくのは2024年3月期の通期の業績です。

売上高:13兆208億円(+18.6%)
営業利益:1兆2088億円(▲7.2%)
純利益:9706億円(▲3.5%)
増収は続きながらも減益となっています。
高水準の利益は続いていますが、やはりその成長は停滞傾向にあります。

もう少し詳しく見ていきましょう。

まず為替の影響を見ていくと、売上で+6461億円、利益面では+1214億円となっています。
円安が続く中で為替の好影響はありました。

為替の影響を除いたセグメント別の営業利益の前期比は以下の通りです。

①ゲーム&ネットワークサービス:+16億円
②音楽:+386億円
③映画:▲16億円
④エンタテイメント・テクノロジー&サービス:▲126億円
⑤イメージング&センシング・ソリューション:▲810億円
⑥金融:▲1445億円

音楽事業は好調が続きますが、ゲームや映画は横ばい傾向が続き、その他の事業は苦戦した状況です。

それぞれの事業の状況についてもう少し詳しく見ていきます。

ゲーム&ネットワークサービス事業では、アドオンコンテンツ含む自社製作以外のゲームソフト販売増加はあったものの、プロモーション等によるハードウェア損失の拡大、自社制作ソフトの販売減少を受けて、為替の影響を除いた利益は横ばいにとどまりました。

大型プロモーションにも関わらず、ハードと自社ソフトが伸び悩んでいます。

2024年の2月14日にはPS5の販売台数も2500万台の予想から2100万台へ引き下げるなど、販売面が想定より苦戦していた事が分かります。

利益率の高いソフトを売るにはハードの普及が必要ですから、ハード面が伸び悩む中で停滞傾向が続く事が想定されます。

とはいえ、円安によって増益となりましたし、2025年3月期以降も円安が続く中で為替面からの好調は期待されます。

続いて音楽分野はストリーミングサービスの拡大によって好調が続いており上方修正も行っていました。
市場の成長も続いていますし、2025年3月期以降も好調が続く事が期待されます。

映画事業では、動画配信サービスのCrunchyrollの有料会員増加や劇場公開作品の増加はありつつも、ハリウッドのストライキによるテレビ番組制作数の減少、広告費の増加などがあり横ばい傾向の推移となりました。

ハリウッドのストライキの影響が続く事が想定されていますし、大きく市況が変動している状況ではありませんから、今後もヒット作が無ければ同程度の水準が続く可能性が高そうです。

エンタテイメント・テクノロジー&サービス事業ではテレビの販売不振を受けて為替の影響を除くと減益となっています。
景況感から考えても、苦戦傾向が続く可能性は高そうですですが、2024年3月期は円安によって増益でしたし、円安の好影響は続く事が考えられます。

イメージング&センシング・ソリューション事業では、モバイル向けのイメージセンサーの増収はありつつも、製造経費の増加と新製品量産立ち上げによる費用増加があり、為替の影響を除くと大幅減益となりました。

2025年3月期以降は新製品量産立ち上げによる費用が減少する事が期待できますので、一定の業績の改善が期待されます。

金融分野では、ソニー生命が市況変動による運用益の増加で大幅増収となっています。
一方で変額保険の市況変動による利益の減少や、前期の一時要因の反動などがあり減益となりました。

為替の影響を除くと停滞している事業が多いものの、音楽事業の成長やイメージセンサーの事業の大きな収益性の改善が期待できますし、円安が続く中で為替の影響を含めれば、堅調な業績が期待できる事業は多いです。
為替次第では好調が期待できると考えられます。

ソニーの2025年3月期の通期予想を見てみると、減収ながらも営業利益は5%の増益を見込んでいます。

これはドル円の想定レートは145円ほどでの予想ですから、現在の150円以上のレートが続けば、好調が期待できると考えられます。

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