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放射線治療の完了と、大麻の “スケジュール” 変更が意味すること

4月9日に始まった放射線治療の 16回のセッションが 5月2日で終了し、乳がんの治療が一通り完了しました。幸い、放射線を当てた部分の皮膚がうっすらと赤くなっている程度で副作用もほとんどなく元気です。デルモゾールG軟膏というステロイドと抗生物質含有の薬を処方され、一日最低2回は塗ってくださいと指示されて使用していますが、私は同時に、抗炎症作用のある CBD と CBG オイルも外用薬として併用しています。

奇しくも、治療が終了する2日前の 4月30日、アメリカの連邦レベルでの大麻規制に大きな変化がありました。1970年にアメリカで CSA (Controlled Substance Act、規制物質法)が策定(施行は 1971年)されて以来ずっと「スケジュール I 」と分類されていた大麻のカテゴリーを「スケジュール III」に変更することを、その執行権限を持つ DEA(麻薬取締局)が了承したのです。

スケジュールとは何か

この note を読んでいる方の中には薬物や大麻の規制についてご存じない方もいると思うので簡単に説明すると、この「スケジュール」とは日程表とか予定表という意味ではなくて、さまざまな薬物を、その危険性の度合いに準じて I から V までに分類した各カテゴリーを指しています。CSA は 1961年に国連が制定した「単一麻薬条約」のアメリカ国内実施立法で、単一麻薬条約による薬物の分類とは名称が若干違ってややこしいのですが、どちらにおいても大麻が、ヘロインやコカインと同類の、「乱用の危険性が高く医学的有用性が認められない」物質に分類されていたという点は共通していました。

2020年に単一麻薬条約における大麻の分類が変更され、最も危険な物質のカテゴリーから外れてその医学的有用性が認められた後も、DEA は国連の勧告や活動家からの要請を断固として拒否し、大麻を「スケジュール I 」から除外しようとはしませんでした。それが今回、ついに 54年ぶりの改訂が実現し、大麻は「乱用の危険性が高く、一般に認められた医学的有用性がない」スケジュール I から、「乱用の危険性はあるが一般に認められた医学的有用性がある」スケジュール III に分類が変更されることになったのです。

この変更によってアメリカの大麻業界にはさまざまな変化が起きることが予想され、それについてはすでに山のような記事がありますからここでそれらを逐一挙げることはしませんが、医療大麻の合法化を願う活動家として、また一人の患者として何よりも重要であると感じる変化は、大麻に医学的な有用性があることが連邦法レベルで認められたこと、そしてそれにより、人を対象とした臨床試験を含め、アメリカでの医療大麻研究が容易になるということです。

『スケジュール I 』という映画のタイトルに込められた意味

例を挙げましょう。『スケジュール I 』という題名のドキュメンタリー映画があります。これはアメリカの、卵巣がんを患う女性、ミシェル・ケンドールさんが自ら制作したものです。

ミシェルは、卵巣がんを治すカンナビノイド製剤の開発に望みをかけ、そのために自分のがん細胞と研究のための資金をある研究者に提供しました。その研究者とは、イスラエルの分子生物学者、Hinanit Koltai 博士でした。アメリカでは上述の理由で行えなかった研究を、イスラエルの研究所に託したのです。

Koltai 博士が行った基礎研究では、まずミシェルのがん細胞を死滅させるのに効果のある大麻品種を特定し、その後、そこに含まれるカンナビノイドのうちのどれが(あるいはどの組み合わせが)最も効果が高いかを同定しました。その結果、卵巣がんには THC(テトラヒドロカンナビノール)、CBC(カンナビクロメン)、CBG(カンナビゲロール)の組み合わせが最も効果的であること、さらに、抗がん剤ニラパリブと併用すると効果がさらに高まるが、ゲムシタビンと組み合わせても効果は変わらないということがわかったのです。この結果は、2023年6月に CannMed という医療大麻のカンファレンスで発表されました。

残念ながらミシェルはこの研究の結果を待たず 2021年9月に亡くなりました。もしも 1971年に大麻がスケジュール I に指定されず、医療利用の研究がこの 50年間、アメリカを含む世界各地で行われていたなら、標準治療と併用できる大麻製剤が開発され、ひょっとしたら今頃ミシェルは元気にしていたかもしれません。ミシェルがドキュメンタリーのタイトルを『スケジュール I 』としたのには、必要な患者が医療大麻を使えるようにするための研究を阻んできた法的な壁への抗議の意味が込められていたのです。

スケジュール変更と今後の研究

この基礎研究の結果を踏まえ、次に必要なのは人を対象とした臨床試験です。上に紹介した記事にもありますが、Koltai 博士の研究チームは現在、最低でも 500万ドルといわれる、臨床試験のための資金調達を目指しています。

今回のスケジュール変更は、今後こうした研究がアメリカ国内で行えるようになることを意味しています。また、アメリカの大麻企業や製薬会社にとっては、創薬に向けた投資としての研究資金提供がしやすくなることでしょう。遅すぎた変更ではありますが、これによって医療大麻研究が大きく前進してくれることを願ってやみません。


<参考資料>

薬物政策国際委員会(The Global Commission on Drug Policy )による 2019 年 6 月発行の報告書 “CLASSIFICATION OF PSYCHOACTIVE
SUBSTANCES”(日本語訳)


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