八神ひろき2

八神 ひろき(漫画家)

1967年、新潟生まれ。マンガ家。講談社新人漫画賞に応募した後、アシスタントを経て再度応募、入選。月刊少年マガジン「2人におまかせ」で連載デビューした。現在少年たちにはバスケットマンガ「DEAR BOYS ACT2」、大人たちにはフェチ満載マンガ「G-taste」で人気。

- Interviewz.TV - 収録日 2001/04/20

――少年マンガをあまり読まないもので、「G-taste」連載の後、「DEAR BOYS」を知ったんですよ。まさに表八神と裏八神ですね。

八神 はい(笑)。

――「2人におまかせ」が規制かなにかで強制終了されたとか……それで健全路線になったと聞きましたが。

八神 それもあるんですけど、もう「2人」はやりつくしたっていうのがあったんです。最初から(「DEAR BOYS」みたいな作品を)描きたかったけど、編集が「オマエは男が描けないから」って。それじゃお色気でいこうと始めた連載でしたから。

――それで「DEAR BOYS」って、極端な逆転ですね。

八神 どれだけ自分が「男」を描けるか試そうと思って。最初全然描けてないんですけど。

――「G‐taste」から入ってきた人にはメンバー全員オカマに見えますよね。

八神(爆笑)そうかも知れませんねぇ。

――それで、「G‐taste」ですけど。今、こういうフェチがメジャーになったことを、作者としてどう思いますか?

八神 めちゃめちゃアンダーでいく予定だったんですけど。

――ヒットした一番の理由はなんでしょう?

八神 う~ん、フェチが一般化したのと、世の中におねえさま好きが以外に多かったのかな。マンガの世界ってロリ系が多かったから。

――ああ、それで「G」にはロリがいないんですね。

八神 意図的です。ロリは自分が描かなくても描く人、いっぱいいますから。

――わりと綿密にスタートしたんですね。

八神 いや、それは後付け。最初はただ描きたいもの描いてただけで。

――最初は「ミスターマガジン」の依頼でしたよね?

八神 そうです。なんか好きなもの描いてくれと。で、時間がないからというと、「何枚なら描ける?」。隔週なら一回4ページで月8枚なら……と言ったら、「わかった。それで好きなもの描いてくれ」って。

――好きなもの(笑)。その頃から「ミスター」の凋落が(笑)。

八神 やばいよね。

――じゃコンテのチェックとか。

八神 できたものは見てましたよ。

――いや、編集って普通その過程をチェックするじゃないですか。

八神 見なかった。やばいですよねぇ(笑)。でも他のマンガ家さんのはちゃんと見てましたけど。

――「DEAR BOYS」の実績でオッケーだったんだ。

八神 そう。それでできたものがパンチラだったと(笑)。しかもオチがない。

――じゃ、こんなに長く続くものだとは。

八神 全然思わなかった。正直なところ、一巻で終わるんだろうな、って。それぐらいなら仕事量増やしてももつかな、と思ったんです。

――最初はマックじゃなかったですよね。

八神 最初の頃は手塗りです。

――ここは常時、何人くらいが詰めてるんですか?

八神 「G」に関してはここで作業してません。大阪のスタジオにスタッフがいて、そこに線画に色指定したデータを送ってます。細かく言うとマックじゃないかな。

――手塗りだった頃は八神さんが?

八神 はい。一人で塗ってました。だから4ページ描くのに一週間から十日くらいかかって……こんなもん仕事になんねぇやって思って。

――アシスタント使わなかったんだ。それは自分のフェチだから手を出すなっていうこだわりですか?

八神 そうです。極端に言うと商業誌使った同人誌みたいなものですから。

――フィギュアはいつぐらいから。

八神 連載が始まって1年半ぐらい経った頃かな……。最初はワンダーフェスティバルで、個人の方が作らせてほしいとおっしゃって。それからですね、量産され始めたのは。

――フィギュアのできあがりに対して、なにか注文とかされたんですか?

八神 いや、特に何も……。ただ最初に監修させてくれと要求しました。

――監修して注意点とか言いますよね

八神 むちむちにしてくれと、ハイヒールの先は絶対尖らせろ、ハイヒールの先は丸まってはいかんと。

――「G」って八神さんの妄想だけの世界ですよね。妄想がつきるってこともあるんじゃないかって思うんです。特に最近のはフェチっていうより、コスプレ、キャラクター作りになってる感がありますけど。

八神 ……幸か不幸かメディアミックスされて、あっちからの注文が多いんです。これをやってくれ、あれをやってくれって。それに合わせた内容を描くことが、ものすごく多くなっちゃったんですよ。自分の本意ではないものが多い。だから、ときどき一本だけ描かせてくれとか言って自分のシュミを満足させたり……。最近だと「窪み」の回とかですね。

――最初放し飼いだったのが、今は管理されたっていうことですか。しかもやめるにやめられない状態。

八神 悲しいかなうれしいかな、本当にそういう状態なんですよ。しかもスケジュールに追われてしまって、妥協しなくちゃいけない部分がでてくる。妥協できないなと思って始めたものですから……それは本当に悲しいです。

――規制とかはどうですか?

八神 今が一番あるんじゃないですか。マンガ界は一番やばい時期。

――それにどう対処されるんですか?

八神 本来、自分のマンガは性行為を描くものではなかったから……。合体シーンが一番やばいんですね。だから極端に言うと、それでフェティッシュな描き方に行けるんならそっちにもってってしまうよって。

――隠すよりモロ出しの回の方が人気は高いんですか?

八神 一概に言えないんですが、やってると高いですね。やはり。でも、そこが重要じゃないんですから。

――「G」の行為を自分で試されたことはありますか?

八神(爆笑)。これ、オフレコで。

――もうわかりました。

八神 じゃ、ノーコメントで(笑)。

――行間読めるって。ただ、自分でやってみないとわからない部分って絶対出てくると思うんですよ。取材はどうしてます?

八神 最近は忙しくて全くそういうお店に行けなくなってしまった。想像だけです。

――なんかやってる、絶対(笑)。アシスタントさん女性ですか?

八神 いいえ。あ、オレ、ホモじゃないよ。

――ルックスはホモなのに。

八神 そう。痴漢にもあうし。二丁目行くと大変。ポッキーちゃんとか呼ばれて。

――だいたいどういうサイクルでお仕事されてるんですか。

八神 アシスタントさんがこない日の朝は大抵9時に起きます。それから大抵朝の4時から5時くらいまで起きてます。それで睡眠時間が多い方です。普段は3時間くらいの睡眠ですね。

――それでよくカラダがもつ……。

八神 でもアシスタントさんが来た日は不眠ですよ。アシさんたちには寝てもらいますが。オレ、眠りが深いのかな。

――特殊体質かも。

八神 月刊ですから、そんなに詰めてやらないんです。ただ「G」のほうはネームができないときは延々かかってもできない。浮かべばすぐなんですけど。あと、自分がいいと思っても、こりゃ誰にもウケないだろうって、最初からやり直したりすることが多いですから。「G」は没ネタがすごく多い。

――誰にもウケないって?

八神 50音を最初から発音させる。画面は唇だけでおわりとか。

――ウケるかも、それ(笑)。でも煮詰まってないとでてこない発想ですね。気分転換はどうしてます?

八神 以前は酒飲んでましたが、今はもう時間がないから描くのみ。考え込まないタイプなのでストレスも溜め込まないんです。

――あの、はっきり言ってもう遊んで暮らせるんじゃないかって思うんですけど。

八神 「BOYS」、もうちょっとで3000万部になるんですよ。やめるにやめられない。講談社の中でも、安定して部数保ってるのは少ないってハナシですから。それに、お金稼いだ実感ないんです。執着ないのかな。たぶんお金のこと考え出すときがやめるときですよね。

――最初からマンガ家になってお金持ちになってとか考えないかったんだ。

八神 そう。最初、パンチラマンガ描いたら講談社から電話があって。「オマエは女しか描けないだろう」って、男しか出てこないような作品描く漫画家さんのところにアシスタントに行けと。そこに3ヶ月いたんです。

――そんなムチャな。

八神 そこで男を描けるようになれっていうことだったんでしょうね。オレ、同人誌経験もないし、マンガのこと何もわからなかったから、そこでいろいろ覚えました。

――あれ?じゃマンガ家になりたいっていう一念みたいなものもなかったんだ?

八神 はい。もう全然なし。

――在学中に応募したんですか?

八神 はい。電気系の学校だったんですけど。先生に「本気でなりたいの?」はい。「なれる?」って聞かれてそんなのわかるわきゃないと。でもまぁ、やってみろって言われて。

――それが進路指導。

八神 そう(笑)。ずっとオレ、映画撮ってたんですよ。先生はそれを見ててくれたらしく、気のすむまでやってみなって。たぶん無理だと思ってたでしょうね。

――でも、映画方面に行かないでマンガにきたっていうのは……。

八神 映画って、文化祭の出し物ですから。それを3年間やってたというだけで。

――それまでペン画の練習は?

八神 一切やらなかった。2年の終わりに描き始めて3年の夏に応募したら電話がきたんです。よく覚えてる。「夕焼けニャンニャン」見てたら電話が。

――マジメにやってるアシスタントさんが聞いたら、怒りますよ。

八神 アシスタント最後の日の光景は忘れられませんね。チーフとか、年配の方の悲しい目が、こう……。

――それ以降はとんとん拍子に?

八神 いえ、一文無しだから。親にも絶対出さないでって言ってたし、描かなくちゃってことでバイトもできないから、4畳半でひたすら描いてましたね。もちろんアシスタントさんなんて雇えないから、ギャラが出るまで4回分くらいひとりで描いてました。

――そんなとき編集が助けてくれたりしないんですか?

八神 忘れもしない。そのときの編集、スタッドレス置かしてくれってタイヤ4本持ちこんだんですよ。4畳半なのに。どうすんだよって。それでちょっと待っててくれっていって、AV借りてきてネーム書いてるオレの横で見始めた。何しに来てるんだ、おめぇはよ!(笑)。今某雑誌の編集長です。東大卒で。

――なんか、適当にやってたらおいしいとこに転がっていく……。ある意味、今の八神さんも似たようなものでしょう。

八神(爆笑)。ただ、契約金もなし、月刊マガジンがページ3500円の頃で、最初は本当に苦労しましたよ。ガム食ってましたもん、オレ。ガムが主食でチョコが贅沢、みたいな。そのくせ、いいかっこしいだから食えなくっても風呂だけは欠かさない。毎日絶対銭湯行くという。

――じゃ自宅持っていちばんうれしかったのは、自由に風呂に入れること。

八神 そう、もう本当に。3件目で風呂がついた部屋になるんですけど、「ああ、これがシャワーだぁ」って感激して。

――連載始めてもなかなか風呂付きまでは遠かったと。

八神 そう。貧乏でしたから。4畳半の次が6畳間ふたつの部屋だったんですけど、隣がトラックの運転手。夜になると「うるせいっ」て叫ぶから、こそこそ話してると「こそこそ喋んなよ」って(笑)。全然話せない。それで大家がらみで問題になって、結局そこを追い出されてしまったんです。ちょうど単行本が出たんで3件目のマンションに越せたからよかったですけど。

――なんか、読めてきた。仕事運が強いかわりに、生活運が最悪なのかも。

八神 そう。いや本当に。今も水難がついて回るし……。それで風呂付きマンションの3件目。でも、ここにも問題が……上の階にアタマがいっちゃったおばさんがいて「ギター鳴らすな」って部屋に入ってくるんですよ。オレ、ギター持ってないのに。しかも隣にヤクザが越してきたんです。刺青したモノホンのヤクザ。それで「マンガ描いてるのか、虫プロか」って(笑)。もうアシさんたちびびりまくりで。それで仕事場と自宅を別けて今のところに落ち着いたわけです。

――さて、「G」に話しを戻しましょう(笑)。女性のカラダで八神さんが感じる、一番のフェチってどこですか。

八神 指先だったり、さっき言ったヒールの先とかですかね。

――先端ですね。

八神 そうですね。先端恐怖症になったこともあるんですけど。ペン先のせいで。そんなときでもヒールの先は平気でした。

――八神さん、ハイヒール持ってるでしょ?

八神 はい。コレクションしてますから。厚底靴が流行った時、このままハイヒールやピンヒールがなくなるんじゃないかって思ったんですよ。大ピンチ。それでオレが買わなくちゃ、残さなくちゃという使命感にかられて買いまくりました。今、何十足くらいあるんだろう……。

――それ、誰も履かないんですよね?

八神 はい。その情景見てると心やすらぐんですよ。

――MとS。どっちのキャラクターが八神さんの好みですか?

八神 私はM体質で、好きなタイプはSなんです。でも、描いてる女の子は全員Mっ気がある。だから自分の好みの女の子を描いてるんじゃなくて、自分を描いてたんだなぁって、最近思いましたね。

――女に生まれたら、こうなるだろうという願望ですか。

八神 はい。非常に女性に生まれたかったですから。ただ、女に生まれても女を愛したと思います。

――八神さん、女装したことありますか?

八神 (爆笑)。これ、オフレコですよね?

――もうわかったから、いいです。

八神 でも、ピンヒールやハイヒールは履かなかったですよ。足が入らないから。

――心のやすらぎが得られました?

八神 得られました(爆笑)。女装癖がある人だと思います、オレは。そう、生まれつき、女性が好きな体質なんですよ。

――さて、最後の質問ですが、今「DEAR BOYS」と「G-taste」どっちかやめるとしたら、どちらをやめますか?

八神 今は状況的にはどちらもやめられないんだけど……最初に言ったように妥協が繰り返されるなら「G」をやめます。ただ、ここまで大きいプロジェクトになると、やめたら迷惑かかる人が多くて……自分ひとりの考えではやめられない。

――ありがとうございました。本当に雑談に終始してしまいましたね。

八神 いいんですか、こんなで。

――う~ん、じゃパブ的な話しをしましょうか(笑)。

八神 6月の後半になると思いますが「DEAR BOYS」と「G-taste」の合同のサイン会があります。昼の部は「D」、夜の部は「G」で、トークライブもあります。

――トークって一人語り?

八神 そうかも知れないし、今、誰を呼ぼうかってとこ。

――ひとりはまずい(笑)。口が滑りやすいから。

八神(苦笑)。あと東京と大阪でサイン会の予定があります。

――サイン会とか取材とか、慣れました?

八神 なんかね……もうすっかり笑い者だよね。

――……今日はありがとうございました。

Tommy鈴木的後記
雑談というか、八神さんのカミングアウトの場になってしまった……。「D」の読者が見たら失望するかもしれないなぁ。そのぶん「G」読者は喜ぶかもしれないけど。ともかく、講談社が何か言ってくる前にアップするべく全力をつくしましたね、今回は(講談社の名誉のために言って置くと、何も横やりはこなかったです)。サービス満点の八神さんですが、最後はもう本当に「いいよ八神さん、そこまでしなくても。見ていられないから」って言っちゃいました。一線のマンガ家の生活はかくも痛々しい。くれぐれも、健康とお金にも気をつけてください。それでヒマになったら飲みにでも行きましょうよ。いつか。

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