なぜ、アイドルの握手会はそんなに高単価なの?

アイドルの握手会のプレミアム価格と下方硬直性

 アイドルの握手会における時間単価はわが国に存在するほとんどの富裕層向けサービスと比較して高額である。仮に1,000円の握手券・特典券で10秒握手ができるという平均的なアイドル握手会での単価で計算をしても1時間の売上は36万円にも及ぶ。高級料理店、高級クラブはもちろんとして都内の5つ星ホテルのスパや、銀座の一等地にあるクリニックの美容施術を利用しても60分で10万円を超えるサービスはなかなか成立しずらい。このようにアイドル特典会市場においては純粋に人が介在するサービスの提供において法外とも考えられる値段で取引が成立している。
 また、例えばあるアイドルに対してCDの売上において10倍の人気を持つアイドルがいたとしても、その握手会単価は10倍には設定されない。逆に10分の1の人気のアイドルは、特典会価格においてはトップアイドルと全く同じ価格にしても顧客からクレームが起こることは少ない。このように握手会の価格は強い下方硬直性を持つ。
 次項より、この握手会価格の時間単価の高さと、下方硬直性について、その理由を考察する。

コスト・パー・セックス

 いきなり何を言い出すのかと思われる読者も多いと思う。このような価格プレミアムを説明するために、従来のマーケティング論等において用いられてきたブランド価値論等はあまり機能しないように思われる。そこで、説明のために本論では『コスト・パー・セックス』という概念を導入する。
 男性の最も下劣な習性の一つとして、女性との性交を成功させるために、どれだけのコストがかかるかを無意識のうちに計算してしまうという習性がある。
 美味しいものを食べさせたり、高級なプレゼントをしたり、豪華なホテルに連れて行ったりと、とかく女性と性交するにはお金や時間がかかるものである(ただしイケメンを除く)。
 男性は日々、女性と性交するにあたってのコストを無意識のうちに計算している。また、さらに下劣な話を進めると、同じ女性と複数回の性交を重ねていくことで性交1単位毎に発生するコストは逓減していくことが経験的に知られている。経済学的には限界性交費用は逓減していくと考えられる。
 男性には複数回の性交における費用対効果の期待値(Exh : Expected value of H)、つまり一回あたりの性交にかけてもいいと思える妥当な費用を計算しているのである。
 潜在的な性交の可能回数(Ph : Possibility of H)でそれにかかる費用(Ch : Cost of H)を割ったものを性交の費用対効果の期待値とすると、コスト・パー・セックスを表す式は以下となる。

Exh= Ch/Ph

 口にするのもはばかられる議論ではあるが、性交はある程度偏在する財と仮定すると、性風俗産業はもとより、近年話題のパパ活に至るまで、このコスト・パー・セックスが計算されてしまった時点でそこに市場が形成され、需給曲線の交点である妥当な価格というものが形成されてしまう。またその市場の構成要素となってしまった時点で、その価格は競争に巻き込まれ値踏みされ、低下していってしまう性質をもっている。そしてどのような容姿や肩書の女性であっても、一度男性に性交できる(やれる)と判断されてしまった時点で仮想の費用対効果計算の渦に巻き込まれてしまうのである。

恋愛禁止の経済学的な意義

 こんな下劣極まりない話が、神聖なアイドルとの握手となんの関係があるのかと疑問に思う読者も多いことと思う。
しかし、この議論にアイドルにとって恋愛禁止がなぜ重要視されるのかの大きな理由が隠されている。
アイドルが恋愛禁止と謳うことの最も大きな意義は、性交の可能性を理論上ゼロにした地球上で唯一の女性になるという点である。

 つまり、可能性交の回数が限りなくゼロに近づく(Ph)→0 ことにより、性交にかけてもよい妥当な費用はかぎりなく無限に近づく。また、この状態においては性交という概念を頭から消し去る必要性があるため、ヲタクは全員口を揃えて「アイドルとセックスなんて考えたこともない」と言うことになる。
 この価格プレミアムのマジックはアイドル本人を含む地球上の全員が絶対に性交をしないという契約に同意するという地球規模の社会契約によって維持されるものである。地球上のすべての男性がヲタクだったり、すべてのアイドルが青春をアイドルに捧げる誓いを立てていてれば問題はないのだがそんなはずはない。

半ヲタは、殺せ。

 このマジックを破ってしまう存在に対しては非常に厳しい嫌悪の目が向けられる。すなわち、つながりと関係者、スキャンダルを起こすアイドルである。「半ヲタは殺せ」「推しと共演するバンドマンと芸人はとりあえず殺すリスト逝き」など過剰な発言がしばしばヲタク内で見られることや、恋愛禁止を破ったアイドルに対してヲタクコミュニティの外側から見ると理解できない程の過剰なバッシングが浴びせられる。それはこの性交をしないという魔術を破ることにより、プレミアムな価格設定を支える根底が崩れ、利益が著しく損失されることによりアイドル市場自体が崩壊に向かうことを、参加者全員が薄々感じとっているからである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?