見出し画像

【短編小説SS】ラブコメ学園

入学希望で学生が殺到する、ラ・ブリリアント・コミュニケーション・メモリアル学園(長いため、通称ラブコメ学園と呼ぶ)が、創立三十周年となった。

私こと古屋大介は、いたって平々凡々な顔立ちと黒ぶちメガネ。
そして中肉中背の20代前半の男性。
どこに出しても恥ずかしくないモブである。
そんな私がこのラブコメ学園に教師のタマゴとして、新規配属されることとなった。

配属五日目にして、校長先生の妙に長い朝礼に思わず欠伸をしそうになるのを堪える。
真横には二つ年上の三城先生、彼女は私のようなモブ系人間と違い、どちらかといえば美人だ。
高いピンヒールを履いていて、それでやっと私と身長が同じくらいになる。配属早々なぜか攻撃ならぬ口撃的。
カンタンな質問をしても強い口調で返され、冷たく、敵視されている。
しかしそうはいっても辛そうで震える足元に、思わず大丈夫ですかと声をかけた。
あっさり無言で睨み返されてしまったが無論、私は彼女に対し何かをやらかした記憶はない。

さて、校長先生の話もようやく終わり、ラブコメ学園の授業内容へと移る。
といっても、通常の高校生活となんら変わりはない。
どちらかといえば、授業の合間にあるもろもろのイベントが差し込まれる点が特徴的だ。

今日もなんだか怪しげな転校生がやってきた。
茶髪の男子高生が一人……うん、髪質的なものかな。
赤髪のそばかす女学生……まあ、これも遺伝的なものかな。
青い髪の男子学生と銀髪の女学生。……お前らは一体、何者なんだ?
心の中でツッコミながらも詮索は無用だ。
毎日どこかの教室で、転校生がやってくるのだ。
細かいことを考えていてはキリがない。

それに、私の仕事は教師の仕事をしながら、イベントを起こすことだ。
たまたま、本当にたまたま、美女美男子の横の席が空いているだけだ●●●●●●●●●●●●●●●●●●
だから、こういうのだ。
「あそこの席があいてるから、座ってくれ」
少し棒読みになってしまったが、モブなので大丈夫。
案の定、転校生と美女は互いに睨みあう。
そうそう、最初は好印象というより、相性がよくないくらいが面白いのだ。

さらにイベントは進む。
やたらに料理ができない女学生には丁寧に教え……てはならない。
彼女たちはそれが売りなのだから。
料理や実験が失敗で爆発を起こし、かばう男子生徒もセットだ。

目の前の優しい光景に、自らの心も癒される。
青春時代は人生の中で想像以上に短い、たくさん学んで楽しんで欲しい。

放課後は二人きりになった生徒たちを探し回る。
「誰もいないのか~?」などと棒読みしながら、わざとらしく教室を去るのだ。

もちろん、奥のカーテンが妙に膨らんでいて、生徒が二人隠れているのはバレバレだ。風もないのに例のカーテンの裾は揺れているし、これでバレないって思う方がスゴイ。

心の中でツッコミながらも外からカギをかけ、生徒たちを二人きりにすることを忘れない。
ラブコメの展開ではおなじみだ。
あるときは体育館倉庫、あるときは部活動の教室にカギをかける。

そうして教室を確認している間に階段を下りてくる三城先生を見つけた。
一人きりで、話しかけるには今が絶好のチャンスだ。
私は、あなたに嫌われる覚えが無いんですが――と当初からの質問を投げかけねば。
そう思って私が階段の下の踊り場で待機していたら、文字通り三城先生が上から降ってきた。
どうやら例のピンヒールですべったようだ。

どう考えても、このまま階段から落ちるのはマズい。

大丈夫ですか!と颯爽と抱え込む――そんな脳筋漫画のようなことは私にはできず、カエルのように下敷きになってしまった。
ラブコメならぬギャグマンガ展開だが、私は気にしない。
三城先生を無事助けられただけでも満足だ。

「ごめんなさい!古屋先生……大丈夫ですか」と想像以上に心配され、思わず笑顔になる。
「いえいえ、無事でよかった……それよりも」
少し痛かったが、私は軽傷だ。

下から見ていたが、どうも階段の様子がおかしい。
数えて下から五段目、三城先生が足を滑らせた箇所を念入りに調べた。
その様子を心配そうに見つめる三城先生。

「どうされました?」
「いえ、気のせいでしょう」
階段の塗装ミスだろうか。下から五段目だけ妙に滑り止めが効いていない気がする。
これでは、上からプリントを大量にもった女学生が毎日のように降ってくるのも頷ける。
ここでノートやプリントをぶちまけて、誰かに拾ってもらっているのを、すでに何度もみたからだ。
……しかし、さすがに階段は危ないのではないだろうか。

そう考え続け、無言で三城先生と共に静かに職員室へと向かう。
「ではこれで」と早々に立ち去ろうと手を挙げた。すると私の手の甲から擦り傷があったようで、少しだけ血がぽたりと落ちる。

三城先生の視線を感じ、そんなもん舐めりゃ治る、と一瞬思ったが実際にやったら変態だな。

「あの、それ……」とおずおずと三城先生に声をかけられ、絆創膏くらい一人で貼れるから、といいたかった。
ただ私はまだ保健室の場所を知らなかったため、思わず三城先生の方をみた。保健室を知らないことを察してくれたのか静かに三城先生に案内され、職員室近くの保健室に共に入る。

「あら、保健室の先生、いませんね」

なぜだ。なぜこのタイミングでいない?
仕方なく、ガラスケースから消毒液とばんそうこうを自分で取り出した。
「この程度一人でできますので」とキッチリと断りを入れておく。
「でも、私のせいですので」と返され、しぶしぶ絆創膏を貼ってもらうことにした。

……妙な気分だ。

ラブコメ展開の気分を振り払うように、三城先生を見た。
タイミングは今しかないだろう。

「三城先生は、私のことを嫌ってますか?」

どストレートにきいてしまった。しかし、そもそも嫌いならこれ以上、嫌われることはないだろう。

「……い、いえ。違うんです」
返答に困った三城先生の目が少しだけ潤んだ気がした。

「私、校長先生にいわれたんです。新任の古屋先生に期待している、一目みたときから、彼は、将来この学園の校長先生になろうだろうって。それだけの着眼点がある先生だと。なんだか悔しくて、悔しくて。だから、思わず敵対心を……」

校長先生になるタイプの人間……とは、どういうことだろうか。

「それに、あなたがどうみても普通の先生というのも悔しくて」

なるほど、普通、というものは案外難しいと聞いたことがある。
私レベルのモブはあまり見かけない、ということだろうか……。
三城先生は美人なので、平凡に憧れるということだろうか。

「完全に筋違いですよね、こんなに良い人だったのに。本当にごめんなさい」

真向から謝られた。私は誤解がとけて互いにいいことだと大丈夫ですよ、と小さく声をかけるにとどまった。
ガラリ、と保健室の扉が開く音と共に入ってきたのは保健室の先生だ。

「ちょっと呼び出されちゃって、外にでていたのよ。お邪魔だったかしら」
「いえ、問題ありません」
「そう……ならいいけど。あら、どこでケガしたの?」

そういわれ、私はさらりと、ことのあらましを説明した。

「ああ、あの階段。危ないわよね、ケガする子が多くて昔からそう思っていたんだけど……まあ、次から気を付けてちょうだい」

なんだって?ケガをする子が多いのに?
というか、あの場所を放置でいいのだろうか?
再び不審感を抱きつつ、私たちはその場を後にした。

あくる朝。
長い長い校長先生の朝礼をききながら、またも欠伸をひとつする私。
相変わらず、真横にはピンヒールを履いて足が震える三城先生。

昨日のこと忘れたんですか?とツッコミたくなる気持ちを抑え、
「大丈夫ですか?」となるべく穏便に声をかける。
「え、ええ……」
良かった、昨日よりかは幾分か態度がマシだ。

しかし、次の瞬間。
三城先生は気を失ってしまった。
思わず、私は受け止める。
マズい、保健室に――と思った瞬間、気づいてしまった。

この既知の展開に。

あの時、保健室の先生が呼ばれたのも、階段の塗装ミスを放置しているのも。
毎日のようにくる、怪しげな出自の生徒たちを誘致しているのも全て。

そして毎日繰り返される妙に長い朝礼……
私の目の前で倒れる麗しき女学生。そこに駆けよる男子生徒。

私がすべてを察したことに、気づいたのだろう。
校長先生は私の視線に対し、肯定した。

「優秀な生徒や優秀な教師が、共に楽しく学園生活を謳歌しているのが、何よりです」

気を失った三城先生をしっかりと支えながら、私はこの”学園最上級職の仕事●●●●●●●●●”が何たるかをーー悟った。


みたところ下書きがどれも加筆が必要なため、
短編小説をお蔵出しします
66日ライランって大変💦


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

読んでいただきまして、ありがとうございます。 サポートいただければ嬉しいですが、記事を読んでいただいたことが私にとって一番嬉しいです。 次の記事も、みなさんに喜んで、楽しんでもらえるよう頑張ります!