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デザイン思考の必要条件【Design 3.0 の道標】

これまで私は、デザイン思考(Design 2.0)のプロセスに則ってワークショップを設計し、ファシリテーションを幾度となく行ってきました。その中で得た気づきと反省がDesign 3.0 の入り口となりました。そのいくつかはデザイン思考について書かれた様々な文献で詳しく説明されていることがなかったりします。しかし、これがないとデザイン思考は効果を発揮しないため、デザイン思考の必要条件とも言うべきことなのではないかと思います。

※ Design 3.0 の定義についてはこちらを参照ください。

デザイン思考に必要な条件

私がこれまで設計したワークショップの参加者は、多様な視点と後々の合意形成を目論んで、たいていビジネス系/テクノロジー系、若手/ベテラン、一般社員/管理職を交えて招集してきました。もちろんクリエイティブ系のメンバーも参加することもあります。しかしながら、クリエイティブ系だからといって必ずしもこの必要条件を満たしているとは限りません。ずばり、私が思う必要条件は下記の4つです。

  • 現場からはじめよ。ただし、それが全てではない。

  • 失敗を受け入れ、失敗に慣れろ。

  • 他人のアイデアを乗りこなせ。

  • イテレーションをまわしてこそ。本番は2周目から。

ワークショップはそのテーマが既存事業の改善にしろ新商品/新規事業の創出にしろ、組織の活動方針を大なり小なり決めることに変わりはありません。しかし、ワークショップが合意形成以上の意味を持つことは稀です。せっかく忙しい業務の合間を縫って優秀な頭脳を集めて実施するのですから、創造的なアウトプットを生み出したいところですが、それはなかなか難しいのです。単なる合意形成で終わったり、メンバー間の親睦を深めるだけだったり、アイデア出しという名のガス抜きにしかならないこともしばしばあります。

もし集団的創造性を発揮し、クリエイティブなアウトプットをワークショップに求めるのであれば、上記の4つのポイントは重要になってくると思います。ここから順を追って説明します。

現場からはじめよ。ただし、それが全てではない。

これはコロナ禍でWSを行っていたからこその制約のひとつではあったのですが、大人数を連れた現場訪問、ユーザー観察はなかなか実施できませんでした。

そのため、全員で一次情報に触れることができず、代わりにデスクリサーチをインプット情報とすることがしばしばありました。

それ故にWhoが曖昧で、WhatやWhyが深まらないので、いわゆるインサイトに辿り着けないのです。もし仮にインサイトに気づいている人がいたとしても他の人が共感できないため、結果的にそれが総意にはなりづらいのです。

デザイン思考はWhoに対する共感からスタートします。 Whoは非常に重要です。その後の全てのプロセスの礎になり、上に積み重ねられるからです。もちろん複数のソースからペルソナを作ると言う手法もありますが、それは複数の現場訪問やユーザーヒアリングを経た後で行われるべきものです。

一方で、Whoが放つ言葉をそのまま鵜呑みにしてはいけません。確かにWhoは起点であり軸になるため、彼らが放つ言葉は重みをもちますが、その言葉に引きずられるとWhoのための個別解の最適化は行えても、Whoの創造を超えたイノベーションにたどり着くことは不可能です。言葉にできるということは本人が気づき理解できているということなのでインサイトとは呼べません。

共感とはむしろ、人々がはっきりと表現できない隠れたニーズを理解することだ。生身の人間やその行動を観察すれば、単刀直入な質問だけでは見出せない教訓が学べるのだ。

トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー著「クリエイティブ・マインドセット」

失敗を受け入れ、失敗に慣れろ

これはクリエイティブ系の教育を受けたことのある人はある程度心得のあることかもしれません。クリエイティブになるためにはアイデアの発散は欠かせません。ある時点でひとつのアイデアが最良解だと思っても、探索空間を広げると新たな最良解が見つかる可能性があります。クリエイティブ系の教育現場では、徹夜で必死に考えたアイデアが先生にダメ出しされまくります。そして、スケッチブックの中や外で様々な実験を繰り返し、失敗し自分のアイデアを捨てることに慣れていくのです。

失敗という言葉にはどうしてもネガティブなイメージが付きまといます。特に歴史ある企業では失敗という言葉にナーバスです。しかし、失敗には良い失敗と悪い失敗があり、良い失敗をすれば成功に近づきます。(失敗学について語り出すとまた長くなってしまうので今回は割愛します…)そして、誰しも「失敗は成功の素」という言葉を知っているにも関わらず、なるべく失敗したくないと思っています。

実は新しいことにチャレンジするには上手に失敗することが近道なのです。企業活動においても1年以内に成功したければ、1年以内に何回失敗できるかが非常に大事になってくるのです。

『ぶきっちょのためのジャグリング入門(Juggling for the Complete Kutz)』で真っ先に教えているテクニックは、2個のボールのジャグリングでも、1個のボールのジャグリングでもない。もっと基本的なテクニック、つまり「落とす」ことだ。(中略)ジャグリングを学ぶ人に失敗に慣れさせようとしているわけだ。すると、ボールを床に落とすことの方が、落とさないことよりも当たり前になる。失敗に対する恐怖さえ克服してしまえば、ジャグリングはずっとやさしくなるのだ。

トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー著「クリエイティブ・マインドセット」

しかし、日本のこれまでの教育はとかく失敗を避けることを前提として組み立てられているので、優秀な人ほど失敗を避けようとします。結果として、ワークショップにおいても自分のアイデアを否定されるのを恐れて固執したり、他の可能性に目を向けられない人が少なからずいるのです。

他人のアイデアを乗りこなせ

アイデアの質は量に比例すると言われています。しかし、一人ひとりがユニークなアイデアを出し続けるには限界があります。だから、他人のアイデアはどんどん真似して良いので改善アイデアを出すことで量を増すことが必要になります。ただし、全く同じアイデアをそれと知りつつ付箋に書くことは無意味です。私がファシリテーションを行うときは他人のアイデアに乗っかることを奨励します。

しかし、日本人の義理堅さ故に(?)”誰の”アイデアかということを尊重し過ぎているのか、あるいは自分で斬新かつ会心のアイデアを出したいのか、あまり他人のアイデアを広げようとしないことが結構あります。当の私もメンバーとしてアイデア出しを行うときは、ついつい探索空間を広げるため新しいアイデアを付箋に書こうとしてしまいます。

しかし、集団的創造性が生まれている場ではそのアイデアを考えたのは誰かはあまり意味を持たず、発案者という概念は場に溶けていきます。相互にアイデアを折り重ねていくので”誰の”アイデアでもなく”みんなの”アイデアになっていくのです。

一人ひとりが新しいアイデアを出すということは創造性の足し算ですが、他の人が出したアイデアを改良していくことは創造性の掛け算になります。もちろん、どちらも大事なのですが、集団的創造性は個々人の創造性の総和以上のものを目指すので後者がポイントになります。凡人の集団でも一人の天才を上回るには創造性の掛け算が必要です。

イテレーションを回してこそ。本番は2周目から。

突然ですが、デザイン思考のプロセスを下記の5つ(スタンフォード大学d.schoolのデザイン思考プロセスガイドより)で表現したときもっとも大事なものはどれでしょうか。

  1. 共感(Emphathize)

  2. 問題定義(Define)

  3. 発想(Ideate)

  4. プロトタイプ(Prototype)

  5. テスト(Test)

実は私の答えは1〜5ではありません。5のテストの後にどう行動するかだと思っています。デザイン思考は実験と検証を繰り返しながら、”真の問い”と”真の答え”にたどり着くプロセスです。繰り返し、つまりイタレーション抜きには成立しません。正しくイタレーションを回せれば、それより前のプロセスに多少筋の悪いところがあったとしても修正できるからです。

ワークショップにどれだけ時間とお金をかけようとも、出てくるアウトプットは仮説に過ぎません。ワークショップをやると、結構そこでやり切った感が出てしまいますが、それをプロトタイピングして検証しないことには良い結果だったか判定のしようがありません。そして、ダメだったとしても、そのアイデアの改善したり、2番目のアイデアへのピボットしなければいけないのです。

残念ながらワークショップでみんなが良いと思ったものは大抵なんらかの集団的なバイアスがかかっている可能性があるのでそれほど良い結果出ないことは往々にしてあります。だからイテレーションが大事なのです。

クリエイティブ・マインドセット/デザイン態度

さて、ここまで私のワークショップファシリテーション経験から得た気づきを説明させて頂きましたが、実はこれらのポイントはクリエイティブ・マインドセットやデザイン態度という領域で語られていることに通じます。

デザイン思考は強力な道具です。しかし、ご存知の通り道具は使い方次第です。そこから素晴らしい結果を生み出すには、道具を使う人の心持ちが非常に大事になります。

だから、デザイン思考のプロセスをトレースしただけでは、さほど画期的なアイデアは生まれにくく、仮に生まれたとしても合意形成の罠によって天才が殺されていくのです。

これは一人ひとりのマインドセットなので、ワークショップの各プロセス設計をいくら工夫しようが、ファシリテーションでどんな声掛けをしようが、その場限りの施策では限界があります。

そこで大事になってくるのがDesign 3.0のタテ軸になります。

Design 3.0の構成

Design 3.0 のタテ軸についてはまた別の記事で解説したいと思います。

ではまた。

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