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なぜ人はプロフィールを盛るのか問題

混迷を極める現代の病巣に対し、医学的な見地から軽妙洒脱な筆致で快刀乱麻にメスを入れるサブカル産業医・大室正志と、特に何もメスを入れていない朝倉祐介による、内角高めギリギリストライクゾーンを狙った新春放談企画。
初回は「なぜ人はプロフィールを盛るのか」という古くて新しい問題について、ああだこうだ言っています。
本稿は「論語と算盤と私とVoicy」の放送に加筆修正した内容です。

(編集:代 麻理子)

盛ることがリスクなこの時代に、なぜ人は盛るのか?

朝倉:年が明けましたね。2019年でございます。

大室:はい。新春放談、やりましょう!

朝倉:なんですか、今日は?

大室:今日は「人はなぜ盛るのか」について考えてみようかと思います。

朝倉:人はなぜ、盛るのか?

大室:経歴にしても何にしても、いろんなことを盛るじゃないですか、人は。

朝倉:実態以上に自分をより大きく見せてしまおうという、そういう話ね。

大室:これは心理として、誰でもちょっと間違えば十分そういうところはあるんだけれど、どこまでが許されてどこまでが許されないのか。
例えば昔の、昭和時代のミュージシャンとかって、結構なことを言ってるんですよ。でもそういうのって、ある雑誌だけで完結してたり、本人のすごいファンしか読まないような本だけで、すぐ廃刊とかになっちゃうので、そういうのはいわゆる吉田豪さんみたいな人が引っ張りだしてこなかったら絶対に目に触れるところに出てこないんですよね。
でも今って、検証可能なことって速攻で燃えるじゃないですか。
そんな時代だから、今は『盛ること』って非常にリスクになっているんですよ。

朝倉:だからあれだね、落合陽一さんのお父さんの破天荒なエピソードなんかも、今言ったらどこまで本当なんだって色々検証されてしまうっていう。

大室:そう、ただお父さんの言うことってさ、「アフリカのこことここの人に会って」とかって、検証不可能なことが多いじゃん。

朝倉:うんうん、そうね。「CIAが……」「FBIが……」とか言われたら、もうよく分かんないもんね。

大室:やっぱり盛り方にも、まず検証できる盛り方と、検証できない盛り方がある。例えば、学歴とかって、検証可能じゃないですか。

朝倉:うん、そうね。

大室:こういうので盛るのって、今の時代結構リスクなんですよ。

朝倉:はい。わかりやすい経歴詐称だもんね。

レンガを積んでいるのか、教会をつくっているのか、それが問題だ

大室:あとは、「解釈の違い」っていう盛り方あるでしょ?

朝倉:うん。

大室:僕のすごい仲良い友人のお父さんが、工務店の方で、埼玉に住んでたんだけど、派手好きなんだって。で、よく東京に来ると、「お前、知ってるか?このビル造ったの俺だぞ」って教えられてたらしい。だから骨董通りとか行くと、「親父マジすげぇ!」って思ってたらしいんだけど、大学くらいの時かな、どうやらその中の手すりだけ造ってたってことが分かったらしくて。「アレ俺詐欺」の中で言ったら相当いいランクのやつ(笑)

朝倉:まぁけどそれはさ、通りすがりに出会った大工の人に「お前何やってんだ?」って聞いて、「レンガを積んでいる」って答えるのか、「ここで教会を作って人々を救うんだ」って答えるのか、という違いの話とも解釈できるわけですよね。

大室:そう、だから人のやりがいという意味では大事な部分でもある。あとまぁ、ちっちゃい息子に言うのは微笑ましいけど、ただこれを例えば、埼玉のスナックで「俺は青山のあのブティック造った」って言うと、ちょっと意味合いが異なってくる。

朝倉:まぁねぇ。埼玉のスナックで、呑んだくれた親父がちょっと自慢することくらい許してやって欲しいって気持ちもないことはないけどね。

大室:だからじゃあ、どこで言うのか問題っていう。
あと、よく言うじゃん、R25とかって、最初に関わったライターとかって全員「あれ俺作った」って言うでしょ?

朝倉:R25とホットペッパーってさ、「あれ俺が作った」って言う人、一体何人いるだんだって思うことあるよね。100人くらい言ってんじゃないだろうか。
まぁそれだけ多くの人が思い入れを持てる仕事に巡り会えたってことは、幸せなことだよね。

大室:だからある意味みなさん……。それは当事者感があるっていう、いい部分もあるんだけど、それと「盛り」との境界線って結構難しい。

朝倉:許容範囲内の「盛り」と、経歴詐称の境目ね。

浦安は東京なのか?

大室:浦安に住んでる僕の友達が九州に行った時に「どこから来たんですか?」って聞かれたら「東京です」って言うからね。これもちょい盛りじゃん。

朝倉:まぁ、ちょい盛りだね(笑)

大室:でもそれは本人曰く、「浦安です、千葉です」って言っても九州の人はあんまり分かんないと。

朝倉:分かんないよね、確かに。罪のないちょい盛り。

大室:「東京だ」って言った方が、九州の方は分かる。でもやっぱり、「あ、都会から来たんだ」って思って欲しい部分もちょっとあったり。この辺り難しい。センシティブで。

朝倉:分かる。僕は出身地が兵庫県の西宮市ってところで、そこに対して何の恥ずかしさも無くて、むしろ郷土愛のあるほうだと思うけど、東京で出身地を説明するとき、一定の知識層の人であれば「西宮」って言ってピンときてくれるから、「出身どこ?」って聞かれると「兵庫の西宮です」って答える。けれども、まずもって兵庫県ってそんなにエッジ立ってないし分かりづらいんだよね。かと言って、大阪ではないわけよ、兵庫って。
ってなると、あんまり細かいことを言っても分かんない人に対しては「神戸の方です」って言うんだけどね。西宮であることを隠したい気持ちは全くない。むしろ言いたい。だけど分かってくんないからさ。
だから、浦安くらいはセーフかな。許してあげてほしい。

大室:浦安と東京駅って15分でしょ?ここの15分って全然情状酌量範囲内だと思う。だけどここの15分をめっちゃ分けるのが京都人なんですよ。大津と京都って15分くらい。でも必ず言うからね、「あいつ滋賀やからな」って(笑)
15分でそこまで!?(笑)

朝倉:関西人から仲間外れにされる滋賀県民と和歌山県民、ないし三重県民問題ね(笑)

大室:僕、結構京都とか遊びに行くけど、なんかの話になると必ず「でも、あいつ滋賀やからな」って誰かが言うの。何かの会話の最中に。そんなに分ける?そこ。

朝倉:まぁ、先の大戦っていうのが「応仁の乱」をあげるお土地柄だからね。細かい世界に生きてるよね、ハイコンテクストな。

大室:まぁ、ハイコンテクストですよね。それはある種、文化的な成熟度合いが高いと。パリなんかもよく「6区なのか17区なのか」ってものすごい言うじゃん。それはある種のいやらしさでもあるけど、シリコンバレー的な砂漠の真ん中にそんなコンテクストがないところに雑に建てるのは、文化的不毛の地とも言えるし、未来志向のいい部分でもあるよね。

朝倉:Googleがマウンテンビューにあろうと、サンフランシスコ市内にあろうと、サニーベールにあろうと、そこにメッセージ性は無いからね。

大室:そうそう。だからそういうコンテクストが無い街とある街って、両方ともいい部分悪い部分ある。

文化人はなぜ批判に過剰反応するのか

大室:で、さっきの経歴の話に戻すと、僕が物心ついて最初に「これ盛ったな」っていうのを意識したのって、小学校4年くらいだったかな。僕の友人がね、ある時「絶対言わないでね。俺、昨日かめはめ波出た」って言って(笑)

朝倉:かめはめ波が出ちゃったの?(笑)

大室:うん、「かめはめ波が出た」って。出たらしいんだよ(笑)
さすがに「マジ?ああ、そう……」って言って。でも、やや騙されてる奴もいて。「マジか!」って言って。

朝倉:「すげーな!」と。なんでその彼はそんなこと言っちゃったんだろうね。ちょっとかわいいけど。

大室:でもやっぱ人って本来的に自分をよく見せたい、大きく見せたいっていうのもあるんですよ。その欲望をどこまで自制するか。あと、その時代その時代に合わせて、盛ったほうが得だったりすることもあって。
例えば昔の大橋巨泉さんなんかって、最初からでかい態度をすることによって、なんとなく「あいつ偉いんじゃないか」って見られるように、戦略的にやってたって本人も言ってるわけ。そういう風に、盛ることがある種戦略として有効で、戦略としてやってると自覚的にやってる人はいいんですよ。

朝倉:けどそれでいうと、僕がたまに大室さんとの間で名前を出すような某文化人っているじゃないですか。文化の巨匠とみなされてる人。ああいう人達ってさ、やっぱり何がパワーの源なのかっていうと、「権威である」とみなされていること自体なわけでしょ?
で、権威とみなされてるからみんな高級官僚も大企業の社長もこぞってそこにかしづくわけですよ。でもはっきり言って、言ってることめちゃめちゃ怪しい。聞いている人間にしても、一体誰が分かってんだと。薄々みんなそう思ってるんだけど、そこで「王様は裸だ」って言うと、そうした巨匠は徹底的にその「裸だ」って指摘した人間を潰しにかかるんだよね。

っていうのは、「権威である」とみなされていること自体が飯の種だから、ちょっとでも自分の権威にヒビを入れようとするやつは徹底的に潰さなきゃいけない。この点さ、職業文化人というか、僕はもう「文化ゴロ」って呼んでるんだけど、文化ゴロって、盛ってるってことを守りきることが非常に重要なんだよね。
だけどそこで、文化人とみなされていながらも、「職業文化人」として以外の収入源がある人、自分のキャリアを複線化してる人って、多少そこでディスられたりしても、「変なこと言ってんね、ハハ」で終わるわけよ。こうしたポートフォリオ化に成功しているとしていない人の違いって、如実に表れると思う。

大室:確かにまぁ文化人と言われてる人って、年齢問わず、批判に過剰反応する人多い気がするな。

朝倉:めっちゃ過剰反応する。自分の権威に少しでもヒビが入ろうものなら、誰かが疑いだしたら……。まぁ、よく仮想通貨界隈の人達が言う話と同じだよね。みんなが共同幻想を抱いて、その人をすごいと思うから、その人はすごいのである。そこでちゃんと飯の種になるわけじゃん。結局は自身のブランドをレバレッジしたFeeビジネスだからね。あの人達って。

大室:なるほど。まぁそれはブランディングってとこにも関わってくるし。某有名なネズミの国の人なんて、子どもが学校の壁に描いたキャラの絵とかでも写真でアップすると注意がくるわけですよ。超こえーでしょ?(笑)
でもそれはある意味守ってる部分もあるしさ。
で、一つ言いたいのは、ちょっと自分を良く見せようとして、少しずつ嘘を重ねて、結果的に収拾がつかなくなったっていう事例はそれなりにあるということ。例えば結婚詐欺の多くは最初は騙そうと思ってないんですよ。むしろちょっとちょっと嘘ついて、最後には「やっぱ結婚できない」って言って訴えられたりする人の方が多い。本当の意味でも戦略的な結婚詐欺はあんまりいないから。だから、まあ「盛るのは戦略的に」ということですね。

朝倉:辻褄を合わせるために盛ることになるからね。戦略的にやりましょうと。
いやいや、そんな過剰に盛っちゃダメだよ!(笑)


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