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転職せず、あえての我慢も大事(休職エッセイ)

「ここは我慢ですね」

「そうですね」


 実況中継アナウンサーの二人が、緊迫した空気に言葉を刻む。出塁を許してしまい、ピンチの場面。ピッチャーの緊張感は画面越しにも伝わる。


 我慢をする、と意識することは、実生活で少ない気がする。知らないうちに我慢をしてしまって、自分の輝きを失ってしまうことはあるが。



 我慢できなくて、次に行動をすることはある。特に昨今は、そういう風潮だと思う。転職ブームだ。



 休職している中で「転職しないの?」と数多くの人から言われた。その言葉が生まれたのは、私がどんな体験をしたかを淡々と話したことに起因する。


 みんな口々に「そんなヒドイ職場は自分の友達の中で初めて聞いた」「え、本当に? そんなこと言う上司がいるの?」と驚く。



 こっちはもう感覚が麻痺してるので、ありがたい正常反応だ。その延長線に「転職」という言葉が出てくるのは、当然と言えば、当然だろう。



 実際に私も休職直前に、現職の退職を検討した。気持ち悪い職場と一刻も早く縁を切りたかった。


 私は自分が身を置く環境は、大事にしたいと日頃から考えている。環境が人を作るからだ。

 独身時代は、自分の彼氏に対して「この人と自分がイコールだなんて、思われたくない、恥だ」と思ったら、別れるようにしていた。恋人は自分の鏡なのだ。


 だって自分の意思で相手を選んでいるから。会社も同じで、自分の意思で働く場所を決めている。



 だけど考え抜いた結果、私は今の職場に復職する予定だ。これは自らの意思で決めた「我慢のシーン」なのだ。


 理由はいくつかある。ただ、これは私の場合として聞いてほしい。万人にとっての正解じゃない。

 一つ目は、私が休職前に見てきたこと、やられたことは、どこの会社に行っても遭遇する可能性が高いからだ。


 二つ目は、10年以上在籍して築きあげた人脈や交流関係・社内情報は、自分の財産でもあり武器でもあるからだ。

 もし私が20代で入社5年目未満なら退社して転職していたかもしれない。しかし、私の状況ではわざわざ違う環境でゼロスタートはもったいないと思う。


 三つ目は、その交流関係のおかげで今回助けられたことがたくさんあるからだ。夫からも「助けてくれた先輩たちのために、必ず一度は職場に戻ろう」と声をかけてもらった。

 先輩たちが私を助けてくれたのは、日頃の仕事ぶりを評価してくださったり、私に辞めてもらいたくないと思ってくれたからだ。それは私のためでもある。


 自分はあと数週間で35歳になる。転職は今年から、年齢的に一層厳しくなるだろう。


 でもいい。腹を決めた。そもそも、作家として今の年収を超えて退職するのが目標。それが自分の夢だ。


 だからここは我慢のときなのだ。

必要我慢。粘らなくていけない。


 満塁のピンチになっても、自分らしくストライクを狙っていくことを忘れない。



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