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サンタクロースがやってくる

 子供の頃、我が家では、お風呂を薪で焚いていたので煙突があった。
周りの家のように、ガスなどの風呂ではなかったことを、子供心にとても自慢に思っていた。
なぜなら、間違いなくサンタは、自分の家の中に入って来れる煙突の通路があるわけだから。
 子供心に大きな喜びと確信を持っていた。
なので、この煙突はただ風呂を沸かすだけでなく、むしろ一年に一回のサンタの来訪のために、自分にとっては、なくてはならない存在となっていた。

 ただ、煙突の直径が20センチ余りの大きさで、いかにしてここを通れるのか一抹の不安はあった。が、そこはサンタ、魔法でも使って小さくなって通れるものだと勝手に信じて疑わなかった。
 実際、サンタには前もって言ってもいない欲しいプレゼントが、必ず夜が明けると枕元にあったのだから。

 ただ、風呂を焚いていると煙突を通る時にプレゼントが焼けてはいけないので、イブの夜には早めに風呂の火を消してくれるよう父親にお願いした。
 子供なりに色々と気を使っていたのだ。

 ところが、煙突がある我が家には、絶対にサンタが来ると信じていたが、煙突が無い家にもサンタが来るらしいと聞いた時は驚いた。
 煙突が無いのに、どうやって家の中に入ってこれるのか、不思議で仕方なかった。

イブの夜
 6畳の和室に布団を敷き、親子4人が川の字になって寝る。
「早う寝ないとサンタがこんで」
寝付けられない子供に向かって、この定番の言葉は、まさにいつまでも耳に残っている。
子供はもちろん、サンタにとっても的を得た絶妙な言葉である。
 サンタを見たいが、起きていたらサンタは来ない。
 寝たくはないが、寝ないといけない。
 ワクワクなのにスヤスヤ寝れるかって気持ちだが、布団に入れば意外とコロリと寝てしまう。

 寝てたのか、夢を見ているのか、目の前に黒い顔がこちらを覗き込んでいる。
『ん〜誰?』
と思いながらも眠けがまさり、また目を閉じてしまう。
聞き覚えのある小さな声が聞こえる。
「もうええんとちゃう?寝たみたいよ」
ゴソゴソと音を立てないようにしているが、意外と聞こえる。
何か枕元に置いたようだ。
子供心に、なぜかここで起きてはいけないと、とっさに思った。
そして、睡魔に負けいつの間にか寝てしまう。

 朝、三歳下の弟が「サンタさんがプレゼント持って来た!」
と、はしゃいでいる声で目が覚める。
直ぐに起き、枕元を確かめる。こっちもお願いしていた品物だ。

「ええ子にしてたから、サンタさんが持って来てくれたんよ!」
ん?どこかで聞いたような声?!
 そうか、あの時はサンタが来てたんだ!じゃあ父ちゃんはサンタを知っているのか!どうりで僕が欲しい物を知っているはずだ。え?じゃあ煙突が無い家は、どこも母ちゃんか父ちゃんが、玄関を開けて入れていたのか?そうか、煙突が無くても、どの家にも入れるわけだ。
 長いこと不思議に思っていた疑問が一気に解決した。

「父ちゃん、大人になったらサンタと会えるん?ホントは昨日起きてたんよ。でもサンタを見たかったけど、起きたら消えてしまうんじゃないかと目をつぶってた。そうか大人なら見れるけど、その代わりプレゼントは無いんよね?僕はサンタは見たいけどプレゼントの方がええわ」

「おまえも大人になったら、サンタが見れるようになるよ」
「ホント?でもプレゼントはもらえないんじゃろ」
「そりゃあそうよ、サンタを見るかプレゼントを貰うかよ」
「父ちゃんはプレゼント欲しくないんか?」
「そりゃあ、父ちゃんも欲しいで」
「僕が大人になったら、代わりにサンタを家に入れてやるから、父ちゃん寝とき。絶対目を開けちゃあダメよ!、それで何が欲しいん?サンタに言わんといけんじゃろ?」
「ん〜そうじゃのう。車かな」
「お〜みんなで乗って遊園地行けるね!でも、父ちゃん、いつも母ちゃんに怒られんよう、ええ子にしとかんといけんで!」

数十年後のクリスマスイブ
煙突の無い家で、
「お〜い、いつまで起きてるねん、
起きてたら、いつまで経ってもサンタさん来れんで!」
まもなくサンタになる自分が叫んでいる。

でも、サンタも意外と楽しいもんやで。

#クリスマスの過ごし方

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