見出し画像



#創作大賞2024  

 砂埃が舞う戦場に、一筋の光が差し込む。それは希望か、それとも絶望の前触れか。兵士たちは、その答えを知る由もなく、ただ銃を握りしめる。彼らの目は、遠く空を見つめていた。そこには、敵か味方かも分からない飛行機が、静かに、しかし確実に近づいてくる。その翼は、太陽の光を反射して輝き、まるで別世界からの使者のようだった。

「動くな」と隊長の桐生健一が命じる。声は低く、しかし隊員たちの心に響く。彼らは息を潜め、次の命令を待つ。戦争は、人の心を鈍らせる。だが、それでも彼らは生きることを選ぶ。なぜなら、彼らには守るべきものがあるからだ。家族、友人、そして、この国の未来。

 戦場は、終わりなき物語を紡ぐ。それは悲劇かもしれないし、英雄譚かもしれない。だが、確かなのは、彼らの戦いが、歴史の一ページを飾るということだけだ。

 桐生隊長は、双眼鏡を通して敵の動きを確認する。彼の隣には、若き副官の田中大輔が立っていた。田中は、まだ戦場の空気に慣れていない。しかし、彼の目には決意が宿っている。彼は、この戦いが自分の運命を変えると信じていた。

 突然、遠くの地平線が爆発の光で照らされる。それは、敵の砲撃が始まった合図だった。桐生隊長は、即座に指示を出す。「全員、防御陣地につけ!」彼の声は、爆音に負けないほどの力強さだった。田中は、隊長の後を追い、塹壕に身を隠す。

 砲弾が降り注ぐ中、桐生隊長は田中に言った。「大輔、お前はこの戦いを生き延びるんだ。そして、平和な世界を見るんだ。」田中は、その言葉を胸に刻み、戦い続けることを誓った。

This picture  was   drawn digitally  Jun  Tachibana

 戦火が静まり、夜の帳が下りる。桐生隊長は、疲れ切った身体を引きずりながら、廃墟と化した町を歩く。彼の心は重い。今日もまた、多くの命が失われた。彼は空を見上げる。星々が瞬いているが、その光は何千年も前のものだ。今日亡くなった兵士たちの光も、いつかはこのように遠くから見えるのだろうか。

 一方、田中の家族は、彼の帰りを待ちわびている。彼の母は、毎晩息子の写真に手を合わせて祈る。彼女の願いはただ一つ。息子が無事に帰ってくること。しかし、戦場からの手紙はもう何ヶ月も届いていない。彼女は窓の外を見つめ、息子が帰ってくる道を想像する。だが、その道はいつも空虚で、息子の姿は見えない。

 桐生隊長は、田中の家族に届ける手紙を書く。彼の手は震え、筆跡は乱れる。言葉を選ぶのは難しい。彼は田中大輔の勇敢さを伝え、彼が戦場で示した強さと優しさを家族に知らせる。しかし、その言葉が家族の悲しみを癒すことはないだろう。

 夜が更けていく。桐生隊長は、静かに手紙を封筒に入れる。そして、遠くの星を見つめながら、田中大輔の魂が平和な場所へと旅立つことを願う。戦争は終わらない。だが、少なくとも、田中大輔の戦いは終わった。彼の物語は、家族の心の中で永遠に生き続ける。


 このラストシーンは、戦争の終わりと、それに伴う寂寥感を表現しています。隊長と田中の家族の心情を通じて、戦争の悲劇と人間の絆を描き出しました。物語の終わりには、平和への願いと、失われた命への追悼の気持ちが込められています。どうぞ、この物語が心に残るものとなりますように。

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?