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「内面世界と社会変革のつながり」研究のイベントレポート

■イベントレポート・元記事の簡易訳

 5月8日の夜に「内面世界と社会変革のつながりの研究読み解き勉強会」というイベントを開催した。内容は、Stanford SOCIAL INNOVATION Review(SSIR)というソーシャルイノベーションを専門で扱うメディアにて公開された「内面の幸福と社会変革とのつながり」のシリーズ記事2つと、元になった研究の智慧を共有するもの。

 イベントは文化人類学×コレクティブインパクトを探求する友人(小笠原 祐司)との共催で、参加者15名は国内外で社会変革を起こしている、かつ内面世界を実践してきた方々が多く参加。結局イベント後に有志で実務的な相談会を+1時間半していた。シリーズ記事等の簡易的な訳は以下の通り。いずれも相当に興味深い。

シリーズ記事”Centered Self: The Connection Between Inner Well-Being and Social Change

元の研究:”The Well-being project”(世界中で社会変革を起こしているリーダーたちを支援する著名な機関の共同研究)
簡易訳:「心身の幸せが社会変革へつながる」6年の研究と実践@アメリカ

記事1 ”Connecting Individual and Societal Change”(By Linda Bell Grdina, Nora Johnson & Aaron Pereira,Mar.11,2020)
「チェンジメーカーの内的な幸福と社会変革のつながり」
簡易訳(佐藤淳のnote)

記事2 ”Self-Inquiry for Social Change Leaders”( By Katherine Milligan & Jeffrey C. Walker , Apr.8,2020)
「ソーシャルチェンジリーダーのための自己探求」
簡易訳(友人の小笠原祐司さんのnote)

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 以下、イベントで紹介した私が考える内面世界と社会変革のつながりがなぜ大事なのかの考えと、イベントの中での議論を紹介する(特にコレクティブ・インパクトの観点で)。


■内面世界と社会変革のつながりの大切さ

 いま社会的企業やNPOは「組織や事業の拡大、表面的な協働による社会変革の限界」に直面しており、行政・企業・メディア等も、いかに社会問題の当事者、社会変革の担い手として自身の存在を定義するか、価値提供するかに悩んでいるように見える。

 ”What’s Your Endgame?”(By Alice Gugelev & Andrew Stern Winter 2015)というレポートが5年前注目されたが、社会問題は総じて対象になる当事者の人数が多く、複数の問題や利害関係が絡み合う複雑性が高く、取り組みの終わりがないように感じる。だからこそゲームをどう終わらせるのか?を組織やセクターを越えて考えることが大事とされる。私はそこで「社会の変え方を変える」ことが必要であり、SSIRをはじめとした偏在している社会変革に関する叡知を日本の文脈で体系化し直し、実践することが重要ではないかと実践・探求している。でも、簡単に言うなよ、どうすれば?というのがよく聞く声。(ティール組織やSDGsの広がりで起きた表面をなぞるような叡知の広げ方ではなく、原理・原則の体感知をもとにノウハウを生かすことが大事)

 「社会変革(システム・チェンジ)」という文脈で言うと、システムチェンジはどういう状態と、プロセスをいうのか。状態でいうと、例えば”The Water of Systems Change”というレポートでは『社会変革においても下記図の6つの要素にシフトを起こすことが「システム・チェンジ」において必要』、『特に重要なのは図一番下の「メンタルモデル」というシステム構造の前提である様々な意識・無意識レベルの前提や価値観(人の内面)』だと書かれている。

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    (引用:The Water of Systems Change |(FSG)

 プロセスについて答えの1つがコレクティブ・インパクトというアプローチ(これもSSIRで2011年掲載)であり、例えば下記のフェーズで整理されている。コレクティブインパクトの多くの事例は5年~15年とかかってシステムチェンジを成し得ている。総じて大切にされているのは右記の通り。①社会変革後の状態や戦略・追う指標等の具体化 ②試行錯誤や実行プロセスをどう行うか(コレクティブ・インパクト) ③コンソーシアム体制の構築・関係性を整える(意思決定機関、コーディネートも行うバックボーン組織、必要な様々な施策ごとに関わる主体など) ④前提となる体感知や世界観、ノウハウの学習(マインドフルネス、U理論、システム思考等)

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(引用:Collective Impact Self-Assessment and Planning Tool)



■イベントでの議論(周囲への広がり・怒り/願い)

 イベント参加者は様々な痛みや悲しみを経験して、独自のセルフマネジメントの手法を持っていたり、仕事で日常的に実践している人が多かった。かつ、それが社会変革につながった体感を持つ方もいた(例えば私も大好きなNPO法人ACEのガーナの「チャイルドレイバー・フリー・ゾーン設立のためのガイドライン文書」発行)。そのため参加者の関心事は以下の2つが多かった印象がある。
・いかに自身の価値観や感情の奥にある願いを認知・自分から変わっていくか、その在り方とスキルの成長
・自身の組織や組織を越えたチームで、内面の大切さをいかに広げるか(ビジョン等策定時、チームビルディング、対立や葛藤の取り扱いなど)

 その中で参加者の共感が多く、また難しさを感じていたのが「自身の怒りの取り扱い方」。社会問題に取り組む人の中にはその問題の当事者であることも多く、活動する中で様々なつらい経験を繰り返すこともある。その中で「あの人/組織の価値観、考えさえ変われば社会が変わるのに!」と怒る気持ちが出て、そのまま相手と接すると相手も「なんか怒ってる。変えられようとしている」と恐れを感じて余計に頑なになることがある。リーダーがこの状態で、スタッフ等に「あの人/組織は本当に変わらない」と伝えると、組織として相手側と対立しているような気持ちが増幅される。

 この根本は、怒りを感じた人の「変えよう」という意識が自分ではなく相手に向いていること。しかし大事なのは「インサイド-アウト」で言う自分がその事象を引き起こしているとしたら、という問いかけ。(よく例であるのは相手を指差すと、うち3本の指は自分を向いているというはなし) 記事の中にも書かれているが、社会問題に取り組むひとは自分より目の前にいる当事者を優先しがちで、自身(または家族)が当事者より幸せであることに申し訳なさを感じがち。自分より相手、という考えが普段から自分に指が向きづらい1つの要因でもある、かもしれない。

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■自分と相手の内面を大事にする世界観

 イベントでも紹介した以下の動画は秀逸で、ぜひみてほしい。6歳の子供たちが話している。「いじわるな言葉」を言われて、「傷ついた気持ち」になる。そしてまた「いじわるな言葉」って繰り返し。「このループを破る方法はないか?」。
 そんな会話と試行錯誤が、日常的に行われている。大人がこれをできない理由はシステム思考的なスキル不足だけではなく、自身の感情やその裏側の願いを認知し伝えることにエッジ(心理的な障壁)があること。
 もうちょっと詳しく知りたい方は、長いけどこの記事がおすすめ。[図解] 人生のトランジションを望むあなたの前に現れる "約束の谷" の歩きかた(三好大助)

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「小学1年生の問題解決(動画:2分8秒)」

 私は自分の内面と向き合い、ひとと共感し合い、仕事や社会変革につなげるということをこの3年ほどかけて学ばせて頂いた。主にはAuthentic leadershipの基礎/中級(NVC)、ジェレミー・ハンター氏の社会リーダー向けセッション(マインドフルネス)、システム・コーチング🄬基礎/応用コース、ビジョン・インテグレーション・アプローチのベーシック/応用(受講中)、ETIC.・日本ファンドレイジング協会主催のコレクティブインパクト研修等。これらはイベント参加者の諸先輩方からお勧めされて受講していて、5回以上数十人の前で号泣した記憶が懐かしく顔が熱くなる。

 最後に、改めて私が考える内面世界と社会変革のつながりが大事な理由は以下3つ。
1、プライベートの心理的安全が、自分の弱さと傲慢を出せる一番の土台になる(人に頼れない私が変われたのは、全て見通し包むパートナーと、愛おしい娘がいるから)
2、自身の強い痛みやトラウマに気付き向き合うことで、自分自身の存在を受容し、創りたい世界とその熱量に気付ける
3、利害関係ある人/組織との強い対立があっても、互いが内面に向き合うことで共通のアジェンダやビジョンが生まれてくる(しかも個人、組織の利害を損なわない形で)


■(おまけ)探求チームのお誘い

 私と小笠原 祐司は内面世界×社会変革を今後も公私で探求・実践していきます。ただあまりにも探求テーマが広いし私たちが翻訳苦手なので(基本Google翻訳頼り)、下記に関心ある方がいればご一緒できると嬉しいです。特に1と2は6月半ばまでに訳しきりたい。。
 関心ある方は、佐藤淳に何かしらで連絡ください。がっつりやらず、テーマと翻訳範囲決めて分担し、1-2回のMTGで実施して解散するイメージ。(得た知見はnote等で公開予定)一旦5月23日まで募集です。
 
1、Collective Impactの”readiness”チェックリスト 
2、Collective Impactの5つのフェーズのチェックリスト
Collective Impact Self-Assessment and Planning Tool
3、”The Well-being project”のレポートを一部翻訳
WELLBEING INSPIRES WELLDOING ~HOW CHANGEMAKERS’ INNER WELLBEING INFLUENCES THEIR WORK~
4、下記a-cプログラムやアウトプットをリサーチ・簡易翻訳

a, Skoll Foundation、Ford FoundationのBuildプログラムおよびBig Bang Philanthropyは、スタッフと被援助者の福祉をサポート。スタッフのメンタルヘルスプロトコル作成、既存の被認可者がスタッフの健康に特に投資するための助成プールを作成

b, Ashoka、Echoing Green、The Schwab Foundationは内部の幸福の実践を取り入れ。幸福を世界の10の優先事項の1つに指定、インド、メキシコ、カナダなどで幸福のプログラミングを提供

c, Impact Hub Viennaは主要な加速プログラムに幸福を統合。個人または組織の幸福のためのコーチへのアクセス、幸福意識ワークショップ、および幸福の文化を構築するための制度的取り組みを追跡する指標などを備えたプログラムを組織に提供




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