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なぜひとりで始めるのか

わたしはクローバ PAGEというWebサービスを5年ほど運営していて、現在は収入の多くをこのサービスから得ています。開発、運用、マーケ、サポートなどほぼすべてひとりで行っています。ITで起業というと、資金調達して上場してみたいなキラキラした世界を想像するかもしれませんが、わたしは資金調達も借り入れもしたことがありませんし、今のところオフィスすら借りていません。おそらく初めて会う人は、わたしのことをフリーランスのプログラマーかWebデザイナーか、もしくは売れていないスタートアップの経営者だと思うことでしょう(すべて当たっています)。わたしは自分のビジネスが続けられなくなって、受託開発などでしか収入を得られなくなったら、いつでもすっぱり廃業するつもりでいます。それでもこのコロナ禍でもなんとか会社を続けられてきて、毎日上司からパワハラを受けることも指示に振り回されることもなく、ほとんど好きな顧客のために好きな仕事をして、とても幸せに暮らしています。とても幸せなので、これを続けていくためにどうやったら今以上にサービスを改善して、売り上げをあげられるか、どうすれば腱鞘炎を治して70歳までプログラマーが続けられるのかいつも考えています。
よくバズっている記事などで、アプリ開発でうん万円稼ぎましたとか、ひとりで開発したサービスを売却しましたみたいなものを目にすることがありますが、サラリーマンの収入と同じかちょっと多いくらいの額を長く稼いでいますよみたいな話はあまり聞いたことがありません。ほとんどがうまくいかないか、もしくはうまくいきすぎてひとりでは追いつかなくなるからでしょうか。もしかしたらお店と違って、Webサービスをひとりで長く続けてる人ってあんまりいないのかもしれないなと思ったので、続けるためのノウハウ的なものを何回かに分けて書き連ねてみることにしました。起業で一攫千金を狙っている人にはまったく参考になりませんが、今と違う働き方を探しているエンジニアやデザイナーの方などには少し役にたつかもしれません。

なぜひとりで始めるのか

そもそもなぜひとりなのか書かないことには話が成立しないので、そこから始めることにします。もちろんひとりが偉いわけではありませんし、わたしも死ぬまでひとりでやると宣言しているわけでもありません。これまでに開発や販売などで協力してもらった人も大勢います。ではひとりで始めるメリットとは何なのか。前提として、自己資金だけで行ういわゆるブートストラップの話になりますが、まず資金の問題があります。Webサービスは通常サブスクリプションといって、毎月なり定額で顧客から利用料をいただく販売形式なので、受託開発などと違ってすぐにまとまった売り上げがあがりません。Netflixに月千円くらいしか払いませんよね。社員が5人もいるのに一年間、月の売り上げが3万円しかなかったらどうでしょうか。社長が資金繰りに追われるのを尻目に社員はさっさと転職してしまいます。来年は年商何億だと夢を語り合っていた共同経営者も、来月AWSに払うお金がないことがわかって辞めてしまいます。そうやって世の中のひとり社長は誕生します。というのは嘘ですが、サービスを辞めてしまう原因の多くは、やはり資金が続かないことです。ひとりなら1年くらい無給でもなんとかなりますが、全員が無給となるとなかなかモチベーションを保つのは難しいのはでないかと思います。固定費が少なくなることと売り上げを独占できることは、特に立ち上げ初期には揺るぎないメリットで、生存できる確率が大きく上がります。

それから、ひとりのほうが改善や方針の転換がやりやすいというのがあります。わたしは前述したように、日々Webサービスの開発を続けながらサポートへの問い合わせを受け、マーケの施策を考え、サーバーの増設をして、このブログを書き、Zoomで導入支援をやったりしています。これらの中で最も優先度が高いのは顧客サポートです。他にどんな作業をしていたとしても、よほどのことでない限り、問い合わせがあればそちらを優先して対応します。サポートで受けた要望への改善を30分後にはリリースすることも普通にあります。顧客の声を聞いて、この機能は評判が悪いなと感じたら、すぐに方向転換することもできます。
もしかすると、分業してセールスやサポートは得意な人に任せたほうが効率的だと思うかもしれません。もしあなたがエンジニアでかつ社長であるのなら、どのみちなんでもやらないといけないです。

そして3番目ですが、これがめっちゃ大事なことです。なぜひとりで始めるか。もしあなたがケーキ屋さんになりたくて友達とケーキ屋を始めることにしたとします。友達はケーキは嫌いだからケバブのお店をやりたいといいます。あなたは賛成するでしょうか。自分が本当にケーキ屋さんになりたいのであれば、誰にも邪魔されないようにひとりでケーキ屋さんになるしかないのです。
独立して何かを始めるにはエネルギーがいりますが、継続するのはもっと大変です。休みもなく働いて、ある日、なんでこんなことしてるんだっけ? と思うわけです。そのときに、ああそうだ自分はきっとOn the right trackだ、正しい道にいるんだと思えるかどうか。そういうワンピースでいうログポーズみたいなものを、みんな持っていると思うのです。

前にこんなブログを書きました。

わたしは誰かが独立してする仕事は、すべて個人的な表現活動の側面を持つと思っています。どんな表現をしても自由ですが、表現である以上、個人の価値観がそこに表れます。ケーキ屋さんであれば、例えば商店街にいる子供たちの幸せな顔が見たいというような価値観です。自分の仕事に価値観が表現されないのであれば、それはもはや他人の仕事であり、人に雇われるのと大差ないのではないかなと思ったりもします。わたしもたまに、もっと単価の高い労働集約的なビジネスを中心にしたほうがいいのかなと考えたりしますが、それはわたしの価値観とは違うので、結局のところ毎回、それをやるくらいなら廃業して雇われたほうがまし、という結論に至ります。いくら環境を破壊してもいいから自分だけお金を儲けたいという人がいたとしたら、その仕事も価値観の表現といえるでしょう。価値観は人それぞれ違うので、そこが合う人と一緒でないと、なんのために独立したのかわからなくなるかもしれません。

起業家がよく高いところから、「世界をより良い場所にしたい」とかいうじゃないですか。そんな大それたことは考えなくていいと思うんですよ。所詮は個人の願望なんですから、商店街のみなさんを笑顔にしたいくらいでいいんじゃないですか。世界をより良い場所にしたいと思っているやつらほど危険なものはないって、バンクシーさんもいってました

次回は「何を売るか」について書いてみたいと思います。

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