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誰のためのルール

Webサービスの利用規約ってありますよね。なんか新しいサービスにサインアップするとき、利用規約に同意しますみたいなチェックボックスを押すあれです。同意するといっておきながら、読んだことがないものがほとんどじゃないかと思います。わたしも普段あんまり真面目に読むことはありません。
大きな会社でサービスを運営するのであれば、専任の法務の方が利用規約やらプライバシーポリシーやらを作るのでしょうが、ひとりで開発も運用のするのであれば、こういったものも自分で作らないといけないです。なんかめんどうくさいし、とりあえず何か置いておけばいいんでしょということで、最近だとAIに生成してもらったりする人もいるかもしれません。ですが今回は利用規約を作ることって意外と大事ですよという話をします。

まず、利用規約ってなんぞっていう方のために、うちのサービスでいうとこういうのです。なんか難しそうな言葉がずらずら書かれていますが、大雑把にわけると、だいたいこのふたつが書かれています。

  1. 利用者がしてはいけないこと

  2. 運営者がしてはいけないこと

  3. 利用者がしてもよいこと

  4. 運営者がしてもよいこと

例えば、こんなことが書かれています。

  • みんなは他の利用者に嫌がらせをしてはいけないよ(利用者がしてはいけないこと)

  • 僕たちは承諾なく非公開の情報にアクセスしたりはしないよ(運営者がしてはいけないこと)

  • みんなはサービスを使ってコンテストやプロモーションをしてもいいよ(利用者がしてもよいこと)

  • 僕たちはいつでも好きなタイミングでこのサービスを終了できるよ(運営者がしてもよいこと)

これらのうち、2と3はおまけみたいなもので、規約の骨子としては当然、利用者がしてはいけないことか、または運営者がしてもいいことを書き連ねていくことになります。ではなぜこんなことを書かないといけないのか。上にも書きましたが、利用規約を隅から隅まで読む人などほとんどいませんから、ここに書いたからといって自主的にルールを守ってもらえるわけではありません。それでも利用規約はきちんと精査するべきと思います。理由は、「運営者であるあなたには大事なユーザーとサービスを守る責任がある」からです。一方的にルールを書いておいて、ユーザーを守るとはどういうことだと思われるかもしれません。がしかしちょっと想像してみてください。近所に大衆向けの串カツ屋さんがあります。メニューの横には、大きな文字で「ソースの二度漬け禁止」と書かれてあります。このルールは誰のためでしょうか。ソースを二度漬けで汚されたくない店主のためのものでしょうか。そうではないですよね。これは一部の客が食べかけのカツを二度漬けすると、他の客が迷惑するからです。店内の滞在は2時間以内でお願いしますと書かれた張り紙を見て、なんてケチくさい店だと思うかもしれませんが、これも客が回転しないと限られた人数しか受け入れられず、お店が立ち行かなくなってしまうからです。Webサービスも同じで、一部のユーザーの特定の行為によって、他のユーザーが迷惑したり、運用に負荷がかかることによって結果的に一般のユーザーが利用できなくなったり、最悪の場合、運用費がかさんでサービスを畳まないといけなくなったりします。我々のやっている小さいサービスでは、その影響は無視できません。

でもどうせ誰も読まないんでしょ? はい、そのとおりです。ですが、規約に違反する行為をする利用者に対して、こういうことはしないでくださいねと警告したり、あまり度を越している場合には、アカウントを凍結したりすることができます。度を越しているというのがポイントで、我々が提供しているのは所詮プログラムなのですから、利用者にしてほしくないことがあるのであれば、本来はコードで制限するべきなのです。例えば一日に10回までしか投稿できませんよとか、そういうプログラムにすれば確実に利用者の行動を制限することができます。ですが、やっぱりプログラムだけでは制限しきれないところがあるわけです。上で挙げたように、うちの利用規約には他の利用者に嫌がらせしてはいけませんよと書かれてありますが、これをどうやったらプログラムで規制することができるでしょう。AIを使って投稿の文脈などを解析すれば、攻撃的な発言かどうかなどはある程度判定が可能ですし、実際そういうフィルターを使っている大手のSNSもあります。がコストをかけてそこまでやって、得られるものは何ですか? という話になります。うちの利用者が他のユーザーに明らかに嫌がらせを行った例はこれまでありません。しかし実際に嫌がらせ行為をする利用者がいたらこれは由々しき問題なので、簡単に見逃すこともできません。であればプログラムでは制限せずに、規約に書いておいて、実際に違反者が出たら対処しましょうとするのは理にかなっています。他にも例えばアカウントを複数人で使い回しているユーザーがいたとして、これをプログラムで規制するのは技術的にいろいろと問題がありますし、まあ多少であれば目をつぶってもいいかなという気が個人的にはします。ところが全員がこれをやりだすと、うちは商売を続けていけなくなります。なのでアカウントを複数人で利用しないでくださいねと、利用規約で「縛って」いるわけです。アカウント共有の問題はコンシューマー向けのサービスでよく取り上げられていて、あのNetflixも長らく頭を悩ませてきました

利用規約を作るもうひとつの大きな目的は、クレームを入れられたり、訴えられたりしたときに備えるためです。あなたにはユーザーとサービスを守る責任があると書きました。サービスを守るためには、ちょっとクレームを入れられただけで相手の言いなりになるわけにはいきません(自分に非がある場合は別です)。だから予めこういうことになってもうちは責任を負いませんよとか、責任の範囲はこれこれですよとかいったことを書いて同意を得る必要があるわけです。

余談ですが、うちのサービスはその性質上、スパム行為を厳格に禁止しています。毎日サービスを巡回して、スパム行為を行う利用者には警告なり利用停止の措置を取るようにしています。そのためと、また我々にとって好ましいユーザーが大多数になったこともあって、スパムサイトを作る利用者はずいぶんと減ったのですが、以前は定期的にクローバでスパムサイトつくるひとたち(おそらく中国系のグループ)がいました。ある年はレーザーポインターのサイトがやたら作られてて、その前はスマホケース、ある年はラブドールのサイトがよく作られていました。なにか流行りがあるのかもしれません。ちなみにすべて利用規約違反を理由に、サイトの削除とアカウントの凍結を行っています。こんなふうに、利用規約って小さいサービスにとってもけっこう大事なんだということがおわかりいただけたかと思います。利用規約は最後に我々を守ってくれる砦のようなものです。提供しているサービスやアプリの種類や性質、提供するうえで大事にしている思想によってもずいぶん内容は変わってきます。プログラムの変更はできないけど利用者の行動を変えたいときなどに、利用規約を見直してみるのもひとつの方法だと思います。