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花譜が廻花を手に入れるということ~花譜のルーツと廻花のミライ~【神椿代々木決戦/花譜怪歌】

先日花譜4thワンマンライブ「怪歌」を観測してきました!
本稿では廻花がフィジカル表現に至った理由を音楽表現の面から迫っていきます。詳細なライブレポートはPANORAさんをどうぞ。


可能性の拡張から始まったもの

「可能性の拡張」とは花譜のプロデューサーであるPIEDPIPERがデビュー時からよく用いる表現です。
花譜のデビュー経緯はまさに「可能性の拡張」だった、と言えるでしょう。

花譜は元々東北に住んでいた普通の女の子でした。音楽アプリに楽曲を投稿していたところ、PIEDPIPERに目をかけられ、シンガーとしてデビューを模索することとなります。まだ中学生だった彼女は、素顔を晒さないVtuberの形態を選択し、「花譜」としてデビューすることとなりました。

だから、花譜がいつまでも花譜じゃないかもしれない……そんな不安と期待はずっと観測者は抱いていたように思います。
デビュー経緯を踏まえてみれば、結局花譜にとってvtuberは表現の一形態でしかないのです。花譜という表現形態よりも別の表現の方が良いものが出来ると本人が思ったのならば、いつでも覆る可能性をはらんでいました。
(私もそうなんですが、花譜はいつか普通に顔を出してメジャーデビューするだろうと思っていた観測者が昔は多かったと思います)。

そして、たぶん……彼女が花譜としての表現に満足していたのなら、廻花にはなっていないはずです。花譜として表現できないものを表現したくなってしまったからこそ廻花は生まれたのだと思います。

神椿としての責任について

一方で、彼女は「花譜」という表現形態をとても大切にしていました。過去のインタビューを見ていても、花譜のイメージを守るがあまり、自身が前に出ること自体を憚っていたように思います。
そして今現在においては、「花譜」は神椿スタジオ最初のシンガーで、VWPのセンターで、神椿の「バーチャル」の顔そのものとなっていました。

VWP楽曲のコンセプトとして、「かりそめのバーチャルから歌を届ける」というものがあります。多くの楽曲が、バーチャル側から歌を届ける矛盾、画面越しでも届けられる感情について歌われており、バーチャルシンガーだからこそ出来るコンセプトでしょう(古のボカロソング的な思考に近しいと言えばイメージが湧きやすいでしょうか)。

これは現実だ
認めたくはないか?
理想論を信じたくはないか?
愛はここにあるって信じたくはないか?
私達は偽物だ
だけど想いはここにあって
あなたを探していて
これが愛という名前になるなら
聞き覚えのあるその言葉に縋りたい
この世界には愛がある
そうでしょう?

https://www.uta-net.com/song/342890/

また、花譜としても「未確認少女進行形」や「モンタージュ」などの楽曲を通してバーチャルの自分と現実の自分の乖離を表現してきました。

モンタージュのかかった
どの部分が好きですか
君の目を私と交換して
見える世界が同じなら
私の正体なんてわからない

https://www.uta-net.com/song/294100/

そのような楽曲上のコンセプトがある中で当然「花譜」として出来ること、出来ないことが生まれてきます。それは上記ポストでも述べているように、彼女自身が最も痛感していた事実なのではないでしょうか。
花譜として「可能性の拡張」をしていたはずがいつの間にかバーチャルとしての「花譜」の表現に縛られるようになっていた。
そして、その事実は当初掲げていた花譜自身の「可能性の拡張」とも矛盾することとなります。誤解を恐れずに言えば、新しい表現を模索するために既存の表現から離れる必要があったと言えるでしょう。

次章以降では、花譜ではできない表現とは何なのか、花譜のルーツを考察するとともに廻花がこの先目指す方向性について考えていきます。

廻花表現のルーツ

花譜が好きな音楽を見ると、花譜が表現したいものとそのルーツが垣間見えてきます。ラジオやインタビュー、カバーライブを通して花譜が好きな音楽を発信してきました。少し特徴的なところを振り返ってみます。

①リーガルリリー

花譜は自身のライジオ番組にリーガルリリーの作詞作曲を手掛けるたかはしほのかさんを招待するなどリーガルリリー好きを長らく公言しています。

また、リーガルリリーのアルバム「Cとし生けるもの」の発売時にはリリース記念コメントを投稿しています。

リーガルリリーの特徴はジャグリーなギターと等身大の自分を歌った強烈なリリック。メロディアスになりながらも、それを補って余りあるたかはしほのかさんの存在感でしょう。
代表曲である「リッケンバッカー」は2016年に発売されたリーガルリリーのミニアルバム『the Post』の収録曲でリーガルリリーのメッセージ性の強さ、楽曲の特徴がよく表現されています。

②ナンバーガール

花譜がナンバーガールにプレイリストを送っていることを知っている観測者はどの程度いるでしょうか。
今はもう削除されてしまいましたが、ナンバーガール解散にあたって特設サイトが設立され、多くのアーティストが「無常のプレイリスト」という名のプレイリストを送りました。

花譜が第一曲目に送ったのは代表曲でもある「透明少女」。
花譜自身もカバーしている楽曲の中でも原曲とは異なり爽やかに、夏の爽快感を残しつつ歌い上げています。

ナンバーガールは日本のオルタナティブ・ロックを代表するバンドで、現在日本のロックシーンの祖の一つです。いわゆる洋楽ギターロックの系譜を引き継ぎいでいて、独創的なリリックの世界観と生々しい演奏の躍動感が当時の音楽シーンに多大な影響を与えました。

③HoneyWorks

こちらも花譜が影響を受けたとたびたび言及している「HoneyWorks」。
ボカロに興味を持ったきっかけと様々なインタビューで発言しています。
音楽性は「キュンキュン系」「青春系」と呼ばれるポジティブ系ロックで、ストレートな歌詞で恋模様を題材にした楽曲を作り上げてきました。
アーティスト花譜の音楽の原点がここにあるのだと思います。

J-wave

④カバーライブ

「歌ってみた」を数多く出している花譜ですが、より自分の趣向に近しい、好きな歌の特徴が出ているのがカバーライブの選曲ではないのでしょうか。
花譜は今までに2回カバーライブを行ってきました。

アイスクリームライブ1

KAF LIVE STREAMING COVER LIVE「アイスクリームライブ」は、2020年6月14日にYouTube上で配信されたカバーライブです。
過去にYoutubeへ投稿した楽曲のアコースティックカバーの印象が強いアルバムで1stLive不可解で披露された楽曲も数多く収録されています。
個人的には、「プラスティック・ラヴ」、「ダンスが僕の恋人」、「宙ぶらりん」、「電話をするよ」というシティポップメドレー、「愛にできることはまだあるかい」、「おやすみ泣き声、さよなら歌姫」、「ロックンロールは鳴り止まないっ」という邦ロックメドレーの流れがとても好きです。

アイスクリームライブ2

アイスクリームライブ2はより花譜の個性、好きな音楽の特性が分かるセトリになっていると感じます。
全体として実にサブカルチック、カバー元の楽曲は渋谷TSUTAUAの二列目棚裏にあるような印象です。花譜の内面に映る音楽性を前回よりもより深くDigった、彼女自身の趣味が如実に出ている気がします。
開幕「tofubeats/水星 feat.オノマトペ大臣」から始まり、「やくしまるえつこ/わたしは人類」、「大森靖子/ひらいて」へとサブカル系ロックメドレーが続きます。続く「きのこ帝国/猫とアレルギー」、「中村佳穂/忘れっぽい天使」で披露されたような落ち着いたシューゲイズっぽさも最高で歌声のグルーブに満ち溢れていました。
また、「崎山蒼志 / I Don't Wanna Dance In This Squall」、「長谷川白紙/ユニ」、「164/青 feat.MAYU」、「My Hair is Bad/戦争を知らない大人たち」の流れに見える、複雑な音楽構成が組み合わさったエレクトロミュージックから溶け込むようなポエトリーへと続くセトリが本当に好きです。
花譜の音楽表現の幅の広さ、好きな音楽ジャンルの奥深さが楽曲のセトリから垣間見えています。

まとめ

花譜ちゃんは本当に音楽が好きなんだと思います。
彼女自身がロック系を中心としつつも、所謂サブカル系ミュージックと呼ばれるような音楽のエッセンスを吸収し続けてきたことは、好きな音楽のジャンル、歌ってみたの選曲、インタビューを通してよく見えてきます。
最近はラップ曲にハマっている様子が垣間見えますし、先日はFakeTypeとの新曲も発表されていました。

ギターロックを中心としつつ、幅広いジャンルをフォローする、彼女の辿ってきた音楽の系譜が廻花曲に大きな影響を与えていることは間違いないでしょう。(また、メンバーシップのカバー楽曲選定はより好みがストレートに出ている気がします。洋楽に加え、オルタナティブ・ロック、インディーロックが多い印象です。楽曲選定が本当に好きすぎる)

次章以降では発表された廻花曲からその影響を分析しつつ、廻花における表現の形態と今後について考察していきます。

廻花曲

2024年2月現在、廻花曲そのものはライブで公開されたもののみで、サブスクやアルバム等にはまだ収録されていません。しかし、XやTikTok等では一部分が公開されていますので、彼女の楽曲の音楽性を垣間見ることができます。その中から数曲ピックアップして紹介します。

ターミナル

廻花として初めに披露された楽曲「ターミナル」。
パートごとに色んな音楽の要素が組み合わさった楽曲だと思いました。
その様子は彼女自身が経験してきた音楽の「ターミナル」と行っても過言ではないでしょう。ゆったりとしたポエトリーから始まり、ピアノ・ロックの音色に乗せつつ、情熱的なメロディーラインへ続く流れは実に見事だと思いました。

転校生

転校生は彼女自身が転校生だったときの経験を元に出会いと別れを歌ったもの。「てん、てん、てん」と続く印象的なメロディーからは不思議と相対性理論の影響を感じます。情景が鮮やかに浮かんでくる歌詞は彼女が日頃からインスタグラムで養った作詞力でしょうか。ノスタルジーを感じる懐かしさと自由自在なエネルギーが同居している楽曲です。

かいか

自身のアーティスト名と同じ名前を付けた「かいか」。
怪花で発売されたライブパンフレットにも歌詞が掲載されている唯一の曲で、「初めまして、うまく言えないのはお互いさまなんだろうな」という言葉は花譜のライブで廻花を観測した私たちへのメッセージでしょうか。
現代的なメロディにどこかカンザキイオリの影響を感じ取れて凄く好きな曲です。

等身大の自分をさらけ出すこと

廻花曲はどれも花譜が今までに培ってきた音楽の影響を感じ取ることができます。私はこれらの楽曲を聞いたときに「やっと……君自身の歌が聞ける」と思いました。

私はずっと花譜が好きです。
カンザキイオリでも、PIEDPIPERでも、神椿でもなく、東北からデビューした音楽が大好きな彼女の姿をずっと追っています。
だから、等身大の彼女自身の感情の発露を音楽という創作の形で見ることができたのが本当に嬉しかったのです。

廻花が目指す「花譜」では出来ない表現とは「等身大の自分をさらけ出す」ことであると私は考えています。

前述したように、花譜のコンセプト――いやVWPメンバー全体のコンセプトとしてバーチャル側から歌を届け人々を救う、というものがあります。
救済としてのバーチャル、と言えば分かりやすいでしょうか。
また、私たちの世界とは違う存在が助けてくれる、というものは一種の神格化されたキャラクターとしての価値をもっています。VWPメンバーのことを魔女と呼ぶのは、Vtuberというバーチャル存在を魔女に見立てていることはもちろん、歌で人々を導く様子を魔法に例えたものでしょう。

バーチャル上で神格化されるその存在は「魔女」であって、そのステージは「祭壇」であって、その歌声は「言霊」でした。
そのアバター姿こそが「花譜」でした。

一方で、廻花曲は彼女自身の人生を物語ったものです。
等身大の少女の成長譚であって、そこにフィクションが入る余地は殆どありません。ありのままの彼女自身そのものです。

それを明確に示すために花譜のアバターではなく、等身大の自分自身を表現する必要がありました。「等身大の自分をさらけ出す」ことがコンセプトなのですから、その他の装飾をできるだけ取り払うことが廻花としての表現の純度を高めることに繋がります。

深化ALTERNATIVE

また、彼女自身が好きなロックは上記の精神を多分にもつジャンルです。
初期のロックはブルースとR&Bの影響を受け、「反体制」や「反骨」「反社会」の思想を育んできました。日本でも青春ロック・青春パンクと呼ばれるジャンルが一時期存在し、等身大のティーンエイジャーの強烈なメッセージを歌ってきました。
自分に嘘をつかず等身大の自分をさらけ出す、醜くくても、汚くても自分自身の表現を見せつける。それが純粋なロックンロールの精神であって、事務所で創られた創造の音楽とはまた異なるものになるはずです。

また、今回廻花の姿を深化ALTERNATIVE5と名付けていましたが、オルタナティブと名前がつく音楽ジャンルと言えば、「オルタナティブ・ロック」です。組曲15弾「愛のまま」でコラボしたくるりもオルタナティブ・ロックのジャンルにカテゴライズされます。

この命名はみんなが好きなポピュラー音楽から少し離れた「もう一つの」音楽を作るという意味に捉えられると私は考えています。
花譜とはまた異なる音楽がこれから期待されるでしょう。

wiki

以上のことを踏まえると、廻花曲を披露するという過程の表現手法の結論として、フィジカル表現に至ることは実に自然なことと言えます。
廻花は「等身大の自分をさらけ出す」ことを表現するために、花譜のオルタナティブになるために、みんなによって創られた花譜のアバターを捨てて、当人そのままのフィジカルを得た、と言えるでしょう。

廻花 | ARTIST

最後に

私は怪花最後のMCが大好きです。
等身大の本人の純粋な気持ちがそのままMCに現れていたからです。
そして、その語りスタイルは往年のオルタナティブ・ロックシンガーでよく見る語りそのものでした。
自己満足で、自己欺瞞で……だけどどうしても表現したいものがあるという表現者としての音楽がそこにはありました。

花譜の音楽はどうしてもプロディースメインなところが強い音楽でした。
花譜が所属する神椿は楽曲のコンセプトがしっかりとしていますから、全体として一つの物語を作るような音楽となっていました。ある意味で彼女の心境をストレートに語る音楽の入る間がなかったのです。
けれども、私はずっと花譜の率直な気持ち――彼女の人生を抉り取ったような音楽を聞きたかった。だから……正直に言えばね、花譜に関わる全てのクリエイティブを一度引き剥がしてほしかった。拙くてもまっさらな君の表現を見たかった。

廻花はまさに私が見たかった表現そのものでした。
純粋な花譜の音楽の結晶が廻花として表現されたことが本当に嬉しかった。花譜の成長譚の過程として廻花の音楽に行き着いたのだとしたら、一人のファンとして感無量です。これからもずっと追っていきます!
ライブ本当にありがとうございました!

ps.20歳おめでとう!花譜ちゃん!



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