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メディア研究とデザイナー視点の融合ーー水越伸先生インタビュー

 メディア研究者の水越伸先生は2022年4月に関西大学に赴任したが、それまでは東京大学で30年以上勤務していた。異動するきっかけとなったのは、新型コロナウイルスの流行がもたらした静かな生活だった。片道1時間半かかる都心への通勤時間がなくなり、自分のために使える時間が増えた時、ふと「どこかへ行こうかな」という考えが頭をよぎった。今いる場所を変えて何か新しいことをやってみようと思い立ち、顔馴染みの先生が多く在籍している関西大学社会学部メディア専攻へ異動することを決意した。

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水越伸先生

 水越先生の研究分野はメディア論・メディアリテラシーである。また、これらの分野だけに留まらず、AIやロボットから人々の孤立化といった社会問題に至るまで、幅広い問題に関心を寄せる。さらにこれまでワークショップなどのデザインを通じて、コミュニケーション空間の創出につながる実践的な研究を進めてきた。 
 こうした分野に興味を持つきっかけとなったのは、大学時代から約8年間勤めていたデザイン事務所での経験だった。電気シェーバーなどのデザインに携わり、毎日夜中まで働くほど仕事に没頭した。この時に身につけたデザイナー的視点は水越先生に大きな影響を与え、大学院入学後も人々の生活の文化とデザインが交差する場所という独自の対象に関心を持った。
 これから特に研究で取り組みたい内容は、希薄化した人間関係を繋げ直すための中間的なメディアを形成することだ。個人化が進む現代社会だが、こうしたメディアが作り出すコミュニティは人と人とのつながりを深め、疎外されてしまった人が社会の網からこぼれ落ちてしまうことを防ぐ。
 心機一転環境を改め、新たな一歩を踏み出した水越先生。関西大学に来て変わったことを問われると、「特に変わったことはないね」と意外にもあっさり語った。また、学生に対しては、「ネットの海に自分の旗を立てよう」と伝える。混沌とする社会でも自分の意見を発信できるようメディアを実践的に使いこなせることが、将来重要になる。これからも水越先生の独自の視点から、さまざまな研究が行われるだろう。(執筆:横田朋樹、写真:足立陽菜)