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鳥山明の漫画が好きだった

日本には葛飾北斎と並んで世界に影響を与えたイラストレーターがいる。鳥山明である。
彼の描く絵はすごかった。凄すぎた。可愛いキャラクターも描ければかっこいいメカも描け、イキイキとしたデザインのクリーチャーも描ける。アクションシーンには怒涛のスピード感が漲っており、一枚絵の構図やカラー絵の配色も完璧。もはや「知ってしまった」あとでは後戻り出来ないほどの魅力。そのナチュラルな衝撃。あまりに上手すぎてその凄さを感じるのが難しいほどの完成された絵。鳥山明の絵は凄かった。
『ドラゴンクエスト』にしても『クロノ・トリガー』にしてもまず初めは鳥山明の絵に惹かれて手に取ったもんなあ。スライムみたいなシンプルなデザインでも、『クロノ・トリガー』のロボみたいなメカメカしいデザインでも、「鳥山明の絵だ」ってわかるのは凄いを通り越して不思議なくらいだ。『ドラゴンボール』に出てくるキャラクターだってこの人にしか描けない、でもすごく愛着の湧く見た目のキャラばかりだし、どういう修行を積んだらこういう絵を描けるようになるんだろう。これはもはやミステリー。

鳥山さんの絵は初期作からある程度完成されていて、『鳥山明○作劇場』を読んでるとその巧さがよくわかる。この短編集にはその後に描かれる作品のプロトタイプみたいな短編作品がたくさん収録されていて、例えば「騎竜少年(ドラゴンボーイ)」は構想段階の『ドラゴンボール』みたいな話だ。主人公の唐童(たんとん)はカンフーの修行を積んだ少年で見た目はヤムチャを子どもにしたような感じ。女の子と一緒に旅をする点とかドラゴンの存在など、類似点はかなり多い。
他にも「ギャル刑事トマト」は18歳の新人婦警が活躍する話でたぶん『Dr.スランプ』の習作にあたる作品。なかには『マッド・マックス』や『ダーティハリー』といった実写映画からの影響を感じさせる作品もあってこれも楽しいんだよな。ほとんどの作品がゆる~いテンションのギャグ漫画になっているのも特徴で、そういうところも好き。てか私が鳥山明の漫画で特に好きな成分って絵とかキャラクターとかストーリーよりも「ギャグ」や「関係性」だったりする。

前に『サンドランド』の映画を見たときの感想でちょっと書いたけど、鳥山明の漫画におけるキャラ配置って「まともな都会人」と「天才的な能力を持つ田舎者」という構図になってることが多くて、その鳥山印と言えるパターンはこの初期短編集にもしっかり出ているんですよね。その上くだらないギャグもてんこ盛りだし。
そういうわけでこの『鳥山明○作劇場』は鳥山明という漫画家のアイデンティティみたいな部分が詰まりまくったおすすめの漫画なのだ。

キャラクターのやんちゃさ、イキイキとした姿は『Dr.スランプ』においてフルパワーで発揮されていると思う。ペンギン村に住んでいる人たちはみんなどこかおっとりしていて、牧歌性たっぷり。変人・奇人・天才・おバカと色んなタイプの人々が登場するのも楽しくて、特にアラレちゃんをはじめ女の子がみんな可愛いんだよな。キャラクターが二人以上出てくると自然とボケとツッコミに分かれるのもギャグ漫画として読みやすくて良い。「キーン」とか「ほよよ」とかのワードセンスもキャラクターの可愛さに拍車をかけている。鳥山明の漫画は絵やキャラクターが第一に語られがちだけど、そういう「ワードセンス」の良さももっと評価されるべきだと思う。中にはオチが弱い話とかもあるけれど、コミカルな空気感と絵の巧さで、いま読んでも十分面白いし、愛すべき作品なのは間違いない。

そして『ドラゴンボール』。鳥山明といえば『ドラゴンボール』、『ドラゴンボール』といえば鳥山明、というまあ鳥山明の代表作なわけで、おそらく漫画が好きな方でこのタイトルを知らない人はいないだろうなってくらい有名な作品だ。
前半のドラゴンボール探しがメインとなる話から、後半のインフレバトルがメインとなる話とで結構色合いが異なっているのだけど、その始まりはやっぱり鳥山明の作品でよく見かける「まともな都会人」と「天才的な能力を持つ田舎者」という構図だったりする。『ドラゴンボール』の場合は孫悟空とブルマってことになりますかね。この二人の関係性も好きだー。一緒に冒険をする仲間ではあるのだけど、ベタベタとした関係にはならず、異性の友達って感じでさっぱりとしてる。ブルマの「孫くん」呼びもいい。親しみを感じる。てか孫悟飯とピッコロなんかもそうなんだけど鳥山明の描くキャラ同士の関係性って結構萌える。普通は相いれなさそうな全然タイプの違うふたりが気づけば信頼し合う仲になってることが多くて、なんつうか見てて和む。

ちなみに私が一番好きなクリーチャーはセルの第一形態。鳥山明は元々この第一形態を「セル編」のラスボスとしてデザインしたらしいけど、より人間に近い見た目にした方がいいと言われ、最終的に第三形態のデザインになった、という話を聞いたことがある。第一形態でいいのにね。あれで十分かっこいいし、禍々しい怖さも出ていて好きなんだけどな。
あとこれも前にちょろっと書いたけどキャラの中で一番好きなのはベジータになると思う。サイヤ人編が始まってから登場する悟空のライバルベジータ。初めの方こそ残忍な性格なんだけど、徐々に人間味や父性を身に着けていき、性格がやわらかくなっていくんですよね。しかもそのことに葛藤する話もあったりして、戦闘狂の悟空に対して地球に溶け込んでいくベジータは応援したくなる魅力があります。『ドラゴンボール完全版』では最後に4ページほど加筆されていて、よりベジータの成長譚としての物語が強調されてるので、鳥山明さんもそういう目線で描いていたんだろうな、と勝手に想像しています。

関係性でいえば『サンドランド』のベルゼとシバの関係性もいいですよね。悪魔の王子と、人間の老兵。荒廃した砂漠で種族の違う者たちが手を組み、独裁者によって独占された水資源を解放する旅に出るという話。短くまとまっていて、鳥山明の魅力がぜいたくに味わえる良作です。『COWA!』のパイフーとマコリンの関係性にもベルゼとシバに似たところがあって、年齢や種族の違う者同士の友情がナチュラルにコミカルに描かれてるなあと思う。そういえば『カジカ』ってキツネの霊に呪いをかけられたから、その呪いを解くために旅をするって話だったな。でもなーんか印象が薄い作品なんだよな。私キツネ好きなのになぜなんでしょう。

『ネコマジン』『銀河パトロール ジャコ』についてもやっぱり「都会人」×「田舎者」の構図は健在で、終始コミカルでゆるい、でもたまにすんごいアクションもあったりする作品に仕上がっている。『ドラゴンボール』に出てくるミスター・サタンが象徴的なんだけど、この人の描く漫画のキャラクターってすごく純粋なキャラがいる反面、やたらとせこかったりスケベだったり小心者だったりと、ぜんぜんかっこよくないキャラクターもいっぱいいて、でも話が進むにつれて、そういう人たちが妙に良く見えてくることがあり、やがて物語全体において重要な役割になることがある。キャラクターを育てるのが上手い人だなと思うし、そういう人たちへの愛着が感じられてとてもいい。

そんな鳥山明の描く絵が、描く漫画が好きだった。どの漫画も夢中になって読んだし、ゲームのパッケージも魅力的だった。『クロノ・トリガー』の一枚絵なんてもはやアートだもんね。台詞が書かれてなくても物語が伝わってくるくらい見てて楽しいもん。
だいたいどの作品も最後はその世界の日常に返ってきて、なんとなく幸せな気分になって終わる。そんなところも鳥山明の作品の好きなところだな。
鳥山明さん、たくさん面白い漫画をありがとうございました。追悼というよりも、どの漫画も好きだったし面白かったということを言いたい、ただそれだけの文章でした。そういえば『サンドランド』のゲジ竜とか戦車、むかし模写してたっけ。



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