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「階層がないフラットな組織」より「階層があり、社員が自分の役割を越えて動き回る組織」のほうが強い説、を考える。

カヤック人事部の柴田です。以下のツイートの内容を自分でもっと考えるためにブログ記事にしてみました。

まとめ

・階層がない組織にも、非公式な階層はできている。
・平時は組織の階層を活かして動き、有事は階層を気にせず自分の役割を超えて動くような社員を増やすのが良さそう。
・「自分の役割を越えて動く」を社員に学習させる方法があるはず。そうしないと、結局組織が硬直化する。
・「役割を超えて動く方法」を学習してもらうために、新入社員にしってもらうことをまとめてみた。

階層がない組織にも、非公式な階層はできている

カヤック社外人事部の神谷さんが行った勉強会の資料から抜粋してみよう。

フラット化の課題
・ 階層は今も基本的構造のままであり、マネージャーに権威があり、公式的な階層が無い場合でも隠れた階層が存在すること、階層を受け入れ、それを調整しなければ組織における仕事が進まないことを指摘(Levitt,2003)
フラット化をしても、新たな階層化が組織の中でなされていると指摘(櫻田・上林,2006)

「うちは階層がない組織なんです」みたいなフレーズには違和感があった。理由は「公式の階層がなくても、一定の人数が集まれば非公式な階層ができてるよなあ」という実感が私にあったからなんだろう。

階層ができる理由を考える

「そのほうが仕事がしやすい人が多いから」が最初に思いついた答えだ。

人間にとって、平均約150人(100-230人)が「それぞれと安定した関係を維持できる個体数の認知的上限」である(wikipedia ロビン・ダンパー)

ダンパー数という言葉がある。人間の認知能力から考えても、人が増えたら階層をつくり、「まとまり」をつくったほうが仕事がやりやすそうだ。社員が300人の組織であれば、全社員を個人として認識するよりも、「あの人は◎◎事業部の人」みたいに分類した方がわかりやすい。◎◎事業部の責任者は誰なんだろ?みたいなことも決まっていた方がやりやすい。

階層がある組織のいいところは、何をすれば成功するか、上の人が決めて指示してくれること。

階層のある組織(≒官僚制組織としてみる)のいいところは何だ?ということも神谷さんの資料から引用して考えてみよう。個人的に「これはいいところだな」という項目を太字にしてみた。

マックス・ウェーバーによる官僚制組織の特徴(Weber,1976)
・権限の明確なヒエラルキー。
・組織内での任務は「公の任務」として配分される。
・ピラミッド構造であり、頂上に最高権力者が配置される。
・最上位から最下層までの命令系統が意思決定の調整を可能にする。
・上級が下級を管理する。
・成文化されたルールが、組織の職員の行動を統制する。
・下級は定型的な動きをするが、階級が上がるにつれ多様な事例を網羅するようになり、規則 の柔軟な解釈が要求される。
・職員は職務に付随して一定の給与が与えられる。
・職員は、そのなかで出世することを期待される。
・昇進は能力や年功序列、または両者の併用によって行われる。
・職員の組織内での任務遂行と組織外での生活は切り離されている。
・職員の家庭生活は職場での活動とはっきり区別され、物理的にも切り離されている。
・組織の成員は仕事で使う物的資源を私有する必要はない。
・官僚制が発達すれば、労働者を自分の生産手段の管理から分離する。事務所、机や椅子、事務機器を私有しなくても良い。

「何やればいいか教えてくれるし、そのための道具もくれるし、その対価の報酬もくれる」ってことだな。何やればいいかわからないし、道具もくれないし、対価の報酬もくれなかったら最悪だからな!!

となると、階層のある組織の前提にある考え方は「何やればいいか上の人が教えてくれる。その通りやれば全体としてうまくいく」ということなのだろう。

ただ、否定する人も多い。だから、階層のある組織のだめなところも考えてみよう。

階層がある組織のだめなところは、上司とルールがうざいこと。平時は強いが、有事に弱い。

最初におもついたのは「上司がうざい」ということだ。

何をやればいいか指示をしてくるが、それをやっても上手くいかないだろうと部下に思われてしまっているパターン。そして、それを修正する方法を部下がもたないパターンだ。修正する方法とは、「無視する」「他の部署の人とか、もっと上の上司にいって、修正してもらう」など。責任回避とか、わからないから、何も指示してこない上司ってのもいるのかもな。しかしすべては「上司がうざい」ということでまとめよう。

神谷さんの資料を引用して、他にもだめなところがあるか確認する。

官僚制のリスク
・ 官僚制の円滑な機能が有害な帰結をもたらす可能性がある(「官僚制の逆機能」)(Merton,1957)。
  →官僚制的儀礼偏重主義:規律を重視して、効果的な選択肢をとれない。
  →規則に対して優先的に固執し、本来の組織目的を見失う。
・ 権力関係は多くの場合、拘束力を現実に弱めていく。中間や下層の職位にいる人たちは、上層部が打ち出す全体的な基本方針に従うしかない。しかし、官僚制組織は専門分化と専門知識をともなうため、最上層にいる人たちもまた、多くの管理上の決定を統制しきれなくなっているため、そうした領域の決定は下層にて処理されることになる。また、トップは部門の調整や緊急事態への対処、運営経費や予測数 字の分析に忙しく、新規取り組みを考える時間がほとんどない。したがって、トップは方針検討を下位の人に譲り渡していく。多くの場合、企業の首脳は示された結論をたんに受け入れているだけに過ぎない(Giddens,1992)。

これをみると、「ルールがうざい」というのもありそうだ。意味のないルールが階層が増えて組織を統制するためにできてくる。

あと、なるほど感があるのが、「下層の人は上層部の方針に従うという形になっている。しかし、上層部は忙しいし、実際の方針検討は下層のひとに任せて、下層からの提案を上層部が受け入れるケースが多い」みたいなことだ。誰が最終的に決めてるのかよくわからないパターンだ。これは言われてみればそうかも。

もうひとつ神谷さんの資料から。

官僚制への批判
・ 官僚制組織を、すべての業務形態に効果的に適用できない。定型的に業務を遂行するには理に適ってい る。しかし、業務への要求が予測できない形で変化していく状況では問題を含んでいる。先端産業における革新性や創造性の息の根を止める可能性を含んでいる。(Burns&Stalker,1966)

平時の時はそんなに指示を間違わないだろうが、有事のときには間違った指示がくるパターン。有事はいつもと違う事態だから、上司が部下より状況がわかっていない場合もある。もしくは、有事は上司が忙しすぎて指示してられない。この「有事と平時」という切り口と階層のある組織を対比させて考えてみると面白いかも。

平時は階層をうまく利用し、有事は階層を無視して動く、ぐらいがいいんじゃないか。

ある程度何をすべきかわかっている状態を「平時」とすると、そのときは階層があったほうが動きやすい。しかし、緊急事態になると、上司も忙しいし、平時用のルールが邪魔になることがあるので、階層を飛び越えて勝手にやる。ぐらいがよさそう、

あと、個人的には、階層がない状態でずっとやっていると、疲れるから嫌だというのもある。それはやはり、全部自分で考えるのは負担が大きいし、たまには言われたとおりやっているだけでいいという状態で休憩したいというのはある。そういう意味だと今の会社は有事が多すぎるという話はあるのかもしれない。あと、有事と平時のバランス、どれぐらいを求めているのかというのは、人によっても違うし、同じ人でも年齢によっても変わってきそう。

階層があることを前提に仕事をしてきた人が、階層を飛び越えて動く行動を学習する方法はあるのか?

階層を前提とした組織から転職してきた新入社員に「階層を飛び越えて動くこと」に慣れてもらう方法を考えてみたい。というのも、組織の硬直化、みたいなことは、結局階層構造を前提とした動きの社員が大多数になったときに発生するのではないか、と思ったからだ。だからその人達に「階層を飛び越えて動く方法」を教えることができれば、硬直化を回避できるかもしれない。

階層を飛び越えて動くとは、組織で与えられた自分の役割を超えて動くことだ。一番わかりやすいのは、「上司に報告せずに別の部署のポジションの人に勝手に交渉に行ったり、一緒に仕事をしたりする」ということだろう。

いまの会社でたまに発生することを例に出す。新しく入社した人が「こういうことをやりたいのだが、どうしていいかわからない。もしくは、上司的な人に相談しても動きがない」というコメントをすることがある。それに対して、社歴の長い社員は「そんなの、勝手にやればいいんだよ」的な返事をしてしまうことがある。

社歴の長い社員の「勝手にやる」をもうちょっと言語化してみよう。自分のやりたいことに対して、社内の関係ある人に「(上司には報告せずに)勝手に」話しかけて、やりたいことを説明する。そして、動いても支障がないかを確認して「(上司に相談せずに)勝手に」自分で動く、というようなことだ。つまり実際には、階層を前提とした組織であれば上司がやっているだろうチェック機能を、それ以外の誰かが果たしているとも言える。なんか面倒なことをやってるようにも見えるな。しかし、これを全部上司が交通整理しろってのも、無理だなーとは思う。

ただこれ言語化してみてわかったけど、新入社員にとっては「そもそもそんなことが許されるのか怖い」「誰に相談すれば物事が動くのかわからない」「動いても支障がないかどうかのOKラインがわからない」という無理ゲーだ。逆に言うと、これを学習してもらえばいいということだろう。いわゆる「根回し」というものは、決裁ルートにいる全員の事前承認を得るというようなことだろうから、似ているけど少し違う。公式に組織がOKを出すための準備ではない。最終的な「GO」の判断は、自分でしていいというところが違う。

「階層を飛び越えて動く」「自分の役割を超えて動く」を言語化してみて、こういうことを新入社員時に教えるのはどうか、という案。

・組織に所属した場合、自分には役割が与えられ、その枠内でだけ活動するように求められていると考えがちだが、それは勝手な思い込みである。そう思っていた方があなたにとっては楽かもしれないけど、会社は別にそんなことは望んでない。

・「何かがおかしい」と感じたり、自分の役割を超えてでも、やってみたいことが出てきたら、直接の上司以外にも相談できる人が複数いたほうがよい。あなたの公式の上司になるひとが、あなたが自由に動くことをどこまで許容するかは、わからない。上司に相談して「No」だったとしても、会社の総意として「No」と言っているわけではないから、勘違いしないように。

・ただ、まずは与えられた役割を果たすことで、「あいつは仕事ができる」という評判をつくることは大切だ。それが、役割を超えて動く場合のリスク回避にもなる。仕事ができない人には会社は厳しい。

・相談相手をどうさがすか。当たり前だが、相談内容によって、適切な相談相手が誰か、も変わる。だから、社歴の長い人で、社内にどんな人がいるかを比較的知ってそうな人に「こういうことをやりたい、相談したいんだけど、誰に聞けばいいですか?」と聞けるようになっておくというのが大事だろう。

・あなたが役割を超えて動く動機が何なのか、を周囲の人は見ている。自分のためだけであれば、協力者は増えないだろう。

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あといろいろ思ったことを書いておこう。

全員が階層を飛び越えなくてもいい説

全社の2割ぐらいが「有事に階層を飛び越えて動ける」という状況になっていればいいという考え方もありそう。理由は全員に教えるのは面倒くさいから、というだけだ。

公式な組織図の「中間管理職」ポジションこそ、階層を飛び越えて動き回る方法をわかってる人がやったほうがいい。

中間管理職こそ、自分の所属部署のメンバーが、階層を飛び越えることに対して「時には必要だ」というスタンスでいる必要がある。つまり、公式な組織の階層構造の結束点にいる人にこそ、「階層がじゃまになることもある」と心の底から理解させておくことが必要なのかもしれない。

非公式な階層やルールのほうが壊しやすい

公式な階層やルールは無駄だと思っても廃止しにくい。非公式な階層やルールは壊しやすいからよいという視点もありそうだ。ルールはシンプルに少なくしたいというのは、「公式ルールは必要最小限にするが、ローカルルールはつくっていいよ。でもローカルルールだから無視してもいいし、意味ないと思ったら誰かが壊すけどね」ということだろう。

神谷さんのfacebookでのコメントを引用

本人に許可もらったので、コメント引用しておきます。

「研究会」と称して、月1で実施している場があります。少数の固定メンバーで、ストイックに議論する"閉ざされた場"です。
僕がテーマを設定し、必死こいて関連する大量の論文を読み漁り、多様な観点を抜粋する。それを、議論の糧としてスキルフルな参加メンバーにふるまい、好きに議論していただく。そんな感じでやってます。
今回、そんな場での学びを面白法人柴田 史郎 (Shiro Shibata)さんがシェアしてくれています。
官僚制のメリット、デメリットに言及し、その不具合を解消する手立てを検証されています。
個人的な印象ですが、
そもそも、組織構造というものは"社会的"なもの(人間関係の相互作用の中で生み出されるもの)なのに、その中に収められているといつのまにか"物理的"な構造かのように感じてしまう人が多いのかもしれません。
そこにどうにも動かせない固定的な制約が確かに「在る」と認識してしまう。
「上」「中間」「下」という空間表現もそれを促す1つなんですかね。そんな空間の最下層に収められてる認識を持っていれば、動きは狭く細かくなっていきますよね。それに早く出たくなる。
そこにはそんなものは「無い」と自覚させるためには、言葉から変えていくアプローチも必要なのかもなと感じました。作ってしまい強固になった社会的な構造をバラすには、その部品である言語や意味から変容させてくこともありかなと。
今日は比較的暖かいですね。

最後に:カヤック人事部で働く人を募集しています。

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