見出し画像

思い出す風景

車を降りて、家に帰ろうとした時のことです。
昨日までとは明らかに、辺りの様子が違うことに気がつきました。

「そうか、田んぼに水が入ったんだな。」
カエルの大合唱が聞こえるのです。

子どもとカエルを探しに行ったことを思い出しました。
蓋のついた小さな飼育ケースに、少しだけ水を入れます。虫とり網も必要です。あぜ道をそーっと歩きながら、足を忍ばせます。慣れてくると、飛び跳ねるカエルの進路を予想して捕まえていきました。

すぐにケースはいっぱいになりました。
子どもは、入れ物の中を飛び跳ねる無数のカエルを眺めながら、意気揚々と自宅へ戻っていくではありませんか。

さて、どうしたものか。
カエルの餌は何だっけ?この環境、大丈夫かな。と、心配はつきません。何とか、田んぼに返そうと説得を試みるのですが、なかなかうまくいきません。

結局、子どもの意見を受け入れて、我が家で一晩過ごしてもらうことに落ち着きました。どうか、一晩元気で過ごしてくれますように…

夜中のことです。カエルの鳴き声で目が覚めました。網戸越しに聞こえる声でなく、やけに大音量です。一匹が鳴き始めると、それにつられて大合唱です。
「何て言っているのかな。」
そんなことを考えながら、朝を待ちました。

翌朝のこと。カエルたちは…全員元気です!子どもも安心したようです。

「お友だちのところに、帰りたいって言ってたね。」と、私。
コクリとうなずき、一緒に田んぼへ向かいました。

田んぼに水が張られる頃になると、思い出す風景です。

【2023年6月6日 初出】

この記事が参加している募集

今こんな気分

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?