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新・間違いだらけの論客選びREMASTER 第1回後編・対応分析

はじめに

このnoteでは、単語のカテゴリー別の集計に加えて、集計対象として827単語のデータについて、対応分析を行い、単語と書籍を布置した結果の概要を示す。対応分析においては、同一平面上に、性質の近いパラメータ(ここでは単語)と文書(ここでは書籍)が近くに配置されるようになっている。

まず、単語ごとの得点は次の通りである。

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以下、それぞれの主成分について、上位と下位に配置された書籍の紹介を交えつつ、分析を行う。

第1主成分 正…国家論/負…恋愛論 寄与率…6.85%

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こちらの主成分においては、正の方向には政治に関する時事的なワード、負の方向には恋愛や性愛に関する言葉が配置された。本企画の分析においては、この2つがもっとも大きな対立構造になっていると見ていいだろう。

正の方向には、同一著者による時事評論が並んでいる。他方、負の方向については、ジェンダー論というよりも恋愛とかのエッセイ的なものが並んだ。上野『女ぎらい』と、ロスジェネ論壇やオタク言説における反フェミニズムの流れを決定づけた、本田『電波男』がこちらの値ではほとんど等しくなっている。

第2主成分 正…格差社会論/負…オタク評論 寄与率…4.92%

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正の方向に属する単語は、学力、収入、正社員、フリーターなどといった労働関係や、学力、生徒などといった教育関係の単語が並んだ。そのため、こちらの方向は、本企画の主要な観測対象のひとつである2000年代終わり~2010年代初頭における主要なトピックである格差・貧困に関する議論と言うことができる。書籍にしても、そういった書籍が並ぶが、ただ全体として見れば学術的な研究と言うよりも若者バッシング的な志向が強いものが集まった感は否めない。

一方、負の方向には、オタク、キャラクター、虚構、物語などといったメディアカルチャーに関する単語が並び、書籍もそういった志向のものが多く配置された。本来ならば社会評論として書かれたであろう、そして著者もおそらくそのようにとらえているだろう、大澤真幸の2冊についてもここに入ってしまっているあたり、大澤の立ち位置の一端が垣間見える。

第3主成分 正…右派言論/負…社会学 寄与率…4.63%

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正の方向については、一見すると第1主成分の正の方向と同じように見えるかもしれないが、単語で一番得点が高かった「北朝鮮」に次ぐのが「バカ」だったり、ほかに「民主党」や「女」などがあったりと、第1主成分を純粋に右派論壇的にしたような感じがある。現に、たとえばギルバート『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』が入っているほか、左派と見られそうな書籍はほぼ排除されている

一方負の方向においては、学力、階層といった格差社会論のほか、ひきこもる、虚構、近代などといったオタク評論系の単語が見られた。そのためこちらの方向は社会学的な要素の強さと言うことができる。

第4主成分 正…労働系の若者論/負…教育系の若者論 寄与率…3.34%

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正の方向においては、収入、正社員、フリーターといった格差社会に関する単語が配置される一方で、負の方向は、生徒、教師、いじめなどといった教育に関する単語が並ぶ。そのため、この主成分は、教育論と格差社会論(または経済論)という対立ととらえることができるが…ただ、書籍を見ると、若干異なった様相が現れる。

というのも、どちらの方向にも、内容的には若者バッシングいう評価を下さざるを得ない書籍が多く見られ、学術系の議論もほとんど見られないのもまた双方の特徴である。そういった若者論の中の対立構図を考えてこのパラメータを見るとおもしろそうなのだが、当の論客はそういうことは考えないだろうなぁ。

第5主成分 正…ネット社会論/負…女性に関する議論 寄与率…3.07%

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正の方向においては、blog、ネット、インターネットといったネット社会関係の議論が並ぶ一方で、負の方向には、性愛に関する単語が並び、とりわけ女性に関するそれが多い印象を受ける。

ただ気をつけたいのは、いずれもテーマだけ同じようで立ち位置は全く異なる書籍が並んでいることである。たとえば、正の方向には梅田『ウェブ進化論』と中川『ウェブはバカと暇人のもの』が並んでいたり、負の方向においても上野『女ぎらい』と、ネット上の反フェミニズムを示す本である本田『電波男』や兵頭『ぼくたちの女災社会』が並んでいる。これらのテーマにおける対立については本書で分析しきれなかった別のパラメータが必要になるか。

第6主成分 正の方向…文化論/負の方向…ネットカルチャー 寄与率…2.61%

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ここまでの主成分とは違った様相を見せているのがこちら。正の方向は、まあ「バカ」とかあるものの、それ以外は文明、精神、宗教といった大文字の文化論、文明論と見られるものが並ぶ。

一方、負の方向については、ネットカルチャーに関する議論と言える単語が並ぶ。その中には「米国」「北朝鮮」「民主党」「韓国」のような政治に関する単語が並ぶが、特に後ろ3者はネットカルチャーの中ではバッシングの対象にされやすいことで有名である。負の方向の書籍においては、いくつかのオタク論の本の中に、現在の「まとめサイト」の先駆的な存在であるJ-CASTの創業者である蜷川『ウェブの炎上力』や、櫻井よしこの諸著作が紛れ込んでいることにも注目しておきたい。

「距離」について

本書で示す各書籍の個別の分析においては、この対応分析の第6主成分までの6次元のデータ空間に布置した場合の、各書籍の間における「距離」についても示している。「距離」についてはユークリッド距離を採用しており、計算の簡便のため、寄与率に関する重み付けはしなかった。

座標空間上における代表的な「距離」については、ユークリッド距離(各成分の差の二乗和の平方根)とマンハッタン距離(各成分の差の絶対値の総和)の2パターンが考えられる。寄与率で重みをつけるならマンハッタン距離のほうが扱いやすいとは思われるが、今回はユークリッド距離とした。

主成分は6個でいいのか?

なお、ここまでの主成分の寄与率を合計すると、25%に満たず、このデータでは全体の25%以下しか説明することはできない。ただし、ほかの主成分を見ると、特定の単語の得点だけが突出しているケースが多く、分析としては役に立たないものである。

今回の分析では計算上319の主成分が現れるが、ここまで多い場合、機械的に累積寄与率がある程度になるところまでを採用するよりも、KH Coderなどで実際にプロットして判断しても間違いではないのではないかと思う。

付録:単語、書籍の主成分得点と距離の一覧(有料コンテンツ)

単語・書籍の主成分得点の一覧については有料コンテンツといたします。みなさまご支援のほどよろしくお願いいたします。

単語・書籍の主成分得点につきましては準備中です。準備でき次第有料部分にてリンクを公開いたします。

【追記2020.11.09】公開しました。

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