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ペップを愛し、ペップに愛された男——。 "WEBで"ピッチに立った「新世代サッカー指導者」たち

『新世代サッカー指導者のWEB戦略』vol.3

これまで『新世代サッカー指導者のWEB戦略』Vol.1Vol.2の中では、サッカー指導者が「WEB戦略」を考える理由として「イメージ戦略(セルフブランディング)」と書きました。ただ、それ以外に大きな理由がもう1つあります。今回は、それについて実例を上げながら書いていきたいと思います。



■哲学を世に示せ

私たちのような若い指導者にとって、自分のアイデアや考え方を示す場所は「WEB」以外にありません。私たちが、サッカーについて(もしくはそれ以外の事柄について)自分の意見を言える唯一の機会はWEBであり、そして「最も適した場所」がWEBなのです。なぜWEBが最も適しているのか、この連載を読み進めていくうちに、わかって頂けると思います。


■レネ・マリッチ

日本ではまだ前例がありませんが、海外には「WEBを利用してキャリアをスタートさせたサッカー指導者」がいます。年齢やバックボーンを日本ほど気にせず、良いものは良いと言える欧米においては、至極当然の流れとも言えます。

以前、日本でも「レネ・マリッチ」という男が話題になりました。彼はWEB上で自らの「能力」を示し続け、トーマス・トゥヘル等の指導者に才能を見出された結果、現在はオーストリアの名門FCレッドブル・ザルツブルクのアシスタントコーチを勤めています。彼は現在若干25歳。現代サッカーにおいて「指導者の年齢」は重要ではないこと、そして才能が開花するには、才能を見分けられる人間が必要であることがわかります。

※彼に関しては、以下のブログに詳しく書かれていますので、ぜひ参照してください。


■マティアス・マンナ

日本ではあまり知られていませんが、アルゼンチン人のMatías Manna(マティアス・マンナ)もまた「WEBからキャリアをスタートさせた指導者」の一人です。彼はサンパオリ監督のアシスタントコーチとして、ロシアW杯アルゼンチン代表にも帯同していました。同国代表であり、セヴィージャに所属するDFガブリエル・メルカードに「天才」と言わしめたマティアスは、一体どのようなキャリアを積んできたのでしょうか?

「WEB」とは切っても切れない彼の珍しいキャリアを、見ていくことにしましょう。


■ペップ・グアルディアラを愛した男

1990年代初頭、ドリームチームと呼ばれた当時のバルセロナに魅了され、その中でひときわ輝く「ペップ・グラルディオラ」という男に、彼は心酔しました。

I wanted to exhibit the football ideas that Guardiola expressed, at that time as a player. —— 僕は、グアルディオラが選手として表現したフットボールのアイデアを示したかったんだ。

後のインタビューでそう語ったマティアスは、大学在学中に『Paradigma Guardiola(パラダイム・グラルディオラ)』と名付けたブログを開設しました。監督としてのペップを徹底的に分析した戦術ブログは世の中に少なからず存在していますが、彼のように現役時代のプレーを分析していた人間は、当時から珍しかったのかもしれません。


■ただペップを分析するために

I didn’t use it as a communication medium to earn money, that didn’t interest me. I preferred it being a tool for study and analysis. I like to write and I used videos too which allowed the blog to become more stable. ——僕はただ、分析を学ぶツールとしてメディアを利用したかっただけで、ブログでお金を稼ぐことに興味はなかったんだ。僕は書くことも好きだったし、内容を充実させるためにビデオも使ったよ。
It was a means to exhibit my two obsessions: training methods and game analysis and the relationship between them.  ——「トレーニングメソッド」と「ゲーム分析」、そしてこの2つの関係性を示すことが目的だった。


¿Qué cosas encuentra un usuario que entra a Paradigma Guardiola?
Conceptualización del modelo juego, Análisis táctico, visualización mediante videos, convicciones que defiende el ahora entrenador Guardiola.
——(ブログのユーザーは何を見ることが出来る?)ゲームモデルの概念化、戦術分析、ビデオによる可視化、監督グアルディオラが持つ信念。

これらの言葉が示すように、彼はペップのプレーをひたすら分析し、アイデアを示し続けました。

運命を変えたのは、彼自身の行動力と、幾つかの幸運でした。


■ペップへの接触

Lo más significante fue en 2005. El contacto me lo pasó Jordi Agut de Regió7, un periódico de Manresa. Guardiola no salía en ningún medio en ese entonces. Y este pequeño periódico le hizo una entrevista. —— 最も重要だったのは2005年。(ペップの)連絡先を『Regió7』(カタルーニャ州マンレザの地元紙)の記者Jordi Agutに聞くことが出来た。当時グアルディオラを扱うメディアは何もなかったんだけど、その小さな新聞が彼にインタビューを行ったんだ。

ペップのインタビューを行ったジャーナリストから連絡先を聞き出したマティアスは、勇気を振り絞って彼に電話をかけたといいます。はじめペップは電話に出ず、伝言メッセージを残したり、数回かけ直したりしたのちに、彼とコンタクトをとることに成功しました。

その後2006年、ペップが友人のダビド・トロエバ(スペイン人映画監督)と、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス・パレルモ地区のとあるカフェで朝食を共にしていた際、マティアスはその席に招かれ、初めての対面を果たしたのです。

ペップがカタールのアル・アハリから移籍をするために、アルゼンチンのチームと頻繁にコンタクトをとっていた時期(実際にはメキシコリーグに移籍)、ブログを開設してから3年後の出来事でした。


■マルセロ・ビエルサの存在

ペップを愛した男がペップに愛されるまでに、そう時間はかかりませんでした。マティアスのブログを見たペップは、すぐに彼の才能に惚れ込みました。

そしてなんと、マティアスとペップが初対面を果たした次の日、ペップはブエノスアイレスに"あの"マルセロ・ビエルサ(戦術への異常な執着から「El loco(変人)」と呼ばれる、アルゼンチン人監督)を招いたと言います。

What was supposed to be a morning’s conversation turned into the 11-hour discussion famed for its impact on Guardiola’s coaching career. —— 朝の何気ない会話が、ペップの指導者キャリアに大きなインパクトを与えたことで有名な「11時間のディスカッション」へと変わったのだった。

ビエルサがチリ代表監督(2007年)になる前、グアルディオラがビエルサを訪ねて11時間のディスカッションをしたという話は有名ですが、それがまさにこの日、つまりペップ、ビエルサ、そしてマティアス3人でのディスカッションだったかどうかはわかりませんが、ペップの指導者キャリアに大きな影響を与えた日だったことは、間違いなさそうです。


■ビエルサとの仕事・ペップとのコンタクト

2006年の"あの日"から2ヶ月後、マティアスは共通の知り合いを通してビエルサの事務所を訪ねるなどした後、23歳の時、チリ代表のアナリストとしてビエルサと共に仕事をし始めます。

その間も、マティアスはブログ『Paradigma Guardiola(パラダイム・グラルディオラ)』を更新し続け、バルセロナBを率いるグアルディオラ本人ともコンタクトを取り続けていたと言います。

It was on my birthday when he was presented as the manager of the first team and he announced that Ronaldinho and Deco would be leaving. But he sent me birthday wishes, so it was good things like that. —— 僕の誕生日、彼がバルセロナのトップチームを率い、ロナウジーニョとデコが退団することが発表された。彼が僕の誕生日を祝ってくれたし、それは素晴らしいことだったよ。


■本の出版

その後2012年彼のブログは一冊の本にまとめられ、彼のペップ分析はあらゆる方面へ影響を与えました。ポルトガルの名門FCポルトも、ユース選手への教育に同著を利用させてもたったと、マティアス本人に連絡をしたそうです。


■アルゼンチンでのキャリア、サンパオリとの出会い

母国アルゼンチンでコーチングライセンスを取得した後、アルゼンチン国内リーグでアナリストとして活動し、その後ホルヘ・サンパオリと出会い、共にキャリアを積んでいくことになります。

サンパオリ監督のチリ代表監督としての躍進、そしてセビージャでのキャリアには、このアナリストの存在が大きかったのかもしれません。その後母国アルゼンチン代表監督に就任したサンパオリと共に、同代表のアナリストを務めました。

One of the chapters in Paradigma Guardiola asks: “Could Guardiola provoke a structural change to reorganise the Argentine footballing identity? —— Paradigma Guardiola』の中で、グアルディオラはアルゼンチンのアイデンティティを再構築するための、構造的変化を引き起こすことが出来るのか?と問うた。

奇しくも、アルゼンチン代表のアナリストとして彼自身がそれを実行する日が来ようとは、誰一人として予想していなかったことでしょう。


■WEBからキャリアをスタートさせた指導者

ご存知の通り、アルゼンチン代表はロシアW杯で優れた成績を残せず、サンパオリ監督、そしてコーチングスタッフは解雇されました。

ただ、彼の7月24日のTwitterの投稿を見ると、アルゼンチン代表U−20の試合に同行しているような写真があったので、もしかすると現在もアルゼンチン代表のコーチとして働いているのかもしれません。

何はともあれ「WEBからキャリアをスタートさせた指導者」のうちの一人であるマティアスは、インタビューの中でも「ブログを書いていた狙い」や、「インターネットを利用」してペップに接触したことなど、非常に興味深い発言をしています。彼がブログをスタートさせたのは2003年だという事実、そしてペップが現役時代の2006年から才能を開花させていた事実、あらゆる事実から、私たちは何かを感じ取る必要があります。


■どのようにWEBと向き合うべきか

『新世代サッカー指導者のWEB戦略』という連載をここでしていくにあたって、Vol.1の中でも書きましたが、サッカー指導者はこれからのWEBとどのように向き合っていくべきなのか?という大事な論点が存在しています。この連載の中でそれを私なりに解釈し、私の成功や失敗、現在進行形の戦略も含めて、可能な範囲で発信していきます。

世界には、WEBを利用してキャリアを獲得した者、能力を高めた者、学びを得た者…世に出ていない指導者も多くいるかと思います。WEBを有効に使えなければ、日本サッカーの成長スピードは落ちていくことでしょう。



Paradigma Guardiola

※2011年インタビュー時ブログ情報

▶︎通常(アップなし)時:400〜500 view

▶︎アップ時:2000 view

▶︎バルセロナの試合で何かが起きた時:4000 view

Twitter(Paradigma Guardiola):@ParadigmaPep

Twitter(マティアス・マンナ):@matiasmanna


参考資料

▶︎https://www.planetfootball.com/in-depth/story-guardiola-bielsa-blogger-entrusted-sampaoli/

▶︎http://cronicaz.com.ar/2011/11/14/matias-manna-ser-util-en-futuros-procesos-de-pep-guardiola-seria-algo-sonado/

▶︎https://www.mundodeportivo.com/20130713/fc-barcelona/pep-guardiola-matias-manna-ataque-directiva-azulgrana_54376764439.html


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