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大人になっても極上の恥をかくことはある


先日、同期と2人で沖縄料理屋に行った。

その沖縄料理屋は、以前にその同期と2人で行ったことがあり、料理の味も店主の人柄の良さもお店の雰囲気も最高だったので、また2人で来ようということで、1ヶ月ぶり2度目の来店となった。

東京で何度か沖縄料理屋に行ったことがあるが、そのどのお店よりも料理が美味しく、泡盛が馬鹿みたいに進んでしまい我を失くしてしまうので要注意だ。

同期と夕方に集まり、沖縄料理屋に行く前に一旦パチスロへ。
2人で並んで打っていると、同期が「俺こないだ友達とあの沖縄料理屋また行ってきたんだよね」と言ってきたので、僕は「あ〜そうか」と覇気のない言葉で返したが、内心はおれ以外のやつと勝手に行きやがってこいつと、腹わたが煮えくり返っていた。

続けざまに同期が「なんか今日は歌のイベントがあるらしいからもう予約してあるよ」と言ってきた。

ん?歌のイベント?沖縄料理屋で歌のイベント?それ俺らが行っていいやつ?え?

同期が言うには、こないだ僕に黙ってそこに行ったときに、店主からこの日に定期的にやっているイベントがあると、沖縄出身の歌手が歌うからぜひ来てほしいと言われたので、もうそのときに予約したとのこと。

ふ〜〜ん、なんかよさそうじゃ〜ん、楽しくなってきたじゃ〜ん、ふ〜ん。
そんなことを思っていると目の前の天膳が急に火をふき出し、あれよあれよという間に2800枚も出た。

しっかり脳を溶かした後、僕たちはホクホクの状態で少し早めにお店に着いた。
沖縄の人は時間にルーズだとよく聞くので、早めに着いたら逆に嫌な顔されないかなと、少し心配になったが、ここは東京なので関係ないだろと言い聞かせお店の扉を開けた。

店へ入ると、店内はもう過去に50回は来店しているであろう酒人(さけんちゅ)たちで覆い尽くされていた。
僕は場違いの空間にも物怖じせず、常連顔で「あ、19時から予約してた者です」と店員さんに言った。

すると店員さんはキョトンとした顔で「え?予約?、、えっと〜、今日は歌のイベントです、けど?」と言ってきた。

この返しだけで、今日は常連さんしか入れておらず、こんな知らない顔の若者が予約をとっているはずがないと店員さんが思っていることを察した。
まずこの時点で常連顔して入店した自分がものすごく恥ずかしくなった。
穴がなくても掘って入りたいまであった。

なんなら本当に予約がとれていない可能性もあるので、僕は口をパクパクしながらたじろいでいると、奥の厨房から店主が顔を出し「あ、その方たちは大丈夫だよ!よく来てくれたね!」と笑顔で対応してくれた。

店主ぅぅ、ナイスファインプレー!よくぞ言ってくれた!

僕はさっきまで感じていた恥ずかしさを払拭し、入り口から席までの約5mの間を闊歩した。

席に座る僕たちは、ただの知らない顔の若者からこの空間にいることを許された若人(わかんちゅ)にまで成り上がっていた。
なんならさっきまでよりもちょっと顔の彫りが深くなっていた。

沖縄料理と泡盛を嗜みながら30分が経過した頃、本日歌うであろう歌手の方が準備をしだした。
男性一人に女性二人という少し変わったグループで、男性は中年ぐらい、女性は若めと年齢がバラバラに見えた。
特に男性の方は彫が深く、ザ・沖縄といった顔立ちをしていた。

すると、まだこの空間に打ち解けられていない僕たちに気を遣ってか、彫ふか中年男性ボーカルが僕たちに話しかけてきた。

「沖縄出身?」

「いや違います」

「お店にはよく来るの?」

「2回目です」

「なんか歌ってほしい曲があったらなんでもリクエストしてね」

「ありがとうございます!」

この会話により僕たちの緊張は少しほぐれ、ライブを楽しむための準備は万端となった。

そしていざライブがスタート。
ライブの冒頭で、今日は初めての人がいるけど歌ってほしい曲があれば後でリクエストしてねと、彫ふか中年男性ボーカルが僕たちのことについて触れてくれた。

歌う曲は全て沖縄の曲で、1曲も僕たちは知らなかったが、まわりのお客さんたちはいっしょになって歌っていた。
また、各曲に振り付けのようなものもあり、皆いっしょに踊っていたが、僕たちは見よう見まねでぎこちなく踊っていた。

これはやばいぞと、こんなところで誰もが知っている沖縄の曲はリクエストできないぞと、海の声やBEGINなんかリクエストした暁には白い目で見られてお店を出禁になるんじゃないか、大丈夫かこれ。
僕は差し迫るリクエストタイムに向けて頭をフル回転させていた。

(あ、あった!一つあった!!)

僕は名探偵ばりの閃きで、通な沖縄曲を思い出した。

それは沖縄民なら誰もが知っている曲だけど、沖縄出身の人じゃないとそうそう知らなさそうな曲で、僕はたまたまよく行っていたスナックのママが歌っていたから知っていた。
しかもそのママも沖縄出身なので、この曲をリクエストすれば盛り上がること間違いなしだ。

5曲ほど歌ったあと、曲のリクエストタイムがやってきた。
案の定、いの一番に僕たちに振られ、僕はリクエストの前に曲の前振りをしだした。

「なにか歌ってほしい曲ある?」

「なんでもいいんですか?」

「もちろん」

「あまり有名な曲ではないんですけど、僕すっごいこの曲すきで昔からよく聞くやつがあって、、」

お客さん、店員さん、歌手の方、約50人の目線が一気に僕に集まる。

「なんて曲?」

「、、フェーシのLADYです」

「ああそれは違うな」


食い気味に拒否られた。
僕は何が起こったのか理解するのに10秒ほど時間がかかった。
たぶん何か大っきい地雷を踏んでしまったのだ。

さっきまで和みぱなしだった店内は、地獄のような空気が張り詰めた。

「じゃあ次の曲いきます」

僕のくだりはなかったかのようにさらっ流されて次の曲へといった。

もうここからは恥ずかしすぎてずっと泣きそうだった。
今すぐにでもここから逃げ出して僕のことを誰も知らない土地へ行きたかった。

恥ずかしさのあまりライブ中の記憶はあまりないが、ライブの終盤で彫ふか中年男性ボーカルが海の声を楽しそうに歌っていたのだけは覚えている。

なんか日本昔話のような展開だなと思った。

ライブが終わり、謝りに行こうと彫ふか中年男性ボーカルの元へ向かった。

「あの、さっきはすいませんでした」

「ああ、うん」

ほぼ無視に近かった。
まだ僕に恥ずかしさの雨が降り注ぐのかと、今日という一日を呪った。

彫ふか中年男性ボーカルとフェーシの間に何があったのかは知らないが、とにかく踏んではならない地雷を踏んだんだなと、人の地雷ほど気付けないものはないなと感じた。

僕たちは居心地が悪く、そそくさと店を出た。

すると、店主が外まで追いかけて来てくれて、

「今日はごめんね!ほんとにありがとう!」

と言ってくれた。

その言葉だけで心が洗われた。
早くまた店へ行って泡盛をガブ飲みしたいと思った。

大人になってからの恥ほど強烈なものはない。
だが、かいた恥の数だけ強くなれる気がする。


恥に負けないよう強く生きていこう。

なんくるないさ〜。

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