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SMAPに愛の花束を

労働研究の専門家・上西充子 @mu0283さんのツイートを読んでどうしても思い出すのは、SMAPの「解散騒動」の時のことだ。

あの時も、2016年1月18日の生放送をきっかけに、ジャニーズ事務所への抗議デモや事務所幹部の解任要求などのアイデアが出てはきたが、
「まだ事務所にいる彼らに迷惑がかかる」
「過激なやり方では社会的な賛同は得られない」
といったファン内部の制止の声に押されて実現には至らなかった。
それもまた、これまでジャニーズ事務所がファンの中に形作ってきた支配構造の結果でもあったし、日本社会に生きる私たちが元々持たされがちな同調傾向ともあいまって、その思考が縛られ、行動が制限されていた部分はあっただろう。

結局、ファンの多くがSMAPに思いを伝える方法として選んだのは、CD「世界に一つだけの花」の購買運動だった。
それは世間が誤解したような、解散する彼らの花道づくりなどではなく、当時、拡散された 「#SMAP25周年に300万枚の花束を」というハッシュタグが示すとおり、その年、デビュー25周年を迎えた彼らへの感謝と祝福のメッセージだった。

しかし、こうしたファンの動きに対して寄せられたのは
「そんなことをしても解散は止められないから無駄だ、意味がない」
「ジャニーズ事務所を儲けさせるだけだ」
「解散したい彼らを苦しめるだけだ」
などの指摘や揶揄だった。
それらは、まさに「呪いの言葉」となって、迷いながらも声を上げていたファンの心を苦しめた。

そうした指摘や揶揄のとおり、確かに購買運動は彼らの解散を止めることはできなかった。
しかし、あの運動を通じて積みあがった「平成で最も売れた曲」としての記録は、2019年4月、改元を前にして「平成」を振り返る様々な場面で大きな存在感をもたらした。
あの運動があったから生まれた記録によって、「平成」の記憶からSMAPを消すことができなくなった。
そのことを思うと、あれはぶつけられ続けた「呪いの言葉」に耐えてファンが広げた「#Withyou」だったのだな、と思う。

性暴力や性差別の被害に対して声を上げる人への連帯運動として始まった「#MeToo」は、その後「#Withyou」などのタグも加わって、性暴力はもちろん、その他の苦境に声をあげた人や辛い思いをしている人に向けて「あなたは一人じゃないよ、そばにいるよ」
そう伝える意思表示の一つとなっている。

あの購買運動、そしてその後に続く新聞の個人広告欄へのメッセージ掲載や朝日新聞のクラウドファンディング、ジャニーズ事務所に手渡された「SMAP存続」を願う37万筆署名、そのほか、ファンの手によって様々なところで行われた活動の全てを通して、ファンはSMAPに向けた声を上げ続けた。
あなたたちが大切だ、あなたたちのそばにいるよ、と。
たとえどんなに馬鹿にされ、たくさんの「呪いの言葉」が、その声を抑え込もうとしても、一つ一つは小さな声は結びつき、連帯し、決して沈黙しなかった。
何よりも大切なことは、それがあの時、誰より辛かったはずの彼らに届いていた、ということだ。

上西さんは、人が声を上げることを抑圧して行動を縛る「呪いの言葉」に対して、人が声を上げることを励まし、勇気づけて支える言葉を「灯火(ともしび)の言葉」と呼ぶ。

今でもふと、あの時彼らの心と体はどれほど傷ついていたことだろうか、と考える。
きっと、自分の存在の確かさを見失う時もあっただろう。
そんな時、たくさんのファンが届け続けた「灯火の言葉」が彼らをあたため、彼らを支えたのだと、今は信じることができる。

「道なき道をいこう」
「こわくなんかない」
「もしも迷ったら」
「耳を澄まそう」
「誰かの笑い声がする方へ」
「信じていれば」
「きっとどこかで会える」

たくさんの「灯火の言葉」からは、また新たな「灯火の言葉」が生まれる。
それは互いをあたため、勇気づけ、支え合う力となる。

(2019年6月11日掲載記事のタイトルと内容を一部編集して再掲載)

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