日本の男性は家事育児しなさすぎ、女性は男性に求めすぎ

「婚活」という言葉は、2008年に出版された『「婚活」時代』という本がきっかけで、広く知られるようになりました。黙って待っているだけでは結婚できない、就職するための「就活」と同様、結婚するためには「婚活」しなければならない、と。あれから6年が経ちました。人々は婚活をして結婚したのでしょうか?残念ながらしていません。日本の結婚数と結婚率は年々減少していて、2008年以降の「婚活時代」でさえ、増えるどころか逆に減り続けています(図1)。

図1.日本の結婚数と結婚率の推移。厚生労働省大臣官房統計情報部が提供する、人口動態統計(2012年)のデータを用いて作成。2000年以降のデータを示した。

このデータを見ると、2012年は前年より少し結婚が増えているものの(2011年は震災が影響したと思われる)、基本的にはどんどん結婚は減っています。つまり「婚活」という言葉が世間に浸透し、人々は活動しないと結婚できないことを知り、実際に活動し、それでも結婚できていないということです。これは一体何が原因なのでしょうか?

日本の男性は家事をまるでしていない

近年の日本では長引く不況で年収が下がり、「夫が働き、妻は専業主婦」という従来の夫婦形態は経済的理由から難しくなってきました。そのため夫婦共働きが主流となりつつありますが、家の仕事は未だに女性が行っていて、男性は家ではほとんど何もしていません(図2)。

図2.共働き世帯における、家事や育児に消費する一日の平均時間。総務省統計局が提供する、社会生活基本調査(2011年)のデータより作成。共働きの夫と妻のうち、家庭での仕事に対する消費時間を示した。

このデータによると、女性は家事に一日3時間以上費やしているのに対し、男性はたった12分しかやっていません。別の日米の共働き夫婦を調査した報告では、アメリカ人夫は日本人夫に比べ、4.2倍家事育児を行うと判明しています (1)。この調査のデータでは日本人の共働き夫婦は、妻が週35時間以上外で働いて、さらに家でも一日3時間50分以上働いています。一方、夫は一日36分しか家事育児をしていません。この日本の男女差がどれほど大きいのかは、OECDの統計を見れば一目瞭然です(図3)。

図3.無報酬労働時間の割合の男女差。OECD Statistics(2013年)のデータを用いて作成。総労働(Totalwork)時間内の無報酬労働(Unpaid work)時間の割合(%)を計算し、女性の割合から男性の割合を引いたもの。数字が高いほど、女性の負担が大きいことを意味する。

このデータは、男女でどのくらい無報酬労働時間の割合に違いがあるかを示しています。無報酬労働には家事育児や介護だけではなく、無給のインターンシップやボランティア活動なども含まれますが、日本では男性が総労働時間の内12.8%を無報酬労働に費やしているのに対し、女性は61.2%も費やしていて、その差は48.4%もあります。日本と同様に男女差が大きいのは発展途上国ばかりで、上位を占める男女差が少ない国は、北欧と北米の先進国ばかりです。トップのノルウェーは男性で40.7%、女性は51.5%で、差が10.8%しかありません。これらの国では仕事や家事育児での男女差はほとんどなくなっているのに対し、日本では未だに「家事育児は女の仕事」であることがわかります。

日本の男性は時代に合わせた変化をしていない

これら北欧や北米の国でも、昔から男女に違いがなかった訳ではありません。例えばアメリカでも、日本と同様に「家事育児は女の仕事」と考えられていた時代がありました。夫が外で働いて、妻は家で家事育児をするスタイルは、日本だけでなくどの国でも行われていたのです。しかし時代が変わり、女性の社会進出や男女平等意識が進むと、夫婦が共働きするようになり、同時に夫が家事育児に積極的に関わるようになりました。先に紹介した日米の共働き夫婦を調査した報告書も、アメリカの結婚している男性は、家事に費やす時間が年々増えていると指摘しています。同時に妻が家事に費やす時間は年々減っているので、男女差はどんどん縮まっています。ところが日本の共働き夫婦では、一応夫の家事時間は増えてはいるのですがごくわずかで、ほとんど変わっていません(図4) (2)。

図4.共働き夫婦が一週間に費やす家事労働の平均時間。論文(2)のTable 3のデータを用いて作成。夫婦共にフルタイムで働いている場合の男女の家事に費やす時間の推移。

このデータによると、男性は1994年に比べて2000年では1時間、さらに9年後の2009年にはもう1時間と、15年間でたった2時間しか家事時間を増やしていません。これは週に2時間ですから、一日17分長く家事をやっているだけです。ごみの分別とごみ出しをやり始めた程度です。たったこれだけでは、とても「時代の変化に合わせて家事に参加するようになった」とは言えません。むしろ、「日本の男性は時代が変わって結婚の形態も変わったのに、未だに発展途上国のような時代遅れの考えにしがみついている」と言えます。

昔の日本人女性が家事育児の一切を引き受けていたのは、当時の女性が今の女性よりも清らかで優しかったからでも、母性に満ち溢れていたからでも、夫を深く愛していたからでもなく、ただ我慢していただけです。そうするより他に、生きていく手段がなかったのです。就学機会も就労機会も与えられず、お見合いで結婚して相手の家に嫁ぎ、その家の労働力として働く以外に、人生の選択肢がありませんでした。ただそれだけの話です。教育を受け仕事ができるようになった現代の日本人女性にとって、わざわざ自分を犠牲にして夫に尽くす理由がありません。女性が変わってしまったのが問題なのではなく、変わらない男性が問題なのです。

日本の女性は男性の稼ぎを当てにしている

では、一方の女性には問題はないのでしょうか?日本の男性が「家事育児は女の仕事」という考えにしがみついているのなら、日本の女性は「働いて稼ぐのは男の仕事」という考えにしがみついています。独身女性の人たちは、結婚相手にどのくらいの年収を希望しているのでしょう。1,000万円はさすがに高望みしすぎとはわかっていても、できれば600万円くらい、最低でも400万円くらいは欲しいと思っている人が多いと思います。20代と30代の男性の年収別既婚率を見ると、年収が高い男性ほど結婚していて、年収が低い人、特に300万円未満の男性はほとんど結婚できていないことがわかっています(図5)。

図5.年収別20代30代男性の既婚率。内閣府政策統括官が提供する、結婚・家族形成に関する調査報告書(2010年)のデータより作成。男性の既婚の割合の内、20代と30代の平均を示した。

このデータによると、男性は年収が400万円以上では既婚率があまり変わらず、300~400万円ではやや下がり、300万円未満では大きく下がっています。この傾向は男性だけで、女性には見られません。年収と既婚率の関係はアメリカでも同様で、1950年から2000年までの国勢調査を分析した調査報告書では、男性は年収が高いほど既婚率も高くなり、人種で違いはなかったと報告されています (3)。しかし日本のように、例えば年収3万ドル未満では既婚率が極端に下がるということは見られません。年収が下がれば、それに合わせて既婚率もそれなりに下がるだけです。つまり、日本の女性は年収が低い男性との結婚を極端に嫌がり、最低でも300万円、できれば400万円の年収を男性に求めているということです。では実態はどうなのか、最新の所得別世帯数分布データを見てみましょう(図6)。

図6.世帯数の所得金額階級別相対度数分布。厚生労働省大臣官房統計情報部の平成25年国民生活基礎調査より、図13を転載。データは2012年のもの。

これによると、一世帯当たりの平均所得金額は537万円ですが、中央値つまりちょうど真ん中の世帯収入は、432万円です。そして最も多いのは年収100万円から400万円の世帯であり、平均の537万円以下の世帯は60.8%に達します。これはすべての世帯を合わせた数字ですが、100~500万円程度の世帯収入が「普通」であることがわかります。よって女性が求める「最低でも400万円」は一応理にかなってはいるのですが、問題は世帯収入のすべてを男性に求めていることです。「自分と相手で200万円ずつ、世帯で400万円」とは考えていません。これは日本の女性が「働いて稼ぐのは男の仕事」と心のどこかで未だに思っていて、男性の稼ぎを当てにしているからです。その証拠に日本とアメリカの夫婦を比較した、収入と幸福度の関係を調査した論文では、日本の女性は夫の稼ぎが多いほど幸せだと感じていると報告されています (4)。アメリカの女性は自分の収入が高いと幸せだと感じ、夫の収入は関係ありません。しかし日本の女性はその逆で、自分の収入が高くてもほとんど幸福感は上がらず、夫の収入が高い時に、幸福感が高くなります。また、世帯収入全体が高い時は、同様に幸福感も高くなります。これはつまり、アメリカの女性は「自分の幸せのために自分で稼ぐ」という意識を持っているのに対し、日本の女性は「自分の幸せ=世帯収入=夫の収入」という考えを持っているということです。

日本の女性は男性にすべての魅力を求めている

日本の女性が男性に求めているのは、経済力だけではありません。独身の男女に対して行ったアンケート調査によると、結婚相手に求める条件のすべての項目で、半数以上の女性が「重視する」または「考慮する」と答えています(図7)。

図7.結婚相手に求める条件。鎌田健司(2013)「30代後半を含めた近年の出産・結婚意向」Working Paper Series (J) No. 7 国立社会保障・人口問題研究所 図2-9のデータのうち、2010年のものを用いて作成。結婚相手に求める8つの項目で「重視する」または「考慮する」と答えた人の割合を合計して示した。

伝統的には、男性が外で働き、女性が家事育児を行ってきました。経済力やそれに深く関係する職業と学歴は、男性的魅力と呼べるでしょう。一方で家事・育児の能力や、男性的役割である仕事への理解は、女性的魅力と言えます。容姿や人柄、共通の趣味は男女共通の魅力と考えると、男性は女性に対し女性的魅力と共通の魅力だけを求めているのに対し、女性は男性にすべての魅力を求めています。女性が男性に経済力を求めるのはまだわかります。それが男性的魅力だからです。しかし女性的魅力まで求めるのは求めすぎというものです。私は以前のエントリーで「男らしさと子育ては両立できない」と述べましたが、一人の人間に男性の役割と女性の役割を同時に求めるのは、基本的に不可能です。男性の言う「専業主婦は認めないから働け、でも家事育児は女のお前が全部やれ」と、女性の言う「あなたは男なんだから男らしくしてお金も稼いでね、でも家事育児は分担して」は、結局同じなのです。現実を見ずに、美味しい部分のみを頂こうと考えているだけです。そのような考えを男女共に変えない限り、誰も結婚できません。

性別を意識する時代ではない

「夫が働き、妻は専業主婦」という形態が、悪い形だとは言っていません。そのような男性と女性の役割を意識した夫婦形態にもメリットはあり、夫婦がより動物的になるというか、夫婦間のセックスの頻度も高く、子供の数も多いことは統計からもわかっています。ただ、その形に固執するのが時代遅れだと言っています。性別を意識する形にするか、まったく意識しない形にするか。どちらも正しく有効ですが、すべての人が昔のように意識する形で結婚するのは、単純に不可能になってしまったのです。これは先進国では必然でありどうしようもないことで、そしてもう二度と昔には戻れません。嫁いで相手の家の労働力になるしか選択肢のない人生は、女性はもう誰も望んでいないはずです。教育や就職、収入や家事育児での男女差をなくすということは、社会の中で性別を意識しなくなるということです。どちらがどれだけ稼ぎ、夕飯の支度をし、子供を寝かしつけるのか。その時、性別は関係ありません。妻が働き、夫が料理をしても良いのです。そこで「料理は女の仕事だし新妻の手料理に憧れる」「私より稼げない男は尊敬できないし好きになれない」などと、性別の魅力にいつまでもこだわるのが時代遅れなのです。これからは「子供にはおふくろの味ではなく、おやじの味を教えてやろう」「私が稼いで世帯収入を上げて、家族みんなでハッピーになろう」と考えるべきです。

諸悪の根源は労働環境の悪さ

とは言え、その実現は今の日本では非常に難しくなっています。男性は家事育児をしようにも労働時間が長すぎて、単純に時間とエネルギーに余裕がありません。朝7時に家を出て満員電車に乗り、夜10時頃帰宅する生活では、家の仕事をするのはほぼ不可能です。女性も働こうにも正社員の働き口は男性より少なく、給料も男性より低く、子供がいるとさらに仕事は見つけにくくなり、そもそも子供を預ける場所は不足しています。そしてもし結婚や出産後に仕事を続けたとしても、長時間で過酷な労働には変わりありません。すべての元凶は労働環境の悪さであり、それは未だに日本社会が昔の「夫が働き、妻は専業主婦」という形態を前提としているからです。昔の男性がそのような長時間労働に耐えられたのは、家に生活を支えてくれる専業主婦がいたからであり、その働き方を同じように今の若い男女に求めるのは無理があります。給料は下がり、結婚の形態は変化し、女性も社会に進出しているのに、働き方だけ変わっていません。このままでは男性も女性も幸せになれないまま、ただ疲弊していくだけです。

私はアメリカとニュージーランドで働いた経験がありますが、どちらの国でも、多くの人は大体朝8~9時頃から仕事を始め、夕方5時頃には帰ります。職種にもよりますが、夜6時を過ぎてもまだ働いている人はほとんどいません。満員電車での通勤や、仕事終わりの付き合いもありません。7時には家で家族と食事をして、団欒の時間を持ちます。それが「普通」の生活です。そのような人間としての普通の生活があって初めて、人々は結婚して子供を持ちたいと思うのです。日本の晩婚化や少子化の対策として必要なのは、端的に言えば「男女関係なく9時5時で働いて十分生活できる社会にする」ことです。この前提条件である労働環境の改善がなければ、いくら自治体が街コンで出会いの場だけを提供しても、子供を預ける場所だけ作って待機児童をなくしても、子供手当てのように現金だけを配っても、永遠に晩婚化と少子化の流れは止まりません。政府は小手先の政策ばかり考えるのではなく、国民はすでに結婚するだけの余裕をなくし、だからこそ非現実的な理想の相手との結婚を夢見てしまう、という現実にまず目を向けるべきでしょう。


参考文献

1.            Jibu, R. (2007) How American men'sparticipation in housework and childcare affects wive's careers. Center for theeducation of Women, University of Michigan

2.            Tsuya,N. O., Bumpass, L. L., Choe, M. K., and Rindfuss, R. R. (2012) Demogr Res 27, 705-718

3.            Watson,T., and McLanahan, S. (2009) NBER WorkingPaper Series, Working Paper No. 14773

4.            Lee,K. S., and Ono, H. (2008) Soc Sci Res37, 1216-1234

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