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【しくじり先生レポート】大学では教えてくれない設計業界処世術

先日建築学生カフェTONKANにて
【しくじり先生】建築設計編
〜大学では教えてくれない設計業界処世術〜を開催いたしました!

講師は、株式会社フィールド・デザイン・アーキテクツの井上雅宏さん。
とても濃い内容で、参加者さんからは
「普段聞けない話を聞けてよかった!」
「学校の設計課題への考え方が変わった」など
満足度の高い声をいただきました。

当日参加できなかった方々のために
この記事では当日講師の井上さんがお話された内容を
Sho建築士なりに要約してお届けしたいと思います。

めちゃくちゃ時間かけて作ったので
いいねいただけるととても嬉しいです!


しくじり先生井上さんの現在

東京都中央区築地で
株式会社フィールド・デザイン・アーキテクツという設計事務所を経営されています。

設計ジャンルは、集合住宅や事務所ビル、店舗系ビルなど様々
駅直結の大型マンションや
六本木の交差点に建つゆきざきビルなど
大型ビルを数多く設計されています。

東京中野区鍋屋横丁に立つクリニックモール複合施設

過去実績はこちら

3Dパースを最大限に活用して、設計していく

井上さんの事務所では
3Dパースを作成してクライアントや施工現場と打合せを行なっています。
使用しているソフトはSkechUpとLumion。
風船を膨らませたりしぼませたりするようなボリュームの検討は、BIMでは行いにくいとのこと。

井上さんの事務所でSketchUpを使用している様子

手書き図面や模型では出せないスピード感

依頼を受けてから1〜2週間で
3Dパースおよび↓のような動画を作成するとのこと。

この3Dパースをアルバイトのスタッフが作成することもあると言います。

これは手書き図面や模型では出せないスピード感。

また動画でクライアントに提案するメリットととして
クライアント内で簡単に共有してもらえるので
案が通りやすくなるという一面があるそうです。

3次元モデルが現場での指示図となる

3次元モデルを作成するには
意外と細かいところまで入力しないといけません。

作成した3次元モデルを見ながら
施工図を検討すると、
現場は非常に助かるそうです。

細かい部分が設計図だけでは判断できない、
質疑が増えるという現象は
私も見たことがあります。

前衛的なものを作るのではなく、クライアントにストライクを投げる

設計のスタンスとして、
前衛的なデザインを追求していくというよりは、クライアントが欲しがっているストライクゾーンに対して
提案を投げるということを大切にしているそうです。
社会に出ると当たり前のことなんですが
デザインを追求する事務所もあるので
20名近い社員さんにしっかりとお給料を支払える理由はここにあるのだろうと感じました。

ここに至るまでに経験した大きな挫折

ここからが、しくじり先生の本題です。
時系列に沿って井上さんの経歴を振り返っていきましょう。

卒業設計コンペで入賞し、天狗になった大学時代

卒業設計コンペ(JIA卒業設計コンクール東京大会)にて銀賞を受賞された井上さん。
就職面接に行った伊東豊雄さんからも
作品をかなり褒めていただき、
そのまま伊東豊雄さんの設計事務所に就職することが決まります。
井上さんは当時を振り返って「かなり天狗になっていた」と言います。

せんだいメディアテークの工事監理に大抜てきされるも…

今や建築を学ぶ人の中で知らない人はいない「せんだいメディアテーク」の工事監理に抜てきされた井上さん。

スライドを用いて柔らかく語る井上さん

しかし、自分の能力の無さに嫌気がさした井上さんはこんな行動に出ました。
長崎県の五島列島まで脱走。
自分が嫌になり自分から逃げたかったのだが、
体がついてきたため
西の陸の端までたどり着いてしまったとのこと。
1ヶ月行方不明となり、
捜索願いが新聞にも掲載されました。
井上さんは今でも「多方面に多大なるご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした。」と振り返っています。

歌舞伎町でビリヤードをやり続ける毎日

失踪事件を機に伊東豊雄事務所を退職した井上さん。
時間ができた井上さんは、五島列島に向かう鈍行列車で読んだ本に影響を受けてビリヤードにハマります。
2年間やり続けたことでビリヤードの腕前はA級となりました。

まちの設計事務所の面接へ

当時ビリヤードをやり続けていたので、ひらがなも書けなくなっていたと言います。

お金に困った井上さんは、
タウン企画設計という不動産の企画、設計を行う設計事務所に面接へ行くことを決めます。

お金のなさが外見にも出ていたので、
採用してくれないだろうと半ば諦めていたという井上さん。
そこで、面接会場内に貼ってあったこんなものを目にします。

ビリヤードのプロ島田さんも参加する社員旅行の写真

なんと設計事務所の社長が大のビリヤード好きだったのです。
共通の趣味を見つけ意気投合した井上さんは、設計事務所への入社が決まりました。

建築設計者としての心構えを学ぶ

井上さんは、晴れて建築の世界に戻ってきました。

このタウン企画設計株式会社では、
上司の設計補助をしながら
集合住宅のビルなどの共同設計を行います。

この時、設計においてデザインはどうでもいい。
建築法規を知り尽くすことが最重要だと教わります。

建築設計者としての器とはなにか?
設計者がなにかを知らないことは罪である。
設計者は全てを知っているべきだ。
必要なことは自分で学ばないといけない!など、
建築設計者としての心構えを学びました。

ドリルを解くように基礎→応用を反復する

雑誌「新建築」の裏表紙に掲載されていた求人票を見て、
井上さんは組織設計事務所への転職を決意します。

この時すでにタウン企画設計で3年働いており、
当時の設計部長からは
普通の人の10年分の知識を得ているから自信を持てと言われます。

組織設計事務所では中規模の建物の設計を任されました。

建築設計もまるでドリルを解くように、
基礎→応用を反復することで
少しずつステップアップしていきます。
初心者がいきなりトリプルアクセルはできないのです。

このような経歴は非常にラッキーであった

まちの不動産屋さん&設計事務所では
建築設計の基礎を学び、
そこから組織設計事務所へ転職したことで、
だんだんと複雑なもの、体系的組織的な設計手法を学ぶ
という経歴を偶然たどりました。

井上さんは、このような経歴には普通ならないと語ります。

笑顔が浮かぶ井上さん

大学では教えてくれない2つのゴーストタウン

自己表出と指示表出

吉本隆明さん著「言語にとって美とはなにか」という本で語られている
自己表出と指示表出という指標。

「花」や「風景」などの言葉は
何かを指すことが1番重要であるので、指示表出性が強く
一方で、美しい景色を見た時に発する
「ああ」や「うわ」という言葉は、
他人に何かを伝えようとすることが目的ではなく、
自分が自分に向けた言葉であるので、
自己表出性が強いと言えます。

これを応用して図式にしたのが下の画像。
指示表出性が高い作品が評価される直木賞、
自己表出性が高い作品が評価される芥川賞という
対比が書かれているそうです。

自己表出と指示表出の図式

誤解を恐れず設計業界を図式化してみる

芥川賞に代表される左側の指示表出性の低い領域と
直木賞に代表される右側の指示表出性の高い領域を
いろんな言葉を用いて対比してみます。

指示表出性が低い左側 ↔︎ 指示表出性が高い右側
模型・手書き     ↔︎ CG・ムービー
片意地・プライド   ↔︎ 自然体
努力         ↔︎ 合理性
弱肉強食       ↔︎ 助け合う
個の天才的能力    ↔︎ 集団の力
頑張る        ↔︎ 楽しむ
一律の価値観     ↔︎ 多様な個性
コンセプト主義    ↔︎ 顧客満足度
社長主役       ↔︎ 社長裏方

これらの対比を踏まえて
建築設計業界を図式に当てはめたのがこちら。

建築設計業界を表した図式

自称建築家がうごめくゴーストタウン1

この図式の中で右側に配置されるのが、
組織設計事務所やまちの設計事務所。

前衛的なデザインを追い求めるアトリエ事務所とは違って、
事業性を重要視した建築設計を行うことが多い。

有名大学教授やアトリエ設計事務所は、
左側に位置するのですが、
そこには大きな崖が存在すると
井上さんは言います。

最近注目されているまちづくり系建築家や
事業運営型建築家も崖から落ちるギリギリにいると。

その崖から落ちると、
趣味に生きる自称建築家を名乗る人たちの
ゴーストタウン1があると言います。

有名大学教授の評価軸

世の中の建物の大半は、
右側の設計事務所が事業性のある建築設計を行っています。

ただ、大学で学ぶ建築設計は左側の軸で評価され、
世の中の大半の建物のような設計を
有名大学教授は敵視軽蔑する傾向にあります。

これは大学で建築を学んだことがある人であれば
ほぼ全員が頷ける内容だと思います。

組織設計事務所の落とし穴

組織設計事務所の中身を図式化すると
下の画像のようになります。

組織設計事務所の中身を図式化したもの

紙面をにぎわすプロジェクトに惹かれて入社するも
人数が多いため、
出世競争から振るい落とされ
一生歯車の人生を味わう可能性が高くなると
井上さんは言います。

組織事務所で10年スパンのビッグプロジェクトに投入されてしまうと
10年間で1つのプロジェクトしか経験できなくなり
あっという間に年をとってしまいます。

やりたいことがやれない。
でも転職もできない。
そんな組織事務所に飼い慣らされた人たちの
ゴーストタウン2が存在すると井上さんは言います。

やりたいことがやれないので、
むしろゴーストタウン1よりもきついと。

どのようにキャリアを歩めばいいのか

大学生の視野はどうしても狭くなる

大学生は視野が狭い傾向にあるので
①大手ゼネコン設計部
②大手組織設計事務所
③アトリエ事務所
この3つをどうしても見てしまう傾向にあります。
しかし、世の中にはもっとたくさんのジャンルがあります。

建築業界に存在する多種多様なジャンル

華やかさはないかもしれないけれど
堅実で安定感のある仕事がこの中には眠っています。

人材はどこも取り合いになっており、
スキルと経験によって可能性はどんどん広がると
井上さんが語っていたのが印象的でした。

どの会社に入るのが良いか

・一子相伝の秘奥義を教えてくれる会社。
・永遠の楽園のような会社。
このような会社を探していませんか?
受験戦争の延長だと思っていませんか?

これは終身雇用制度の日本社会の影響であると
井上さんは言います。

ステータスのある会社を探すのではなく
実力をつけられる会社はどこか?
という視点で会社を探しましょう。

どこに入るかではなくどう卒業するか

実力をつけられそうな会社を見つけて
入社することも大事ですが、
その会社をどう円満に卒業するかが
今後の可能性を高めるチャンスに繋がると
井上さんは言います。

すでに退職したまちの設計事務所の社長や
組織設計事務所の上司や社長とは
飲みに行く仲で
そこから仕事をいただくこともあると
井上さんは言います。

これは僕に足りない部分かもしれません。笑

井上社長はこんなことを言っていました。
会社中心から社員中心の会社へ。
社員全員に最高の環境を提供し、
やりがいと誇りを持てる職場にしたい。
また、社員一人一人が、自分自身の目指す方向を
見定め、自己実現できるフィールドを作りたいと。

そして最終的には、
社員がプライベートも含め充実した人生を送るための
最高の環境を作りたいと
熱く語っておられたのが印象的でした。

終わりに

以上、しくじり先生セミナーを
僕なりに要約した内容をお届けいたしました。

みなさまいかがでしたでしょうか?

普段大学の教育に対して思っていたことを
綺麗に言語化されていたので
聞いていて非常に興味深かったですし
楽しかったです。

これからも社会で活躍する建築人による
セミナーを開催していきますので
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