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交通事故治療の基礎知識2、各論「自賠責保険の仕組み。無料相談機関。弁護士に相談するタイミングなど」

その1、総論「治療の進め方。後遺症。労災。東洋医学という選択肢。など」に続いて、交通事故にあってしまった方の基礎知識である、自賠責保険の仕組や治療費支払い、弁護士に相談すべきタイミングなどについて説明します。実際にはいろいろな状況が存在しますが、交通事故にあってしまった方をここでは「被害者である」と仮定して説明しています。

自身が交通事故被害者になってしまった場合、通常であれば加害者が加入している任意保険会社の担当が自賠責保険の請求も代行してくれます。非常に楽なのです。(これを「一括対応」と呼ぶことが多いです。)ところが現実には自分で自賠責保険に請求しなければならないケースも存在します。どのような状況でも迷わず治療を進める事が出来るよう解説していきます。

1、自賠責保険と任意保険

まずは自賠責保険と任意保険の違いや特徴について説明します。まず自賠責保険とは何でしょうか?こちらも国土交通省管轄の「自動車総合安全情報」から抜粋し説明してまいります。

自賠責保険(共済)は、交通事故による被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的な負担を補てんすることにより、基本的な対人賠償を確保することを目的としており、原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に加入が義務付けられています。なお、無保険車による事故、ひき逃げ事故の被害者に対しては、政府保障事業によって、救済が図られています。

加入が義務着けられるれているため「強制保険」などと呼ばれたりもします。特徴は以下になります。

①原動機付自転車を含むすべての自動車は、自動車損害賠償保障法に基づき、自賠責保険(共済)に入っていなければ運転することはできません。
無保険運転は違法です。
②自動車の運行で他人を死傷させた場合の人身事故による損害について支払われる保険(共済)で、物損事故は対象になりません。
③被害者1名ごとに支払限度額が定められています。1つの事故で複数の被害者がいる場合でも、被害者の支払限度額が減らされることはありません。
④被害者は、加害者の加入している損害保険会社(組合)に直接、保険金(共済金)を請求することができます。→ 一括対応のことです。
⑤当座の出費(治療費等)にあてるため、被害者に対する仮渡金(かりわたしきん)制度があります。
⑥交通事故の発生において、被害者に重大な過失があった場合にのみ減額されます。

ケガの場合自賠責保険から治療費や慰謝料、休業損害費用などが120万円まで出ますが、休業損害や入院費用などがあると、すぐこの枠をすべて使い切ってしまう事になりこの枠を超えた分は政府の補償事業でなく民間保険会社が請け負う形になります。④のように民間保険会社が被害者の治療費や休業損害などの請求も請け負うことを「一括対応」と言います。

一括対応はあくまでも、相手保険会社の行うサービスです。被害者であるご自身で自賠責保険に直接、治療費などを請求することもできますし加害者が自賠責保険に請求することもできるのです。これは被害者請求、加害者請求という呼ばれ方をします。双方の仕組みについても「自動車安全情報」をご覧ください。

2,被害者請求をしなくてはいけないケース・支払指図・交通事故と健康保険

被害者請求をすることは自分で書類などをそろえなくてはいけないために面倒です。ほとんどの交通事故治療の場合、「任意保険に加入している相手」との事故なので患者さんが治療費支払いのことなどを心配をすることはありません。一括対応で相手保険会社が治療費の支払いなどもしてくれます。しかしながら現実として以下のようなケースも存在します。

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・ 原付自転車(50ccバイク)との事故で相手加害者が自賠責保険にしか加入していなかった。

・ 相手加害者が非を認めず、任意保険を使わせてくれない。

など。このようなケースでは任意保険会社が存在しないため自ら自賠責保険の被害者請求をしなくてはいけないのです。「被害者請求」の際の治療費の支払いはどうなるのでしょうか?二つの方法が考えられます。

1)毎回自分が支払い立て替え、月毎もしくは最後にまとめて請求する。

2)「支払い指図」という制度を使い、月毎もしくは最後に治療費を自賠責保険に請求し、医療機関の口座に直接振り込んでもらう。

・・・現実問題として交通事故後の治療は普通の怪我とは違い、早期回復目的でできる限り病院等に通いリハビリをする必要がある場合もあります。むち打ちなどの神経症状は特に早期の治療が重要です。患者さん自身も充実したケアをしたいために「毎日でもリハビリを受けたい。」という方も数多くいらっしゃいます。・・・このような際、毎回支払いを立て替えていると患者さんが大変です。建て替えなくてはいけない金額が大きくなってしまいます。

支払いを抑えるためにやむを得ず健康保険を使う方がいますが交通事故の治療で健康保険を使うとデメリットもあります。日本医師会のHPでも詳しい資料が公開されています。とくに以下のことは知っておいた方がいいです。

1)そもそも健康保険は自分のためにかけている保険。交通事故治療では自賠責保険を使うことが原則。
2)健康保険を使うことで、「医師が後遺症診断書を書いてくれなくなる可能性がある」等の、デメリットがある。
3)第三者行為による傷病届け等、必要書類を保険者(組合、協会けんぽ、国保など)に提出しなくてはならない。

参考:「地域医療再生における労災保険、自賠責保険の役割」

メリット・デメリットをよく考え、また体調のことを医師等によく相談したうえでベストな方法を選択するのが良いと思います。ただ自分が加害者である交通事故の場合この「支払い指図」という制度は使うことができない場合があります。また「支払い指図」という制度はあまり知られていないため医療機関がその制度を知らない可能性もあります。もし、支払い指図を使って通院したいのにその医療機関が、制度を詳しく知らなかったら、「弁護士」に相談するとよいと思います。事情を医療機関に説明し書類作成や代行請求等をしてくれると思います。

3,交通事故と慰謝料

慰謝料についてもよく質問されるために書いていきます。まず最初にお伝えしておきますが、実際に慰謝料や休業損害など「お金のこと」について迷っている場合は弁護士に相談しましょう。弁護士以外の人が慰謝料について相談に応じたり示談交渉に参加してしまうと弁護士法72条に抵触してしまう可能性があるのです。しかしながら「慰謝料の仕組み」について知ることはとても大切なのですのでここで詳しくお伝えしておきます。(弁護士に相談すべきタイミング・ポイントは以下4の項目でまとめています。)

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そもそも慰謝料とは何でしょうか?「自動車総合安全情報」より引用します。

慰謝料とは:交通事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償。

そして交通事故の慰謝料には3つの支払い基準があります。

1)自賠責基準:通院1日当たり4300円

2)保険会社基準:不明

3)弁護士基準(裁判所基準):判例による

詳細は割愛し、なるべくわかりやすく簡単に解説します。ケガの状態がさほどひどくなく治療が短期間で終わったとします。その場合、通院費用や慰謝料も自賠責の範囲内で終わります。そうすると通院1日当たり4300円が支払い基準になります。ところがケガの状態が思わしくなく治療が長引いてしまい通院期間も回数も長くなってしまったとします。そうすると自賠責の支払い限度額120万円を超えてしまうため慰謝料も保険会社の算定基準になります。この基準は公開されていません。そんな馬鹿な!と思うかもしれませんが保険会社が民間の運営である以上仕方ないかもしれません。これとは別に弁護士基準(裁判所基準)というものが存在します。弁護士に依頼したり、和解をあっせんする紛争処理センターを利用するとこの基準が適応されます。まとめますと以下です。

治療が長期にわたり自賠責基準を超えた場合、保険会社が独自の算定基準を出してきます。それに納得がいかない場合、弁護士基準(裁判所基準)があります。一般的に 保険会社基準 < 弁護士基準 ですがケースバイケースです。

4,弁護士に相談するタイミング・ポイント

弁護士に相談すべきタイミングやメリットについてもまとめていきます。弁護士をうまく利用することで、満足のできる治療や補償を受けることが出来ます。以下のようなことがおこった場合は弁護士が入ること(代理人交渉すること)で、解決に向かうことが多いです。そして当たり前のことですが相手保険会社と交渉がスムーズに行くのが一番良いのです。あくまでも困ったときの方法として覚えておくのが良いでしょう。順に解説していきます。

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(1) 保険会社に治療打ち切り言い渡された場合

「まだ痛い、辛いのに納得がいかない!!これから先に痛みがますのでは・・・」
「病院にいくのをやめろといわれて、不安で夜も眠れない・・・・・」
交通事故の被害にあった際、こういったケースは良くあるそうです。
打ち切りを言い渡されて納得がいかない場合に弁護士が間に入ること(代理人交渉すること)で解決に向かうことが多いです。

その打ち切りが、医学的に見て正当性があるかどうか?・・・という事を弁護士が調査し、打ち切りが不当であれば、保険会社に対して治療期間の延長を申し入れます。その結果、円満に解決するケースも多く見られます。弁護士が最大限の治療を受けるためのお手伝いをしてくれます。

(2)保険会社担当者の対応が不満、話が理解できない場合

保険会社さんとの交渉は、人間と人間のやりとりなのでこういった事も出てくる事でしょう。相性が合わないだけでもストレスになってしまうという話は良く聞きます。

「平日の忙しい時間に電話をかけて来られても出られないし、忙しい中電話をしてきた担当者とケンカをしてしまった」という話をしていた方もいらっしゃいました。弁護士に依頼すると、保険会社からの連絡が弁護士にいくようになるのでこういったストレスから開放されます。多忙な方も弁護士に依頼するのがオススメです。連絡のわずらわしさから開放されます。外国出身の方など日本語があまり得意でない方も弁護士に依頼する事を オススメします。ルールが複雑な上に不慣れな言葉で「交渉する」という事は容易な事ではありません。

また5,でも詳しく解説しますが相手保険会社名が大手損保会社でなく「●●共済」といった共済だった場合もそんぽADRなどの相談機関を利用することが出来ないため、交渉がうまくいかない場合に弁護士への相談を視野に入れても良いかもしれません。

(3)慰謝料の金額に対して納得がいかない場合・仕組みがわからない場合

「珍しい自転車を壊されてしまった。損害費用を請求したいがどうしたら良いかわからない」

「示談の際に、提示された慰謝料を見たら予想より少なかった」

こういった話もよく聞きます。保険会社は、自社の基準で慰謝料や物損費用を算定して被害者に提示します。そして、自社の基準では、これ以上出せませんと説明してくることが多いようです。しかし、慰謝料や物損費用の算定方法は何パターンかあり、上記のように保険会社の基準が絶対というものではありません。保険会社の提示した慰謝料に不満がある場合には、弁護士に相談し保険会社が提示した慰謝料が妥当なものかどうか聞いてみることをお勧めします。その結果、増額が見込める場合には弁護士に依頼して交渉をすることも可能ですし、自分で交渉することも可能です。もちろん、弁護士に依頼すると弁護士費用がかかることを頭に入れておかなければなりません。

(4)自営業、複数の仕事(アルバイト等)をかけ持ちしている方などで、休業損害の請求を考えている場合

交通事故被害者は「休業損害」といって、事故により仕事を休んでしまった分の「被害額」を請求できます。また、欠勤が「有休」扱いとされ、実際に給料が下がらなくても、「有休」を消費したこと自体が損害と考えられるので、1日分の給料相当額を請求出来るのです。
・・・自営の方などいわゆる「毎月の給与明細がでない働き方」をされている方や、複数の仕事をかけ持ちされている方などは、毎月の給与額が算出しづらい為に自分では「休業損害」をうまく請求することができないケースが多いです。そういった方は、弁護士に依頼するのがオススメです。

弁護士が法律の知識とノウハウを生かして代理交渉をすると、ほとんどのケースで金額を上げることが出来るのです。(100%ではありません。)

(5)弁護士費用補償特約のついた自動車保険に加入している場合

弁護士費用補償特約がついた自動車保険に加入しているにもかかわらず、その補償を利用していない方(あるいはどう利用して良いか、わからない方)が多いのですがこれは非常にもったいないです。弁護士費用補償特約(保険会社によって名称は多少異なります。)とは自動車保険についている特約なのですがこれによりほとんどの弁護士費用をまかなえてしまいます。

自動車保険会社は示談交渉をしてくれますが、あくまで相手方に賠償すべき交通事故だけです。つまり被害者の方は、自分で交渉をしなくてはならないのですが、プロの保険会社の方を相手に、自分の仕事の合間などを縫って素人が交渉するというのは、並大抵のことではありません。野球の代理人交渉と同じです。彼らは野球のプロであって交渉のプロでないので弁護士に代理人交渉を依頼しているのです。弁護士を利用するメリットは前述したとおりですので、特に費用の心配がクリアされる「弁護士特約」がついた自動車保険に加入している方は、弁護士を利用する事をオススメいたします。 この特約を使っても保険料は通常上がりません。

今まで、チェックしていなかった方は、あなたの自動車保険に弁護士費用補償特約がついているか是非チェックしてみて下さい。なお、弁護士費用補償特約が適用される範囲は広く、「同世帯の家族」や「世帯を別にする単身の子」が交通事故の被害者になった場合も使えます。つまり、父親の加入している自動車保険に弁護士費用補償特約がついていれば、その家族や、家を出て1人暮らしをしている子どもが交通事故にあった時にも使えるのです。

弁護士費用保険は自動車に乗る方であれば、必ずつけておくことをお勧めします。自動車に乗らない方でも火災保険等に付帯できる場合があるので事前にチェックしておくことがもしもの時の備えになります。

弁護士に依頼するときは「早い段階で相談すること」がオススメです。早い段階で「どんなことで困っているのか?」相談すれば弁護士の知識とノウハウを活かして、様々なアドバイスを受けることが出来ます。
できれば、治療を打ち切る前にまでに一度相談をすることを強くおすすめします。病気も早期発見、早期治療が原則ですが法律相談も同じです。早い段階から対策を講じれば様々な対策を打つことが出来るのです。

* 「早い段階で相談するのがベターである」という意味であって、最終段階であっても弁護士に相談することで解決すること(例えば慰謝料の交渉など)もあるのです。ですから、タイミングを逃していても、納得がいかないことがあるならば弁護士に相談しましょう。

5,「自分で交渉する」という選択肢もある

上記4,のように弁護士に依頼することは様々なメリットもありますが当然費用もかかります。そして「人任せでなく、自分で納得しながら進めたい。」という考え方もあると思います。そのような場合どうすれば上手に治療を進められるか?簡単に解説してまいります。まず困ったときに無料で相談できる機関として以下の組織を覚えておくと良いでしょう。

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(1)治療費や相手保険会社の対応のことで困ったら

中立的な相談機関である「そんぽADR」、もしくは「一般社団法人 保険オンブズマン」に相談すると良いでしょう。保険会社への苦情申し立てなども応じてくれます。ただし、そんぽADRは国内の保険会社、保険オンブズマンは主に外資系保険会社との相談にしか応じてくれません。「●●共済」のような場合は対応してくれませんので注意が必要です。

(2)最終的に慰謝料のことで困ったら

治療もすべて終わり相手保険会社と示談をする段階で相手が出した慰謝料等の金額に納得いかない場合「交通事故紛争処理センター」を利用することが出来ます。ここは交通事故の和解をあっせんする機関で利用すると弁護士基準に近い形で慰謝料等を算出してくれます。自分で利用しようとすると現地までいかなくてはいけない、などの手間がかかります。不慣れな場合は大変かもしれません。

・・・警察関係や行政関係(東京都など)でも交通事故の相談に応じてくれるところはあります。しかし私はあまりそちらへの相談をオススメしていませんのでここでは紹介しません。理由は相談員のレベルが高いとは言えず、またそんぽADRのように苦情申し立てができるわけでもないからです。

相手加害者の保険会社が共済関係などでそんぽADRや保険オンブズマンに相談できないような場合は弁護士に相談するほうが良いケースも多いです。自分で交渉する際にはどこまでなら自分でできるか?手間やストレスも含めた費用対効果などをよく検討すると良いでしょう。

以上、になります。もしもわからないことがあればkenjiroushiraishi@hotmail.co.jpか電話0424974130まで個別にご相談ください。交通事故治療の基礎知識1、総論「治療の進め方。後遺症。労災。東洋医学という選択肢。など」も併せてごらんください。

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