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Beautiful Days

D.W.ニコルズの新曲「Beautiful Days」のリリースとツアーが発表になった。

「Beautiful Days」は、磯貝サイモンと僕の共同プロデュース。今年に入ってからレコーディングしていたのがこの曲だ。
今日はその辺の話をしようと思う。

磯貝サイモンの活躍については僕がここで書くまでもないけれど、付き合いはとても古く、気づけばもう軽く10年以上になる。でも不思議と、何がきっかけでどうやって知り合ったのかをよく覚えていない。
シンガーソングライターとして、割と近いところで活動していたから、その辺がきっかけだったとは思うけれど…どうだったっけ。
とにかく、サイモンはシンガーソングライターとしてメジャーで活動していながら、同時にプレーヤーとしても大きな舞台で活躍していた。自分で全ての楽器を演奏してアルバムを作ってしまうほどのマルチプレーヤーで、しかもどの楽器の腕も一流、さらにアレンジやプロデュースワークまでこなす。とんでもない音楽家だ。

D.W.ニコルズが最初のメジャーデビューをして最初の2曲はプロデューサーがいたけれど、その後セルフプロデュースで制作することになったとき、レコード会社はまだそれなりの予算を割いてくれていて、レコーディングに鍵盤を入れたいという要望は割と簡単に通った。
人選権はレコード会社の担当ディレクターにあったけれど、2ndフルアルバムの制作の頃からディレクターが交代して、自分たちで人選できることになった。

そこで白羽の矢が立ったのが磯貝サイモンだった。
2ndフルアルバム『ニューレコード』のプリプロ(本番レコーディングの前の仮レコーディングのようなもの)に来てもらい、収録候補曲の数曲を弾いてもらった。
この時のことがとても印象深くて僕は今もよく覚えいている。
どういう音色でどういうプレイをして欲しいかという僕のオーダーに対して、そのニュアンスまで一発で汲み取ってしまう音楽的感覚。追加オーダーへの対応の柔軟さ。さらには+αで出してくれるアイデアの絶妙なポップ具合。さらに音色もピシャリと良いところを突いてきて、「ああ、知ってるな」という安心感もあった。演奏の上手さだけでなく、僕はそういうところにとても感激した。そのプリプロはとても楽しかった。

結局、正式音源としては、シングル『一秒でもはやく』収録の「初恋はラジオの中に」、2ndフルアルバム『ニューレコード』収録の「あの街この街」「大船」「HAVE A NICE DAY!」でサイモンの鍵盤を聴くことができる。

それ以来、サイモンとイベント等で共演したときにはニコルズのステージで鍵盤を弾いてもらったりもしたけれど(サイモンの曲をニコルズがバックバンドで、というのもやった)、ニコルズのライブにちゃんとした形で鍵盤サポートとして入ってもらう機会は巡って来なかった。

僕は鍵盤つまりピアノやエレピやオルガンが入っている音楽が好きだし、ニコルズの楽曲に鍵盤が入ったらとても華やかになることはわかっていたから、何かにつけ鍵盤サポートを入れたいと思っていたけれど、予算という現実がありなかなかそれは叶わなかった。
メジャーのレコード会社は、レコーディングにはある程度の予算を出してくれたけれど、ライブやツアーは事務所仕切りであり、しかもまだまだ当時は黒字経営と呼べるほどではなかったから、ライブにサポートミュージシャンを入れたいという要望が却下されたのは当然だと思う。
そうしているうちに、いつの間にか、りっちゃんのときも、あいちゃんのときも、"4人でニコルズ"というイメージが自他ともにとても強くなり、大一番のライブでは、メンバー以外のミュージシャンを加えてサウンドを広げるよりも、4人の結束感でのステージというものを大切にするようになっていった。

そんなわけで結果としては予算どうこうという話ではなく、それ以来ちゃんと鍵盤を入れて音楽を作る機会はないままだった。
(りっちゃんが抜けた後の3人体制でのニューイヤーコンサート、4thフルアルバム『HELLO YELLOW』ではgoiちゃんに数曲オルガンを重ねてもらったけれど、それは耳触りの変化と厚みを出す意味合いが強く、アンサンブルの一つというのはちょっと違う。)

しかし昨年9月以降、ニコルズの体制が変わり、ライブでは、わたなべだいすけをサポートメンバーで支えるというステージになった。そこで、バンマスとして人選にも大きく関わっている僕は、今までやってこなかったことという意味も含め、音楽的にさらなる飛躍を目指して、まず鍵盤を入れたいと思ったわけだ。
鍵盤を入れてやってみたいというのは、ずっとだいちゃんと話していたことでもあったから、話は早かった。
そして昨年11月の渋谷クアトロのバンド編成でのライブで、ついに鍵盤をサイモンに弾いてもらった。予想通りどころか、予想以上の仕上がりだった。

「Beautiful Days」の制作がスタートしたのはちょうどその頃だった。
だいちゃんは、この曲の制作にあたり、僕に今まで通りのプロデュースワークを依頼してくれた。

「Beautiful Days」の弾き語りのデモを聴いたのは確か一昨年のことだったと思う。そのときすでに、これは本当に素晴らしい曲ができたと思った。歌詞も含め、これからのD.W.ニコルズの代表曲になり得る曲だと感じていた。
しかし、アレンジを進めていく中で(どこがどうという詳しい話はまた機会があればするとしてここでは書かないけれど)、様々な問題がありアレンジは難航した。実を言うとバンド体制の間に一度スタジオで取り組んだ。しかし、僕の力不足もあるだろうけれど、思うようにいかず一旦頓挫した。そしてどうすべきか策を練っているうちにバンド体制の終了が決まり、制作は止まってしまったのだった。
一応形にはなっても、想像を超えてこなかった。この曲のポテンシャルからすればもっともっと良いものにできるはずなのに。イメージはあれど、そこへ届かない。絶対に良い曲に仕上げたいという想いがとにかく強く、僕の中でのハードルが上がっていたことは確かだ。でもそれだけハードルを上げるに相応しい曲だと思っていた。

改めて「Beautiful Days」に取り組むにあたり、今度こそ、絶対に納得のいく仕上がりにしてみせると僕は意気込んだ。
今度はメンバーも楽器構成も特に縛りがない状態で、仕切り直しての制作スタート。まず僕は鍵盤を入れたいと思った。そしてそれならサイモンに、鍵盤だけでなく、アレンジ面やトータルのサウンド面でもアイデアをもらい、共同プロデュースという形で一緒に作ってみたいと思った。だいちゃんも賛同し、サイモンは快諾してくれた。

サイモンのアイデアは本当に素晴らしかった。抱えていた問題は見事にクリアになり、あとはただただ楽しい共同作業。才能あふれるミュージシャンとの制作は本当に楽しかった。
どんどん曲の構築は進み、プリプロが終わった時点で、すでに想像をはるかに超える出来だった。

レコーディングでは、ドラムをりっちゃん(岡田梨沙/RISA COOPER)にお願いし、パーカッションは朝倉さん(朝倉真司)にお願いした。
この辺の話はまた後日書こうと思う。

サイモンの演奏は僕がディレクションし、そして僕の演奏はサイモンがディレクションしてくれた。
僕にとって、レコーディングでは色々な迷いとの戦いでもある。フレーズ一つとっても、例えばAパターンとBパターンのアイデアがあって、どっちも好きでなかなか決められなかったりもする。そんなときにサイモンがこっちの方がいいんじゃないかとか、このフレーズはもっとこういうニュアンスがいいんじゃないかというディレクションをしてくれた。今までのニコルズのレコーディングでは無かったことで、僕にとってとてもスムーズなレコーディングで、迷いなく演奏できたのはとても楽しく新鮮なことだった。

だいちゃんの新型コロナウイルス感染があり、完成がとても遅れたけれど、その間に生まれたアイデアにより、さらに曲は一段階上のステージに上がった。全てが必然のようにさえ感じている。

D.W.ニコルズにとってとても重要なタイミングでの新曲「Beautiful Days」。
ファンにとっても待望の新曲だと思う。
おおいに期待して欲しい。


今回の制作は、色んなことを気づかせてくれた。
いや、気づいていなかったわけではない。本当はわかっていた色んなことを改めて実感させてくれたと言うべきかもしれない。

自分にはできないこと、そして、自分だからできること。
自分の中にあった小さなたくさんの迷いがプチプチと音を立てて消えていった。そして自分の胸の中にあった想いをしっかり確かめることができた。
目の前がとてもクリアになった。
2022年は大きなスタートの一年になる。


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