ハーバード流・起業家精神を育てる心がまえ
2023年4月、起業家を育てる日本初の高等専門学校「神山まるごと高専」が開校し、話題を集めました。
そして今、中学校や高校、何なら小学校でも「起業」をテーマにした教育に力を入れていこうとしています。
「起業」を教えると言っても、必ずしも「将来、起業家になりましょう」と子どもたちに勧めるわけではありません。
正確に言うと「起業家っぽい考え方を身に付けましょう」という話です。
でも、どうやって?
そもそも「起業家っぽい考え方」って何?
そうなりますよね。
そこで、アメリカの超名門大学であるハーバード大学の研究機関が公表している「学生に起業家精神を持たせるには」という記事をご紹介します。
これは、どちらかというと教員向けの記事なのですが、学生の皆さんにもすごく参考になる内容です。できるだけ、わかりやすく要約しますね!
起業家精神を育てる6つの方法
こんな言葉で始まる記事ですが、次のブロックでは「起業家精神」が必ずしも起業をめざす人だけに必要なものではない、というメッセージがあります。
つまり、将来の進路に関わらず「起業家精神」がこれからの時代を生き抜く鍵になってくる、ということですね。
そんな「起業家精神」が、そもそも何なのか。どうすれば身に付けることができるのか。この記事では6つの方法を紹介しています。
①学生自身でプロジェクトを進める
そんな問題提起から、ここではチームで何らかのプロジェクトに取り組む方法を勧めています。
未解決の問題・課題を学生たちが探し、それを解決するような製品・サービスを創り出す、というものです。このようなプロジェクトを進めるうえで、学生たちが参考にできるような教科書はありません。
最初は、指示やルールを与えられないことに戸惑うかもしれませんが、だからこそ学びがあるのだそうです。
記事の言葉を借りると「ゲームのルールを理解させるのではなく、ゲームそのものをゼロから創り出すことに意味がある」ということです。
②常識を捨てて創造力を解き放つ
こんな問いかけに対し、ここでは常識を捨てて考え方の幅を大きく広げることを勧めています。
ここでは「コンフォートゾーン」という言葉が出てきますが、これは「従来の常識の中で、ストレスを感じずに物事を考えられる心理的な安全地帯」という感じの言葉です。
要は慣れ親しんだ環境や行動、考え方、人間関係・・・など新たなチャレンジを必要としないようなゾーン、みたいなことですね。
そして、そのコンフォートゾーンの外に身を置くことで従来の考え方を捨て、創造力が広がるのだそうです。
よく言われる「自分の殻を破れ」というやつですね。
その方法として、ある教授の授業が紹介されているのですが、これがまたユニーク。学生たちに紙飛行機を作らせて、机の上に立って投げさせるのだそうです。
学生たちは「え!そんなこと、やっていいんですか?」となりますよね。こうやって既存の常識的なルールに疑問を抱かせることで、殻を破るための“心の準備”ができるとのこと。
人は知らず知らずのうちに、「世間の常識」に縛られて物事を考えるようになります。それは集団生活をする上では役に立つ反面、まったく新しいものを生み出す上では障壁になることも。時には「常識を捨てる」という行動も必要なんですね。
③構え・撃て・狙え
ここでは「取りあえず動いてみて、ダメだったら別のやり方を考える」という姿勢の大切さを説いています。
紹介されている授業の例では、学生たちにビジネスプランを考えさせ、実際にそこから利益を上げ、最終的には投資家へのプレゼンテーションまで行うそうです。これを、わずか半年でやるというのです。
当然、学生たちは失敗しながら新しいやり方を試し続けないといけません。やはり最初はみんな抵抗があるそうです。しかし、がんばって挑戦し続けることで「構え・撃て・狙え」の精神が身に付いていくのだとか。
では「構え・撃て・狙え」って何でしょう?
これは銃を撃つときのステップなのですが、ちょっと変ですね・・・。
普通は銃を構えて、狙ってから撃つと思うのですが、「撃て→狙え」の順になっています。要は「準備が整ったら取りあえず撃ってみて、外れたら狙いを修正しなさい」ということです。
失敗への恐れがあると、どうしても行動する前にあれこれ考えてしまいます。でも結局は動いてみないと正しかったかどうか分からないし、修正する方法も分かりません。
変化の速い時代だけに、ビジネスはスピードが命。まず動いてみてダメだったら考え直す、ということを素早く繰り返す方が、結局は早くゴールにたどり着くということですね。
④実現可能な目標を探る
これは、目標を高く設定することで実現可能なラインを知る、という手法について説明している一節です。
ここで例示されている授業では、学生たちが小さなチームに分かれ、3か月で何らかの商品を開発し、収益を生み出します。多くの場合、最初は実現不可能と思える大げさなアイデアが出てくるそうです。当然、その実現には苦労します。
そこで教授が手助けし、複数のアイデアをまとめて実現可能なものをひとつに絞ります。その際に大切なのは、学生に主導させつつも、先生は考え方のヒントになるような適切な助言をすることだそうです。
未知のプロジェクトに挑戦するには、先生が寄り添ってくれる安心感というのも大事なんですね。この安心感があればこそ大胆なチャレンジができ、その過程で実現可能な形が見えてくるのです。
⑤途中で“変える”ことも大切
起業家の間では、よく「ピボット」という言葉が使われます。これは、ビジネスがうまく進まない時に、やり方を変えたり、場合によっては方針をガラッと転換させてしまうことです。
もともとは「旋回する・軸を中心に回転する」といった意味を持つ「pivot」という英語ですが、今のビジネスではこのピボットがとても重要視されています。
ひとつのやり方に固執するのではなく、結果を見ながらこまめに手法を変えたり、新しい方法を取り入れたりすることが、早く成果を出すコツなんですね。
「継続は力なり」とか「ひとつのことを、やり続けなさい」とか言われた経験はないでしょうか。もちろん、目標に向かって努力を続けることはすごく大切です。
しかし「やり方や考え方は柔軟に変える」という姿勢も忘れてはいけません。その結果、自分だけの独自の方法論を生み出せる可能性もあり、それが自分だけの「価値」になるかもしれません。
⑥常に考える機会を与える
最後は先生向けの話ですが、考え方を変化させるには授業が終わった後もずっと考え続ける必要があります。そのために、SNSなどで対話を続けましょう、というメッセージです。
いやいや。
そんなの先生にとっても、学生にとっても地獄ですよね。。。
ここで紹介されている教授は、アメリカでは一般的な「WhatsApp」というメッセージアプリを使って、簡単な質問を毎日送っているそうです。
例えば「何もない状態から、何かを始めるには?」といった哲学的なものから、「これまでの人生で最高に誇らしかった瞬間は?それをもっと作るには?」など自己を振り返るようなものまで、何かしら考えるきっかけになる質問です。
学生は特に返信する必要はないそうですが、こんなメッセージが来たら、いやでも考えてしまいますね。でも、その積み重ねが思考力を高め、自分を客観視する力になります。
その力は、ビジネスにおいて必要不可欠なもので、起業家精神を身に付けるための土台になるんですね。
起業家精神の恩恵はすべての学生に
以上、ハーバードの記事で紹介されている6つの手法について紹介しました。そして記事を締めくくるブロックには、こんなメッセージがあります。
起業をめざす人も、そうでない人も、これからは「起業家っぽい考え方」を身に付けることが生きる力につながるんですね。
日本中の学校でそんな授業が行われる日も、そう遠くないかもしれません。
出典:February 25, 2022 <Harvard Business Publishing Education>
How to Inspire Entrepreneurial Thinking in Your Students
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