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トラネキサム酸笑顔【毎週ショートショートnote】

化学科では2年生から実習が始まる。白衣を着ることが嬉しくて、白衣を着たまま構内を歩き回っては自己陶酔していた。

しかし現実は厳しい。求められる内容は高く、実習パートナーに頼りっきりだ。今回はトラネキサム酸の合成だった。パートナーは笑顔を隠せずにいた。

「トランス-4-アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸は、あっ、トラネキサム酸の正式名称だよ。これまでシクロヘキサン部分をベンゼン環の還元によって構築してたから、トランス-シスの混合物として得られて分離が難しかったんだ。そこで、トランス-1,4-シクロヘキサンジメタノールの一方の水酸基をアミノ化して、他方のヒドロキシメチル基を酸化してカルボキシル基を導入する方法が考えられたんだって」

全く追いつけない。トランスとシスの異性体はわかる。官能基は何だったっけ?

「なにから始めようか…」
「コンタミしないように器具を洗っておいて」
「OK!洗いものなら任せろ」

ようやく笑顔に戻った。

(410文字)



前回のお題は全くわからない音楽ネタでしたが、今回は理系ネタでしたので張り切ってみました。トラネキサム酸の合成方法は「特許第3763598号」を引用しました。

ちなみに大学の実習では先生や院生が丁寧に教えてくれます。有機合成の実習は反応時間が長いので、待ち時間は白衣姿のまま休憩所に行って、友人とくっちゃべってました。


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